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異世界生活の日常  作者: テンコ
第3章 彼女の状況
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3-03

「……売られたんです。村の為に」


 それは、罪の告白だった。


「私は、嵌められたんですね」

「……」

「貴女達が一番の原因じゃ、無いのは、分かるんです。けれど――」


 区切るように確認するように、湧き上がる荒んだ気持ちを落ち着けるように、息を吐き出す。


「……ごめんなさい。暫く話しかけないで下さい」

「はい……」





 その村は、特徴の無い所でした。


 普通の村人達。収穫量も毎年少しずつしか上がっていなくて、飢餓は薄皮一枚隣りにある。そんな村。

 長閑な風景ぐらいしか取り柄が無く、付近に魔物なんておらず、山の中で猟師が獣を追う。そんな村。

 開拓も開墾もするほどの資金が無く、人的資源は、老人が増えてきて若者が出て行く様な。そんな村


 そんな村を不作が襲いました。何もない、何も変わらず平行線の生活をしていた長閑な村です。村長ですら、対策を何も取っていなかった所が見通しの甘さを表していました。しかし、生活の為にはどうにかしないといけません。


 村長は考えました。村人も考えました。老いも若いも皆で考えました。


 ある時そんな村に、小さな商隊が訪れました。彼らは笑顔で、その特徴の無い村の村長だけに商談を持ち込みます。

 はて、この村に商人さんに売る物なんてあったかな?と村長は考え込みました。そんな村長へ、商隊の代表は笑顔を浮かべて話し出します。


 この村は何も無いです。けれど、立地がこれ以上ないほど良い。こんな良い場所にある村は少ない。


 そう言うのです。これには村長も目を丸くして商人を見ました。そして考え込みます。


 目の前の男は何を言っているのだろうと。

 

 けれども商人は、そんな村長の思考が見えているかのように、畳み掛けるように続けました。


 ここは、王都からほどほど離れており、こんな所を目指して来る人は稀である。けれども今この村はお金が欲しい。違いますか?


 違わない。その通りだと村長は答えます。先を急かす様に、続きを聞かせて欲しいと請う様に。そんな村長を見ながら、商人の男はゆっくりと続けました。


 そうでしょうそうでしょう。ここで、商談です……人を、売りましょう。


 なんて事を言うのか!村長は目を見開いて男を凝視します。村の者を売れと!いくら村長が愚図で愚鈍で愚者でも、生まれ育った場所に同じく生まれた村人を売り払う事など考えもしていませんでした。しかし商人は笑います。


 村長さん。貴方は、村を続けなければいけない。そう、終われないんです。ですから、


 ここに連れ込んだ者を、売り払いましょう。と商人はその笑顔で続けました。これには村長も背筋が凍り、震えます。しかしそれを見ても商人は気にせず、むしろ嬉々として続けました。


 私たちが、獲物を連れてここに来ます。そうですね、若く珍しい獣人などがいい塩梅でしょうか。売値も高くなりそうですし。村長さんは、老い先短い村人を数名見繕っていて下さい。その人達には、村の為に死んで貰いましょう。


 それは悪魔の言葉でした。激昂する村長。しかし頭の中では冷静に考えます。いくら頭が弱くても、商人の言葉の意味は分かります。

 年老いた者は死んで貰い、子を成せる妙齢で年頃の女は残す。若い男も残して働き手にする。それなら村は続きます。


 獣人なら種によっては五感を弱まらせる香草などもありますから。それにもし失敗しても、村人を間引けるのです。どう転んでも、村長と村に損はさせませんよ。


 それは悪魔の笑みでした。沈黙する村長。しかし頭の中では冷静に考えます。これは、乗って良い話なのではないかと。まず近しい者に確認をして、計画を練っていかなければならないと。


 そう、村の事情は切羽詰まっているのです。お金、お金が無いと、死んでしまう人が多くなるでしょう。そして――





 私が村に到着。間引いた老人たちの死体を用意し、同じく早馬で知らせていた街の兵士を翌朝に到着させる。そして呑気に起床した私を犯人ですと村人全員で指し示す。

 そのまま街に連行されるのを確認して、街で私を奴隷として売り、更に子供を今すぐ生めそうにない年若い女も売り払う。


「運が、悪かったのかなぁ……」


 村娘達の話しを思い返して、小さく呟いてしまう。確かに村は存続するだろう。私を売った値段は軽く金貨200枚以上だと、さっきの牢屋があった屋敷で聞いた。これを5:5でも6:4でも7:3でも商隊と村長に損は無い。

 老人も間引いてるし、餓死する人も減っただろう。でも、理不尽すぎる。


 私には如何しようもない。自分を買える程お金を持っていない。無実を表明しようにも商人と村長、村人が認めないだろう。まして奴隷に落ちた娘達や私の言うことなど、自分可愛さの証言と思われるはず……。


 そもそも依頼放棄をして逃げた扱いなのか?そこら辺はどうなんだろう……。


 証言以外の証拠が手元にあればなぁ……ギルドで調べてくれないかなぁ。まぁ無理か、一介の低ランクの為に都合良く動くとは思えないし。


 落ち着いていないのか考えても考えても、良い案が浮かばない。思考が乱れている気がするし、怒りや屈辱で体が火照っている。


 確かに良い考えなんて、そう簡単に浮かばないんだ……会社でも、マイナーな作品のアニメ商品を考える会議じゃ、何も出ない時の方が多かったし。こんなピンチに都合よく良い案なんて思いつかない。


 身近だった事に例えて落ち着こうとする。


 奴隷商の女の話では暫く仕込むと言っていたっけ……じゃ、暫く仕込まれてみるか。


 そう決意し、その日はさっさと寝る事に。寝転んだ私を遠巻きに見ていただろう村娘達も、各々好きな場所で寝始めた。


 恨んでいない訳がない。こんな屈辱は生まれて初めてで、大きな人の悪意を受けたのも初めてだ。


 ミリカさんが言っていた"人に気を付けろ"という助言。私は一切聞き入れていない状況。これは魔物より怖いかもしれないと、その時は本気で思ったのだ。





 それからの日々は、余り思い出したくない。


 生活を助ける為の術。仕えた相手を守るための動き。主人を悦ばすための行為。それらを日々教え込まれた。

 体力だけは人並み以上にあったし、勉強も苦では無かったが、行為の練習の日だけは身の毛もよだつ。


 文字通り、尻尾が逆立って耳が震えた。


「ほら、シズナ。主人は男だけじゃないんだよ。女も買いに来るの!手、手と口を使いなッ!」

「は、はいッ!」


 幸い全ての行為の練習にナマモノは使っていない。それだけは感謝しようと思ったが女奴隷商は、『初めての子がするってのが売れるんだよ』と良い笑みで告げた。

 もちろん感謝の気持ちは吹き飛ばした。


「何だ。計算は出来るじゃない」

「……ありがとうございます」

「じゃ、文字も……ほう、良いね」

「……ありがとうございます」

「ふーん。こりゃ値段上げておこうかね」


 自己の能力も確認される。


 奴隷を売る際、私も客の前に並ぶよう指示されるが、その実本当に売り物として居る訳では無い。

 様は、一番良い商品を見せて相手に2番目以降を妥協させる為にいる、謂わば撒き餌役。

 高い値段と容姿を見せて諦めかけた相手に、自分でも手が届きそうな商品を選ばせる。私が言うのもなんだが、良い考えだろう。


「いやぁ、シズナが来てから売り上げが良いね。もう少し付き合って貰うよ」

「……」


 この女商人は今の所私を売る気が無いようだ。

 相手によって私の値段を変えている。ギリギリ以上届かない値へと。これは何時まで続くのだろう――。





 そんな退廃的で非生産的な日々を過ごす中、15歳を少し過ぎていた。


 自身の容姿も上がったと思う。

 奴隷商会の中で文字通りに磨かれた肌。癖のない黒髪を腰まで下げた艶のある髪。肢体に関しても、身長が160センチくらいまでに育つ。

 妖狐種の女はあまり大きく育たないと聞くので、そろそろ止まるだろう身長だ。


 自分で言うのもアレだが胸もお尻も、程よく脂が乗っている状態。しかも女商人の指示通り冒険者としての訓練は欠かしていない。

 売り物なので一番の状態を保つのが当然なのだろう。丁度よいスタイルになった。


「ほう、この娘は……む、高いな。けれど、欲しい……」

「まぁ何て可愛い奴隷でしょう。して、お値段は……あら、買えないわ……」


 何人もの買い手を唸らせる。それが今の私だ。ちょっと泣きそうな、いや結構本気で号泣しそうな。

 だがそんな日々もいきなり終わりを告げた。それは女奴隷商から告げられた一言。


「シズナ。今日まで良く働いたね。でも、もう終わりだ」

「終わりとはどういう事なのでしょう?捨てられるのですか?なら嬉――」


 私と同時期に入った女の子は皆売れて行き、私が一番の古株状態になってしまっていた。お局かよ……とも思っている。


「違うわ。そんな勿体ない事しないわよ。貴女を売ったのよ」

「……はい?」

「だから、貴女は買われたの。相手方が是非貴女が良いと言ってて、ね」

「指名、ですか……」

「そ。私も話を聞いててね。貴女には稼がせて貰って、元は十二分に取ったし」

「なるほど。ちなみに、お幾らで売られたんでしょう」


 これだけよこれだけ、と女奴隷商は片手を持ち上げて指を3本立たせる。


「……少なくないですか?」

「あら、貴女のおかげでこの5倍は儲かったのよ。短期間でね。それに加えて先方が貴女を前から予約しててね」

「はぁ……?」


 熱烈な指名なんて碌な事になりそうじゃない。変態な紳士か、はたまた淑女か――。


 その人物とは、翌日に会う事になった。

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↑これに最近気付きました。この話以降使用します。


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