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異世界生活の日常  作者: テンコ
第2章 彼の変化
38/99

2-16

 お嬢様が16歳になり、その少し後に元気になった旦那さんが戻ってきた。





「シズナさん。戻られてしまわれるのですね」

「そうなります」

「……ここに、わたくしの傍に残るという選択肢も、あるんですのよ?」


 最初に提示された依頼内容を完遂した為に、屋敷を出る事にした。その際の、アリエル様との遣り取りだ。


 約9ヵ月間。このお嬢様とかなり仲良くなった気がする。別れが結構辛いのは自分でも意外だし、慣れた生活が終わるのも寂しい。しかしここで留まるのは、私の成長にならないだろう。


 この前の、獣人襲撃の際に確認した自身の欠点。生きて行く為には、それらを確認、克服しないといけない。


 自分の身体の能力を正確に掴む事。瞬間的に判断する経験。意思ある者としての召喚獣達との関係。身に付けるには甘える訳にはいかない。リーン姉さまにも、最後に言われたのだ。


 "寿命が長い事"


 これから長い時を過ごす上で、自身の力がもっとあればと思う事もあるはずだ。先だって、子供1人を守ることで精一杯であり、自身が助かったのもほぼ運による物だから。


 決意を新たにしつつ、やんわりとアリエル様を押し戻そうとする。しかしいまやお嬢様の方が背が高く、その豊満な胸に顔を埋めてしまっていた。つまり、抱いている。

 よく物語で聞く窒息する事も無く、でも柔らかなモノに包まれて。


「行ってしまわれるのですね……」

「大丈夫ですよ。私は、アリエル様のお友達ですから。お父様もお戻りになられた事ですし、暫したら、今度は遊びに参りますので」

「そう……そうですの。"お友達"ですものね。また、お会いできますわよね」


 お嬢様が私の腰に回していた手を、顔にまで持ってくる。そして顎にそっと手を添え、持ち上げた。私は両手をアリエル様の腰に回したまま。

 あれ?この至近距離でそんな姿勢――


「わたくし、欲しいモノ(・・・・・)が出来ました」

「そ、そうですか」


 え、何か不思議なんだけど。女の子同士ってこんなスキンシップすんの?え?


「少しの間、1人で頑張ってみますの」

「です、ね。お互い頑張り、ましょう」

「ええ」


 何処に何をされたのかは、分からない事にしておこう。

 でもそれがイヤじゃあ無かったのが、私としては不思議で。それでも納得する事が出来たのは、ただ流された結果なのか。


 ちなみにお嬢様の後ろに居たスルドナさんが、すごい良い笑顔でニヤニヤしていた。何だろうね。


 その隣を見ると、まだ体調が悪そうな旦那様が奥様に寄り添われて立っていた。


 旦那様にも一言だけ挨拶を交わし、報酬を貰うためにスルドナさんの方へ向く。 

 ……旦那様と奥様いちゃいちゃし過ぎで、こうなんと言うか砂糖吐きそうなんだ。あまりの甘い空間を直視し続ける事が出来なかったので、目を逸らしたのだ。


 アリエル様はその様子を見て笑顔だし、普通なのか?


 甘い空間を尻目に、受け取った報酬はかなり色が付けてあった。まぁ2度の襲撃を無事切り抜け(ほぼスルドナさんが画策、そして私は相手方に対してもいない)、奥様とお嬢様を守ったからだろう。

 これくらいあれば小さい家なら借りられる。宿なら半年は持つだろうな。


「シズナ君。一緒に過ごせて楽しか、ああ不謹慎だったね。良い経験になったよ」

「こちらこそ。ベティさんと組めて、自身の糧にすることが出来ました」

「若者にそう言って貰えるとは嬉しいね。傭兵ギルドに用があれば私を呼ぶと良いよ。力になろう」


 そうお墨付きを貰い、屋敷を出て別れた。ベッティーナさんも人狼族だ、寿命は結構ある種らしいので、縁があればまた出会うだろう。


「最初に確か後5、6年と言ったかな。今は、あと3年もしたら個人的に(・・・・)会いに来てくれると嬉しいよ」


 それが別れの言葉だった。

 何かベティさんらしい言葉だったけれど、何となくお嬢様の方から視線を感じたので曖昧に笑っておいた。触らぬ神になんとやらである。 


 もう1人の護衛、虎姉御のフレイツさんとはギルドまで一緒に戻る事に。

 口下手だと本人は言っていたが、かなり面白い人である。猫科の性、気分屋かと思いきや律儀な性格で、何度お世話になったか分からない。


 ケモノ度がかなり高い人なので朝の時間だったり、少しの休憩時間に櫛で梳かさせて貰っていた。その体毛を見てるとウズウズしてしまったのである。

 その際のちょっと恥ずかしそうに、でもムッツリした声で、そして尻尾の揺らめきが可愛すぎたのだが。


「無事、終わりましたね」

「……そうだな。大事無く終わった」

「フレイツさんは、暫くはこの王都に?」

「いや、懐は温まった。少ししたら出る」


 彼女は番を探して旅をしている最中で、この王都にはお眼鏡にかなう男を漁りに来たらしい。肉食系すぎない?


 種族によってまちまちだが、虎族は同じ種族としか一緒にならないと言う。生まれた村の中にも良い男がおらず、外に他の村の男を探しに来た、と短い単語で説明された。

 寿命は彼女も結構あるらしく、のんびりとは違うが比較的1つの街に留まるそうだ。王都では5年過ごして見つけられなかった為に、別の場所に移ると言う。


「暫くは、鈍った身体を、正す」


 そう仰って、止まる予定の宿を教えて貰った。奇しくもマクイルさんが泊まっていた宿だ。ちなみに、獣人襲撃の事件は国が無事全ての実行犯を捕まえ、今は協力者の割り出しと捕縛を行っているらしい。


 マクイルさんはギルドの依頼で、衛兵と一緒に捕縛班に入り精力的に働いてるそうだ。ミリカさんがメルカちゃんを抱きながら、


「親バカよねぇ~。娘を襲った相手だから、潰さないと許せないんですって」


 とても朗らかに言って、それでも嬉しそうではあった。





 ぽつぽつ虎の姉御と話しつつ、ギルドに到着。2人でカウンターに向かう事に。


 王都までの商隊護衛の時と同じ様に、ギルドへ依頼の終了報告。そしてギルドカードに、スルドナさんに書いて貰っていた依頼評価を記録していく。依頼主に最中の評価を記載して貰い、それをカードに反映するのだ。

 次の依頼を受ける際の指針になるので重要だと言う。


 今回はスルドナさんが良い評価をしてくれた。私とフレイツさんはその評価に2人して目を見張り驚きつつ、彼女の今までの前科から何か裏があるのでは無いかと、少しだけ疑ってしまった。


 同時に愛すべき虎姉さんは職員さんからD+ランクへ推薦を受け、私はランクアップの試験を受ける資格を貰った。これは他にも同ランクアップ予定者がいるので、同時期に開催すると説明を受けて、後は世間話に移る。


 世間話と侮る事なかれ。

 職員さんと仲良くなって悪いことなどない。向こうの人柄もこちらの人格も知れるし知ってもらえる機会なのだ。これによって依頼に許可が貰えるかどうかも変わってくる。


 フレイツさんは、手続きを済ませた職員さんに商隊護衛の依頼が無いかを中心に聞いていた。私は王都に来てお馴染みの熊獣人、イヴァラさんが手招きしてる方へ向かう。


「依頼終わったのね」

「お陰様で、無事守りきれました」

「私は何もしていないわ。貴女の実力でしょう。で、これからどうするの?」

「適度に依頼を受けつつ、暫く王都を見て回ろうかと。軍資金は稼げましたし」

「そう、良い考えね」


 イヴァラさんが休憩に入る前だったので、ギルドに隣接している軽食屋に入り、昼食を取りつつ言葉を交わす。

 

 後お金に関してはギルドカードを使用して銀行の様にお金を出し入れする。お金という重い荷物を持ち運ぶのは、冒険者や傭兵には大変なのだ。

 あ、この焼き魚美味しい。


 普通の生活をしていると問題にならないが、移動を多くする職業の場合、対応するギルドがほぼサービスで行っているらしい。ほぼ、と言うのは罰金者が出た場合、その金額で補填されている為、である。

 有効利用か……。


 適度に話をして、宿を取りに向かう。御昼休み終わりでまだまだ早い時間だが、早めに宿を取らないと埋まってしまうかもしれないからだ。今回もお風呂の魅力に魅かれてアルキンの宿に向かう。

 いつもの所だ。





 ああ、ランクアップ試験は5日後に決まった。その間は護衛依頼で鈍った身体を動かしつつ、ほぼ自主休業にする事に。簡単な依頼で城壁外に出て、勘を取り戻しつつ経験を少しでも積むためである。


 フレイツさんと宿で早い、必然の再開。その流れで彼女が受けたいくつかの依頼を、私もお手伝いさせて頂けることになった。お互いの実力も癖もなんとなく分かっている者同士、適度に動きやすかったからだ。


『フレイツさん、10秒後に身体強化します。効果は5分間』

「頼むッ!」


 依頼と言っても害獣の駆除だったり、食用の大型獣の捕縛、若しくは討伐だったりする危険度の低い依頼。

 魔物ではないがそれなりに重要な依頼で、仕事としての旨味はあまり無いが、鈍った身体に血を通わせるのに最適である。


 今回は害獣の駆除。

 この世界は放っておくとすぐに野犬等の小型な猛獣が湧き出る。完全に駆除する訳には食物連鎖の観点から推奨されないが、適度に間引くのは必要な為に依頼は定期的に張り出される。


「見える範囲にはいません。感知も同じです」

「……そうか。私も感じない」


 幾度目か遭遇した群れを潰した後、2人で死体の処理を始める。魔術があると楽であり、昔に手古摺っていたのが嘘のように20分ほどで作業を終えた。


「……そろそろ、王都を出る」

「もう、ですか?お疲れでは?」

「問題無い。世話になった」


 今日の依頼をほとんど半日で終えてギルドに戻る最中、唐突に握手を求められた。これで、お別れと言う事だろう。その手を取り、少しだけ力を込めて握る。

 その後は何時ものギルド報告を済ませ、宿に戻って一緒にお風呂へ入った次の日の朝、フレイツさんは王都を去って行った。


 なるほど。立つ虎跡を濁さないどころか、爽やかですらある。

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