表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界生活の日常  作者: テンコ
第2章 彼の変化
37/99

2-15

 謎の賊撃退を済ませ屋敷に戻って来た、その夜。


 淡い月明かりが部屋を、ベッドを窓辺から照らす中。


 私は自身の目の前にある瞳に見つめられ、そしてその視線から目だけを逸らした。


 しかし彼女はこちらに顔を向けたままだ。


 それを意識し、緊張からか少し震える手をゆっくりと服に掛けた。


 自身の息が知らず上がり、吐き出す吐息が静寂に蕩ける。


 身体が熱を持っているのが分かり、この後の事を思って更に頬まで染めてしまう。


 それでも意を決し、身に纏っていた着物を捲る。何処か恥ずかしく、それでいて、勿体つけるように。


 そうだ。私は、自分から――


 着崩れていた服を脱ぎ捨て、その下の長襦袢を晒す。見下ろすと成長途中だろう、それでも柔らかな身体の線。


 肌を撫でるような絹の感触。


 濡れ羽色の髪を彩るような清純で、しかし月明かりに照らされた妖艶な白の着物。


 ふと顔を上げると、こちらを見返している妖狐の少女。これは――誰なのか。


 神秘的な、それでいて背徳的な雰囲気を背に、白い肌を朱に染めて潤んだ瞳でこちらを伺っている。


 見る間に首元まで朱色に染めていくのは、"この"姿に何を思ったからだろうか。


 最後に私自らが腰紐を引くと、留めていた長襦袢が解ける。


 身体の表を流れていく、静寂で淫靡な空気。息を呑む音は果たして、誰のものだろうか。


 私は、合わせていた前をはだけ、白い肌を晒して、自らの手を徐に下腹部へ持っていき――





 ――先程の刃怪我の確認をしてみた。


 大きな姿見が部屋にあってかなり助かっている。それを目の前に置いて傷の確認をしようと思ったのだ。

 

 胸の少し下、腹部の少し上辺りを刺された気がしたのだが、顔を下に向けても"何も"見えなかったから。


 何だか無性に恥ずかしくて、顔が火照ってしまったけれど。


 昼間確かに短剣の刺突を受けたはずなのだが……王都で購入した着物?と長襦袢?のような衣服を貫通しているのは確認出来る。

 しかし、その下は傷一つない綺麗な卵肌。姿見で確認しても見えないのは、やはり傷自体が無いのか。

 それとも、傷が治ったのか。


 もしかしてと思い、背中の確認もディアにお願いしたりもした。いや腹部に当たったってのは分かるのだが、混乱して背中だったかな……?とか。ディアは傷も何もないと何時もの無言を貫いている。


 そこで私は唐突にある考えが浮かび、試に自身のステータスを確認。そしてある項目の数値を見て納得した。


 ほぼほぼのMMORPGでは敵方のAtk(攻撃力)と自身のDef(防御力)が一定の数値以上開きがあると、受ける攻撃が0だったりMissだったり、稀にだがダメージ1になったりする


 私はコンシューマのゲームはあまり嗜んでいなかった。が、プレイしていた『どらすれ』では、これに自身の装備やスキルの効果を加味して複雑な計算をしていた。

 簡単に言うと、今回私の防御数値が高すぎてダメージを"受けていない状態"になったのではないか、だ。

 不思議現象。


 ダメージ0とかMissになると、肌すら傷つかないと推測すれば良いのかな……服自体は安物だし、これをゲームから持ってきた装備に着替えたら装備自傷つかないのかな。


 傷が無い原因を絞る事が出来た、と一安心したものの。


「ディア、ちょっと聞いていいかしら」

『……』


 肯定、そんな思いが伝わってきた。


「貴女は私に傷をつけることが出来る?」

『……』


 今度は真逆。否定をされた気がする。


「うーん……そう言えば……」


 そしてその考えに思い至った。

 私は、持っている道具やスキルの検証、自身の身体能力の確認は済ませた。しかし自分自身の身体、つまり、現実となった際のゲームステータスで言う丈夫さは一切確認をしていなかったのである。


 確か結構前にHPの数値は当てにならないなと結論を出した事がある。1回の攻撃で首を飛ばされたら、残りHPが高くてもきっと死ぬからね。でも、"じゃあどこまでの攻撃なら耐えられるか"の検証はしてこなかった。


 結構重要なDef、ゲームだと装備を揃えて底上げしなければならない数値を意識していなかった。何処か歪な、ゲームの設定と現実での齟齬。

 確かに私自身色々使える。それはスキルであったり、身体能力であったり。召喚獣もそうだ。彼ら彼女らはについては、最初のシロクロ以外何も確認していない。


 私は、自身でさえ知らない事だらけだ。


「今この事が分かって、良かったと思えばいいのかな……?」


 魔法だなんだと浮かれてそっち方面ばかり気にかけていた自分。その選択を失敗とは思えないが、何処か幼かったように感じる。そりゃ、不思議現象は男のロマン的な物もあって、テンションが上がっていたのもあるし。


 根本的に足元が疎かだった。

 今回それに気付けたのを喜ぼう。この仕事が終わったら色々試してみるかと思いながら、その日は夜を明かした。





 王都で起こった獣人襲撃事件。名の通り、私達以外にも獣人が何名か襲われ、死傷者も幾人か出てしまったと言うソレ。


 未然に防げた件もそれなりにあったらしいが、如何せん発生件数が多く。全てに対応できなかったとマクイルさんミリカさんと訪れたギルドで、案内された個室に居たギルド職員さんに説明を受けた。


 今回事件を起こしたその相手の名称は、特に無い。ヒューマン至上主義の考えを持った組織である、事くらいが分かった事だという。


 問題はここからで、今回私達が撃退した相手方6人は、確たる目的が有った訳では無いそうだ。


「あぁ?何言ってんだそいつら」

「そうねぇ……でも、ギルドでちゃんと"聞いた"んでしょ?ならその通りじゃない?」

「そんな物なんですか」

 

 上からマクイルさん、ミリカさん、私の順である。

 反発、納得、妥協と存外スムーズに落ち着いた。


「そうです。今回、巷で噂れている組織の上に居る人物も、今回の事を知らなかったと仰ってまして」

「上も……ですか。では何故この様な事が?」

「色々推測は出来ますが、一番の理由は……逆恨みでしょうか」

「?」


 王都に最近着いた人達の正式名称、それは『ヒューマン相互協力会』と言うらしい。なんてネーミングセンス……。

 私に近いものを感じた。


 ともあれその組織自体悪い所は無く、ヒューマン同士技術などを交換し、より良い生活を目指して――その辺りの活動だと説明をされる。

 今回の件にはまったく関係なく。そもそもその組織の名前を利用した、ただのテロ行為?の線が濃厚だと、疲れた顔で職員さんは仰った。


「確かにギルドでは、その集団の来訪は知っていました。しかし、ギルドとしては世間で出回っているような、悪印象では無いのですよ」


 それは根本から、その組織の名を利用した幾名かが居ると、言外に出している感じ。その事を確認すると、


「そうですね。合っていると思いますよ。確証はもちろんございませんが、獣人に恨みを持った人達が勝手に名を使って悪さをした――と言う所でしょう」

「なるほど……つまり、襲ってきた各々の怨恨が原因だと」

「ええ、まぁ」

「?あまり歯切れが良くない物言いですが」

「……確かに、襲撃した何人かに聞いて、それぞれにその様な理由がありました。そして……」


 襲撃した集団のリーダー的な存在が、そもそも居ないのですよ……と。職員さんの下向く顔。解決が出来そうにない、職員さんの諦観が見て取れる、そんな表情。


「だから、根本的には怨恨だと」

「ほぼ全ての襲撃犯を国の衛兵に協力・連携して"無事"捕まえたんですが、個人的な、獣人への怨恨が今回の動機と分かりました」

「個人的……どうしようも……」


 国の運命を左右する、とか。世界の終焉とか。そんな大事件では無く、個人の恨みが集まった"だけ"なのか……。


「こればかりは対処も、ある程度しか出来ないでしょう。まぁ大部分は国の仕事なので、私達は出向と言う名目で協力するだけですが」

「……なるほど」


 つまり簡単に纏めると、私達個人での対処は後手しか回れず、根本的には解決方法が無い、と言う事だろう。ぱぱっと良い案が浮かんで、少ない期間で犠牲も無しに終わらせる事など出来ようはずもない事件だ。


 そんな、個人ではどうすることも出来ない、当たり前の事実を思い知らされ、ギルドを後にした。

ご意見、ご感想をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ