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異世界生活の日常  作者: テンコ
第1章 彼の気持ち
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1-05

 シロとクロに諭され、これからまた一緒に居てくれることの意味に感謝し、そして改めて主従の誓いをスキル問わず(難しいことはなく、ただの口約束)交わした。


 そして私自身は、彼らの主人たらんと努力することを決意する。

 翌日から生活に、魔術の訓練というモノを組み込んだ。





 ゲームの延長線上として考えうる、使える魔法の確認をする必要があるのだ。

 例えば回復魔法のスキルは使用しても患部に手を当てるのか、思考で部位を指定するのか。

 また傷口を閉じるだけなのか、殺菌消毒は出来るのか、等である。


 スキルを所持しているから、使えば何とかなるだろうと楽観は出来ない。

 つくづく小心者だなとは思っているが、必要な事と割り切らなければならないだろう。


 他には、この世界はゲームの世界ではない。神が近しい世界と言っていたのもある。

 つまり、魔法体系一つとってもこちらの世界独自のモノがあると言うことだ。

 そして魔法を人前で使えるように学ばなければならない。そしてそれは、誰かに師事しなければ学べない。


 魔法を学ぶ――これは当面の小目標だ。


 大目標は12歳前後で院を出てく事。それも……やはり冒険者として。





  そしてこの世界にもその組織、冒険者のギルドはあると聞いているので、それを今考えうる最大の目標にしたのだ。

 多くの映画、アニメ、漫画等であるようにやはり冒険者として生計を立てるのは男の浪漫でもある。

 今は女だがソウルはまだまだ男だ。


 その為の力なり能力なりは現在持っている程度のモノでもいいのだろうが、それは"持っている"だけで使いこなせていない。

 現に先程の回復魔法の例一つ挙げても、選択肢として使えるだけで、どのように使え、どのような事が出来るのか全く理解できていないのだ。


 だから……魔法を理解する必要がある。


 まずは現在使える魔法の確認。

 これは、私のプレイスタイル的に大魔法と呼べる物は所持していなかったので、比較的簡単に達成できるはず。


 そして同じ様にテイムしたモンスターの確認であったり、特殊、補助的なスキルの検証が必要だ。

 それらのスキルは、魔力線が大きくなった日からメニューに使用可能なスキルとして表示されるようになったモノだ。

 無くて問題ないモノが多いのだが、それでも確認しておかないと手札を狭める事になる。


 例えばマーチャントのスキルの中に、NPCからの買い物時、NPCに販売する時、それらにボーナスをつけるスキルがあった。

 これは現在使えない事が分かったのだが、このように世界に対応していないスキルがあるはずなのだ。

 AIを組み込まれたNPCなんていないのだから当然だろう。


 例えばアルケミストのポーション作成。

 ゲーム中では空き瓶と特定の薬草、対応する水があって初めてポーションとなる。

 その辺りの雑草と壺、井戸水を用意してスキルが発動するか試してみたが、見事に空振りだった。

 隠れてやって良かった。本当に。


 補助スキルは、要練習。


 クレリックのスキルに、身体能力を一時的に上げる祝福(ブレッシング)というスキルがあるのだが、何度か練習しないと使えない事が分かった。

 自身の身体能力が目に見えて上がり、動体視力がさらに良くはなった。

 ただし効果中と効果切れの時の落差が激しく、身体に馴染ませないととても実戦では使え無いことが分かる。

 上がった身体機能を使いこなせなかった為だ。

 足が速くなりすぎて木に激突しそうになったり、思ったように方向転換できなかったり。

 

 そんな訳で、日々の生活の中に魔法・スキルの検証。そして練習、訓練を取り入れることにした。

 院の皆には黙って……である。





「でね、でね、っ!」


 リンディちゃんと歩きながら楽しく会話していたら、その喉が声にならない悲鳴を上げた。


「おい、おまえら。教会の奴なら金持ってんだろ?出せよ」

「そうだぜ、ちまちま稼いでんだろ。俺たちが使ってやっからよ」

「ひひっ、そうそう。それに良い顔してんじゃん、遊んでやんぜ?」


 買い出しの為に公園の中を横切る最中だったのだが、この日に限って何故か柄の悪い少年たちに捉まってしまった。

 しかも、ご都合主義的に周りに人が居ない。これでは助けも呼べない。


 ここ最近の体力作りの鍛錬、魔法の練習。

 そして普段している孤児院の仕事などを含めて疲れが出ていたのかもしれない。

 普段なら周囲に対して気配を探ったり警戒をするのだが、この日に限って注意が散漫になってしまっていた。


 やはり、まだまだ自身の能力を使いこなせていない。


 こちらが孤児院育ちと分かったのは多分、服装だ。

 この辺の子供とは違い、いくら余裕がある孤児院と言っても新しく綺麗な服はそうそう買わないし着ない。

 よく言えばシンプル、普通に見れば貧乏な服装の子供、しかも普段周辺で見かけない子とあってはソレ以外考えられないのだろう。

 しかも、相手は別に間違ってても良いのだ。お金と女さえ手に入れば。


「おい、こんなガキ相手にすんのかよ」

「ひひひっ、いいじゃん、俺、好きだし」


 4人ほどの男の子がこちらを好色な顔で、下卑た笑みを張り付けて見てくる。

 背格好からして15歳前後だろう、この年齢でこれか……とは思うものの、この世界ならこのぐらい普通なのかもしれない。


 さて、どうするか……。


「黙ってちゃダメだぜぇ……痛い目見ないと分かんないのかぁ?」


 駄目だ。抵抗する事は出来るだろうが、それでは後で確実に報復される。

 かといって殺すのも、リンディちゃんの前では……。


「大丈夫だよ、少し我慢しててね」


 私の腕を抱いて震えているリンディちゃんに小さく呟き、頭を撫でながら考えを纏めていく。よし。


「お、お金なら、少しあ、あります……あの、あの……こ、これ……」


 そう言って、ポケットに入れていた銀貨10枚程を差し出す。この金額は4人家族なら3日程度暮らせる額。

 それで満足しないのなら……。


「結構持ってんじゃん。良し、それ貰い」


 結局、私が選んだのは恐怖に屈服した振りをする事だった。

 怖いのものは怖い。

 しかし、必死に考えて考えて、リンディちゃんを優先して逃がさないといけないと思うと、何とか踏みとどまれた。

 1人なら逃げ帰るか、それか最低の解決方法を取っていただろう。


 問題はこの後だ……孤児院に迷惑をかける訳にはいかない。


「よしよし、じゃ、ちょっとこっち来な」

「あ、あの……この子はまだ7歳なので……おうちに帰して、い、いいですか」

「7は無理か……じゃあお前ね、お前は逃げちゃだめだ?分かってる?」

「は、はい……」


 リンディちゃんは何とか孤児院に戻すことが出来そうだ。


「リンディちゃん、ちょっと怖いと思うけれど、1人で教会まで戻れるわね?」

「ねえさん……シズねえさんは!」

「大丈夫。大丈夫だから。ちょっと行ってくるから、戻ってて。ね?本当に大丈夫、リンディちゃんは教会に戻って、助けを呼んで来て欲しいの。だから、戻って」


 中盤以降は小声で、リンディちゃんだけに聞こえるように伝え、なんとか1人帰す事に成功する。

 7歳児なのだ。

 成功するかどうかは賭けに近かったが、この世界の子供は総じて大人で助かった。そして目の前の少年達もある意味大人なのか……。


「じゃ、こっち来なよ」


 リンディちゃんが公園を出て孤児院に真っ直ぐ向かっている気配を、訓練で広がった感知で確かめつつ、少年達の方へ身体を向ける。

 そして……少年達全員が私を見て、さてどこに行こうか仲間内で検討しだそうとした気の緩みをついて、





 少年たちは"私"を連れ立って、"私"を残して去って行く。


 妖狐族の固有スキルを使ったのだ。


 ゲームではシステムに沿って、特定パターンの幻惑を見せる事しか出来なかった。

 しかし現実となると、そのシステム制限が無くなりとても便利な現象を起こせるのだ。しかも、この場合最大限の効果を見せるだろう。


 あの少年達は、蜃気楼の様に揺らめく"私"を見せられて、それを隠れ家に連れ込むかどうかするのだろうが、その"私"に触れた瞬間、前後の出来事を忘れるのだ。

 今回の場合だと、私たちからお金を巻き上げた事を忘れて、4人で公園とは別の場所にいるのか、くらいまで遡るだろう。


 多分これは、私のイメージのせいだ。

 日本の物語などで多くある、狐や狸や妖怪に化かされて、前後不覚になるという場面を強く思い浮かべているからだろう。

 このスキルの検証は結構手間取ったものだ。


 街のお店の主人などには良く効くのだが、街の兵士さんに通用しなかったりした。

 これは単純に私の経験不足なのか、それともレベル的な何かが足りないのかは不明だが、あの少年達が兵士さんと同程度のはずはないだろうと思い幻惑魔法をかけたのだ。

 念の為、本当に念の為。

 万が一の場合に備えてリンディちゃんは逃がしていたが、無事終わって良かった。孤児院にも迷惑が掛からないだろう。


 目撃者もいないし、格好よく皆殺し?

 ……ムリムリムリ確かに出来るけど選択肢があっても、それを選択出来るかどうかは別な訳で。

 まぁ臆病者と言われれば。そうです。

 リンディちゃんが巻き込まれていたら違ったかもしれないけど……。


 その後は急いで、今度はちゃんと周囲に気を配りながら買い出しを済ませて孤児院に戻った。


 リンディちゃんには話し合いで済ませたから無事戻れたと伝え、心配をかけたみたいでその日一日は腕を放して貰えなかった。

 情けないと嫌われるよりは良い結果だ。





「ひひっ……あれ?なんでココ?」

「……うん?今日は公園でカモ探すんじゃなかったか?」

「そうだな……」


 普段集まる古びた空き家に入った少年達は、何で戻ってきたのか理解できないようで、皆でこの不可解な現象を確認していた。


「お前ら、なんか悪いモンでも俺に食わしたんじゃねーの?ほら昨日の」

「ちげーよ!あれは四番地の店からパクってきたんだぜ?あそこが悪いモンならどこも食えたもんじゃない!」

「落ち着けよ、なんか俺銀貨持ってるし、これでメシでも行こうぜ」

「ああ、んじゃ俺ん家来るか?売上貢献しな」

「ひひっ、お前ん家も悪いもんじゃないといいけどな」

「うっせー」

「それよりお前ら、明日から収穫だからな!」

「へいへい……さぼりてぇー」


 ……確認していたのだが途中変わった話に誰も気付かず、そのまま街に出て行った。

 シズナがした事は事態を解決させてはいないが、女の子1人を逃がす決断をした事だけは、良かったのだろうか。

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