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異世界生活の日常  作者: テンコ
第6章 彼女の日常
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6-XX 幕間 彼女の考え

「さて、それでは第1回淑女協定会議を始めたいと思いますけれど。何か異論のある方はいらっしゃいますか?」


 アリエルねぇ、会議名がダサいよ……。





 ギルドのいるイヴァラさんからの連絡で、シズねぇがそろそろ帰ってくるらしい事は聞いていた。

 それが今だった訳なんだけど……まさかもう1人家に連れてくるとは思わなかった。

 シズねぇと同じ妖狐種のおねーさん。ちょっとツリ目な所がある、きつそうな人だった。


 そんな人がまさかシズねぇに付いて来るとは思わなかったけれど、とりあえず件のシズねぇを2階に追い遣り、緊急会議を始める事にした。あたしもこの妖狐のおねーさんが気になるし、向こうもこっち側が気になるだろうし。


 ――会議自体は恙なく進行して、互いの自己紹介なども終えた所に、アリエルさんがシズねぇを連れて来てお開きになった訳だけれど。


 何というかまぁ、よく修羅場がおきなかったなぁと子供ながらに思う訳で。

 良い事なんだろうけれどね。





「ではメルカさん。25ページの9行目からお願いします」

「はい」


 立ち上がって、先生に指示された該当箇所を読んでいく。

 有り触れた授業だけど、こういう所でまじめにコツコツしていくのが重要だと家の皆から学んだし、しっかりと役目を果たすとしよう。


「――より、29代目が現在の陛下である」

「宜しい、そこまで。では次を――」


 少々長い音読が終わったので、小さく息を吐いて席に座る。

 王都の成り立ち。つまり歴史の授業はあまり楽しくない。何故なら、アリエルねぇが予習という形で教えてくれるからだ。かといって授業を妨害するつもりもない。あたしの"家"が少々特殊なだけで、この授業が遅れている訳ではないからね。


 ……あたしがこの学園に入りたいと思った理由はままあれど、つまりはシズねぇの家族になりたいからである。


 だって、純粋な力だけならリーンさんやモエねぇに及ばないし。かといって何時までもシズねぇやアリエルねぇの庇護下にいるのは、何と言うか悔しいというものだ。

 だから、自分の力を付ける為に此処へ来たいと願ったんだけど、父と母は言うに及ばず皆が協力してくれた。

 有難い事だよね。


 ちょっとつまらない授業でも、真剣に受けるべきなのである。

 で、私のここでの役割と言うのは――。





「メルカちゃーん、食堂いこー」

「うんっ、いこうか」

「えへへ。そういえばメルカちゃんはまたお弁当?」

「そうだよ。エクシーは学食だよね」

「まだメニュー制覇してないからね!」


 この学園で一番初めに友人となった半犬獣人(ハーフドッグ)のエクシーと一緒に食堂へ向かう。

 別にヒューマンと仲良くなっちゃいけない決まりはないけれど、彼らと仲良くなるのには覚悟がいるから。

 何せ生活習慣がまるっきり違うし、なにより寿命が違うから下手に友誼を結んで悲しい思いはしたくない、ってのが常識なのだ。


 だから入学2ヶ月のこの時期は、ヒューマンはヒューマン、獣人は獣人、妖精種は妖精種って感じでまだ住み分けされているらしい。これはアリエルさんから聞いた事だけれど、それが目の前で繰り広げられると納得してしまう。


 今は、この人懐っこい友人だけでも十分だけれど、ね。


 彼女と友達になったのはクラス分けがあってから最初の運動の授業。

 持久力の確認の為に指定されたコースを延々と走る内容だったんだけれど、見事に私と彼女は後続を置き去りにしてしまった訳だ。身体能力が違うし当たり前だけれど、そこからエクシーとは仲良くなったのだ。


「おおぅ、今日も美味しそうだね」

「……エクシーでも、今日"は"ダメだからね」


 食堂についてからお弁当を開けると、目ざとく中を見た彼女が中身を見て声を上げた。でも、今日はダメなのだ。


「分かってるよー。いつもの、ねぇさんの御手製でしょ」

「うん。シズねぇが作ってくれたんだ」

「はいはい、ほんっとにお姉さん大好きだよね。この2ヶ月で理解したよ」


 呆れたとばかりに頭を振って、トレイに乗せて持ってきた大盛りのランチに手をかける彼女。今日は珍しくシズねぇが作ってくれたので、これは渡せないのである。別にアリエルねぇのお弁当が嫌いって訳じゃあないけれど、やっぱり好きな人のご飯は特別なのだ。

 ……美味しさは、アリエルねぇに軍配が上がるけれどね。


「んぐ。それで、順調にいってる?」

「うーん。ぼちぼち、ね。やっぱりまだ2ヶ月だし。エクシーみたいな子ばっかりなら良かったんだけど」

「ちょっとぉ、どーゆーことよぅ」

「褒めてるのよ」

「ま、いいわ。メルカちゃんもほんとよくやるよね。お姉さんの為、だっけ?」

「うん」


 私がこの学園にきた理由。

 勉強も運動も、今あの家にいる人の方が出来る。私はまだ子供だし、さらに言えば、一番早く死ぬだろう。妖狐もエルフも寿命が長いし、アリエルさんにいたっては普通のヒューマンじゃない匂いがする。


 ヒューマンに毛が生えたくらいの寿命しか持たない私が出来る事と言えば、友達を沢山作る事だ。


 それだけ、と馬鹿にしてはいけない。だってあたしの父さんと母さんだって、旅の途中で知り合った人や護衛の商人さん。昔馴染みから色々声をかけられて、仕事の便宜を図って貰ったり手助けして貰ったりしてたのだ。


 あたしは自分の性格を良く分かってる。

 面倒臭い事は嫌いだけれど、それ以外なら特に人と喋るのは苦ではない。

 シズねぇ含めてアリエルさんもリーンさんも、最近会ったばかりのモエねぇも人付き合いが得意そうじゃないからね。あたしは、あたしに出来る事で家族を助けたいと思った訳だ。


「でも、まだ2ヶ月。もう2ヶ月なんだよね。中々上流階級の人と交流できる機会が無いのよねー」

「んぐんぐ……ふはぁ。メルカちゃんは焦り過ぎなんじゃない。タイミングよタイミング」

「そっかなぁ。そっか。もうちょっと待ってみるかな。ありがと」

「どういたしまして。あ、次の授業なんだっけ?」

「次はね――」


 あたしの最終目標は、偉い人やお金を持っている人と交流を図る事にある。

 アリエルねぇやリーンさんからは、口を酸っぱくして関わるなって言われてるけれど、少しは多めに見て欲しい。あたしにも出来る事があるかもしれないのだ、このチャンスを逃したくない。


 あと卒業まで3年近くあるのだ、それまでに何とか出来るといいな。

 待っててシズねぇ。あたしにしか出来ない事で、シズねぇを振り向かせて見せるから。





 その子を見たのは、入学式の何日前だっただろうか。


 ……一目惚れ、だったと思う。


 あのリスの子が、狐の女に笑いかけている姿が印象に残ったのだ。その子が一般の学科を受けていると知って、ちょっと見に行った事もある。普段はあまり一般生徒に交流を持たない俺が自分から出かけたことに周りは驚いていたけどな。


 遠目からチラっと見て、ああやっぱりあの子だと確信した。

 見間違えはしていない。狐とリスの組み合わせって、そうそうあるものじゃないし。


「おい今日も行くのか?」

「ああ、楽だしな」

「また学食かよ。美味いもん作って貰えるんだから、行かなくていいじゃん」


 何時もつるんでいる奴が文句を言ってきた。まぁこいつの考えもわからんでもない。

 学園側からしても、あまり一般生徒と俺達みたいな生徒の交流は推奨してないし、問題が起きてからでは面倒なのだろう。でも、俺はあの子と関われるきっかけが欲しいのだ。


「悪いな」


 コイツは口は悪いが俺を心配してくれているのだろう。だが、さっき校舎から見えた彼女は学食方面に向かっていたのだ。


 リス種、つまりスクィール種の特徴的である上向いた耳。それに明らかに手入れされてある、美しい尻尾を持った彼女。


 諦めるつもりは、ない。

 見逃すつもりも、ない。


 あと2年はあるのだ、それまでに何とかしてみよう。待っていろ、絶対に手に入れてみせる。

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