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異世界生活の日常  作者: テンコ
第2章 彼の変化
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2-XX 幕間 彼女の事情1

「お帰りなさい、あなた」

「お帰りなさいませ、お父様」

「カーリレル。それにアリエル。ただいま戻ったよ」


 お父様が療養から戻られた日、わたくしにとって悲しい別れがありました。


 初めて出来たお友達。シズナさんが屋敷から出て行かれたのです。それは、元からの契約上仕方のない事だとは理解しております。

 けれど、それでも初めてのお友達との別れは、聞いていた以上に辛いですの。


「あなた。もう私を置いて、何処にも行かないでくださいませ」

「ああ、ごめんよ。分かっているよカーリレル」


 目の前で、ひしと抱き合いながら甘い、まるで寝室での睦言の様にお互いに囁き合っているお2人。

 先程出て行かれたシズナさんなどは、この空気に当てられたのか少し頬を染めてらっしゃいました。

 それはもう、愛らしい表情でしたの……。





 新進気鋭の商人の父、その妻で少し特殊な血を受け継いでいる母との間に、わたくしは生まれました。

 自分で言うのもお恥ずかしいのですが、わたくしは両親に溺愛されて育ったと言っても過言ではございません。


 お父様は元々気性の荒い、それはもう手が付けられないほど激しい商売をされる方だと聞きました。

 それが、お母様と出会いその角を落とされて、今の様に落ち着いた男性になられたそうです。寝物語の代わりに御2人の出会いを話されておりました。


「アリエルさんのお父様はね――」


 この語りから始まる物語は、過去何百回と聞いたか記憶にありません。若干飽きているのは事実です。でも、お母様の嬉しそうな顔を見て、止める気にはなれませんでした。


「あの人ったらね――」


 ……ちょっと止めたくなる日も、稀にございましたが。


 お父様もお母様と同じかそれ以上に、愛情を向けております。娘のわたくしから見ても、仲が良すぎて時々心配になる事があるほどですもの。

 一番心配になるのは、お母様会いたさにお父様が仕事を抜け出す事なのですが、それはお父様の補佐をなさっているスルドナさんが見張っていてくれますので、一応の安心は出来ます。


 スルドナさんはわたくしが生まれる前から商会に仕えてくださっている女性で、わたくしの目標としている方でもあります。

 女性の補佐ではありますが、お父様とスルドナさんが関係を持つとは思ってはおりません。


 それは、その、何と言いますか。スルドナさんは所謂、女性なのに女性が好みの方なのです。屋敷の皆のみ知っている事実。

 何でも、自分より年上のヒューマンの女性が趣味なのだとか。


 そのような事もあり、お母様はお父様の仕事上での不逞を心配していないのです。スルドナさんがその辺りを上手く操って下さるらしいので。


 しかし後になって、スルドナさんに色々助言を頂くようになるとは、思いもしておりませんでした。





 わたくしは能力による経験の為に、殿方が少し苦手です。


「ア、アリエルさん。ぼ、ぼくと北のひ、避暑地にでも行きません、か」

「申し訳ございません。今年は父から商会の運営について学ぶよう言い付かっておりますの」


 お母様に叩き込まれた仕草で挨拶を返し、その後は互いに商人の子供として互いに言葉を交わすだけに。お父様とお相手の方の商談が隣席で続いている中、わたくし達は後学の為に相席を求められる事が多々あります。


 その際に多いのが、わたくしの受け継いだ少々特殊な血の効果で、鼻息を荒くされた殿方からのお誘いです。今は14歳の身なのですが、もう数年もすればお相手を決めなければならないかもしれません。

 その予行練習も含めているのでしょう、お父様とスルドナさんが、わたくしが苦手なのを知っていてこの様な場に連れて来ます。

 もちろん断る事など出来ようはずもありません。お2人はわたくしの将来の為にと、計画されている事なのですから。


「アリエルさん。ごめんなさいね……」

「いえお母様。気にしておりませんの」


 よく、この様な会話をお母様と交わします。


 お母様から受け継いだ淫魔種の血。

 とても薄いとは言え、珍しい種族です。わたくし達母娘の効果だと、殿方から好感を得られやすい、くらいの微々たるものなのですが。


 この効果は、わたくしと比較的年が近い殿方の第一印象を上向かせます。しかし、その後は潜在的な強さと言うのでしょうか。

 すぐ正気に戻られ、自分の意思の下に行動される方がいるそうです。そして血の効力が弱いが故に、わたくしとお母様はそんな方に惹かれるそうです。


 本来淫魔種としての魅惑能力は、相手を虜にして種を存続させる為の物です。ですが、半端と言い換える事もできるわたくし達は、その半端故に魅惑の能力に打ち勝つ異性を好むのだとか。ありのままの自分を見て欲しいと思っているのかしらね、とお母様は言われました。


 わたくしは未だそのような殿方には会った事がございませんが、お母様の体験談を良く聞きます。お父様もその様な方だった、と。


「アリエルさんにも備わっているかと思いますが、相手が自分の虜になっているか、それとも素のままの好意を持っているか、本能で理解できるはずです」

「その様な事が分かるのですか?」

「ええ、淫魔は何より好意と言うものに敏感なのですよ。それは、悪感情であってもある程度分かります」


 物心ついた時に、お母様に自身の能力について説明を受けました。


「ガイシュミ様と目があった瞬間、彼は私に魅了されました。でもすぐ後に、その効果を打ち消すほどの、純粋な好意をぶつけられたのです――」


 その圧倒されるほどの純粋な感情に、自分の本能が押し倒されたのだと、お母様は頬を染めて仰いました。


「な、なるほど。わかりましたの」


 それを聞いたわたくしも、頬が火照っているのが自分でも分かります。


「アリエルさんは、まだ淫魔としては小さいですから。十分に気を付けなければなりませんよ」


 そう締めくくったお母様の言葉、その数か月後に理解致しました。





「大丈夫ですかお嬢様御怪我はございませんかすぐに屋敷に戻ります医療班もおりますので」

「あ、ありがとうございます……」


 相変わらずとても速い喋り口調のスルドナさんが、助けに来て下さいました。


 王都のお店を回って値段の勉強に励んでいた日、わたくしは訳も分からず殿方に連れ去られてしまいました。幸いスルドナさんが、1時間程で助けてくださったので大事なかったのですが、わたくしの魅了が少しばかり効きすぎた殿方の単独犯行だとか。


 実際には解決し、自身には何も無かったのですが、その事件以降殿方への苦手意識が強まり、知らない殿方が怖くなってしまいました。


 それでなくとも王都に住み始めて、お父様のお仕事関係の為に同世代の同性の知り合いが居ない中、なかなか友達と言うものが出来ません。暫く1人なのかと、小さな悩みですが途方に暮れていた時、


 お父様がお倒れになられました。


 その後はもう忙しく動き回るしかありませんでした。

 スルドナさんに治療等の手配を任せ、放心したお母様を何とか説得して、今後の為とスルドナさんと相談して決めた貴族地区の近くに屋敷を移し。


 そんなとても忙しい中、商会のある一派に不穏な動きがあるとスルドナさんから報告されます。

 念の為昔から屋敷に使えて下さっていて、誰とも繋がっていないと分かる使用人の方以外、かなりの金額を渡して暇を出しました。


「お嬢様護衛を雇いましょう奥様も今は気落ちされてるご様子出来る事はしなければなりません」

「そう、そうですね……スルドナさんありがとうございます」


 お父様が倒れられても、変わらぬ忠義を向けて下さいますスルドナさんに感謝し、不穏な敵方に対処する為に護衛を雇う事になりました。


 苦手男性へ意識が強まった事はスルドナさんには伝えておりますので、護衛を雇う際に女性限定の記入をさせて頂きました。

 その際にこんな事があればいいなと思い、同世代の女の子を入れて欲しいと、ギルドの職員さん宛に手紙を認めました。

 この時の自分に、後から感謝しましたの。





 お母様に相談、説得して護衛を雇う事を認めて頂き、冒険者と傭兵の2つのギルドに依頼をかけて数日、1人はすぐに決まりました。虎族のフレイツさんと言う寡黙ながらも、傍に居て安心する女性冒険者の方です。


 屋敷に入った賊を、1人で対処されるほどの手練れ。彼女には感謝してもしきれませんでしたが、暫くフレイツさん1人だけの護衛となってしまいました。

 ご負担になるのではと心配していた矢先。そう、"彼女"が屋敷を訪れたのです。


『初めましてお嬢様。妖狐族のシズナと申します』

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