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異世界生活の日常  作者: テンコ
第4章 彼女の仕事
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4-XX 閑話 彼女の人生

(ほんと彼女、すごく変わったわね……)


 彼女、シズナさんに色々、本当に色々されてから数日経ちました。

 私は今自身の里を目指して旅をしている最中です。


『私は、代わりには、なれませんか』


 あの言葉を聞いた時は、我が耳を疑いました。

 誰が好き好んで誰かの代わりになると言うのでしょう。私は、妹だけを愛していたかったのに。





 エルフという種族は、魔力を好みます。

 相手に好意を寄せる条件の一番が、相手の魔力が高い事。身も蓋もない言い方をすれば、容姿や性格、財力等は二の次なのです。


 それは過去から続く本能の様な物。

 種族全体が肉体的に脆く、秀でている物が魔術行使の精度くらいしかないのです。

 だから種を存続させる為に、より魔力の保有量が多い持ち主に好意を寄せてしまう傾向があります。


 そんな種族の特性は、他には黙っています。知っている人も限られてくるでしょう。

 もちろん魔力の保有量が多い人を見ても、すぐさま襲いかかる訳ではありません。対象と魔術的な部分で友誼を交わしたりなどをすると、惹かれやすくなるという事なのです。


 そんな私達の種族は、親兄弟で契る方も少なくありません。一番最初に魔術の訓練や日常の中での交友を深めるのが、周囲に居る身内だからです。

 例外はありますが、私は大多数の一部でした。


 生まれた時から一緒にいた妹を、愛していたのです。


『姉さま、私はここを出たいわ』

『何でなの?ここに居れば不自由しないわよ』

『ううん、不自由はしているわ。だって、新しい事が見つからないのだもの』


 長寿な種には2種類の考えを持つ者がいます。

 1つは、新しい事、新しい物を経験しないと心が枯れていくという者。

 1つは、今まで自分が生きてきて経験したものを、ずっと繰り返して生きて行くという者。


 前者は生物として当たり前の感情でしょう。

 後者は……これも生物として当たり前なのでしょう。生きたいと、思う考えなのですから。


 妹は、前者でした。

 私はどちらでも無かった。ただ妹さえ居れば良かった。だって彼女と私は同じ魔力を持ち、同じような波形を持ち、同じように生きてきたのですから。私にとっては半身とも言える存在だったのです。





『姉さま。私、ここを出るわ』

『……考えは変わらないの?』


 ある時彼女は決意を秘めた瞳で、私にそう言い放ちました。

 私自身は彼女さえ居れば良かったのですから、特に止める事もせず。むしろ付いて行く為に努力もしました。


 結局妹と私は生まれ育った里を出て、多くの未知を見てきました。資料や本では得られない、生身の身体で得る経験は妹を魅了する事にもなりました。


 1年が過ぎ、2年が過ぎ、5年が過ぎ……長寿種にとっては瞬きに等しい時が過ぎた頃、妹はある男に恋をしていました。


 私はそこで初めて愕然とします。

 妹は、私を好いてはいなかった。言葉にした事は無かったけれど、そう思ってくれていると思っていた。


 その時の絶望は、今思い出しても自分勝手だと思います。しかしその時は生きる意味さえ失う程の事件だったのです。だって、半身が離れていくという恐怖。これから先長い年月を、好いている者と一緒に過ごせないかもしれないという恐怖。


 論理立てて考える事が出来なくなった私は、狂っていたのかもしれません。

 人に話すと、そんな事で……と言われる事は間違いないでしょう。

 ただ、当時の私は妹だけが世界の全てだったのですから。私と彼女さえ居れば良かった閉じた世界だったのですから。


 でも何故、私は言葉にしなかったのか。

 一言、愛していると言う事をしなかったのか。


 多分、何処かで分かっていたのでしょう。妹は私を狂おしい程は愛していないと。


 言葉にして、拒絶されるのが怖かったのでしょう。





 ――彼女が、病気に罹りました。


 妹が好いた、男。彼からギルド宛で伝言がありました。

 生きる意味を失っていた私は、1人で過ごしていたのです。女々しくも、妹と巡った街や村を。


 恥ずかしながら、その時の私は生きる目的すら失っていました。妹と一緒に入った冒険者のギルド。惰性で依頼を受け、適当にこなして数十年程生活していました。その時の私は、自身を主人公として悲劇を気取っていたのです。


 しかしその手紙を見た時、一目散に彼女の下へ走りました。2年かかる距離を、1年と半年で踏破。身体は痛みましたが、妹の事はやはり愛しているのですから当然です。


『姉さま、お久しぶりです』


 そう言って笑った妹は、見る影もない程やつれていました。

 ギルドの通信はとても速く伝言を送れます。彼女が病気に罹ってからすぐに連絡をくれたそうなので、1年半もの間病気と闘っていたのでしょう。


 妹が好いた男は八方手を尽くしたそうですが、もうどうしようもない病気だったようです。後は4、5ヶ月の命と言われていました。





 それは何処にでもある話です。

 嫁を失った男と、妹を失った女の話。


 結局妹は助かることなく逝きました。物語の中の様に救世主が現れる事は無く、新薬が出る訳でも無く。当然の様に、しかし余命を1ヶ月程過ぎた頃に逝きました。それは彼女の努力だったのか。それとも地獄の苦しみだったのか。


 彼女とは死ぬまで話をしました。


『姉さま、良い人は居ないの?』

『……いえまだこれと言って』

『そうなの?姉さま綺麗なのに。それとももっと魔力の多い人が良いの?』


 そんな他愛の無い話をしました。


 私は、彼女がずっと生きると思っていたのです。

 とてもとても、悪い事を考えていたのです。


 男が先に死んで、1人になった彼女を奪えば良いと。

 彼女が好いた男はヒューマンでしたから、あと100年はしない内にその計画は達成すると思っていたのです。


 それもこれも、彼女に薄汚い姉だと言われたくないから。


 でもそれは叶うことなく、妹は最後にこう言って逝きました。


『姉さまの前にも良い人が現れると良いわね。その人が、姉さまの良い人になってくれると良いわね』





 それは、良くある話。

 彼女が居なくなっても劇的な変化など訪れる訳もなく、私の生活は回っていました。


 男は妹と稼いだお金で魔道具屋を開き、私は目的も無く各地を放浪。

 偶にギルドの後輩を育て、気ままに過ごしていたのです。





 彼女に最初あった時の印象は、ちょっと魔力が多い獣人だな、と。それくらいでした。

 しかし次の返答で妹を思い出してしまいます。何とか記憶の底に、重しで蓋をしていた記憶。


 男……もうお爺さんと言われるくらいの年齢になった彼の紹介で出会った彼女は、私の質問に言い放ちました。


『この世界のもっと多くを知りたいです』


 もちろんそんな言葉だけでは彼女を好いたりしません。妹を思い出して、感傷的にはなりましたが。

 問題は、その妹を思い出した事。

 それからの生活で、それまで押さえていた妹を好いていた気持ちが、彼女に向かって行くのを感じたのです。


 それも……最初はそれにすら気が付かず、お爺さんに言われて気が付いた程。

 代償行為、なのでしょう。最初は、シズナさんだから特別好いているという訳でも無かったのですから。


 しかし一緒に暮らしだして抑えるどころか、日に日に増していく気落ちを隠すので精一杯でした。彼女に悪いと思いつつ、何処かで彼女と妹を一緒に見ている自分。


 論理立てて説明する事が出来ない気持ち。

 寝ている彼女を撫でたり、まぁ色々と発散はさせて貰いましたが。それでも彼女が街を出て行く日、溢れそうになった気持ちを見せないように会うのをやめたりもしました。





 妹が引き合わせてくれた男、いえ……お爺さん。

 彼も亡くなりました。


 一方的ではありますが、同じ人を好いた者として出来る事はやります。妹が好いた人なのですから、無下にはできませんでした。

 遺言を幾つか聞きましたし、シズナさんへの伝言も預かりました。


 結局、彼女がこの街に戻って来たのは合計8年という月日が流れてから。

 長寿種にとっては少しだけ長いかな、という程度。


 しかしその日に、彼女は私を――





 8年と言う歳月。

 しかしその間に妹とシズナさんへの想いは混じり、もう私では止められなくなっていたのでしょう。


 不純だと言う思いはあります。今私は彼女を愛していると言えますが、それは妹への愛なのか、それとも彼女への愛なのか決められないのですから。


 そこへ彼女の、代わりでも……と言う言葉。あれは卑怯だと思いましたけれどね。

 シズナさんでも妹へでも良いと言ってくれたのですから。


 色々、色々あった翌朝。

 シズナさんから裏話を聞きました。


 お爺さんの手紙に書いてあったそうです。

 彼女を少しでも好いているのなら、妹の代わりをしてやってくれと。


 シズナさんは私を心から求めてくれた。それは昨日の夜分かりました。

 けれど、その発端が彼女の意思では無かったのが少し悲しい。でも私も、妹への愛とは違うとはっきり言えないのだ。そこは同じですかね。





 自分の人生を振り返ってみましたが、今の、その、シズナさんへの想いが溢れている現状も、悪くはないと思います。

 彼女が昨日、ぼそっと口にした、ちょろいと言う言葉。

 意味を聞いたけれど、まま当てはまっているので苦笑するしか無かったですし。


 まだまだ長い人生なんです。

 少しくらい、キツネと過ごすのも悪くは無いと思いながら、最後の整理をするために里に向かい歩き出しました。

支離滅裂な部分もありますが、まとめると彼女はちょろいと言う事だけです。


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