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異世界生活の日常  作者: テンコ
第4章 彼女の仕事
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4-07

「シズナさん。行ってらっしゃいませ」

「行ってまいります。先日の通り、護衛には彼らを残しますので」

「わたくしは大丈夫です。スルドナさんも手配して下さいますの。それよりもシズナさんの方が……」

「大丈夫です。必ず、貴女の下に戻ってきますから」

「約束ですわ」


 私と彼女の影が一つになる。


 今生の別れのような見送りを受けてしまった。いや単なる依頼で、暫く外へ出るだけなんですけど。





 私はこれまでに、結構色々な場所を巡って来た。


 12歳で王都に来てから暫くは動かなかったが、今現在の仕事。ギルドの半職員、嘱託は依頼で指定された箇所を巡るので遠出をする事が多い。


 各ギルドは利益の為に繋がっており、情報を伝える為の通信という概念も理解されている。

 そして各ギルドの技術を集めて作られた通信機、兼中継器。それを置く範囲を増やしていく。それが冒険者ギルド情報課の、数ある仕事の1つだ。


 私が配属されている部署は、伝手が出来た場所にその通信機を持っていく事が主な内容である。

 人員によっては正に冒険者の名の通り、道なき道を進む先達も居るらしい。彼らは中々自らの拠点やギルドに戻ってこず、私もあった事が無い。


 結構な長寿種が暇潰しに所属する事が多いと聞く。まだ見ぬ刺激を求めて、エルフとかその辺りの種がメインに活動しているらしい。


 未知なる場所が眠っているのが、この世界。

 まだ世界は丸いのか平なのかすら判明していないのが、この世界。

 オークも未だ見つかっていないのが、この世界。

 ……最後のは別か。居ると決まってないし。


 兎も角纏めると、この仕事は色んな場所に行けて楽しいと言う事だ。過去の例を挙げると――





 例えば、水の中での生活が主な種族の街。


 一応陸にも上がるが、水中が生活の拠点の彼らはよく通信機を失くす。


 その度に彼らは通信機をお金を払って買い戻しているから、ギルド側としては利益が出る。なので大っぴらな文句は言わないが、それでも配達する部署としては面倒くさい事この上ない。

 その日は私が担当だったので彼らの集落に赴いた。種族名は魚人族……そのまんま過ぎだろう、わかり易くて良いが。


 彼らが度々失くす理由は、話を聞いて判明する。


 水の中では同じ種族同士なら会話が可能だ。しかし、通信機だと水中で喋ってもギルド側に意味が通じない。

 何せ水を震わせてそれを伝えるのが会話という彼ら。近年では交流の為に一部は共通語を喋る事が出来るが、それでも水の中では共通語が使えない。


 それが理由で通信する時だけ陸に上がるらしいのだが、その際に通信機を置き忘れてしまうらしい。それが失くしてしまう主な理由。


『それ、通信機を紐か何かで身体に巻けばいいのでは。どうせ口から少し離して発言しても、通信相手には繋がるのですから』

『オウ、それダネ。その案イタダキ』


 大らかな種族なのか、すごい大雑把なのか、私の軽い案を広めてくれたりした。いや別に案と言うほどでもない。

 何故こんな案が出ていなかったのは不思議だが、お礼に水中を案内してくれたので良しとする。


 魔術で空気の球を作り、その中で水中を移動するという何とも原始的な方法。浅い知識故この空気の膜は水圧に負けるか!?とか馬鹿な事を考えていたが、特に何事も無く。

 魔術で空気を移動させながらの水中遊泳は得も言われぬ楽しさだった。


『うわぁ……』


 比較的浅い位置にあった水底には、文字通り水の都が広がっていた。その風景は月並みながらも最高だったのを覚えている。

 残念ながら食事は出来なかったが、彼らの生活を見る事が出来た。そして良い思い出になった事は確かだ。





 例えば、空を駆ける種の拠点。


 幾つかある拠点の1つにお邪魔した時、何となく彼らのイメージは高圧的なプライドの高い種族だと思っていた。しかし会ってみるとそんな考えは吹き飛ぶ事に。


 彼らはやたらと腰が低いのだ。いや別に頭を常に下げているとか、やたらと会話に卑下が入ったりするとかでは無い。

 何と言うかこう、お上品な会話をして、種全員がマナーを大切にしていると言うか……だめだ良い喩が無い。


 残念ながら正確な種の名前は、共通語に訳すと発音出来ないらしいので、まとめて翼人と呼称している。そう彼ら彼女らは、単独飛行が出来る種なのだ。

 それも千差万別。

 天使の様な羽を持つ者もいれば、所謂ひとつのハーピー、ハルピュイアの方が分かり易いのか?手足が鳥のソレなヒトガタ。他には鳥そのものがヒトガタになっているかの様な種まで。


 それらを総称して翼人と言うらしい。条件はただ一つ、自力で飛べる事。


 まぁその通りだと納得しつつ、この拠点に来た理由。それは各ギルドの講義をするからその助手として、である。


 音声は通信機で拡散できる為、紙芝居風の資料を捲ったりする簡単なお仕事。翼人も数が徐々に増えており、いずれ若者があぶれて拠点の外に出る。

 その為の準備としての依頼だ。ほんと情報課の仕事は多い。


『シズナさんは、何歳からこのお仕事をされているのですか?』

『私は……10歳くらいですね。子供の頃から成りたいなと』

『なるほど。その様な若い頃から。我らもノンビリとはしていられませんね』


 代表までこの様に丁寧な口調なのだ。私としては話しやすくていいが。


 そんな彼らの拠点の1つで約2ヶ月。


 若者50人くらいと働き盛りの成人10人程が集まり、比較的大きな家で講義を行った。この拠点にいる翼人の約1/3。それほど多くが希望していたのだ。

 何とか無事に各ギルドの基礎を教える事が出来た時は、かなり達成感もあったと思う。


 ちなみに食事はかなり苦労した。


 何せ偶に料理長が虫料理を作るから。私はもちろん遠慮させて貰った。あれは無理だどうしようもない。





 例えば、新しく出来たドワーフの村。


 元々住んでいた街からあぶれた若者が、新たに開拓を進める村。


 他の種族と同じく土地が余っていないので、若者が集まって一から村を開拓している場所。そこへ訪れた際はとても安心した。

 何せ、如何にもなファンタジー定番の種族だったから。


 背丈は意外にも皆ばらばらで高い人が居れば低い人も居る。しかし肌は皆浅黒く、1ヶ月暮らしたが知り合った者は全員酒豪だった。

 酔いつぶれて記憶を失った日もある。無理無理朝まで付き合えなかった。


 男性は皆筋肉質で、女性も同じくらい。


『弱い女だぁ?んなもん需要も無いわ!』

『そうなんですか……』

『女はこう、何でもデカイ方が良いな』

『ああ、ちっこいのはダメだ』

『そこだけは、俺らの種族の最高な点だな』

『……』


 ロリドワーフなんて居なかったんだ……。


 そして最大の違いは、鍛冶師がその村に1人も居なかった点。これにはちょっと驚いた。


 聞いてみるとなるほど納得する。得意不得意は俺らにもある、と。まぁ鍛冶の腕があれば街をそもそも出ていない。そして彼らは鍛冶のみに生きている訳でも無かった。

 その筋肉、腕力や握力を生かして、何と弓が得意な種族だった。器用なのもある。

 あぶれた若者ほぼ全てが、森中で狩りが出来るほどの弓の腕。森の獲物を使った料理。ご馳走になった酒に合うその肉料理は絶品で、また来たいと思った程。





 他には定番の犬耳猫耳だったり半蜘蛛の種族だったり、中には身長が小さいままの種族なんてのも居たり、髪の毛が無い種族も居た。不思議だ。


 そんな感じで、色々見たり経験したりが出来るのが今の仕事。


 そして今回は……何と私の暮らした街、孤児院のあるウルティスの街へ配送が必要になったのだ。前回は商隊護衛だったので商売をしつつ約半年。

 今回は私1人で直進するのだが、それでも着くまで4、5ヵ月掛かると思うのだ。


 通信機の機能が向上したので、大きな街の通信機は交換しておきたいらしい。今回は元々ウルティスから来た私が適任と言う訳だ。イヴァラさんから直接話を伺って了承した。





「約束……ですわ」

「ええ」


 アリエルさんとの別れはまだ続いていた。


 その後は何時も通りに準備をする。拡張袋もあるし、アイテムボックスもあるので準備は楽だ。極論私の身一つですぐに出発出来る。


「んっ……」

「……ふぅ、シズナ、さん……」


 そう言えば何時からだろう、こんな行為に忌避感が無くなったのは。恥ずかしいとは思うが、それだけだ。

 どんな行為なのかは想像にお任せしたく。





 結局、家を出たのは次の日の朝になる。

 アリエルさんが疲れてまだ寝ている内にね。

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