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異世界生活の日常  作者: テンコ
第4章 彼女の仕事
58/99

4-02

4-01を本日am10:00に投稿しております。

ご覧になっていない方はご注意ください。

 烏丸の扱いが悪いと一時は思っていた。私自身反省しなければと思った事もあったが、今ではそのままだ。何せ――


 ――『はぁはぁ』


 こう、放置すると彼から"喜"の感情が偶に流れ込んでくるからだ。

 本当に怖かった。





 関係ない話しは置いておいて、虎族の集落に泊まった翌日。


 朝食の後でさっそく長との話に入る。基本的に獣人との話は楽だ。彼ら彼女らは必要が無い迂遠な(面倒臭い)話はしない。単刀直入に本題へ入り、遠回りすることなく結論に至る。

 会話を楽しみたい場合は別にして、楽だ。


「シズナ殿、さっそく聞かせてくれるか」

「畏まりました。とりあえずはギルドの伝言からです」


 イヴァラさんから預かった用紙を見ながら長に伝える。

 念の為にギルド情報課から教えを受けた暗号で書かれているので、盗まれても解読まで猶予は少しある手紙だ。


『今回の話を受けて頂き、誠にありがとうございます。御集落から弊ギルドに登録された数名の虎族の方を通して――』


 つまりこの集落の存在を虎族の冒険者から知った。通信機とギルドカード確認機を送る。の2点。


 わかり易く言えば携帯の基地局の建設?みたいな事をさせて欲しい。と言う訳。


 ギルドへの通信と、冒険者や傭兵などが訪れた際のカード確認用機械を送るので活用してくれ、と言う訳だ。

  これを村に置くとギルドから謝礼がいくらか、決まった期間毎に払われる。


 ……まるで領土を広げてるみたいだな。


 大まかな話は、先にこの集落出身の冒険者に長宛の手紙を持たせて送っているので、大方の事は知っているはずだ。断られる事も無いと思う。


「ふむ、聞いていた通り……すでに村人とは話し合って結論が出ておりますよ」


 長の話が率直で助かる。


「喜んで受け入れさせて頂く。これはもう使えるのだろうか?」

「少々お待ちください。専用の魔術を掛けますので」


 長に問われたので、イヴァラさんから指定されていた魔術を行使する。


 この世界の魔術通信は、空間に浮かんでいる魔素を介して"音そのもの"を魔術で送る技術だ。送れる距離によったり、魔素が無い地域、若しくは極端に魔素が薄い場所には届かない欠点がある。

  だがこの様に中継器を置けば、その通信範囲が広がるのだ。


 つらつらと考えながらも真剣に魔術を行使すると、すぐに通信は可能になった。長に代わり操作を教えて、さっそく王都のギルド情報課まで繋げる。


『はい、こちら――イヴァラで――』

『虎族の集落――と申――』


 無事長とイヴァラさんの会話が成功。

 私は一歩下がって様子を見守る。ほぼトップ同士の会話だ、邪魔は出来ない。どうせ使い走りだしね。


 本当、何で私はこんな仕事をしているのか――





「シズナさん、私に借りがありますよね」

「……唐突ですね。何でしょう?」


 それはメルカちゃんが6歳になり、獣人の子として旅が出来る年齢になった時の出来事だ。

 マクイル一家はお嬢様が6歳になったのを機に実家へ帰って行く事になる。

 盛大なお別れ会があり、その感傷気分が抜けぬまま、私はイヴァラさんにギルドへ呼び出されていた。


「実は、定期的な仕事を頼みたいんです」


 職員としての真面目な表情を造り、彼女が開口一番にそう発した。


「定期的ですか。内容によります。私に不利益の出る依頼とかは論外ですし」

「まぁそうですね……数年前に、スルドナから受けた護衛依頼。それと同じ時期に見せた依頼を覚えていますか?」


 うん?本当に唐突だな……確か――


 『1つ目は建物建設の人員募集。これは……ああ城璧内部の櫓の建て替えの為に、城壁外で仮の櫓を建てるのか。それで……見張りと護衛、それに作業の雑用処理。物資の運搬、作業員のお世話か。金銭は……かなり安いな。

  2つ目は、女性護衛の募集。商人の屋敷に住み込みで護衛をして欲しい。期限、金額は説明します。先着3名まで……これは良いかもしれない。ギルドで何度も討伐依頼を探して稼ぐより現実的だ。

  3つ目はっと、なんだこれ?配達?……腕に自信のある人。根性のある人。口が堅い人。パーティーを組んでない人。仕事条件、金銭等様相談……怪しすぎじゃない?無理無理。

  4つ目っと……王都騎士団の訓練相手?これってただの的って事じゃない?回復は向こう持ち、金額はそこそこ。2日に1回は仕事あり……ブラックな気がしてならない』


 ――ああ思い出した。ギルドへ来たばかりの頃に、定期的な仕事を探してたな。その時の護衛依頼を受けたから、アリエルさんと知り合ったんだから覚えている。


「思い出しましたか?その中に配達があったと思うんですけれど、実はこれ私の部署とも関わってるんです」

「はぁ……そうなんですか。それを私が受ければ良いんですか?」

「ええ、実はちょっと込み入ってまして」


 そう言われて、場所をカウンターから個室に案内される。ん?なんか雲行きが……?


「どうぞ、私のお気に入りのお茶ですよ」

「ありがとうございます。頂きます」


 とりあえず出されたお茶を飲んで落ち着く。ちょっと渋いのだが、もう18歳なので良い味わいに感じる。種族の差もあるかもしれない。妖狐は日本風の種族みたいだし。


「じゃあ、依頼を受けるかどうかを詰めましょうか」

「……え?」

「これが依頼内容です」


 展開が早いな……怪しすぎる。

 チラッとイヴァラさんを見ると、借し、と口の動きだけで表した。実際奴隷事件の際は助かったので、仕方なく手渡された用紙を見る……何々?


『ギルドが指定、または他配送依頼を受けた物品の配達。指定場所の状態なども関係ある為、大人数での配送は推奨されない。ある程度口堅く、性格にあまり難の無い人物が好ましい』


 大雑把過ぎるだろうッ。


「それは大まかな内容ですから。要は私達の要請で動いて欲しい、と言う感じです」

「なるほど……それで、どんな物を何処に配送するんですか?」

「それは"依頼"によって違いますね。"一応"拒否権もありますよ」

「へぇ、それは意外に良心的ですね」


 この時の私は社会の荒波に浮かぶ小舟に過ぎなかった。彼女の少しのニュアンスの違いに気付くはずもなく。


「"過去"に"あった"のは、王都内のお店に商品を送る、"等"ですね」

「なるほど……金額的には――」

「それは――」


 結局私はこの依頼を受けた。受けてしまった。用紙にサインもした。


「では、これを送って下さい。期限はその紙に書いておりますので」

「へ……?」


 依頼を受けてすぐ、部屋を出ようと立ち上がりかけた私に、彼女はそんな事を言ってきた。


「実は、私はただの受付じゃないんです」

「……?」


 ちょっと理解が追い付かない。


「ギルドの情報課に所属してまして。ちなみにシズナさんも準ですが配属扱いになりますので悪しからず」

「ちょ、ちょっと、え?何の事ですか?」

「さっきサインした依頼書なんですけど、依頼主は私なんですよ」

「えっと、書類にイヴァラさんの名前は見当たらなかったんですけれど」

「ああ、対外的に名乗る場合の偽名です。書類の方が私の本名ですので」

「……」


 何と言う事だろう。こんなにも身近な人に騙されてしまった。私ちょろすぎじゃない?


「褒められた手段では無いですが、こちらも仕事ですので」

「……そうなんですか。で、これを配達しろと」


 動揺を落ち着けつつ、先程渡された用紙を確認する。えっと――


『ギルド所属のFランク冒険者、猫族イケーラの遺品、及び資産等を指定された場所へ送る事』


 指定されている場所は、その文のすぐ下に書いてあった。イケーラの、出身地だ。


「死亡された方の遺品を遺族へ?」

「ええ、その通りです。これも一応ギルドの保障に入っているんですけれど――」


 人手不足なんですよね、と続けるイヴァラさん。そう言えばこのままイヴァラさんと呼んで良いのだろうか……まあいいか。


「情報課は何時でも人手不足です。なので、この数年間見てきた貴女なら出来るかと」

「何か色々騙されている気がしないでも……」

「まぁ苦労は何時か報われると思って。仕事も不定期ですが報酬は高いですよ」


 ……仕事だし諦めるか。報われるらしいし。





 そんな事情を経て、私はギルドの使い走りをしている。正直こうなった経緯はあまり納得出来ないが、給料と待遇。後は色んな場所に行ける事を含めれば、悪い物じゃない。

 私が選ばれた理由は、当然ながらテイム能力として私1人でも群れという単位で数える為だろう。

  動きやすさも早さもパーティーを組むより早いし、そもそも人手不足らしいので、同じ部署の人と王都で合った事が無い。


 ちなみに最初に完遂した遺品配達の依頼は、かなり泣ける結果になって無事終了した。あんなに泣いたのは転生して以降初めてな気がする。


『それではまた――』

『では――』


 私が過去の事を思いだしてる間に、上司とメイカーの会話……じゃなかったイヴァラさんと長さんの会話が終わっていたようだ。


「シズナ殿。誠に助った」


 長のネフさんが通信機を置いてこちらへ向き、頭を下げてきた。それに対して丁寧に返し、そして依頼終了となる。

 もう別段この集落でやるべき事は無いのだが、イヴァラさんに休みを貰っているので、ここで少し生活して良いか許可を貰う事に。


「ふむ。問題ないじゃろう。案内にそこの手伝いの娘を貸そう、これくらいしか礼は出来ん」

「ありがとうございます。助かります」


 簡単に礼をして、そのまま部屋を後にした。ついにで宿はこの屋敷の一室、昨晩泊まった部屋を使っても良いと言われた。幸先が良いな。


「シズナ様、何をご覧になりたいのですか?」

「虎族の普通の生活ですね。種族で結構違いがあると聞きますので」

「なるほど……でしたらまずは――」


 部屋を出たすぐに話しかけてきたのは、昨日お喋りしていた虎族の若い娘さん。名はミクト。年は私より2、3歳下だろうか。ケモノ度は高い。


「私達は水浴びが好きなので、村の中央に川を通してるんですよー」

「へぇ、良い習慣ですね。羨ましい」

「他の種族の方にも良く言われます。見た目は怖いけど綺麗好きなんだなって」


 確かに虎族の男性なんて、見た目は本当に怖い。けど狼ほど本能的には怖くない。前世の知識のせいなのか?狐が虎に食べられたって事は聞かないし。

  そしてミクトさんが言うには、今の時間は女性のみ利用可能な時間帯らしい。もちろん許可を取って入らせて貰う事にする。


 彼女らは、外から来た種族にも分け隔てなく接してくれる種族であった。それは揉みくちゃにされて分かった事なのだが。





 この村の胸の平均は、かなりあったと思う。

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