2-XX 幕間 彼女の事情2
申し訳ございません。投稿時間を間違えておりました。
目の前の妖狐さんから、まるで殿方の雰囲気を感じています。ですが、どう見ても女性です。
女性の様に綺麗な、と形容できる殿方では無く。淫魔的な部分がこの方は女性だと伝えてきます。しかし同じ淫魔的な感覚で、この方から殿方の雰囲気を感じ取ってもいます。
「シズナさんと仰ったかしら。うふふ。何故かは分かりませんが――貴女、とても良いですの」
――わたくしの口から、自然と言葉が紡がれました。
そう、お母様が常々仰っている、ココロとカラダが求めている様な……事実、身体が火照って、頬に熱を持つのが分かります。女性ですのに、不思議ですの。でも、男性――だとしたら?
「シズナさんは……男性なのですか?」
わたくしの言でこの方は少しの間、固まってしまわれました。ほんの少しの間だったのですが、これでも淫魔の端くれ。相手の仕草を感じ取る事に掛けては一家言あります。
「アリエル様、それは、どういう事でしょうか?」
「あら、わたくしにも説明は難しいの。特性と言うべきなのかしら……」
不思議ですの。初めてお会いしたのに、自身の秘密を打ち明けてしまいました。それにしても、この方から目は離せません。お母様の言葉が脳裏をよぎりますの。
『本能が押し倒された』
シズナさんは特別わたくしを想っている訳では無いと感じます。私の容姿は、対象ですが優れているのは分かっておりますから、多分その部分に反応なされたのでしょう。
最初にお会いした時とは違って、男性的な雰囲気はあまり出ておりません。でも――
「把握は致しました。けれど、もし私が男性だった場合はどうしたのですか?この状況はかなり悪いのでは」
このシズナさんの言葉通りの事を予想して、フレイツさんを部屋の外に待機をお願い致しました。でも、シズナさんからは好意しか感じ取れませんので、無駄になってしまいましたね。
「んッ……っ……ぁ……」
その後は、わたくし自らの手でシズナさんが確かに"女性である事"を確認させて頂きました。
確認の際に、肌を桃色に染めたシズナさん。
同性のわたくしでも惚れ惚れするほどの、艶のある長い黒髪。後で教えて頂きましたが、烏の濡れ羽色と言うその黒髪と、服から覗く滑らかな肌が、妙にわたくしの中に残りました。
そして白く美しい喉から、か細く紡ぎだされる声。その声がわたくしの耳を、内から蕩かす様に感じます。
悲鳴の如く出される美声と共に、妖狐族の特徴である毛並の良い耳と尻尾、それに加えて花の如く可憐な手足が小刻みに震えています。
わたくしの視線がその震えを捕えた瞬間、湧き上がるようでいて、形容し難い感情が溢れました。
何なのでしょう、わたくしは変になってしまいましたの……。
「良いお友達になっていただける?」
確認が済み、シズナさんの方から護衛を続けて良いか問われたのに対して、もちろんですのと答えた後。わたくしは、自然と友達になって欲しいとお願いしていましたの。
「もちろんです。が、護衛としての仕事をした上で、ですよ。アリエル様」
シズナさんがすぐに答えて下さった事にとても嬉しくなり、取って下さった手が熱を持って、全身に伝播していくのを感じました。
「あら。やっぱりアリエルさんもですか……実は、私も、年甲斐もなく。不思議ですわね」
「まぁお母様。お父様が嫉妬なさいますわよ?」
シズナさんとの出会いがあった夜、わたくしはお母様のお部屋で、シズナさんとお友達になった事を報告していました。
しかしお母様自身も、シズナさんから不思議な物を感じておられ、少し驚きましたの。
私も感じた事をお母様に伝えた所、まぁまぁと喜ばれました。それが何か、お母様から言われてやっと気づいた次第です。それは――
「本能のままの、恋。なのですか?」
「ええ本能です。アリエルさんも、もうその様な年になったのね……」
「抗えないと言う事でしょうか?」
「いえ。あくまできっかけに過ぎません。種としては異性に惹かれるのが常なのでですけれど、今回の場合は一目惚れに近いのではないでしょうか」
少し考えて、理解できました。
子を残すというのは本能。それを女性の彼女に感じたのは不思議ではありましたが、女性と分かっても惹かれるのは、理由があったのです。
恋。
魔族は寿命が長く、子を残すまでに同性の恋を楽しむ方も多いと文献で読みました。
まさか自分に起こり得るとは思いもしませんでしたけれど。
お母様は両手を合わせ、目を細めて喜んでらっしゃいますが、わたくしは不安です。
「お母様……わたくしは、商会の跡取りを見つけなければならないのでは……」
そう、成りあがりの商会らしく地盤を固める事が何より大切。なので、同じ商人の繋がりか、若しくは下級の御貴族様当たりの男子を婿として取り入れる事が必要かもしれないのです。
「いえ、それだけではありませんよ。貴方の事で、ガイシュミ様と話し合っていた事があります」
「わたくしの事でお父様と、ですか?」
「そうです。アリエルさんは、好まれた方と添い遂げても良い、と」
「!……で、でもそれは……それではお父様が商談の際にわたくしを呼んでいた理由は」
咄嗟に聞いてしまいました。しかしお母様は、
「あれは、良い経験になります。哀しい事ですがこれから先、アリエルさんと私は人より少し長い時を過ごさなければなりません」
「種族の血による、寿命の延長。でしょうか」
「その通りです。あの人は今の病気から快復されても、私達より先に亡くなるでしょう……」
お母様が哀しそうに目を伏せられます。こんな事を言わせてしまうのは心苦しいと思いました。
けれどお母様は続けられ、
「ガイシュミ様と話し合って、決めたのです。経験できる事は出来るだけ見せておこう、と」
「お父様……」
「商会自体は、スルドナさんが率いて下さいます。あの方に感謝して、アリエルさんの好きに生きて欲しい。それが、私達夫婦の願いです」
「お母様……ありがとう、ございます」
やはり、わたくしは溺愛をされていたようです。その愛の深さに、感謝の念が堪えませんでした。
それから暫くはシズナさんと、お友達としてゆっくり過ごしました。わたくしは商会の仕事をお手伝いしながら、シズナさんも護衛として働きながら、ですが。
距離が近くなった気が致します。
屋敷に襲撃なども、護衛の御三方がすぐに対応して下さったりしていました。
スルドナさんに相談もし、どのような事を行えばシズナさんの気を惹けるか、などの助言を貰ったりもしましたの。
その理由は淫魔として、好いた方の温もりが欲しい。という理由でした。これは抗いがたい本能に近く、大抵抱き締めて暫く過ごせば満足できる物らしいのです。
ですがお友達として、護衛としてお傍に居て頂けている中。はしたなくも抱き締めさせて欲しいですとは、わたくしの口からは言えませんでしたの。
何とかシズナさんと2人に出来ないかしら……。
そこでスルドナさんです。
シズナさんが呼び出している召喚獣?の方には、一定の法則があると説明を受けました。何でも、シズナさんが言った命令を曲解せず、しっかり務め上げる、というモノらしいのです。
それは良い事では?と聞くと、
「場合によりけりですこちらの最終目的はお嬢様が淫魔として充填される事ですから色々やりようがあるのです」
「そうですか……わたくしには検討もつきませんが、お力をお貸頂いても宜しいでしょうか」
「もちろんですよお嬢様つきましては――」
その作戦は、大胆でした。
シズナさんが鎧さんと鳥さんに、わたくしを守って欲しいと命令した時が、その時。命令以外動けない彼らは、お嬢様の邪魔は出来ません、と。
命令によって、手出しが出来ない、とも。
その後は、妖狐の方に効くと言われるリラックス効果のある赤い花を見つけ、同時にディアさんと"会話"をして仲良くなっておきます。
淫魔の、相手との"距離"を詰める生まれ持った技能でディアさんと仲良くなっていきましたの。
その時が来た際に、上手く説明できるように。
今では少しの仕草だけで、ディアさんの言われたい事がほぼ理解できる程度になりました。
シズナさんの好みを、それとなく本人から聞きだしたり。スルドナさんを通してギルドにいる獣人の職員さんから、好みの容姿を聞いて貰ったり。
シズナさんに、わたくしへ眼を向けて欲しいと行っておりました。
そして、決行は今日の昼間――
今シズナさんは、わたくしの部屋の中。もっと言うと、わたくしの腕の中で眠っておられます。
13歳にしては大人びていらっしゃるシズナさんは、あの赤い花の効果が効いているのか。とても穏やかに眠られております。
彼女を胸の中に収め、その流れ広がる髪と尻尾をゆっくりと、沿うように撫でます。手から伝わる彼女の体温に意識が向かい、身体が火照ってくるのが分かりました。
暫くそのまま動かずにいると、シズナさんの方から私の脚に、彼女の幼くも柔らかなおみ足を絡めて来ましたの。横臥の姿勢でお互いに横たわっていますので、シズナさんが好んで着てらっしゃる服の裾が捲れ、そこから見えるのは――
「……ぅん……」
彼女の声で我に返りました。わたくしはやましい事はしない……これ以上。
肌を合わせていると、わたくしの身体が満たされていく気がしてまいりました。初めて感じる、全身が痺れるような感覚。知らずシズナさんを抱きしめる手に力を込めてしまい、
「ん……」
少し苦しかったのか、顔を上向けた彼女の、その艶めかしい吐息がわたくしの鎖骨の窪みを撫でます。
つい出そうになった声を、指を噛み締める事で耐え、その分震えた身体を落ち着けます。しかし、
「あっ、ンッ」
まるで呼吸が落ち着いた頃を見計らうように、シズナさんの手がわたくしの腰を回り、その指先が背筋を撫で、そのまま――
「ふぁ……ッ!」
翌日、シズナさんは夜中に送っておいた部屋から出て、休みなのでしょう朝食後すぐに外へ向かわれました。
お母様とスルドナさんには感謝の念が堪えません。お陰様で、身体の調子がすこぶる良いのですから。
種族の能力により、満足した分だけ肌が潤ったり、髪艶が良くなったり外見に影響が出ました。
「あれ。アリエル様、今日はやけにお肌の艶が良いようですね。お手入れの方法を変えられたんですか?」
同じ日の夕食時、シズナさんにそれを見て貰えたのが嬉しかったですの。もちろんシズナさんには、ディアさんに約束した通り昨晩は特に"何も"しておりません。
わたくしはお風呂へ念入りに入りましたし、シズナさんにわたくしの匂いが付いているのは護衛として近くにいるので当然です。何があったか勘付かれる心配もありません。何も問題はございません。
その席でスルドナさんが、お父様の回復を伝えて下さいました。
お父様が戻られるまでに、シズナさんが何者かに襲われるなど重大な事件もありましたが、日程通りにお父様は無事お戻りになられ、護衛を雇う際の終了条件を満たしたのです。
少しの間、シズナさんがいらっしゃってからの期間を想い返しておりました。いけません、今は別れの名目で抱きし、いえ哀しい別れの時間ですの。そんな不純な事は決してありません。
「わたくし、欲しいモノが出来ましたの」
「そ、そうですか」
彼女をわたくしの胸に埋め、腕で抱き締め。
片手で彼女の細い、しっとりと指に吸いつく小さく可愛らしい顎を少し上げながら、そう伝えておりました。わたくしの感情が、本能が恥ずかしながら彼女を求めてます。
たまに男性的な荒々しい思考が伝わって来る、それは美しい彼女。これが恋と言うのなら、頑張って、射とめてみますの。そう決意して、彼女に唇を落としました。
頬を染め見つめ合った彼女とわたくしが、恋人に見えると良いな。
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