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異世界生活の日常  作者: テンコ
第4章 彼女の仕事
57/99

4-01

少しだけストックに余裕が出たので、am10:00とpm18:00の更新に一旦戻します。

1日1回に戻る事もございますが、ご理解頂けますと幸いです。

『ホープとシロー、こっちに来て。あ、烏丸は忍んでていいです』

『畏まりました。お嬢様』

『すぐ行きます主様』

『はッ……』

『ありがとう。クロはそのまま相手をお願いです。カバーにロッテが入って下さいね』

『うむ。任された』

『りょーかーい』


 王都から私の脚で約半月の集落間近。

 例の如く魔物に襲われたので、返り討ちにしている所。別段強くは無いのだけど数が多い。それは面倒臭いと同時に、油断できないと言う事なのだが。


『シズ様ー!こっち終わったよ!』

『ありがとうロッテ』

『ご褒美待ってるからねー』

『後で、ですよ』


 やったーと念話で喜びを表す彼女。昔ならいざしらず、20歳になった私だと彼女への魔力供給に躊躇は無い。気恥ずかしいのはあるのだが。

 っと、そこに近寄って来た中型の魔物。脚魔(シュトン)の頭を撃ち抜く。


 ヴェロキラプトルだっけ……そんな恐竜に似た、私の腰くらいの大きさの魔物。それが20匹前後の群れで襲いかかってきたから応戦中なのだ。

 兎に角動きが早くて森中じゃ1人で大層するのはかなり危ないんだけれど、私には彼らが居る。


 この世界でも進化論は有効なのだろうか。多分彼らの姿形は獲物を捕らえる事、そして群れる事に優れているのだろう。


 しかし後ろを取られそうになっても――


『……』


 ディアがそのタワーシールドで押し戻してくれるし、剣で相手の鉤爪を弾いてくれる。


 彼女の盾は重そうだが、彼女が扱う分にはその重さを感じさせていない。重力の軛から解き放たれたかの如く、自身の周囲を巡らせている。あの防具一式が彼女なのだから、当然なのだろうけれど。


 動きの止まったシュトンの目に当たる部分をまたも撃ち抜く。最近やっと、少しの動きなら気にせず当てられるようになった。

 都合10年近く使い続けているけれど、なんとか扱えるようになったのかな。


『ありがとうディア。助かったわ』

『……』


 ディアは問題ない、と言うかの様にこちらに向かって頷き、そのまま周囲の警戒に当たってくれた。持つべきものは忠臣である。今度新しい布を渡そう。


『主。一掃したかと』

『そ、ありがと。食べちゃっていいですよ?』

『有難い提案だが、それは無理だ。彼奴らは骨と皮だけでまずい』

『そうなんですか……って事は食べたことが』

『うむ。何事も経験故な』


 豪快なクロらしく、狼の口を大きく開いて嗤った。怖いよ。


『何にせよ、もう気配は感じませんし、これで終わりですかね。皆助かりました』


 それぞれから問題ないと返答を貰い、カードを当てて討滅記録をしていく。敵方も流石森のハンターなのか、私達の後ろに崖が近い条件で狙って来たので危ない場面も多数はあった。

 この程度なら問題ないだろう、実力を低く見積もるつもりは無いし、驕るつもりも無い。けれど、このくらいの敵なら事実楽勝であった。


 ソラをそのまま周囲の警戒に残して、地上に居る者で集まる。死体の処理と念の為の装備の点検、怪我の確認だ。

 これを怠ってはならない。ちょっと前に痛い目に合いそうになった事もある。





 特に破損も怪我も無かったので、さて出発しようとした時、


「シズ様ちょーだい」


 ロッテが真正面から抱き付いてきた。いくら小柄で軽いとは言え、正面からの突撃だ。痛くは無いけれど危うくバランスを崩して転倒する所だった。


「っと、危ないですよロッテ」

「ごめんなさーい、でも我慢出来なくて」

「そうですね。ちょっと待って下さい。顔を拭きますので」


 流石に返り血や埃塗れだと互いに不快だろう。アイテムボックスから取り出した布で私の顔と、彼女の顔を拭う。こんな時用に濡らした物を、放り込んでおいたのだ。


「じゃ、頂きまーす……ん」

「……っ」


 彼女が私の頬を両手で挟んで、そのまま顔を近づけてきた。私はされるがままだが、こればかりはしょうがない。彼女には魔力が必要なのだから。

 MP的な物がゴリゴリ削られるのが実感できる中、彼女は私の中にナニカを潜り込ませてきた。


「んっ、じゅる……」


 粘つく粘着音が辺りに響く。それを嚥下する彼女の喉の音もだ。


「……ん……ぷはぁ……はぁ、今日はこれでお終いですよ」/


 ちょっと何時もより長かった気がするので、適度な所でロッテを止めた。


「……ちゅる、ふぅ。はぁい、物足りないけどしょうがないねー」


 彼女は、小悪魔だ。別に性格的な事を言っている訳では無い。種族なのである。


 少し浅黒い肌を先程の戦闘で出た汗で濡らした彼女。大きな瞳は髪の色と同じく濃い紫色で少女の外見と相反し、より妖しく見える。

 その外見は人間で言うと10歳くらい。ツーテールの髪型が異様にマッチしているそれだけが少女然としているのが、全体的に妖艶な印象と違ってちぐはぐだ。


 容姿事態は成長期真っ只中って所。服装は……黒い何かが巻かれている。ボンテージのように見えるのは気のせいだろう。

 

 胸は……。


 ゲーム中だと魔法を扱う低級の使い魔的ポジションだった彼女。アップデートでも進化先は無く、その容姿と相成って公式が残した最後の良心(ロリ)と言われていた。

 他の女性モンスは軒並み進化したのに彼女だけは……いや良い。これも公式の思し召しだったと思おう。


「これで2日分は補充できたわぁ」


 ロッテが唇を舌で舐めながら、こちらを見つめてきた。


「結構短いですね。やっぱり飛ぶと消費しますか」

「だね。シズ様のは美味しいから幾らでも食べれるんだけど……」

「それはまたの機会に」

「ちぇ」


 彼女の腰後ろから突き出ているチョコレート色の羽。私はそれを見てロッテと名付けたのだが、似合ってるからいいと思う事にしている。


 彼女は魔法専門の召喚獣だ。そしてその羽で飛べるので重宝するのだが、MMO時代は2D画面だった為そんな種族説明に意味は無かった。

 HPは低いし魔法攻撃力は低い、技の種類も多く無い。使い続けるのは、言わば愛なのである。ロリコンではないけれど。


 魔法が使えるようになった当初は何度か呼んだ事があるが、飛ぶにも魔法を使うにも魔力が必要なのであまりお願いはしなかった。

 流石に前の私では、その魔力提供の方法に躊躇してしまっていたからだ。今は、別にヘイキである。


 小悪魔。若干淫魔に近いらしいロッテは、その魔力提供の方法に難があるのだ。





 "色々"後始末を終えて、目指していた集落へ向かう。

 秘境……ではないけれど比較的奥地にある場所なので、隊列を組んで大勢で行くのは得策ではない。そして仕事的にも、1人、または少数で遂げる内容なのだ。

 一応私が適任、と言う事になるのだろう。暫く進むが、


『ソラは何か見える?』

『未だ何も』

『そっか。そろそろ見えても良い頃だと思うんだけど……』


 今日で14日目。このペースだと今日か明日には着くと思う。無理をせずに休む事にした。強行する意味も薄いしね。


『皆、今日は休みましょう。ソラは戻って来て』

『御意』


 ふわりと舞い降りた彼女を肩に乗せ、直前に教えて貰っていた開けた場所まで行き、急ぎ野営準備をする。時間は大体17時くらいだ。さっきの戦闘が意外にも長引いた為に遅くなってしまった。


 暗くなる前に夕食を取って、不寝の番をする事に。召喚獣に全て任せても良いのだが、甘えてばかりいると必要な時に私自身何も出来ない。それに性格的に一度甘えると、そのままずるずる行ってしまうしね。


『……』


 ディアだけは何時も付き合って貰うようにしている。

 彼女は肉体的な疲れが無いので、問題ないと言ってくれるのだ。精神の休養は歩いていると出来るらしい。便利だ、とは言わないが少し羨ましくはあり、有難くもある。


 皆が寝入った静かな夜に、私はディアと2人。そして静かに疑似パテを削る音が響く。個人的に原型を作る時はエポパテで大体の骨格を作り、ポリパテで肉付けしていく方法が好みだ。

 お金の無駄遣いと良く言われたが、エポが固まる間に別の作業が出来る。そこは個々の好みの違いだろう。同期はポリパテをモリモリ盛り重ねて行く手法だったしね。


 これはロッテを形作っている途中。

 幼い女の子の腰のラインやお腹周り、手足のバランスは造形師個人々々で個性が出る所。

 私は胸も大事だと思いつつ、いつもお尻に力を入れている。股関節から腰、背骨にそれぞれS字を意識して繋げていくのだ。


 今は荒削りの段階。

 展開しているメニューに入ったイラストを見ながら、時折原型をイラストに当てながら形作る。ロッテの柔らかい曲線を今の段階で大体削り出しておけば後で調整が楽になるから。


 商売では無いので、気ままにゆっくりと進めていく。そうして夜は更けていった。





 翌朝早くに野営地を後にした。早く集落に寄って安全を確保したいし、久しぶりに屋根の下で眠りたい。


 近付いてくる魔物を蹴散らしながら、時に逃げ果せながら目的地を足早に目指す。その甲斐あってかその日の夕方前には集落に辿り着いた。目の前には、入口を見張っていたであろう門兵2人。

 彼らに敵意を見せないように、しかし最低限の警戒を表してシロクロソラを残して皆を還す。烏丸だけは影に潜ませているのを確認。たまに忘れてる時もあるんだ……。


「……そこで止まれ!何者だ。何をしに来た!」

「依頼です。冒険者としての依頼で、荷物をお届けにッ」


 当然本当の事だ。


「ちょっと待て。確認してくる」


 1人が門の横、小さな扉を開いて中に入って行った。結構門も、それに集落を囲っているであろう砦らしき岩壁と柵も丈夫そうだ。魔法が使えるんだし、工事は比較的簡単なのだろう。しかも獣や魔物がいるんだから、丈夫にするのは当然か。


「……そいつらはお前のか?」

「ええ、私の仲間です」

「そうか」


 残った男と暇つぶしに世間話を始める。彼がシロクロを一瞥して聞いてきたので、軽く答えた。


「何処から来たんだ?」

「南の王都、は分かりますか?その方向からやって来ました」

「長が言ってたな。詳しくは知らな――」

「おい!確認が取れたぞッ、名前は?」

「妖狐のシズナです」

「ふむ。確認用の魔術を掛ける。問題無ければ入れ」


 中での確認が終わったのだろう男が戻って来て、確認用の魔術?とやらを始めた。これは初見だ。

 王都の門兵とかは、ギルドで見るようなタイプの道具を使っていたし。

 他人の魔力波形を確認しているのだろう、数字で出るはずだからそれをカードの数字が合っていれば本人と言う訳か。

 なるほど……。


「……問題無いな。失礼した、入ってくれ」

「ありがとうございます」


 手早く確認して下さった門兵さん。丁寧に中に入れてくれる。


「ようこそ、虎族の集落へ」





 村娘なのか今の私より少し年下だろう、年若い虎族の子に案内された家に入る。


「失礼致します。冒険者ギルドからの使い、シズナと申します」

「よう来られたな。歓迎するよ」


 如何にも長老!と言う雰囲気を纏った老齢の虎族女性が出迎えてくれた。長は女性なのか。


「わしはネフ。この集落の長を務めとる。名は代々引き継ぎじゃが、それで呼んでくれ」

「ご丁寧に。ネフ様、さっそくギルドからの荷物をお渡し致します」

「ありがたい。助かる」


 私は腰後ろに回していた拡張袋から板状で無機質っぽい物体を3つ取り出して、そのまま渡す。ギルドとの通信が出来る機能まで持った、カード読み取り機の簡易版だ。


「ほう、これが……ほんに嬉しいな」

「喜んで頂ければこちらも幸いです」

「ああ、シズナ殿はお疲れじゃったな。すぐ宿を用意しよう。話は明日で良いかな?」

「ええ、構いません。申し訳ございませんがお先に失礼させて頂きます。あ、この子達も宜しいでしょうか」

「問題ない、連れて行くとええ」

「ありがとうございます」


 シロクロソラにも許可を貰い、後ろに控えていた先程の娘さんに先導されて、長の部屋を後にする。急な来訪なのに用意してあったとは、あの長の性格が少し分かる。

 案内された部屋に通され、お茶も一緒に入れて貰った。


 少し緊張が解けた彼女の口が開いたので、休憩がてらに少し話をする。


 何でも集落を出て外に行ってみたいらしい。外の話を嬉しそうに聞いていたので、私も興が乗って話し出してしまった。夕食まで頂くのだが、そんな時間まで喋っていたのである。


『主様。お疲れでしょうからお休みになられては』

『あ、もうそんな時間ですか』


 シロに諭されるまで、夕食後も話し込んでいた……彼女に櫛を入れながら。

 若い彼女は日が落ちているのに気がついたのか、それとも仕事の事を思いだしたのか慌てて頭を下げると、部屋を出ていく。少し悪い事をしたな。


『主。この集落は問題ないだろう。だが念の為我らも現界しておこう』

『ありがとうクロ』


 過去にあった事件。その事件の記憶は召喚システムと言う繋がりを通して、召喚獣達に流れていたらしい。

 あれ以降少し過保護だ。彼らが言うには、『あの時何も出来なかった我らが歯がゆいのだ』と憤っていた。

 同時に、あの時の仕事に呼ばれなかった事を少し怒られた。我らが居れば……と。


 村や町、宿に泊まる時には誰かしら召喚することを確約させられたのだ。


 今日はシロクロをそのまま限界させて、就寝することにする。





 ……烏丸を召喚したままにしていた事は、翌朝まで忘れていた。

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