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異世界生活の日常  作者: テンコ
第4章 彼女の仕事
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4-09

「おめでとうございます、リンディさん」

「ありがとう、姉さん」


 リンディちゃんが結婚していた。


 いや手紙等の遣り取りで恋人はいるのを知っていたし、そろそろ一緒になると書いてもいたので覚悟は出来ていた。しかし目の前で見ると衝撃が大きい。

 妹として見ていた子が結婚……祝福する気持ちはある。でもちょっと寂しい気も。





 街に戻って来てすぐ冒険者のギルドへ向かう。

 仕事だからなるべく早く向かうのが最善だろうし、着いたのがお昼前で時間はあったから。


「どの様なご用件でしょうか?」

「とりあえずこの手紙を、ここのギルド長へ」


 御昼前で比較的受付が空いてる時間帯、中年男性へそれを渡す。

 見目麗しい職員さんなんてほんの一部だ。いや男性が悪いと言う訳ではない。要は需要と供給だろう、人が多い時間帯へ必要な人物を投入する。

 今は中年の男性2人しか受け付けに居ないが、それで仕事は十分なのであろう。


 あ、奥の書類机であろう場所にウサ耳のお姉さん。

 手を振られたのでもちろん振り返す。きっと覚えていてくれたのだ、ちょっと嬉しい。


「お待たせいたしました。こちらです」


 10分くらいして戻ってきた彼。手早く言葉を交わし後へ続く。手紙に何が書いてあったのかは不明だが、知らなくても問題無い。どうせ使い走りだ。


「こちらでお待ち下さい、今お茶をお持ち致します」

「ありがとうございます」


 連れてこられたギルド奥の個室。どう考えてもギルド長の部屋。そして男性の入れるお茶は渋くて美味しかった。

 ちょっと味覚が成長してるのやもしれぬ。

 男性職員さんが出ていき1人になったので、少し寛いでいるとノック音がした。軽く返事を返すと、ギルド長!と分かる初老の女性と、秘書だろう若いお姉さんが入って来る。


「遠い所から良く来た。この街のギルド代表、リルトと言う」

「初めまして。挨拶が遅れて申し訳ございません、王都で配送を頼まれました、シズナと申します」


 もちろん立ち上がって出迎え、代表が進めるまで立っておく。


「楽にしてくれ。すまんな、ちと昇格試験を覗いておった。遅れた事は許せ」

「そんな、滅相もございません」


 そんな定型文的な遣り取りを幾つか交わし、本題に入る。

 必要な事とは言え、すぐ本題に入る獣人系列の仕事の方が楽と思うのは、私も獣人になったからだろうか。


「さっそく性能が上がった通信機を見せて貰おう」

「畏まりました。こちらです」


 秘書さんに袋から取り出した物を5つ程手渡す。彼女はそれを持って代表の所へ。この様式美が面倒臭いんだよねぇ……。


「ほぅ、かなり小型になったな。一回り以上小さい……」


 一言二言呟いて、そのまま性能を試される代表。きっと通信先は王都のギルド長だろう、通信機から聞こえる声が似ている。


「リルト様は会談に入られますし、シズナ様はこのままお戻りになられても平気ですよ」

「そうですか?それは良いのでしょうか」

「ええ。あの方は新しい物を使うと、時間が経つのを忘れる人ですので」


 秘書さんにこっそり告げられて、それならと部屋を後にする。

 この辺の大らかさもギルドの仕事が楽な要因だろう、各ギルド長は私達が難しい事が出来ないのを知っているし。


「代表に代わりお伝えさせていただきます、本日は誠にありがとございました」


 そんな秘書さんの言葉を受け取り、ギルドを後にする。申し訳な無さそうな顔で言われると、どうもそれ以上言えない。さて、時間は昼過ぎだが……。


 適当な軽食屋に入り注文をする。

 この街独自の食べ物とか別に無いし、何時も通り肉メインの定食を注文。


 特に問題が起こる訳でも――


「姉ちゃん、ここらじゃ見ない顔だな?」

「ちょっと付き合って貰おうか、まぁコイツはすぐに終わるだろうけどな」

「ばっかおめえよりは持つぜ」


 何がだろう。


「いいですよ、行きましょう。ですが少々お待ち下さい。まだ昼食中ですので」

「……ああ、わかった」

「……そうだな。それくらいなら」


 話しかけてきた男2人組は、ちょっと危険な程目を虚ろにして自分の席に戻って行った。昼食時だから人はかなり居る。こちらを遠目に伺っていた人達もちょっと不思議そうな顔だ。

 何ですぐに引き下がったのか、と。それも数分。

 覗いていた人達はそれ以上進展が無いと分かると、さっさと自身の食事に手を付けだした。


『ありがとう、助かったわ』

『ハッ』


 何時声を掛けてもそれしか言わないな。


 私の影からちょっと出てきた烏丸が、追い払ってくれたのだ。あの2人に薬を嗅がせてくれたらしい……製法は知らないが、少し前後不覚になる程度だと聞いている

 ……その薬は烏丸とアルルの合作。忍者と、草花の妖精。組み合わせとしては最悪だろう。クスリとか作られると怖い。


 それ以上イベントが進行する事も無く、軽食屋を後に。あの男達は何をしたか忘れている頃らしい、対処も楽なものである。


 



 そのまま暫く進んで、場所は魔道具屋前。あのお爺さんのお店である。今はリンディちゃんが店番をしているそうだが、体調が悪いお爺さんに代わりリーン姉さまが店長をしているらしい。


 特に気負いする事無く店内に入る。


 昔は意味や効果が分からなかった道具も、ある程度判別できるようになってきた。

 と、言うのもゲーム中にあった商人のスキル。鑑定が効果を発揮しないのだ。最初は愕然としたが、時間が経って納得する。


 ゲーム時からのアイテムにはスキル効果が効いた。だが、この世界で手に入れた櫛等には効かなかった。


 鑑定はメニュー部分に説明が出るのだが、そこに入っていない情報は出ないと、何回か試してようやっと理解する事になる。

 既存のアイテム効果は確認出来るので無駄、では無いがちょっと落ち込んだのは確かだ。

 この世界の魔道具関係はしっかり知識を付けないといけない、のは分かるのだが……正直大変なので後回しにしている。


 そんな事を考えながら店に入るとリンディちゃんが、いやもうリンディさん、くらいの年齢か。彼女が目を見開いているのが見えた。


「お久しぶりです、リンディさん」

「あ……シズ姉さんですね。本当に、お久しぶりです」


 他に客が居なかったのが幸いだ。

 ちょっと抱き合ってお互いの確認を済ませる。特に深い意味は無い。


「お戻りになられたんですね。この街にお住みに?」

「いえちょっと仕事で。暫くは厄介になりますけれど」

「そうなんですか……あ、旦那を紹介します」

「だ、んな?ああ、コイビトが居たって書いてましたよね」

「ええ、まぁ」


 成長した彼女。

 臙脂色の髪の毛を肩口で切り揃えており、如何にも新妻風な印象を受ける。昔のお団子にしていた頃がちょっと懐かしい。


 スタイルも今の私の背を越して身長は高く、出ている所は出て綺麗系な印象の彼女。

 落ち着いた暗い灰色の服、魔道具屋には合うだろうと思う服が、活発そうな彼女には似合っていない。それが少し残念。


 そんな彼女が旦那を紹介すると言う。いや傍から見たら私が妹に見えるかもしれないが、今は背は低くとも昔は兄的立場だったのだ。


「姉さんに手紙を出したのですけれど……ああ、入れ違いだったのですね」

「ええ、受け取ってはないですね」


 道理で知らない訳だ、なるほど。でも良い意味で裏切られたな。妹分が幸せになってくれているようでこちらも嬉しい。はにかんだ笑顔のリンディさんが眩しく見える。

 気軽にリンディさんとは、もう言えないな。





 旦那を紹介して貰った後は、リーン姉さまの所へ向かう。


 別にリンディさんの旦那だけに興味が無い訳では無い。男性に興味が無いのだ。それだけだ。それの方が酷いとかは無いと思う。


 姉さまは魔道具屋の2階の一室に居るらしい、先程とはちょっと雰囲気が変わって、伏し目がちになったリンディさんを不思議に思いながら、扉をノックする。

 リンディちゃんは案内が終わったと、足早に店番に戻ってしまった。


「開いてるよ」

「……失礼致します」


 声が掛かったのでゆっくりと室内へ。姉さまはこちらに背を向けて机に座っていた。何かを書いているのだろうか。


「久しぶりじゃな、元気しちょうるんけ?」

「お久しぶりです。姉さま。お陰様で問題ございません」


 多分周囲の魔力変化等で私だと分かっていたのだろう、その辺は術師なら分かる。


「ちょっと待っとれ。ほれ、菓子じゃ」

「あ、ありがとうございます」


 飴玉を放られ、促されるまま傍のベッドに腰掛けた。書き物に集中しているように見えたので、私はその横顔を盗み見た。


 とても高齢とは思えない、パッチリとした瞳。エメラルド色の瞳と髪の毛は、神秘的ですらある。良くあるエルフのイメージそのままだ。

 鼻筋はすらっと整っており、薄く、それでいて肉感的な唇は朱色で肌を彩っている。


 昔とは違い、身長が高くなった私とは目線が同じくらいだ。

 それは先ほどリンディさんに抜かれて理解したが、やはり長寿種は成長が遅い。そんな理解していくことを繰り返し、長く生きて行くのだろうか。

 それなら150年ほども生きている彼女は、どれだけの経験をしたのだろう。哀しい経験もあったのだろうか。


「終わった。んで、なんじゃい。急に戻って来てからに」

「ちょっとギルドから依頼を受けまして」

「ほぅ、ギルドかい。どんな仕事けぇ言ってみいや」

「ええと、言える範囲なら――」


 こちらに向き直った姉さまに、ギルドの仕事。そして受けるに至った経緯。そして何故か王都での生活を話してしまった。

 前も感じたが、自白させられた気分になる。不思議だ。


 当然村に売られた話や、奴隷商に買われた話も。


「そうけぇ。ま、そんな事もあらぁ。助かったのは運じゃが、おんしは今生きとるんじゃ、別にええじゃろう」

「そう、ですね。皆さんに助けられました」

「……ほんに運が良かったのぅ」


 初めて、姉さまに抱き締められた。

 どうしたのだろう、リーン姉さまが昔と違う気がする。


「どうなさったのですか?姉さま」


 結構強く抱きしめられていたし、若干震えている彼女の背を撫でながら問う。

 ああ、身長が同じくらいだとイケない気分になりそうだったが、それも姉さまの言葉を聞くまでだった。


「あやつが、死んだ」

「あやつ?誰で――」


 あ、そう言えば魔道具屋のお爺さんが、居ない。ここは、お爺さんの部屋だったはずだ。


「気付いたか……おんしが戻ってくる、暫く前じゃ」

「え、そんな。え?」


 確かに、体調が悪いって言ってた気がするが……。


「おんしも見たじゃろう、魔力の乱れがあると。それは、寿命のせいでもあった」

「……そ、んな。私は、今日はお礼を言いに」


 お爺さんの紹介のお蔭で、今私は王都で無事過ごせてます、と言いに来たのだ。

 リンディちゃんも、お爺さんの事を手紙に書いてたし、そんな……。


「遺言なんじゃ、おんしが来るまでバラすな、とな」

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