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異世界生活の日常  作者: テンコ
第4章 彼女の仕事
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4-05

 野盗遭遇以降はこれと言って大きな事件など無く、無事王都に戻って来た。


 ギルドへの報告は手早く済ませて仕事を終える。ギルドを出ると夕方近くになっていたので、買い物もせず急いで家に。

 買った家はギルドから結構遠いのだ。前の世界でもそうだったのだが、余りに近いと仕事の事ばかり考えてしまうようになる。


 社畜やエリートならそれでも良いのだろうが、才能も無く、平で平凡な制作班だと行き詰ったら案が出ない事が多い。

 要はバランスなのだが、私は仕事場と家が近いとダメ派だった。

 乗り換え無し電車1本+ドアtoドア30分くらいが理想だよね!だよね……。


 王都に戻った安堵から少し気分が高揚している気がする。


 家の前に着くと稼働鎧のサンさんが門横に立っていた。イーさんとアルさんは家内の警護。スゥさんとサンさんは屋外の担当だ。


 買った家の場所は治安もそこそこ良く、ギルドからそこそこの距離の地区。商店などは比較的近いから立地的には良い方ではある。

 庭が結構広く、イメージ的には学校にあるの体育館の倍程。結構広い所を紹介して貰えた。

 家自体は狭い。2階建てで縦長の5LDK。部屋数は多いけれど、1室があまり広くない。寝るだけだし。


 お風呂は無かったので、庭の何処かに作る必要があった。それは家を借りた時に許可を取って、すでに拵えてある。

 Dex(器用さ)の値が高いのを感謝した2回目だ。1回目は造形中。


 そして一番嬉しい設備は、水道と下水がある事。これは私が王都に来る前から普及が始まっていたらしい。

 施工等も全て魔術で行うので思ったほど時間が掛からず、計15年程で王都の半分近くは終わったそうだ。お風呂を使うのもトイレなどを使うのも、生活用水だって水道から引き上げられる。ポンプを使う事も無い。


 諸々含めて家賃は若干高めだが、そこは今の仕事の給料の良さで補っている。




 サンさんに、返事をしないのは分かっているが労いの声を掛けて門を潜る。

 庭では遠目にスウさんが警戒をしているのが見えた。そこへディアも呼んで彼女にも警戒をお願いする。

 ギルド員として、そして家長としても不安な要素は潰しておきたい。そして庭が広い理由は彼らが動きやすいように、だったりする。


「ただいま戻りましたー」

「はーい」


 内開きの玄関を開けて声を掛ける。内開きなのは賊の襲撃を、内側に重石を置いて少しでも耐える為だ。ここはそんな世界なのである。すぐ横にはイーを佇ませておかなければいけない程。安全は与えられる物では無く揃える物なのだ。

 

 奥の方からパタパタと、木造の家に響く足音。家履きを履いたアリエルさんが早足で近寄って来た。


「お帰りなさいませ、シズナさん」

「無事戻りました。お久しぶりですアリエルさん」


 抱き付こうとする彼女を、かなり汗臭いからとやんわり押し退ける。そこはかとなく不満そうではあるが、私もこんな事で彼女を汚したくない。


「お風呂を湧かせておりますわ。入られますよね?」

「え、準備良いですね。もちろん入ります」

「イヴァラさんから連絡がありましたの。3、4日で戻って来るだろうからと」

「なるほど……あの人も、気配りで忙しそうですね」


 イヴァラさんは受付であり、情報課であり、嘱託との連絡役であった。私達みたいな立場の人間への気配りは、やっておいて損はないのだろう。

 仕事のパフォーマンスに関わるし、私以外にも何人かいる嘱託さんへも連絡を欠かさない様だ。


「では着替えも用意していますので、こちらへ」

「ありがとうございます」


 かなり汚れていたローブを嫌がりもせず手に取ってくれる彼女。汚したくなかったけれど、結局は手慣れた彼女の早業に根負けしてしまった。

 そのまま促されるように浴室へ向かう。頑張って設置した、母屋と扉1つになるように設置した浴室だ。

 正直材料を揃えるところから完成まで、高ステータスと製造スキルをフルに使って1ヶ月近く掛けた自信作。

 浴槽は板金加工を金物屋に頼んで、それ以外の水回りは特に頑張った。


「……アリエルさん?」

「ええ、ご一緒しようと思いまして」


 申し訳程度に備えてある脱衣所に、彼女も入って来る。いつの間にか手に持っている筈の、先程預けたローブが消えているし。

 何時の間に……。


「そ、そうですか。いえ別に緊張はしていませんにょ?」


 久しぶり過ぎて噛んじゃった気がする。


「ふふ。久しぶりなんですもの。これくらいドンと構えて下さいませ」

「ハハ」


 ぎこちなく服を脱ぎながら、若干急ぎめで浴室に入った。


 アリエルさんとは当初、もっと私が強く成長してからだと思っていた。しかしなし崩し的に現状の様な感じになっている。いや拒めなかっただけなのだが。

 何か外堀埋められてたし。

 彼女のお母様、カーリレル様とスルドナさんが笑顔で送り出してたし、ギルドでの私が何故か妻帯者扱いになってたりもした。結婚の手続きとかしてないのに、である。


 浴室には風呂用の椅子なんて高尚な物ある訳もなく、膝を揃えて踵を浮かし、爪先で支える正座に近い姿勢でお湯を浴びる。

 沸かしたお湯を浴室上部に溜めて、栓の開閉で疑似シャワーっぽい感じにしてあるから便利に使えるのだ。


 気を散らしてこれから起こるであろう事に構えていると、案の定彼女が浴室に入って来た。この2年で成長したアリエルさん。

 

 まず私の目の前に入って来たのは、布地で隠された腰。

 見上げると、普段は背中に流している薄桃色の髪を後ろで縛り、肩から前に流している彼女。

 ほんのりと桃色に染まった身体に薄い布を纏い、ゆっくりと近づいてくる。もう少女とは言えない、妖艶な表情を浮かべながら。


 うっとりと垂れ下がった瞳。その瞳は時折朱に染まるかのように煌めき、整った顔立ちを彩る。

 そして雪の様に白く、穢れを知らない様な肌。百合の花を彷彿とさせる、手折られてしまいそうな細い腕を胸前で交差させて布地を下げていた。


「本当に、久しぶりですね。シズナさん」


 甘く耳に良い声が、そのぽってりと肉感的な唇から紡がれた。何か落ち着く。


「……ええ」

「まぁお体が冷えますわ。すぐ背中を流して湯に浸かりましょう」


 少し緊張からか動けない私の後ろへ、そっと彼女は腰を下ろした。


「んっ」

「す、すみません」


 どうも尻尾で彼女の内股を撫でてしまったらしい。耳に悪い声が聞こえ、いっそう私の身体が縮こまる。


「ふふ。少々お待ちくださいね」


 くすくすと笑いながら私の背を流してくれる。その折に私の耳元で彼女の唇が声を響かせてくる。


「綺麗な背ですね」


 耳に吐息が掛かる。

 小さく、背が震えた――。





 彼女の身長は意外に高く、現在160位の私より10センチ以上は高いだろう。その彼女に抱き付くように、今は浴槽に浸かっている。


 ドラム缶、とまでは言わないが狭い浴槽。

 もっと広く作ろうと思っていたのだが、アリエルさんとメルカちゃんにに反対されたからだ。

 メルカちゃんなどはマクイルさん一家が実家に戻るまで、この家のお風呂に入りに来ていた。孤児院等で何時も私が小さい子の背中を流した物だが、現在の私は逆の立場にあった。


「シズナさんが戻って来るまでは湯は浴びるだけでしたの。浸かったのは、前一緒に入って以来ですわ」

「へぇ。もっと自由に使っても宜しいんですよ。その為に火でも沸かせる構造にしたんですから」

「それでは情緒がありませんもの」


 浴槽で正座をした彼女を跨ぐように、私は腰を落としていた。念の為尻尾を2人の間に回しているが、色々当たっているのが分かる。


 むっちりとした太腿、程よく柔らかい二の腕。アリエルさんは太くて見苦しくないかと最初は気にしていたが、私はこれくらいが好きだと言うと、今はその状態を維持してくれている。

 実際細すぎるより好みなのだ。


「暫くは家におられますの?」

「そう聞いているんですけど、さっきギルドに寄ったら……」

「何か?」

「ええまぁ。新しく仕事が入りそうな話を聞きました」


 イヴァラさんに虎族への配達の詳細を報告した後、少し話をした。

 報告自体は手早くは終わったのだが、もしかすると仕事が入りそうだと。それも最低1年くらい家に帰れなさそうな。


「1年ですか。それは長いですのね。私はご一緒出来ないのですか?」

「場所によりますね。決まったら確認してみひっ!」


 その白く柔らかな腕を、私の脇下を通して背中に回していた彼女。その指が、すぅっと優しく背筋を撫でてきた。

 これが自分の声かと思う音色が、小さな浴室に反響した。


「けれど暫く一緒に居らるのでしょう?。その間に補充しておかないとダメですわね」

「ほ、じゅう?」


 一瞬で息が上がってしまったが、何とか聞き返す。


「ええ。色々と補充を」

「はい?それって――」


 結局その日、私が夕食を頂くことが出来たのは、夜も更けてからになってしまった。

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