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異世界生活の日常  作者: テンコ
第1章 彼の気持ち
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「シズ姉ねえさん、ちょっときてー」

「はいはい、今行きますね」


 現在私は買い出しに来ている。週に2、3回孤児院外に出て必要な物を揃えるのだ。

 が、贅沢は出来ない……このお金は寄付金と仕送りなのだから。

 とりとめのない事を考えつつ、ゆっくりと歩く。

 せっかく転生して新しい世界を観て回れるのだ。見るもの感じるもの全てが新鮮である。

 しかし先を歩く2人の少女は待てないのか、こっちに向かって歩いて来てしまった。


「シズ姉さんおそーい」

「おそーい」


 ちょっと頬を膨らませつつ私を姉さんと呼ぶのはヒューマンのクリシアちゃん。1つ年下の9歳。

 明るい栗毛色でふわふわなボブカットの少女であり、これがまた目に入れても痛くないほど可愛い自慢の妹分である。


 もう1人は少し前に入ったばかりのヒューマンのリンディちゃんで、最初に会った日の夜以降ちょこちょこと懐いてくるようになった可愛い生き物である。

 こっちはちょっと暗めの臙脂色で、やや肩口まであるショートヘアを二つのお団子にしている状態だ。

 イイ。


 私を含めて3人ともに服装はお下がりの地味な物を着ているだけなのだが、それでも美幼女といえる2人がいるので周りからは注目されている。

 このロリコンめ。


「クリシアちゃん、お姉さんと買い物かい?ん、新しい子だね」

「こんにちはーおばちゃん。こっちは新しく入った子なの」

「おや、やっぱりそうかい。宜しくね」

「リ、リンディです……はじめまして」


 クリシアちゃんが街の人と度々挨拶交わし、それを見ている私。そしてリンディちゃんが私の後ろから出てこないのはしょうがないだろう。

 リンディちゃんは今日初めて街に出てきたのだ。


「おば様こんにちは。今日は新しい食器を買いに来ました」

「久しぶりだねぇシズちゃん、見てっておくれ」


 私も挨拶を交わし、品物を見て回る。個人的に買い物は早い方なのでさくさくと品物を選び、店のおばさんに配送をお願いした。

 いくら転生して出来る事が多いくらいステータスが高いと言っても、今は10歳の少女なのだ。

 大量の、それも重い荷物を持って歩くとか目立つことこの上ない。


 何度か同じような工程を繰り返し、必要な物を孤児院宛にお願いし終えてから残りの時間は個人的な買い物に充てることになった。

 というのも、年頃の娘さん2人がこのお出かけの機会を逃すはずがないので私は年長者として後ろで見守る。事になる。

 まぁ私もそれなりに必要な物があるので、不本意かと問われれば違うと言わざるを得ないのだが。





 2人は仲良く手をつないで3歩分ほど前を歩いている。

 私達に共通しているのは私も含めて親族がいない事だろう、深くは掘り下げないが皆同じなのだ。


 その2人の方へ向かってくる不穏な気配をいくつか感じ取る。


 亜人、この世界では獣人とも呼称する存在になった当初はこの知覚範囲の広大さに眩暈すら覚えた程だ。

 本職と言っていいのかは定かではないが実際のケモノには劣るだろう、しかしこの大量な知覚情報は脳に直接送られてくるため、転生直後に取捨選択の訓練もする羽目になったのだ。

 今ではある程度自分のステータス補正と種族による身体補正が利いているのか、スムーズに行使できるようになったとは思う。


 その能力の範囲に敵意と害意を私たちに向けてくるヒューマン3人を捉えた。

 どう考えても歓迎できる雰囲気ではない。

 ケモノは害意に敏感なのだ。実際に何度かそういう目にあったので分かる。


 前方の建物の影に1人、正面からこちらに向かって歩いてくる1人、後ろから監視しているのが1人の計3人。

 どう考えても実行犯と運搬員であろう布陣だ。

 正面のヒューマンは手に大き目に荷物を持っている事から、当り屋の変わり種だと予想する。


 筋書としてはこんな感じだろう。


 正面の男が衝突を演出して騒ぎを起こす。その間に建物影の男が私たちの内の誰か、若しくは2人ないし全員……は難しいか。

 まぁ狙いは1人だろう浚い取って逃げ、後方の運搬員らしき男と合流して逃げるかどうかするのだろう。

 後方の人物の役割がどうなるかわからないが当たらずも遠からずだと思う。


 そう、全員男なのだ。反吐が出る。

 大方若いうちに奴隷として好事家どもに売り捌くのだろうことは想像に難くない。

 まだ結構な距離があるからここまで考えられるが、2人を遠ざける事を優先するべきだ。

 私1人で事件解決などできようはずもないのだから。

 あとこの考えが間違ってたら恥ずかしいというのも……少しある。


 この世界ではこんな事も珍しくなく、一昨年なんて孤児院の男の子が1人行方不明になり、結局戻ってこない事件があった。

 街の兵士さんとシスターが話していたのを盗み聞いた感じでは、街の外の特殊な娼館宛てで売られたような形跡があったらしい。

 現実は非情であり、そしてその詳細は子供たちには当然伏せられ、卒院したと伝えられた。

 その時のシスターの顔は今でも覚えている。

 都合のよいヒーローはいないのだ。





「ちょっと2人とも、こっちの雑貨屋さんに寄るわ」

「うん?はーい」

「はーい」


 前方の荷物男が2人の方に目線を向けいざ進もうと踏み出した脚を魔力の塊でちょっと押してやる。

 勢い余って男がたたらを踏んだと同時に前方の2人に声をかけ、すぐ横にあった雑貨屋に入る。

 演出としてはバレてはいないはずだ。

 何事もシンプルが一番である、それは私が複雑な事をすると失敗するからなのだが。


 後方の男の「チッ」という言葉を耳にして気配が遠ざかるのを感じる。一応、本当に一応無事解決したのだろう、それでも心臓が高鳴っている。

 小心者だなぁ。


 違和感がないように店内の雑貨を眺める。

 幼女2人はきゃぴきゃぴ言いながら見て回っているが、この2人が院に入ってきたばかりの時を思うと、やっとここまで来たかと安心せざるを得ない。


 ちなみにこの2人は同じ部屋になったのだが、お姉さんは安心である。繰り返すがこれは保護者目線だ。35歳男性会社員は犠牲になったのだって言ってるだろ。


 本当に念の為、外の気配を伺いつつ店内を物色する。

 あ、良さそうな櫛見つけた。


 そう、私は今天狐族なのだ。

 亜人ないし獣人なので耳と尻尾がある。

 当初は顔の横に耳がない事に違和感があったが、今では慣れたもので感情表現の抑制を自然に出来る様になった。

 嬉しいと尻尾が左右に揺らめく、等である。


 その尻尾の毛のお手入れが大事なのだ。

 ゲームで妖狐族は転生を繰り返すと尻尾の数が増え最大9本になるというなんというか在り来たりな設定があった。

 それはメニューに入っているゲーム時代の種族別解説テキストを読んで思い出したくらいの内容なのだが、これが現実になってみると9本は多い。


 ドット絵の時は当然尻尾が増えるなんてことはなく1本の尻尾として表示されていたのだが、私として戻った当初、ふと1人になった瞬間尻尾が増えたのだ。

 心底驚いたが、すぐに1本に戻すことに成功しているのでバレてはいない……と思う。

 多分寂しさを感じて感情が振り切れたからだろうとは思っているのだが。


 そして尻尾、大事な事なのだが尻尾のお手入れは気持ちいい。本当に本当に自分でもどうかと思うが、髪の手入れより尻尾の手入れを大事にしているのである。

 消すことはできない身体の一部として一生付き合うことになるのだからと言い訳はしているが、髪より尻尾とか自分でもどうかと思う。

 櫛を入れ過ぎると抜ける毛は多いのだが、もともと毛量自体が多くすぐに増えてしまうため、定期的な櫛入れが欠かせないのだ。


「姉さんの尻尾ふかふかー」


 そう言って顔を埋めてくる娘もいる。

 うん分かるよ。それ、気持ちいいしね。


 そんな事もあり、この世界の私の趣味の1つめは『尻尾のお手入れ』になった。

 その為の道具を選ぶところからであるのだが、亜人と言う種族がいる時点でその手の道具の需要は高い。

 形状的には日本風の櫛が多く、今現在の私の感性がやや女性よりの為か全体的に丸みを帯びたデザインが好みだ。

 元からそんなに尖ったデザインが好みではなかったのもあるが。


 見た目子供の玩具のような櫛を手に取る。


 貯金を使い櫛を購入ことに決め、2人にばれないようにこっそりと店番のお婆さんに銀貨1枚銅貨5枚を払った。

 玩具みたいだし趣味がバレるのはちょっと恥ずかしいからね。


 貯金と言っても施しではなく、自分たちで内職した分のお金を少しづつ貰っている。

 そして一緒にお菓子も購入したので、それを幼女2人に手渡し、意気揚々と店を後にする。

 美味しそうに飴を舐める幼女を見ると和む。


 先程の男たちに荒らされた、ささくれた心が洗われる様だ。






「あー、あー、あー……何失敗してんだ?ああ?」

「ずびばせん」


 俺の前で顔をぼこぼこにされた部下が地面に膝をついて座らされている。やったのはもう一人の部下で指示したのはもちろん俺だ。


「ちょろい仕事だったのによぉ、ったく、使えねえ。蹴躓いてこけるなんざ、何年やってんだ?えぇ?」

「あ”い……」


 今回は街中にいるガキを1人か2人見繕ってお上に引き渡すまでの依頼だったのだが、目の前のバカがヘマをしたせいで絶好の機会を逃したのだ。

 まあ広い街中でまだまだ獲物はいるとは言え、結構見目が良いあのガキ共。

 特に後ろを歩いてた獣人が良かったのだが、逃したのは結構な痛手だ。逃した魚はかなり大きい。


「まー、次は無いぜ?この仕事でミスしたら命が無いのが普通なんだ。そこんとこ良く覚えときな」

「あ”い!」


 偶々寄った街で久々に見かけた顔なじみに持ちかけられた仕事とは言え、このミスが周りに広がるといい笑い者だ。

 こんな仕事は面子が何より重要なので、これからすぐに動くしかない。

 そんなことを思いながら、やっぱさっきの妖狐のガキが高く売れたよなぁ、と溜め息をついた。

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