4-11
「落ち着け……落ち着くんだ」
「ぅん……」
現在私の隣でリーン姉さまが穏やかに眠っている。
大丈夫昨日の共同墓地後での事は覚えている。
いや何か劇的な事件を一緒に乗り越えたとか、前世の因縁とか、死にそうな目に2人で合ったから吊り橋効果とか特に無く。
気付いたら姉さまが好きだった。アリエルさんと同じくらい好きだった。
いやこれは良い訳……。
ちょっと昨日はテンションが上がってしまっただけだ。
いやこれは最低だ……。
あの後は宿を2人で1部屋取って、色々話してそれからすぐに寝た。何もしていない。そう、私2から"は何もしていない……何かどんどん最低野郎になっている気がする。
あれ、でも……私はアリエルさんと言う、帰る場所があるにも関わらずこんな事を……不倫か!不倫なのか!
何でこんな事をしたのか、それは後々分かる事になるのだが、この時の私は混乱していてそれ所では無かった。
結局、リーン姉さまが目覚めるまで自問自答は続く。
「ッン、私の口調の事は秘密です」
「分かりました。口外致しません」
「宜しい。亜人と言うのは、150歳でも若く見られますから。正直面倒臭いんです」
「なるほど」
ベッドの上で2人、膝を突き合わせて話す。
あの口調は故意に作っていたから、あんなに変な感じだったのか。確かに年を意識して喋ると変になるよな。
"のじゃ"だけ付けとけば良い訳でもないだろうし。
「そしてシズナさん」
「はい」
「貴女は何をしてくれたんですか!――」
説教が、始まる。
否定出来ないしなぁ……いやでも最後の方は姉さまも結構乗り気だった気が。断らなかったし。
「――です。聞いていますか?」
「はい、しっかり聞いています」
「そう、ならちょっと汗が気持ち悪いですし、お風呂に入ります」
「そうですね。ちょっとベタベタします」
脱衣所に入る姉さま。
昨晩はちょっと奮発して個室にお風呂付の部屋にしたのだ。お風呂無しの部屋だと4日は泊まれるくらいの金額の、ちょっと高級感が出ている部屋。
それを奮発とか思ってる自分が根っから庶民だと痛感したが、私も期を見て脱衣所へ向かう。
丁度リーン姉さまが浴室へ入った所だったので、手早く服を脱ぎ捨て私も中へ。もはや何か色々吹っ切れたので、躊躇はしない。
「……で、何故シズナさんが?」
「私も湯に浸かりたいと思いまして。それなら一緒の方が手っ取り早いかと」
「……そう、そうね。ならしょうがないわね」
「ええ、しょうがないんです」
2人共魔術を使えるので水も湯も出せる。魔術の調整的な部分も結構得意なので、自力でシャワーすら出せたりするのだ。
浴室はあまり広くないので、並んでそのシャワーを浴びる。
精神的には彼女の方が大分高い。だが、肉体的にはあまり変わらない。
髪を洗い流す彼女の身体を横から見ていると、何かこう抗いがたい衝動の様な物が溢れてきた。
水に濡れる首筋とか、細くそれでいて瑞々しい二の腕とか、太腿の柔らかさ具合とかから目が離せない。
彼女は少し怪訝な顔をしながらも、さっさと浴槽へ浸かってしまう。私も誘われるまま同じ浴槽へ。ちょっと行動が変態チックになってきた気がする。
何でだろう、彼女が"欲しい"。
「シズナさん、王都に行って色々変わられましたね」
「確かに、自覚がある部分はあります」
我慢?が出来無いのだ。これも奴隷商の所でした経験のせいなのかな。思考に沈もうとする意思とは裏腹に、本能は姉さまから目を離せない。
「姉さまの脚、綺麗ですよね……」
「……は?」
口走っていた。また唐突だな私。
「いえ変な事を言ってしまい申し訳ありません」
「ほんと、変わったわね」
姉さんは口ではそんな事を言いながら、浴槽縁に脚を揃えて投げ出した……姉さまは……誘いネコの様だ。
正直私は自身がそれだと思っていたが、目の前にそっちの性質の方がいると、已む無し……!と思ってしまう。
変な意味は無いけれどね。
向かい合って浴槽に浸かっていたので、目の前に姉さまの御御足が曝け出される。理想的なスタイルであろうと確信できる肉付きで、それが視線を誘導するように小刻みに揺れていた。
ごくり、と喉が鳴る音がする。
「ふぅ、熱いですね」
「そうですね」
白々しい会話。
しかし気が付いたら、私の両手がその白い脚に伸びていた。水の助けなど無くとも滑るような手触りが伝わって来る。
「ぅ……っ……」
私の手が肌を撫で摩る度に、彼女の口から甘い吐息が漏れていた。その声を聞きながら、けれど私は手を止める事はしない。
姉さまの頭の上で巻かれていた髪が乱れ落ちる。
長く美しいエメラルド色の髪が首裏を流れ、魅惑的な陰影を作る鎖骨を隠す。そのまま吐き出される吐息で弾んだ胸に垂れ、まるで隠すように前を覆った。
「ふぅ……ぁ……」
「これは、お疲れの姉さまを、解しているのです」
「っ……そ、そうよね、流石、私の弟子……っぁ……だわ」
段々私の手付きに力が籠り、言葉に出した通りにその柔らかで肉感的な脚を揉み解していく。触れるのは、まずは太腿までだ。そして私は自然と口を動かし――
「あッ!」
彼女の脹脛の下に手を添え少し持ち上げながら、舌を突き出して舐めとっていた。
「ザラザラ、してる、わ……ひぅッ」
今の私は獣人で、その舌はよりケモノに近い。感触は言わずもがなである。
そのまま何も言わずに両手で彼女の右脚を持ち、すねや膝裏付近を舐め取って行く。ケモノに近いのだ、その行為は得意分野とも言えるだろう。
「シ、ズナさん、そんな、ところ……汚いわ……ひッ」
「そんな事、ありませんよ」
ぴちゃ、と湯船意外の水音が浴室に響いた。
彼女の言葉を意識的に無視し、そのまま続ける。口は動かしながらも、視線は彼女の顔の方に向けた。
姉さまはその瞳を、まるで誘うかのように溶けさせている。整った口元が閉じる事を忘れた様に開け放たれ、今にも蜜が溢れそうだ。時折自覚があるのか、真剣な顔に戻ろうとする。
しかし努力も空しく、また蕩けるような表情を浮かべるのだ。
「ねえさま、きれい、ですね」
「な、何を……ッ」
私の視線に気がついたのか、ふいっと顔を背けた。赤らむ顔からは羞恥の色しか見えないが、それでも抵抗しようとはしない。
舌を動かしている間にも、私の手は太腿を撫でながら鼠蹊部付近まで達そうとしていた。
「あッ……ん」
しかしそこまでは到達させず、引き返して再度太腿を撫でつつ揉み解しにかかる。
もう片方の手は彼女の足指を擦り出す。
「んぁ……ひっ……ぃ……あっ!」
「どう、ですか?ねえさま」
緊張が解けたのか、それとも別の理由か。
縮こまっていた足指が開いてゆく。その指と指の間を、爪で引っ掻いたり、指の腹で擦ったりし出すと、姉さまの声が僅かに上擦った。
「シズナ、さんっ、だめよ……あぁっ」
「なにが、だめなん、ですか」
答える間も舌の動き、太腿を撫でる手付き、足指を弄る責めを止めない。これは、所謂マッサージだし。
むしろここで止めてと言われて止める人はいるのか……いや居ないッ!
「やめ、なさいッ……これ以上は、ダメよぉ……」
そんな声を出しながら、彼女は抵抗するでも無く。むしろ揉み易そうに脚を出してくる。
いやこの理屈がおかしいのは分かっているが、止められないのだ。
本能に流されるまま太腿から鼠蹊部までを撫でる。裏側も臀部までは行かないが、腿裏を含めた広範囲を対象にした。
舌の動きも止めることなく、小さく可愛らしい膝を口に含める。
ぴちゃ、ぬちゃ……。
そんな音が私と、それと彼女の耳にも届いているのだろう。長く尖り、そして垂れ下がった彼女の耳が赤く染まっていた。
「やっ、やぁ……ぁ!」
声を上げる彼女の手はと言うと、私が凝視しているのに気付いたその時から、蕩けた顔を隠すように覆っている。
けれどもやはりと言うべきか、指の間からは瞳が見え隠れし、こちらを伺っているのが分かる。
「ねえさま、だいぶ、つかれも、とれたでしょう」
「ひぃ……もう、もうだめよぉ……ぁぁッ!」
足には当然、極端な部位は無い。だがそれでも徐々に徐々に高めていくことは出来る。それは、商人の下で学んだ。まさか実践で試すとは思いもしなかったが。
自身で触る分には問題無いのだ。"他の誰かに"触られるのが、肝心なのである……と教わった。
「あッ……あぁ……」
彼女の口から、意味のある言葉が出なくなってきた。
それでも私は止めない。止める訳もない。
最後……何の最後?よくわからないが仕上げに足指を口に含み、歯で柔らかく甘噛みを始める。
そしてそのまま――
「――酷い目に合いました」
「申し訳ございません、姉さま」
結局かなりの時間入ったまま、上せそうになる寸前で浴室を出た。
予定通り"綺麗"にはなったはずだが、身体は火照ったままだと思う。いや何も無かったけれどね。マッサージだし。
後私の性質がネコだけじゃないって理解出来たのが収穫だ。嬉しいとかは無いけれど、感慨深いものがある。
今は1階の食堂で少し遅めの朝食を取り終え、再度部屋に戻ってきていた。そのまま2人で会話を続ける。
私は急ぎの仕事もないし、姉さまに至っては魔道具屋に置手紙を残してきたらしい。
旅立つ、と。
これもお爺さんの手紙にあった通り、リーン姉さまは別れが苦手な様だ。確かに私が街を出る際にも、最後に顔を見せなかった記憶がある。
「昨日の返事をお聞かせ下さい」
「そうね……一緒に行ければ、いいわね」
「でしたら――」
「いえ、一度里に戻るわ」
一緒に来て欲しいと願った昨日の問い。それに対して里に戻ると彼女は答えた。これは、フラれたのか?あれだけの事をしといて?
……いや、したからこそ……?
私が物凄く気落ちして、耳と尻尾を垂らしていると、
「い、いえ、ちょっと戻るだけよ。王都、ですっけ?行くわ、行くから、そんなに落ち込まないの」
そんな私の態度を見かねたのか、姉さまが焦ってフォローをしてきた。ちょっと面白い。
「あ、はい。嬉しいです」
「……貴女、ほんと変わったわね……」
「姉さまの口調程では。まだ違和感が凄いです」
「これは、まぁ……」
強く、それでいて舐められないようとの口調。
ずっと1人で過ごし、人と関わるのは弟子を取る時だけだったと。お爺さんは彼女を心配していたのだろう、彼女を支えてやってくれとの執念を感じる。
「里に戻るとは、言葉のままの意味ですか?」
「ええ、長く出たままだったの。家族はもう誰も居ないけれど、家の整理くらいはしてくるわ」
「それは……」
「あ、あれです。貴方と一緒に住んであげてもいいって事、ね」
ちょっと顔を赤らめて蒸気させながら彼女は言い放った。
私も、姉さまも、ちょろすぎないか。
嬉しいから良いけれど。
「それは有難いです。どれくらいになりますか?」
「そうね。2、3年かしら。すぐね」
「……そ、そうですか」
出たよ長寿種の時間の概念の差。
「ええと、ではこの住所に家を借りてますので。何年かは住んでいると思いますし、ギルドに姉さま宛の通信も残しますから」
「お願いするわ。さっそく、明日にでも街を出ます」
「明日ですか……早いですね。リンディさんにはもう?」
「伝える事は伝えておりますので、問題ありません」
住所を書いたメモを渡しながら、ここをもう出るという姉さまに言葉に驚く。変な所だけ気早いなと思ったが、やはり別れの時間が辛いからかなと思い直した。
私も同じ様な物だし。
「もう準備は終わってますから、後は出るだけです」
「流石姉さまです。と、言う事は」
「じ、時間が少しある。そう言う、わ、訳ですね。この後少しなら、時間があります――」
ちょろい、ちょろすぎるよ――
結局翌朝まで"一緒に部屋で過ごし"、何故か疲れ果てた姉さまの出発が1日伸びたのは、別に特出する事ではない事件だろう。
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