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異世界生活の日常  作者: テンコ
第4章 彼女の仕事
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4-12

 王都に戻ってきた。

 単純に2往復目なのだ。何も語る事は無い。


 ただ、1回目の商隊護衛時に遭遇した獣人の村で宴会に誘われたり、変な宗教団体と遭遇しそうだったので隠れて進んだり、何処かで見たことがある青年と出会ったが、青年が私を見て逃げ出したり。


 何の変哲もない旅だった気がする。





 久方ぶりの我が家。

 家があり待つ人がいるという事がこんなに嬉しいとは、今世でやっと理解出来た。


「ただいま」

「お帰りなさーい」


 アリエルさんの声が奥から聞こえる。台所に居たのだろう、近付いてきた彼女は前掛けを付けていた。薄桃色でふわりと舞う髪に似合う、ライドグリーンの布地。


 その彼女が抱き付いて来る。そして私はそれに答えた。


 前回出来なかった事を少し後悔していたので、家に戻る前に銭湯で湯浴みをしてきたのだ。

 相変わらず身長は向こうの方が高いが、しっかり抱き留める事は出来る。何故だろうフローラルな香りがするね。


 私も彼女も、それぞれ相手を堪能する。ここは玄関なのだが、気にもしない。庭が広いので外からは見えないし、そもそも扉を閉めたので大丈夫なはずだ。


「はぁ……シズナさん、久しぶりですの」

「ええ、申し訳ありません」


 一緒に過ごした時間は長くは無いが、一緒に暮らしている昨今は色々落ち着いてきた。

 絡め取るかの様な行為から、互いに啄む様な行為に移行する。私は彼女の髪を撫でながら、彼女は私の背筋を撫でながら。相手に刻みつける様にに、相手を刻みこむ様に。

 彼女は私の内面に惚れ、私は彼女の好意に返す。


 そんな彼女は日に日に美しくなっていった。そして段々と抗えなくなっていくのを実感している今日この頃。


「はぁ……待ちましたわ、わたくし」

「待たせてしまいましたね」


 不毛な言葉を、非生産的な言葉を交わしながら、それでも相手を求める。


 それにずっと単調な行為に見えて、彼女は段々と過激になって行っている気がする。

 いや過激は言い過ぎか。今日は――


 彼女は私の腰に回している手を、背中の方へ徐々に上げ、ついには首筋を撫でつつ鎖骨に指を這わせてきた。

 いっとう窪んだ部分を人差し指で撫でられると、私は頤を逸らせてしまった。


「あッ……」

「ふふ」


 その隙を逃さないとでも言うかのように、彼女の柔らかい指の腹が敏感なその部分を撫で擦る。

 もう片方の手は、いつもの様に腰に回したままで逃げる事も出来ない。


 アリエルさんがその大きな瞳、紅色に濡れ光るその瞳で私の顔を覗き込んでくる。

 恥ずかしさから顔を背けようとするが、それは彼女に許されない。啄む様な行為から、今度は貪られる様に責められた。


「んむッ……ふぁ……んッ」

「ふぅ……ふふ、可愛いですわ、シズナさん」


 他の方の事を考えるのはマナー違反だと思うけれど、リーン姉さまの時とは逆だ。

 まるでまな板の上の何とやらの如く、今の私は抵抗出来ない。


「あっ、ふぁっ」


 中に潜り込んで私の頬裏、それに歯茎を重点的に狙ってきた。いや何で狙うとかは別段描写はしないが。

 もちろん鎖骨を撫でる手は止まらず、暫く彼女は指先で弄ってきた。そして彼女は頃合いを見たのだろうか、白く細い指先を鎖骨に沿ってゆっくり動かしながら、首筋を撫でて来た。


「ひぃ……くッ」


 私の口から押えられない声と共に、飲み込むことが出来ない唾液が垂れる。呼吸が荒く不規則になってしまい、正常に嚥下出来なかったのだ。

 それを彼女が――


「んく、ちゅる……」

「ふぁぁ……ん」


 喉まで撫で上がった手で私の顎先を摘まみ、唇そのものを貪ってきた。

 流石に息苦しくなり、半開きの口を大きく開けてしまう。そして突き出した私の舌を、なんと彼女が口に含んだ。


「ひゃにを……んあっ、あっ!」


 そのまま甘噛みをするかの様に、歯で扱いてくる彼女。音を出して啜ったかと思うと、唇で丹念に舐めとってくる。

 先程までより顔が近くなっていた。それでも私達は眼を逸らせない。アリエルさんの赤く濡れた瞳が目の前にあった。


 綺麗だ――単純にそう思う。


 じゅるじゅると音が響き、合わせて嚥下する音も時折鳴る。

 抵抗、なんて言葉はもう頭の中に無い。真っ白に染まった頭で何も考える事が出来ず、そのまま――


「ふぁぁ……!」


 横には、ひっそりと無言で佇む鎧があった。





「結構なお点前でしたの」

「……はぁはぁ。そ、そうですか」


 若干引いた。

 それにしても今日は最初からフルスピードで走り続けていた彼女。何時もはもう少しマイルドなのだが……。


「アリエルさん、今日は長かったですね?」

「少し。シズナさんから別の方の匂いがしましたので」

「え?」

「……御一人、ですわね?」


 まままじか。

 3ヵ月以上前の事ですよ!?そんな事したのは!!


「大丈夫ですのよ?獣人の方は1人に絞られる方が少ないと聞きますので、わたくしも理解はあるつもりですの」

「そ、そうですか……申し訳ございません」


 うわきが、ばれてる。


「ふふ。ですが理解はしても本能が、貴女に上書きしてしまえと囁くんですの」

「上書き、ですか。言葉の意味が不吉ですが」

「そんな事ございませんのよ?さ、奥に――」


 その後私がゆっくりお風呂に浸かり、ゆっくり昼食を食べ、ゆっくり眠る事が出来たのは、翌日の夕方以降だった。





「――それでは、シズナさんの御師様が後にいらっしゃるのですね?」

「掻い摘むとそうなります。申し訳ございません」

「大丈夫ですのよ?スルドナさんと、こうなる事も予想しておりましたので」

「はは」


 顔が引き攣る。

 結局王都に戻り、落ち着いてアリエルさんと話すのは3日目の朝。その日は朝食後に彼女と向かい合って、久しぶりの団欒を楽しんでいた。

 ちょっと疲れたけど、肌艶は良いと思う。

 まっさーじにはかてなかったよ。


「シズナさんは、その、教えて下さる方が居なかった様ですので……」

「ああ、両親の事ですか。気にしていませんよ」

「……そうですか。獣人の方は、本能的に家族を増やそうとするそうですわ。男性も女性も区別なく」

「へぇ、それは知りませんでした」


 うん、別に一夫一妻制に拘ってはいないけれど、何となくメスのケモノは相手の番を1匹しか持たないイメージがあった。

 いやイメージなんだけど、男だけが囲む、みたいな。


「子を増やそうとする本能の様な物らしいですわね。意外に親族間で契る事が多いそうです」

「へ、へぇ……」


 生々しいな。

 つまりあれか、私も周りに何人か侍らすのだろうか……いかん想像が出来ない。侍らす側じゃなくて、侍らせられる光景は用意に想像できてしまったのが、少し悔しかった。


「相手側に自分の匂いを残そうとするのも、獣人の方の習性らしいのですわ」

「つまり、色々やっているのは……」

「ええ、本能のようなものらしいので気にせず。飽きる事も無いと思いますわ。だって、本能と習性には抗えないのですもの」


 わたくしの様に、と彼女は指先で自らの唇を撫でながら続ける。そうだ、彼女も相手を求めてしまう種族だったっけ。あまりに意識していないから忘れてた。


 ……そう言えば最近こんな事しかしてない気がするな。

 仕事はちゃんとしてるんだけれど、何かこうだらけ過ぎている気がしてきた。


 ま、まぁ偶に家に戻っての事だし、しょうがないか。


「姉さまが王都にいらっしゃるのはまだ先ですし、気にはしなくとも大丈夫です」

「そうですの。畏まりましたわ」

「私は次の依頼が無いかギルドに行ってみます」

「あら?基本的にあちらから通信が来るのでは?」

「そうなんですけれど、やっぱり自分の目で依頼書を見るのも大事な経験ですから」


 別に職員になった訳では無いし、今も一冒険者なのだ。

 イヴァラさんや情報課の人から依頼を受けているので、ギルドの仕事としては問題無い。実際、ランクアップの精査に関わって来るし。


 けれどそれだけでは経験出来ない事もあるだろう。前商隊に売られた時の様な経験、あれほどまでとは言わないが、それでも色々掻い潜る術ぐらいは身に付けておきたい。


 あまり機転は効かないが、実直に蹴散らせるくらいには。





 そんな決意から5日後。

 訪れたギルドでイヴァラさんからの依頼を受けていた。

 情報課の仕事では無かったが、私を指名しての依頼だ。ちょっとどころでは無く怪しい。

 でも受けた理由としては――


「貴女ですか。親無し(はぐれ)の妖狐と言うのは……ハッ、高が知れてますね」


 ――その依頼の結果、同族に関わる事が出来ると思ったからだ。

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