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それからというもの、段々と衝動に歯止めが効かなくなってしまった。
……元からブレーキが無いなんてのは、無いと思う。
何ていったって、この家には誘惑が多すぎるから。
このままではメルカちゃんにバレてしまうだろう、時間の問題である。なので、手っ取り早く外で解消してくることにした。
……つまりはストレス発散である。色街とか行こうモノならそれ相応の代償があると思うし。
早い話が仕事を見つけて暴れるのが早いのでは?という訳である。何とも単純な方法だけど、効果はあるだろう。疲れ果てたらそんな気にならないからね。
長期の依頼とかは受けないで、適当にこの王都で出来る仕事を探そう。理由としては、今私がここを離れる依頼を受けると、モエと姉さまは確実に着いてくるだろうから。
そしたら家にメルカちゃんとアリエルさんだけになってしまう。
いいやメルカちゃんの事だから一緒に来ると言うかもしれないけれど、流石にそれは私を信頼して預けてくれたスクィールの夫妻に申し訳が立たない。
現状取れる選択肢は限られてるのだ。
さっそく家を出て、ギルドへ向かう。学園とは反対方向へ、だ。
ちなみにこの世界にも風営法みたいな法があって、冒険者と傭兵ギルドのみ学園や孤児院からかなり離れていないといけないらしい。
まぁ暴力に慣れている集団が子供の近くにいるってのは、危ないし当然かな。
特に急いでいないので普通に歩き、30分程でギルドが見えてきた。
王都に初めて来た日から随分と立つが、まぁギルドの外装も様変わりしたものである。
なんてったって、3階建てになったんだ……何でも、職員の宿泊用らしい、その部分は1年程掛けて出来上がっていた。
魔術が使える世界では、工事の期間も工員の魔力量に左右されるという。王城などの建物は数十人ががりで保全や改築などをするらしいが、それ以外の建物は2、3人の専門魔術師がいるそうだ。
何故建築に魔術を使うのか、それはれっきとした理由がある。
普通の民家はただの大工を雇うが、重要な施設は常に襲撃の危険がある。なので、魔術でより頑丈な、そして呪術に対策を持つ術式を付与するらしい。魔術という特別な文化がある世界だと、家一つ建物一つ建築するだけでも相応の常識があるようだ。
「いらっしゃい、どうしたの?」
そんな事を考えている間に、もう受付にまでやってきていた。今日の担当はイヴァラさんみたいだ。そして私は人ごみが苦手なので、お昼前に来ることにしている。お昼前後という時間は冒険者等の場合、依頼に出ている時間帯だ。若しくはお昼を取りに食堂へ行っているとか。
そしてこの時間だと、職員さんのお昼に同行出来るかもしれないし。情報は命である、いや比喩じゃなくて本当に命に係わるからだ。
「ええ。また例の如くお仕事を見繕いに」
「という事は、掲示板とかにある仕事じゃないのが良いのね」
「その通りです。適当に見繕って頂けないでしょうか」
この掲示板というのは、まぁよくある常時受け付けている依頼の事である。
職員さんに直接聞く場合は、それらとは違った依頼を提示される場合があるのだ。私の嘱託員も後者にあたる。
「そうだわ。シズナさん、これなんてどう?」
軽く提示された書類を見て、私の頬が引き攣るのを自覚した。
だってこれって……。
「今の貴女の状況なら、ぴったりだと思うんだけれど」
「……」
何で私の現状を知っているのだろう。
相も変わらず、この人の情報網はどうなっているんだ。
――結局、私はその書類を手に取ってしまった。
何故かってそりゃ、今の私にぴったりの仕事だったから。
約1週間後。
指定された日に指定された場所に訪れてみると、そこには簡素な鎧を纏った男女2人がやってきていた。しまった、時間は大丈夫だっただろうか。
「どうも、お待たせしてしまい申し訳ございません。ギルドで紹介されたシズナと申しますけれど。宜しかったでしょうか?」
「あっておりますよ、お嬢さん。初めまして、わたくしたちが――」
男性の方が丁寧に、第四騎士団の者です。と返してくる。
そう、私が受けた依頼と言うのは、何時だったかイヴァラさんに提示された書類にあった仕事。
的になる、仕事であった。
「まさかこれほどお美しいお嬢さんが引き受けてくださるとは、我ら思いもしませんでしたな」
「そうだなぁ」
前を歩く2人の自称騎士さんの後ろに引っ付いて、王城の門横にある専用の通路から中に入った。
もちろん女性の門衛士さんに念入りに身体検査をさせられたし、城内、または敷地内で許可なく術式を発動しないよう誓約書も書かされた。
ま、当然だと思う。
「ユスティさん、ウシャルさん申し訳ございません。わたくし市井の者にて、ご無礼等した場合平にご容赦を」
「そう硬くならずに。我らも元は名ばかりの貴族だった故、よく街に出かけては遊びほうけたものです」
「ま、そーゆー事ってね。この仕事を受けてくれた酔狂な奴なんて、仲良くなってみたいもんだろ」
ちょっと硬そうなのが男性のユスティさん。
そして砕けた印象なのが、女性団長のウシャルさん。2人ともまだ若者と呼ぶに相応しい年齢に見えるけれど、その精悍さはただの平民には出せない暴力の空気を纏っていた。
「ま、俺達は出迎えなんでね。何せあのギルド嬢からの推薦なんだ。興味あったし」
「……へぇ、それはまた……」
やっぱり此処でもあの人の名前かー!
「団長……ええと、シズナさん、は我ら騎士団とではなく、魔術師団との訓練で召されたのですよ」
「わーってるよ、執務室から抜け出す口実だって」
「いつも通りですね、貴方は。まったく」
何となく力関係が分かる会話が続いているが、そう私は別に騎士様のお相手をする訳ではない。だって、近接格闘能力皆無だし。
イヴァラさん他ギルドの人は知っている、私が魔術師としてある程度レベルが高い事実。それを受けて、王城勤務の魔術師団訓練を相手にする仕事を受けたのである。
本当は騎士団の的になるってのが仕事だったのだけれど、あのイヴァラさんがせっせと書類片手に何処かに連絡を取ったら、その様な仕事に変わってしまった訳だ。
なんていうかもう言葉も出ない。
「ではシズナさん、あちらが術師兵舎になりますので。中に入ってこの書類をお渡しになられれば問題無いはずです」
「お忙しい所、ありがとうございました。それでは」
「シズナちゃん、またね」
ひらひらと手を振って城に向かって行くユスティさん。彼女の赤く長い髪が、肉食獣の尾っぽの様に見えてしまったのは、気のせいだろうか。
それからの事は、特出することもなくお仕事をこなしていった。
魔術師団長以下、脳筋とは程遠い理知的な人ばかりの仕事場で良かったのもある。
スムーズに話が進み、術師の訓練に同行。実戦形式の相対。
私は市井の魔術が使える盗賊役として攻撃を加え、偶に攻撃を防ぎ、そして日が暮れるまでそれを繰り返しただけだ。
休憩時間も年若い術師層と会話をしたり、仕事が終わり家に帰る頃にはクタクタになる日々が始まってしまった。
何とも心地良い疲労がある日常の始まりである。
だが、私の知らない所でそれは始まっていた。
面倒な事には極力首を突っ込まないようにしていたのに、なんでだろうね。
「――あの妖狐、欲しいですね」
その発言が、私の耳に届く事は無かった。
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