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異世界生活の日常  作者: テンコ
第2章 彼の変化
39/99

2-17

「合格」

「え?」


 試験官の言葉に呆けてしまう。同じ展開が過去あった様な気がするが、無事にF-のランクに上がった。他の受験者5人も、誰一人欠ける事なく昇格。


「何だ、嬉しくないのか」

「いえ、その、何というかあっさりだな、と」

「当たり前だ。この3日間でどれだけ構ってやったと思ってるんだ。ちゃんと全部見てたんだぞ」

「はぁ」


 そう、この試験は計3日間かけて行われたのだ。


 Gランクが戦える最低限の能力の確認だとすれば、Fランクの場合は外に出て依頼を遂行する能力を発揮出来るか、が主題だと言う。

 すでにGランクで幾つかの討滅依頼を受けてはいたが、今回は倒すだけでは無い。


 適切に遂行できるのか……つまりはパーティを組んでの連携、戦闘外での行動、野営時などでの働き。それらを総合して見られたのだ。


 1日で城壁外の、丁度良い害獣の群れまで進む。この群れを見つける事も含めて、ギルド側の準備が5日間程必要だったらしい。

 その群れを全員で殲滅、処理。そしてギルドまで戻ることが試験であり、このランクからが本当に冒険者の仲間入りだと言う。


「おめでとう、シズナさん」


 イヴァラさんから声をかけられた。


「ありがとうございます、イヴァラさん……」

「何か疑問がありそうな顔ね?」

「はい、疑問だらけです。試験の内容があまり厳しくなくて――」


 打ち明けた疑問に、イヴァラさんはすらすらと答えてくれた。何時も同じような事を聞かれると言う。

 何時もなのか!


 つまりは、この冒険者はギルドがその能力を最低限認めてます、と言うのがFとGランク。

 そのランクに上がる試験、ギルドに入る試験は、その能力をギルドが"確認"する為の手順であり、ギルドが"保証"しますと言う手続きなのだ。


 その答えを聞いて納得する。確かに、最低限保証されていると他の仕事で楽になる。実力を下に見られても、ある一定以上の能力はあると確実に言えるからだ。

 試験自体は基本的な事の確認なのであろう。


「疑問が解けました。ありがとうございます」

「いいのよ。足しげく通ってくれたし、何より可愛い子の頼みだしね」


 先に食事をしたり世間話をしに伺ったりを繰り返して、イヴァラさんとは結構仲良くなったと思うのだ。


 いつか、尻尾を――


「でも尻尾はダーメ」

「!?」

「知ってるのよ?何時もお尻見てた事」

「!!?」


 既知感がすごい。


 その話題には返答せず、話題を無理矢理変える。イヴァラさんはそれ以上言及してくる事は無かった。





 それからは特出する出来事が特にない。


 商隊と屋敷の護衛で潤った資金を駆使し、ミリカさん宅へ遊びに行ったり。王都観光をしたり。買い物等を楽しんだり。そして時折思い出したかの様にギルドで依頼を受け、適度に小金を稼いでいく。


 その間メルカちゃんは獣人特有の早い成長を見せて順調に育ち、今では1歳前にも関わらずかなり安定して歩ける様になっていた。言葉も、意味は不明だが名前を呼んでいるだろう事は理解出来る程だ。


「おい!今俺の名前呼んだぞ!」

「気のせい気のせい。最初に私の名前呼ぶんだもんねー」


 メルカちゃんが少し声を発した際の、夫妻の会話である。何処の世界でも親バカは居るものだ。

 ちなみに、メルカちゃんは最初に「シズナ」と声を出す事になった。





 そんな日々を約半年程送り、14歳になったある日。

 私は少し遠出する必要のある依頼を受けて、城壁外へ出向いていた。ここ最近は1人で依頼を受けるばかりでパーティーの連携はあまり経験をしていない。

 その分生きるか死ぬかの瀬戸際を経験しているとは思うけれど。


 今回は召喚した子達には危ない時に助けるよう"指示"し、低ランクの魔物で自身の身体能力を確かめるのだ。


「クッ……!」

『主様、その程度は大丈夫なはずでしょう』


 いつか護衛の最中に遭遇した土塊人形。

 それらが城壁外1日の距離で辿り着ける泉の周りに大量発生した。今回はこいつらが訓練相手である。

 腐っても人形の名を冠しているだけはあり、人型をしている。


 つまり、攻撃の動作がある程度予測できる、と言う訳だ。訓練には持って来いで、しかも低ランクの魔物。この依頼は賃金が安く、旨味もあまりなかったので放置されていたのを私が受けたのだ。

 自身の訓練、として。


「衝撃は有りましたけど、傷も、まして継続した痛みもありませんね」

『そうだろう、主の能力ではそのような雑魚共、束になっても、な』


 久しぶりに傍へ呼び出したシロクロへ、私に余計な個体が近づかない様にお願いした。そのお蔭もあってか、土塊人形と理想的に相対出来ている。


「やはり、ある程度の衝撃は効かないと思って良いのでしょうね」

『ある程度、と言うのが不明ですが、概ね間違っていないでしょう』


 シロもお墨付きをくれた。その後も、どの様な意図なら自身が傷付くのかを慎重に調べていく。傍から見ていると凶行だと自分でも感じるが、分かっているのと知らないのとでは何が出来るのか判断できない。


 現に、シロクロに"命令"して私を攻撃して貰った。最低限だが安全の為に左腕に噛み付いて貰い、警察犬の様にだが。それでも怪我をしなかった。


 これにはある程度推測が出来る。召喚獣はゲームのシステムにある程度則っている。何もない空間からの呼び出し等、それらを考えれば、召喚獣は所謂パーティーメンバー扱いなんだろう。

 ゲーム中だとプレイヤーや召喚獣、そして自分には攻撃出来なかった。PKが通常サーバーでは出来なかった仕様なのである。


 先にディアに同じように確認した時に、否定されたのはこの為だ。彼女達は理解っていたのだ、そういう仕様だと。


「私自身がそれを知りませんでした……」

『主様もご理解されているのかと……』


 こんな会話があった。そう、皆との考え違いが露呈したと言う訳である。


 判明するのが遅すぎた。ゲームとの違い。ゲームの通りにスキルや道具が使えるのは検証し終えてはいる。しかし、違いについてまで細かく確認をしていなかった。


 これについては、1つ致命的な問題を見る事になる。





 その日も私は簡単な依頼を受けて王都外の森へ来ていた。


 浅い森だったので、ディアとホープを呼びだし"前衛をお願い"した。その後、今回の目標である鹿を捕縛するために探し回っていたのだが、感知圏内に短角狼らしき反応を見つける。

 森の地形的に相対しそうだったので、私が後衛に回り迎え撃つ事に。が、地形と木々を利用して短角狼数匹が前衛を抜けて、私に向かってきた。

 もちろん落ち着いて対処したが、その際にディアもホープもこちらを伺うばかりで助けには来なかったのだ。


『お嬢様、申し訳ございません』

「いえ、あの程度なら私は問題ありませんが。こちらに来なかったのは何か理由が?」

『そうですね。ご指示通り、お嬢様の前にしか出る事が出来ず』

「……え?」


 詳しく聞くと、"前衛として行動"する命令を受けたように、身体が制御されてしまったらしい。これはおかしいと思い、ディアにも確認すると同じ様な感情が流れ込んできた。


 確認の為シロクロを呼び出して、同じ指示で同じように行動したが結果は同じ。

 つまり、私はゲーム感覚で召喚獣に命令を出していたのだが、それは"その行動"しか行えなくなる、と言う事が判明したのだ。



 そう、私がゲームのテイマースキルを使うように指示を出した時には、他の動きがまったく出来なかった。逆に1個体、1個の人格として指示を下すと臨機応変に動いてくれた。全ては私の認識不足であったのだ。


「なるほど……さっきのはスキルとして、前に出るように指示したから……」


 ディアもホープもその命令以外出来なかった。


「あれ?ディアとソラには、"屋敷と奥様お嬢様"を守れって命令を……」


 召喚した本人である私が、その口で強制的に命令していた事を思いだした。私の安全を二の次にして。


 ……考えるのを止めよう。これ以上は駄目だ。あの夜何があったかは知らないが、原因が特定出来たので良しとしよう。


 そんな感じで、1つ1つ自身の事について確認をしていく。思わぬ発見があったり、知っておかないと後々怖い事になりそうな特徴が分かったりして、充実した半年間だったのだ。


 そして私は今、




 奴隷として使役されている。嘘だろ?

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