表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界生活の日常  作者: テンコ
第4章 彼女の仕事
64/99

4-08

「っぅ……」

『主、気にせず休むといい』

『そうですよ。我らで見張りは行いますので』

「ごめんなさい。お願いします」


 クロとシロの気遣いに感謝だ。


 健全な精神は健全な肉体に宿る。広く言われている言葉である。

 学が無い私はその言葉の意味を深く考えた事がないし、そもそも誰の言葉かも気にしていなかった。


 だが事ここにきて色々考えさせられる。

 合っているかは知らないが、精神が肉体に引っ張られる事も有り、そして肉体が精神で変わってくる事も有り、だ。


 ここ最近、重い。

 何かは言わないがここ最近不安定になって来ていて、今回は特に重い。

 初めての時はミリカさんが付き添ってくれてたし、その時以降もあんまり気にもしていなかったのだが。


「ううぅ……」

『お嬢、こちらへ』


 アルルの膝を借りて、昨晩から野営している地点で寝込む。


 理由はいくつか思い立っていたが、先日アリエルさんに相談して段々とはっきりした。

 女性的になってないか、と。

 いや別に乙女チックになったとかでは無く、そもそもまだ男だった時の気持ちは残っている。

 買い物は手早く済ませたい方だし、甘味も別段、好きだがのめり込んではいない。


 ……ちょっと女性のイメージが極端だが、私はそこまで変わってないと思っていたのだ……自覚するまでは。


 何かこう、アリエルさんと一緒に居ると……ネコになっている気がする。


『シズナさんはされる方が好きなのですか?』


 指摘されて気がついた程、無意識だった。


 これにはかなり凹んだ。

 どっちかと言うと自分はお兄さんタイプだと思ってたし、これまでそんな感じだっ……いやそんな感じだったか?そんな感じだったはず。

 私タチは、じゃなかった私とアリエルさんの関係はもっとこう何と言うか、決まった関係では無かったはずなのだが……そこで思い浮かんだのが奴隷商の下での生活。

 あれはかなり、色々性別を自覚させられた気がする。あの店自体には女性しか居なかったが、だからこそ今の自分の身体と同じ所や、精神的に違う所を見つけ易かった。


 自覚してからは酷い物。


 今まで軽かったはずなのに、一気に1日中動けない程になる。これにはまず身体が驚いて、次いで心が参った。

 男だった時にはもちろん経験が無かったし、ぶっちゃけキツ過ぎる。

 女性賛歌をするつもりは無いが、これを耐えていた人はすごいな。





「……あ、朝ですか」

『起きられましたね、お嬢』

「……どれくらい経ちましたか?」

『寝られたのが昨日のお昼です』


 疲れたのだろう。そして半日以上寝ていたのか……。


「ありがとうございます。アルル、疲れたでしょう」

『いいえ、別に大丈夫ですよ。色々頂きましたし』

「そ、そうですか……あ、気持ち良い」


 ひんやりと冷たい彼女の手が額に当てられる。

 植物の妖精の性質なのか彼女は体温が低く、未だ火照っている私の額や頬をそのひんやりとした手で撫でてくれるのが嬉しい。


『もう大丈夫そうですね。今日は進みます?』

「……ええ。大分良くなりましたし、問題ありません」


 さっそく立ち上がろうとしたら、動かない。アルルの手が額を押さえたままなのだ。


「ん?」

『ん?』


 あれ?


『お嬢は何を?』

「そろそろ準備しようかと思って」

『え?』

「え?」

『ご褒美的な……物は?』

「……」

『ほら私、一晩中動けなかった訳ですし。そこはお嬢に色々貰わないと釣り合いが取れないじゃないですか』


 ……結局、断れなかった。





 出発したのはその日のお昼頃。


 王都から目指す街まで長距離移動だが、馬も何も使ってはいない。馬の操り方を知らないし、そもそも獣化して狐状態で走った方が早かった。


 お供はシロクロとホープ、あと背中にタマを乗せている。他だと速さ的に付いて来れないから。

 ソラに至っては長距離移動だと疲れるらしい。


 後は、空間系のスキルは危ないので試していない。

 ゲーム時は便利に使っていたランダムテレポート、これはMAPの境界が無い今は何処に飛ぶか知れた物ではない。

 それにポータル。これは位置情報を記録してそこに飛ぶ魔法スキルだが、人と重なったりして、疑似いしのなかにいる状態は怖すぎる。

 テレポートも同じ様な物だが。


 試してみたくはあるけど、死ぬ可能性がある技を使う訳もなく。都合良く解決策も思い浮かばないので放置している。

 まぁ寿命は結構あるらしいので、月単位の移動ぐらい楽しもう。


「王女様、右前方に猪の家族がいますニャよ。避けた方が吉」

『そ。ありがとうございます。ちょっと避けましょう』


 相変わらずあざと可愛い。


 獣化していると喋れないので基本念話だ。そして必要な時以外の殺生はしたくない。

 これは道徳的なモノではなく、単にキツネの本能の様な感じだ。生きる為に、害がない限り、邪魔をしないこちらから限り手は出さない。

 仕事とかだと別だが、普通の生活だと"殺したくなくなる"のだ。


 当然人間は別。襲って来たり、嵌められたりする前に潰す。一度、死ぬほど怖かったしね。


「今度は直線上の何処かに、何かいっぱい居ますニャ。警戒を厳にされた方が良いニャ」

『分かりました。シロ、クロお願いします』

『任されました』

『うむ』


 併走している2匹を少し散開させ、逆三角形の様な形で進む。皆で考えた警戒用の立ち位置だ。私が死ぬと皆も生きているか分からないと、私が説得されたのもある。


 結局前方に居たのは野犬の群れだった。こちらが近づくと向こうから散ってくれた為、特に問題なく進む。


 タマは飛んでいる小鳥や、すれ違った小動物から話を聞いて付近の状況を教えてくれる。

 感知ほど正確ではないが、時たま比べものにならないくらい、広範囲の状況を教えてくれるのだ。





 王都から約1ヶ月程かけて、予定の1/3は消化。

 かなり早いペースである。これは自身のステータスを甘く見ていた為だ。あまり全力で動く事なんて無かったし。


『もうそんな位置ですか』

『ええ、シロとクロに乗せて貰いましたから』

『ああなるほど。便利ですね、テイム技能と言うのは』


 一応定期的にイヴァラさんへ連絡を入れている。

 何かあったら再度人員を送らないといけないのがギルドで、個々人の賠償的なモノを考えるのもギルドだ。

 各地に送り出している情報課や嘱託の位置を確認するのも仕事なのである。


 その際には、私が獣化スキルを持っている事は伝えていない。本来この世界に居るであろう妖狐族が使えないかもしれないのに、おいそれと人前でゲーム時の種族固有スキルは使えないのだ。

 村八分とかされると嫌だし、流石に自身の身体を変化させる技能はバレると誤魔化せない。これは新しい術です、との言い訳も通じないだろう。


『そちらは何か、変わった事はありましたか?』

『変わったことねぇ……あ。こっちの大陸から送ったギルド員が着いたらしいわ』

『着いた……ああ、別の大陸での魔物大量発生の件ですか』

『そそ。計画自体は5年前からあるんだけれど、ちょっと遠いからね。やっと着いたって連絡が入ったわ』

『よく通信が届きましたね……』

『ぎりぎりだったみたい。流石に海を越えられると厳しいらしいわね』


 結構昔に人員を送るという話を聞いていた気がするのだが、ようやっと着いたのか。まぁ私のランクじゃまだまだ関係ないし、覚えておくだけで良いか。


『他には特に問題無いわよ。アリエルさんにも変わった所は見受けられないし、スルドナが付いてるんだもの』

『確かに、あの人が居れば安全だとは思いますけれど』


 そんな感じで通信は終わる。近状報告と世間話みたいなモノだ。


 ちなみにアリエルさんには、ディアを護衛として残している。

 彼女も快く承諾してくれたが、最近アリエルさんとディアが話している事が多いのが不思議だ。

 会話できるのか?と思う。


 ディアは稼働鎧の姐さん的位置にいるのか、4体に指示を下す様は司令官みたいでちょっとカッコ良かった。





 そんな、ともすれば安全と言えるだろう長距離移動を計4か月続け、ウルティスの街に辿り着いた。


 門兵は新人さんも居たが、昔街外に出る際に挨拶を交わしていた門兵さんは残っていた。ほぼ8年ぶりの再開に感動しつつ挨拶を交わし、しっかり本人照合をして街に入る。


 久しぶりの、育った街。

 ……ある訳も無いのだが、迎えが無かったのがとても寂しく感じた。

ご意見、ご感想をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ