5-04
その後の道程は何時も通り平凡な物――とはいかなかった。
ギルドから借りている地図が間違っているのか、道を間違ったり。何故か多く魔物と遭遇したり。果ては数日置きに野盗を見つけたり。
逃げたいが絶妙な場所で遭遇するのだ。崖に挟まれている道、山の中腹、濁流になっている川の傍、と言う具合に逃げるのも面倒な場所。
その時その時で対処を強いられる。
本当に何故かと思うが、連日小イベントが重なっていた。これと言って実害は無いが、若干面倒臭い。
今日だって――
『お嬢様。相手は動かずそのまま正面におります。数は9人程。距離はあります』
『ありがとうございます。引き続き警戒をお願いしますね』
『畏まりました』
先行させているホープからの念話を貰い、少しばかり警戒を強める。
現在は深い森中であり、狼すら走り抜けられない程乱立する木々で視界は塞がれている。お蔭でシロクロは私の傍で待機状態だ。
そして森中での行動に掛けては最高のパフォーマンスを見せる白猿を偵察に出していた。
白くて目立つかと思いきや、そこは流石の能力。相手の視認の外から観察を行い、具に知らせてくれている。今の所見つかってはいない様だ。
『口惜しい。この様な場所で無ければ……』
『クロには何時もお世話になってますから。今日ぐらい休んでも良いでしょう』
『そう言って貰えると嬉しいな。そこまで言われるなら、今日は見物に徹しようぞ』
『こらクロ、だらけるのは感心致しませんよ。主様の前です』
クロの発言に返すと彼はそのまま寝そべってしまった。シロから注意を受けているが、そのシロにも休息を進めて意識は前方に向ける。
そもそもここ最近ばかり忙しすぎるのだ。
今日も朝から野営地点を出て移動中に魔物と遭遇。お昼には対処を済ませて昼食を取り、そのまま歩き出した矢先に今の状態になっている。
ちなみに今まではソラに上空から監視をして貰っていたが、木々が折り重なって地面上の様子が見えないと言われた為に今回は断念をしている。
悔しがっていた彼女は送還し、代わりに呼んだのがホープと言う訳だ。
そんなホープからつい先ほど不審な輩を見つけたと念話が届き、現在は監視を含めた警戒中。
すでにギルドへ通信を送り、相手の確認をして貰っている。もし相手が手配中だったりした場合の保険だ。殺すより吐かせた方が良い時もあるし。
『お嬢、相手の魔法使いはいないわよ』
『そう。助かります、アルル』
『いいのよー、でも次はたっぷりとお願いね』
『ぜ、善処します』
視線で監視を行うのがホープなら、対象の周囲の草花から魔力の有無を聞き取れるアルルは、さながら魔力探知と言った所か。今回も魔術師はいないようだ。
それもそうである。
魔術師なら仕事など探せばいくらでもあるから。食いっぱぐれる心配もない。こんな所にいる方が稀有である。
『お嬢様。相手側に特に動きは見られません』
『分かりました』
……何故彼らが野盗と思ったのか。
それは彼らの方から漂う血臭である。それも、人間の。
それだけで断定は出来ないが、ホープに教えて貰った幾つかの情報を総合すると野盗としか思えない。
話し声を逐一届けて貰っているのだが、何でも彼らは妖狐の集落を探しているらしい。妖狐は他の種と比べると下界に降りては来ない為、子供でも捕まえて売れれば結構な儲けになる、との事らしい。
その言を聞いてまず思ったのが、私は無事……無事か?無事ここまで成長出来て良かった、である。
まぁ過去色々あったし、忘れたい思いでもあるけれどね。
そんな感じで野盗が話しているのをホープを通して盗み聞きし、更に彼らは迷っている事も分かった。当たりを付けた場所周辺を少人数で探っている最中との事。
同じ場所に向かっているから、このまま進むとかち合う可能性が高い。
さて、どうした物か――
『お嬢様!動き出しましたッ。そちらへ向かっています』
『ッ、ホープはすぐに戻って下さい。手は出さなくて良いです』
『畏まりました』
考え込もうとした矢先、タイミング悪く野盗が動き出したらしい。
ホープからの念話を聞いて思考を中断し、すぐに動き出す準備を整える。一発逆転出来る名案は浮かばず、実力行使しか無いらしい。
『相手の人数が多いので分断しましょう。前衛はホープとディア、後衛は私とアルル、それにロッテも呼び出します。3人で前衛を援護。シロクロは危なそうな所が出たら向かって下さい。烏丸はいつもの様に』
全員から了承の意を得た後、すぐさまロッテを呼び出す。機動力は御世辞にも高いとは言えないが、ヒトガタの彼女は森中での動きも悪くないだろう。
『シズ様、おひさ』
『ごめんなさい。急に呼び出してしまって』
『だいじょーぶ。アルル姉ぇから聞いてるよッ』
『話しが早くて助かります。ではその通りに』
召喚獣である彼女達は意識や情報をある程度共有できるらしい。便利だ。
相手は合計9人。と言っても純粋に戦力になるだろう相手は7人程。残りは移動中の世話役や、街中での顔役だろう。ホープの報告からそんな事が分かった。
戦力の内訳、なんて無く全員槍を手にした前衛。狼が走り回れないほどの深い森中では弓を射る事が出来ないし。辛うじて槍が取り回せる程度だろう。
私の探知でも捉える事が出来る様になったので、動きを予想しながらこちらの位置取りを変えていく。相手は全員ヒューマンの様だし、風向きはそれほど気にしていない。
獣人なら要注意部分だけれどね。
そのまま暫く同じ距離を保ったまま、相手に隙が出来るのを待つ。狩りと同じでタイミングが重要……と偉そうに思ってはいるが、ケモノの本能に任せた部分でもある。
これも便利だ。
『今です』
殺される前に殺せ。
前の世界ではあまりに過激すぎる言葉だったが、この世界では別だ。生きる為である。念の為先程ギルドから許可は貰っていたので躊躇なく指示を下した。
相手側は警戒も緩く、私達の事に気付いていないのだろう。9人全員が一列で伸びきった線を描いて進行中だった。
その後方左右からホープとディアが素早く、しかしタイミングを少しずらして攻め込んだ。
先に意識を引き付けたのはホープ。引き付けたと言うより槍を持った1人を叩き潰したのだけれど。
大型の魔物と勘違いをしたのか、戦闘が出来そうな残りの6人全員そちらを向いた。
その隙を突いたのだろう、ディアが背を向けている1人を切り殺す。騎士道精神も何もあったものではない……まぁそんなモノは期待してもいないけれど。
完全に腰が抜けたのだろう、非戦闘員2人は腰を抜かして後ずさっているので無視。
残りの5人に向けてスキルをぶち込む。
頭の片隅で、そう言えば習った魔術最近使ってないなーと思いながら、どうせ相手は全員殺すのだしとゲーム時のスキルを使用する。
火の矢、俗にいうファイアーボルトと同種のスキル。アイスニードルを相手に向けて数本飛ばす。
大規模な魔法など必要ない。最低限、だ。
ある程度訓練を欠かしていないからか、撃ちだした4本は、狙いを過たず男2人のお腹に命中。死んではいないが動けない様なのでそのまま放置。
次を狙おうとしたらアルルが風魔法のスキルで男2人を両断。さらにロッテが撃ちだした魔弾で最後の男の頭を吹き飛ばし、呆気なくも殲滅を終えた。
……いやまあギリギリの戦闘なんかよりは安心出来るし、堅実なのは何よりも良いのだろうが……。
あまりにあっけなさ過ぎて……シロクロなんて何もしっていないし。
何となく気落ちする。
その後すぐに氷の矢が刺さって地面に倒れ込んだ男2人を乱暴に縛る。腰が抜けた男2人も同様に。
さて、尋問を始めるか。
特に新しい情報を聞くことも無く、殲滅した旨をギルドに報告。
ここ数年で信用されてきたのか?あまり疑われる事も無く了承された。不自然に感じた対応に首を捻りつつ、"後処理"をしていく。
生かしておいても、生かす事が苦労に繋がるし大変だ。
ここはそんな世界なのである。
――その後は出発する前にアルルとロッテに魔力を分け与え……いや貪られた。
ここはそんな世界なのである。
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