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異世界生活の日常  作者: テンコ
第3章 彼女の状況
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3-07

 明日には王都へ向けて出発する。


 今の街でやるべきことは特に無いし、これ以上ここに居ても得るべきものより懸念の方が多い。

 街の兵士、あの時居たであろう人たちに見つかると面倒だし、奴隷商に来ていた客に見つかっても精神的にきつい。

 妙な事を勘ぐられると面倒なのだ。


 それを察してくれているのか、アリエルさん一行は、すぐに食料の補給であったり野営品の補給だったりを終えて、出発出来る準備を整えてくれた。

 有難い事ではある。ほんとに皆が動いてくれなければ想像するも怖い事態になっていただろう。





 その翌日。


「じゃあ、今は危ないんですか」

「そうらしいわねぇ。例年にはない程らしいわ」


 アリエルさん一行と私は、王都への街道を進んでいた。御者はスルドナさんであり、商品も少しばかりしか積んでいないので残りの4人で乗り込んでいる。

 念の為シロクロを召喚して馬車を併走させていた。暇、だとは大きな声で言えないが、それでも時間を潰す為に話し込む事はよくある。


「何のお話しをされているんですの?」


 ミリカさんと話していた所へ、ベティさんと何やら話し終わったアリエルさんが入ってきた……それまで彼女達の会話が何やら妖しかったのは、気のせいだろうか?


「えっと、何でも別の大陸で、魔物が大量発生してるとか」

「そーなのよ。すっごい湧いて出てくるんですって。ギルドに連絡が来たらしいわよー」

「それは緊急事態なのでは?皆さんは召集されませんの?」

「私達はさー、ランク低いし。仕事もあるしねぇ。適材適所、よ」

「そうですね。私達に出来ない事は、実力のある人に任せましょう」

「ではシズナさんは行かなくて宜しいんですのね。安心です」


 そんな、何気ない会話が出来る事が嬉しかったりする。結局、奴隷商へ一緒に売られたらしい娘達とはあまり話さなかった。業務?連絡等の会話はしていたが、楽しむための会話を一切していない。

 器量が無いと言われればそれまでだが、私をあんな目に……と思ってしまうのだ。これがまた自分の感情ながら制御できない――この感情の起伏、乱れの幅については後々分かる事になる。


「あ、ミリカさん」

「なーに?シズちゃん、尻尾触りたいの?」

「いえ違、わなくは無いのです触ります。マクイルさんとメルカちゃんは大丈夫なんですか?」

「結局触るのね。旦那とメルカはねー。むしろ旦那は喜んで送り出してくれたわよ」

「え?」

「また色々溜まっちゃってたのよ。こう、暴れたい気分って言うの?旦那にも気付かれちゃってね」

「そ、そうですか。それで護衛依頼に付いて下さったんですか」

「そそ。それもあるわね。イヴァラさんから直で話貰ったし」


 言葉を交わしながら、ミリカさんのふわふわな尻尾を撫でる。そして櫛を取り出して梳く。それはもう梳く。王都で見つけた艶出し用の櫛。原理は不明だが、これで梳くと艶が出ると評判だったそれ。

 正直今私が着ているチェニックの様な服と厚手のジーンズの様なパンツ。それに爪先に鉄板を入れ込んだ安全靴?ブーツ?の合計の金額より、この櫛の方が高かった。だが、後悔はしていない。


 それを使い思う存分梳いていると、横からアリエルさんが割り込んできた。若干険しい表情で、服の袖をその白く細い指で摘まんでくる。


「何ですか?アリエルさん」


 何となく分かっているんだけどね……そこはほら、合計すると50年近く一人身だった人生なのだ。想像と現実が違ってたら怖いし、何よりアリエルさんって自分の娘でもおかしくない年齢なんだよなぁ……。


 考え違いがあったりしたら目も当てられない。セクハラが煩かった会社時代を思い出してしまう。

 違うその視線は俺じゃないッ俺はただの制作班だ!


 ……取り乱しそうになったが、何とか落ち着いた。


 いや落ち着いていない。梳く手がぎこちなくなってる。やめてミリカさんそんな悟ったような顔をしないで。


「シズナさんはやっぱり……亜人の方が良いのですか?」

「い、いえ、そんな事……でも櫛を入れるのは好きです」

「……」


 自分に嘘はつけなかったよ……リップサービスの技術なんてなかった。


「そうですか」


 そう言ったお嬢様は私の後ろに回り込んだかと思うと、私を後ろから持ち上げて、座り込んだ彼女の膝上に乗せる。

 一瞬理解できなかった。

 なんだこれ超恥ずかしいんですけど。彼女は私の腹部に手を回したかと思うと、首筋に顔を埋めてくぐもった声を出した。


「丁度良い抱き心地です」


 自分でも知らなかった弱点のように、首筋へのアリエルさんの吐息で背筋が震えてしまう。


「ありえるさん?」

「うふふ。真っ赤ですわ、シズナさん」

「おもく、ないですか」

「ちっとも。それとも妖狐の方は皆、ここまで軽いのですか?」


 変な質問をしてしまった。このお嬢様はそのまま、私の横顔に、自身の頬を滑らせるように持ってくると、


「暖かいです……んッ」


 そう呟いたのだが、私はくすぐったさの余りに自身の尻尾を激しく動かしていた。どうもそれが彼女の太腿でも擦ったらしい。変な声を上げる。


「ちょっとぉ……私も居るんだけど。別にいいけどねぇ」

「……ミリカさん……助け」

「シズちゃんやっぱそうなっちゃたかぁ。まぁ収まるべき所って奴ね」

「はは、シズナ君も隅に置けないね。お嬢は良い仕事だ」

「……」


 何ですかミリカさんその分かってましたよって顔。ベティさんも一昨日からニヤニヤが止まっていない。

 どう考えてもこの行動。ベティさんの指示そうだし……。

 アリエルさんはそのまま瞳を瞑って、腕に力を込めて引き寄せてる。ほんと、すごい恥ずかしい。





『ミリカさん、もう居ないみたいです』

「そう!早かったわねー!」


 少し距離があるので、ミリカさんは大声になっている。


 今は馬車から降りて、襲ってきた野犬の掃討中だ。


 道中で出てきた野犬類は、襲ってきそうだったものを排除。それ以外は放置をした。草原や林、まして森の中まで追って仕留めるのは大変だし、まして感知範囲が広い獣人が3人揃っているんだ。奇襲は無い。

 あとは野生動物類。これも見つけたものの半数は狩った。日々の糧と、戻った時の為の資金だ。もちろん魔術を活用して死体を保存。拡張袋に入れておく。


 ちなみに元の世界では常識だったゴブリンは襲ってこない。存在しなかった訳では無く。ほぼ絶滅しているらしい。


 彼ら?は過去から延々と続く、生存圏の奪い合いに負けたのだ。何処かで話を聞いたと思ったら、元の世界でのキツネ等の扱いだ。そりゃ有益だったり害が多すぎると駆逐するよな……。


 ゴブリンはその生存圏を縮小。その代り彼らが日々森の中で狩っていた野犬、害獣、そして動物の類いが幅を利かせる。

 そして人種はこれに悩まされる事になっている、と言う訳だ。再び彼らが日の目を見るの日は、まだ来ない。


 食料になる動物が増えたせいで、ゴブリンとは違った魔物が増えたらしいが、そこは狩る物として人種、亜人種が拮抗している。魔物は質で、こちら側は数で。


 あとこの付近に馬車を襲う盗賊やらは、当然居ない……訳では無く。


 上空からソラに監視をして貰い、ある程度距離がある所から発見。そして襲って来る様子なら殲滅を指示している。

 ソラと私で最近視覚と聴覚を共有できるようになって来たのだ。あまり細かく見えなかったり精度は良くないが、とても便利である。


 何回か遭遇した敵も、こちらを攻撃する意図の言を発していたのでミリカさんとベティさんに相談。

 黒だと判断したら、相手が動く直前にソラの技で殲滅する。遠距離から羽根を撃ちだして風穴を開けてやるのだ。


 逃げていくようならそのまま監視を続ける。

 大人しく襲われるまで待ち、アリエルさんとスルドナさんが危険に晒されるのはダメだ。むざむざ襲われる必要も無いと思う。


 山賊とか盗賊には悪いけれど、出番なんて与えない。





 そんな事もあり王都までは順調。


 若干、アリエルさんのボディタッチが増えたくらいで何事も?無かった。

 さて、久しぶりのメルカちゃん's尻尾を撫でよう。

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