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異世界生活の日常  作者: テンコ
第3章 彼女の状況
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3-XX 幕間 彼女達の決断

 旦那たちが村を出て行った。


 確かにそれしか選択は無いのだろう、何処で間違ってしまったのか。





 村の村長さんから話を受けたのは、暫く前だった。日数なんて気にしてないし、知らない人も多い。その日を生きるのに必死だったから。


 今年は収穫量が少なく、そして税は例年通りの金額だった。村長さんが言いづらそうに、そして何も対策案を考えていなかったと白状した。


 その時点で村長さんを下ろすか……殺そうかと言う若者も多かったのだが、今それをしても意味がないし、個々の家でどうにか出来る訳もない。残念ながら村長さんしか頼みが居なかったのだ。


 どうしてこんな事になったのか。


 先代の村長さんが亡くなってから3年。確か蓄えもかなりあったはず。何故……。





 村長さんから提案があった。それは最悪な案。


 もうすぐ高く売れそうな女性が来るから、その人を売れば金貨100枚は硬いと。もちろんそんな額ではスズメの涙だが、この村に居る娘を全員売ってもそこまで高くならず、けれどそれだけあれば次の収穫まで何とか持つだろう。


 そして……私達の親を手に掛ける事。これは、思い出したくもない。売る予定の人が来たらしい日の夜。

 老人、親達は村の為ならとその身を差し出した。躊躇した人もいるが、そこは……。


 それを実行した翌朝、最後の仕上げが待っていた。売る予定であった狐の獣人は目の前で、理解できない者達を見るように目を見開いたまま、捕まって行った。


 私達は去って行く衛兵さんと村長、商人さんを見送って、皆無言で家に戻って行った。私もだ。最後の彼女の瞳を思い出してしまう。彼女には悪いが、これも私達が生きる為だったのだ。


 彼女については、誰も何も知らない。知る必要も無かったし、知って思い出してしまう事が怖かった。

 辛いのでは無く、怖いのだ。





 忘れたい、私達にとって重要な行動を起こした日から幾日か。


 村長さんが戻ってきた。金貨をたくさん持って。


 良かった、これで生きていられる。


 そう思っていれたのは、更にその日から数日間だけだった。


 あの時、獣人の彼女を捕まえた衛兵さんが突然村に来て、村長のお金を無言で取り上げて行ったのだ。

 私達は何が起こったか分からず。そして最後まで衛兵さんは無言だった。しかし、こちらを向いた時に兜から見えた目。


 まるで虫を見るような視線。


 村長さんはその夜に村人を集めて理由を話した。最初にただ一言。バレた、と。何とか私達でも理解出来る様にゆっくりと、一部を話して下さった。全ては村長さんも知らないらしい。


 あの獣人の子を陥れたのがバレて、衛兵にお金を持って行かれたそうだ。そして税が少し上がる事になる。

 本来なら関係者は全員捕まり、最悪打ち首なのだろう。しかし税を納めなければならない。


 村長さんは政治的にと言う言葉を使っていたが、つまり色々な人の考えの結果、お金は持って行かれる事になったのだろう。


 詳しい理由なんて知らないが、生きる為にお金が無くなったのは理解出来た。そしてそれから――





 あの事件から何十日経っただろう。


 私の旦那は今日の担当だ。


 食料も残り少なく、売る物も無い。村の若い娘を売ったお金が少量残ったぐらいだ。


 そんな私達は当たり前の様に決断して、当然の様に襲う側になった。


 生きていく為に必要なのだ。


 旦那や、周りの家の旦那も農具を持って武装している。過去に襲ってきた山賊や盗賊を返り討ちにしてもぎ取った武器も少しならある。

 その武器を売ってお金にするか、これを元手にするかで悩んだが、結局より実入りが良い方が選ばれた。


 私達の村は前の村長の下に、何とか運よく今日まで生き残れたのだ。


 これからも運が続くだろう。


 そう言いながら頷き合った男達。旦那達は少しの食糧を持って山に入って行った。王都から街まで。街から王都まで行く道で、絶対に通らないと行けない場所がある。そこで商人等を待ち伏せするらしい。


 私達女衆は、無事に男衆が戻るのを待つ。


 生きて行くために。そして――





 ――ほとんどの男が、戻って来なかった。生き残った者の話では、鳥が襲って来たらしい。

 鳥……?。


 そして、私の旦那は、生涯戻る事は無かった。

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