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異世界生活の日常  作者: テンコ
第3章 彼女の状況
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3-02

 今回の護衛依頼は私1人。だからこそ魔物の情報を集めたり、通過する道の下調べを行って、万全なつもりだった。

 そしてそれは、私1人で何でもしてやる、という決意であり召喚獣達を呼ばない理由でもあったのだ。

 この状況は魔物等の事は調べても、ミリカさんの忠告を無視してしまった事が、この事態を招いていたと思う。





「わ、私は何もしていないッ!」

「まだ惚ける気かッ!お前は……!」


 言われた内容を否定した。それでも兵士達が私を取り囲む輪を狭めていく。こちらは獣人であり、反撃や逃走を警戒しているのだろう。

 混乱してそれどころではなかったが。


「何故村人を殺して回ったんだ……何の恨みがあって……」

「この、殺人者!」

「やっぱり冒険者なんて乱暴者の集団なんだ!」


 昨日快く受け入れてくれた村長さん、その傍に居る村人が口々に言を飛ばしてくる。理解が、出来ない。

 その声に後押しされたのか、兵士もさらに詰め寄ってくる。そのうち1人の兵士が私の腕を掴んで、そのまま両手を後手に縄で縛った。


 姉さまに話だけは聞いていた魔術の行使を妨害する腕輪。それを無理矢理嵌められた。

 されるがままだが、現状何が起こっているのか分からない私は必死に説明を求める。しかし罵声を返されるだけだ。


「……くっ、もういい。連行しろッ!」

「いやっ……離してください……!」


 兵士がそう言葉を残して私を檻馬車に放り込んだ。この時私が身体的な抵抗をしなかった理由は多々ある。


 ギルドを通して依頼を受けている為、逃げるとギルドで事情を聴かれるだろう。現状、何が起こっているか分からない私では、この人達の証言を覆せるとは思えなかった。

 ここに居る人達を"居なかった"事にするのも、可能ではある。だがこれは悪手だろう追われる身となる。今ここを逃げるだけならそれでも良いが、問題はギルドが私の関係者を取り調べる事だ。


 自身が無実なのは自身が分かっている。だがギルドの取り調べが知り合いに向かうのは耐えられない。

 ここで逃げて反撃できるほど自分の実力も対応も過信できない。そしてギルドが思ったより怖い組織だということは、登録時に知っている。


 慎重に考えていたと思っていたが、焦っていたのか。私はこれ以上思考出来ずに、そのまま連行されてしまった。





 本当なら護衛の集合として、3日後に寄るはずだった街。その街に連れてこられ、そのまま牢屋に押し込まれてしまった。

 それから暫くその中で過ごす事になるのだが、特出すべき点はない。


 意外にも個室が与えられたのだが、これは同じ牢屋に入れた者が結託などしないようにだろう。お風呂などは無かったが、食事は1日朝夕の2回、隙間から入れられる。最底辺の生活、とまでは言えないが最低な環境。


「出せよぉぉ!」

「ひひッ――」


 別の牢に入っているのだろう、男の声も女の声も聞こえる。気が、滅入りそうだ……。





「おい……出ろっ」


 1週間程だろう経っただろう、兵士に言われて牢屋を出る事になる。身支度をする暇もないまま、同じ家屋の一室に押し込められた。ここまで目隠しをされており、詳しい場所は不明だ。


 目を覆う布を取られた私は、促されるままに部屋の壁際に立たされる。そこには複数の兵士と、あの村の村長ムルゥ。それに見知らぬ、それも身なりの良い女がこちらを伺っていた。その目は、まるで高価な絵画や壺を品定めするような目つきだったと今なら言える。


「ムルゥ殿。本当に宜しいのか?あれほどの事をしたこの獣人を、まさか……」

「村で話し合って決めた事です。生きてる者で、決めた事なのです」

「そうか、分かった……おい、お前の罪科を確認するッ!」


 兵士と村長ムルゥの会話が続く。それが終わるや否や、私に言ったのだろうか。兵士がこちらに向かって声を張り上げた。

 続く言葉を聞き私の思考は混乱にまたも染められた。内容は、私が村の年老いた老人達を無残にも虐殺したという。


「つまり村の総意で、お前はこれからこの奴隷商に売られるのだッ!」

「何かの間違いですっ、私は何もしておりません!」

「煩い。これは、決まった事なのだッ」


 兵士が最後に締めくくった。隅では何やら村長が、奴隷商と言われた女からお金を受け取っている。

 その直後、両脇に佇んでいた兵士が私を連れてそのまま屋敷の外、裏門で待っていたのだろう馬車に放り込み、手枷などを奥のフックに固定した。


「ちょっと、私の商品ですよ。もう少し丁寧に扱って貰えませんかね」

「それは失礼した。だが、我らは罪人に払う敬意など持ち合わせていないのでな」


 女が声を上げるが、兵士はそう返して奥の屋敷に戻って行く。私は馬車の床上で横這いになったまま女の声を聞いた。


「はぁ。いい商品を手に入れたけれど……」

「あ、あの!私は何もしていないです!」

「……貴女は、売られたの。何があったか知らないけれど、まぁ恨むなら私以外でお願いね」

「売られたって……どういう事ですか!」

「そのままの意味よ。事情は知らないわ。興味も無いもの。じゃ、行くわよ」


 そう言って女は御者の方へ向かって行く。その際に後ろを閉めて。これも檻馬車だったのだ。その馬車がゆっくりと動き出す――





 どれくらい時間が経っただろうか。


 日が傾いて夕方近くになった頃、馬車は止まり、目の前にそびえ立つ大きな屋敷に連れ込まれた。その一室で私は説明を受ける。


「売られたってのは、もう諦めてね。今貴女は"奴隷"なの」

「どれい……」

「そう、概要程度は分かるわよね。冒険者みたいだし」


 冒険者登録の際に貰えた冊子に大体の常識や制度が書いてある。違う国や街に行って、冒険者自体が問題にならないように。そこの奴隷の欄、その説明には目を通していた。


 奴隷。それは言葉通りの身分になった者。


 奴隷は、罪を犯した者が適切な交渉で成る者とする。

 奴隷は、各自治領での資産とする。


 等の規則が幾つかある厳正な制度。この国の奴隷は商品。そして買った者の資産。


 この人はやはり奴隷商人らしい。説明をされると、今回の私は罪を犯したとして裁きを待つ身だった。

 だがそれを村の総意で奴隷として売り払い、そのお金を村が得る。と言うものだったらしい。つまり私はこの女商人さんへ売り払われたのだ。


「……って事ね。先も言ったけれど、どんな事情があったかは知らない。あの男が値段を付けた。私が買った。それだけよ」

「そうですか……」


 今の私はこの世界の魔法、魔術を使う事が出来ない。それは一部の者しか持っていない、魔力を抑制する腕輪を嵌められたからだ。そして先程、この部屋に入れられた時に首輪を付けられた。何の魔術が掛かっているのか、首輪は私の首を隙間なく締め付ける。


 説明を受けた瞬間総毛立った。それは奴隷としての首輪だ。


 この首輪は正当に許可を受けた奴隷商しか所持できない首輪で、それを嵌められた者も理由があって奴隷になった者とされる。

 もちろん、何事にも例外や裏道はあるだろう。しかし今この時、私が正式な奴隷になった事を意味していたのだ。




「貴方は獣人の中でも珍しいのよ。妖狐なんてなかなか奴隷にならないし」

「……」

「まぁ高級品って所ね。売り物の価値は落とさないから安心して」

「……そう、ですか」

「ここは女の子の奴隷専門なのよね。付加価値が上がるって人気なのよ?扱いにも定評があるし」

「……」


 話が頭に入ってこない。こんな事になるなんて予想もしていなかったのだ。不安にもなる。そこに、こんな一言が放たれる。


「貴女を売った村の、村長ね。同じ村の女の子も何人か売ってきたのよ。まぁご同輩かしらね」

「?」

「後で聞きなさい。数日前に同じ村長さんから売られたのよ。値段もそこそこだったから買ったけどね」

「はぁ……」

「とりあえずここで色々学んでね。貴女はとっときの奴隷にする予定だから。冒険者ギルド出なら戦闘奴隷でもいいし――」


 性奴隷も、使用人としてもいいわね、と。


 身体が小刻みに震えるのが分かる。力だけでは、解決できない事態に恐怖する。


「そんなに震えるとは……良いわね。まぁ最低数ヶ月は仕込むから、覚悟を決めてね」


 続きは他の者と一緒に明日、それを最後に、女商人は部屋を出る。その後は使用人さんだろうか、女性のお手伝いさんに指示され退室。促されるままに別の広い部屋へ入ると、女の子が大勢居た。

 何処かで見覚えがあると思い出す。確か、あの村で顔を青ざめながら証言した女の子達だった。


「貴女達は……?」

「ごめんなさい……」


 口々に、私に向かって頭を下げる女の子。どうしたのだろうか?


「本当は、あなたは何も……」

「そうです……何も悪くないの……」


 嗚咽を漏らしながら、少女たちは口々に語った。


 ――いま、なんて言った?


「どういう、事、なんですか?」


「実は――」


 その話を聞いた私は、ここ何日かの目まぐるしい日々を思い返し、怒りで目の前が黒く染まる事を経験した。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 胸糞描写があるぐらいの警告はいれておいてほしかった 主人公がこれからどうなるかわかっているのに何もせずただ奴隷になっていくだけなのが疑問に思いました [一言] 自分には合いませんでした…
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