2-06
王都の宿に泊まった翌日。今日は護衛終了の報酬を受け取りにギルドまで来ていた。数名の商人と、私たちここで別れる護衛がギルドの共有スペースに揃っている。
「では皆さん、約半年間ですが大変助かりましたよ」
キュクロさんが商人を代表して言葉を残す。それを合図に各々担当だった馬車の商人と言葉を交わし、そして色を付けた硬貨を渡された。
斯く言う私もキュクロさんから上乗せして貰った報酬、金貨5枚銀貨70枚程を貰いほくほくだ。
「こんなによろしいのですか?」
「ええ。シズナさんがいらっしゃらなかったら進めない場面も多々ありましたからね」
確かに、獣人相手の時は役に立った気がする。
「後は、これに少しでも恩を感じて頂ければと思いまして」
「はぁ。恩……ですか?」
「そうですね。長寿な種族の方と知り合いになっておけば、色々助かる事も多いのですよ」
本人の前でそう言う商人。これはすごい高い事を押し付けられたのかもしれない。
「いつか、私では無くとも。私の子孫、知り合い……いつかお返し下されば」
「壮大ですね……」
「これも勉強だと思って。そう言う訳ですので、私は暫くここで本店務めになりますが。縁があればいらしてください」
「機会があれば、是非」
結構高級な服飾関係のお店らしいので、手持ち的に当分行く機会がないと分かって言ってるのだろう。
「それでは、失礼致します」
商人さん達は足早に去って行った。さて、残った冒険者諸君はと言うと、
「よっしゃー!終わった!」
「呑むっ、今日は浴びるように!」
「買い物したいわ、これだけ貰ったんだから新しい武器くらい……」
「オシャレでもしないのかよ……あ、似合わななんでもない」
良い大人がはしゃいでいる。
毎月25日の同僚や部下達のようだ。こればっかりは何処へ行っても変わらない光景か。私の貰った金額も宿泊まりで3ヶ月は持つ額……けど、今は定期的に収入がないから困る。
貯金も無いし……。
「シズちゃんもそれくらいか。俺たちは今まで貯めてたのと合わせると、なんとか家が借りれそうだ」
「家政婦さんも雇うわよー。さっそく家政婦ギルドに行かないとねぇ」
マクイルさんミリカさんは、もう計画をしているのか。
「今日から探すから、2、3日は宿だけどな」
「ほんとに一緒に暮らさなくていいのー?」
誘ってくれるのは嬉しいが、
「やはり遠慮させて頂きます。御2人の新居に住むなんてとてもとても。それでは、御先に失礼します」
「そーお?気が変わったら言ってねー」
手振りで返事を返す。馬に蹴られそうだし、今日は調べてみたい事があったからこの場を後にしてギルドの受付に向かう。
「すみません、ちょっとお聞きしたいのですが」
「はい。どんなご用件でしょうか?」
「ええっと……この街中で比較的安全に、定期的に金銭が受け取れる仕事……ああ、ランクG+の戦闘技能、あとは特殊技能有で何かないでしょうか?」
「少々お待ちください」
そう、定期的に収入が無いと落ち着かないのだ。ああこれが哀しきサラリーマンの性。
奥に行った職員さんを待っている間に、護衛仲間達が手を振って外に出ていく。手を振り返した後、しばらく自前の尻尾を触りながら受付のお姉さんを待っていると、
「よう、お嬢ちゃん。ここはガキの来るとこじゃねえぜぇ」
「家に帰ってママのおっぱいでも吸ってな」
……なんというテンプレ!
ぶら下げているギルドカードの種類を見るに、魔術師じゃない前衛系のランクF-とFのヒューマンの男2人。
装備に真新しい傷が多いな。これは憂さ晴らしかな?情報が無くて分からないが。これは……。
「すみません、父も母も、もう居ないんです……生活の為にお金が必要で……」
「ああ……いや、そういう事じゃなくてな……?」
「ごめんなさい。私、仕事が欲しいんです……」
「お、おう……」
ちょっと目を伏せながら斜め下を向き、両手を胸の前で合わせて尻尾を垂れ下げる……これで動揺する男はチョロイと思う。いや私も理解出来るが。でもこんな事平気で出来る様になった自分にびっくりだよ!
孤児院に居る時は子供を全面に押し出したけど、今の私は少し少女を付け加えている。モノホンの人には失礼かもしれないが、見た目だけでこれだけ効くのはすごいなぁ。
「ああ、調子に、乗らなきゃいいんだぜ?」
段々尻すぼみになっている最初に声を出した男。もう1人は、少しばかり残っていた他冒険者の視線を一身に受けて居心地が悪そうだ。
何か場がシンとしてるし。
「そーゆう事、だ。覚えておけよ?」
その男達はそそくさと去って行った。ここで指先一つで吹き飛ばせたら物語的に盛り上がるのだろうが、私には無理だな。護衛時に山賊を貫き殺した時とは違って、そんな事は出来る気がしない。
タイミングを図ったように職員のお姉さんが戻ってきた。実際一部始終を見ていたのかちょっと顔が引き攣っていた。
気持ちは分かるよお姉さん。
「……お待たせ致しました。現在4件程、そのような仕事の募集依頼が街に出回っております」
「4件、ですか。少ないですね」
「ええ。安全な仕事は街中で出回る事が多いですからね。冒険者のような技能を持った人用の仕事は限られますから」
そりゃそうだ。王都ほどの都会?では普通の人が普通の仕事をして回っている。ココに来る募集は特殊な物なのだろう。渡された用紙を4枚とも確認する。
1つ目は建物建設の人員募集。これは……ああ城璧内部の櫓の建て替えの為に、城壁外で仮の櫓を建てるのか。それで見張りと護衛、それに作業の雑用処理。物資の運搬、作業員のお世話か。
金銭は……かなり安いな。
2つ目は女性護衛の募集。商人の屋敷に住み込みでの護衛。期限、金額は現地で説明。3名まで……これは良いかもしれない。ギルドで何度も討伐依頼を探して稼ぐより現実的だ。
3つ目はっと、なんだこれ?配達?……腕に自信のある人。根性のある人。口が堅い人。パーティーを組んでない人。仕事条件、金銭等様相談……怪しすぎじゃない?無理無理。
4つ目……王都騎士団の訓練相手?これってただの的って事じゃない?回復は騎士団側持ち、金額はそこそこ。2日に1回は仕事あり……ブラックな気がしてならない。
3、4を選ぶ度胸は無いわー。安全に行こう。
職員のお姉さんに2つめの用紙を渡して面接希望であることを伝える。カードの情報と依頼達成率を見たのか、いくつか職員さん自身から依頼時の事など質問を受け、適度に答えていく。
「サモナー技能をお持ちでしたら、実物をお見せ……あ、新技能ですか。ここでお出し頂いても?」
「ええ、構いませんけれど。広い個室等あればお願いできますでしょうか?」
「そうですね。お待ちください」
お姉さん(熊?多分熊だと思う熊の獣人)は個室の確認をしに席を立ち、すぐに戻って来た。
「お待たせ致しました。5番の個室までご案内致します」
「はい」
カウンターに『商談中』と書かれた札を残したお姉さんの後を付いて行く。
「お掛け下さい、シズナさん」
促されて席に座り、出された飲み物を啜る。臭いがお茶風のジュース!?……あれ私の舌も、まるで成長していない。ちょっと気に入ってる。
「私は黒熊種のイヴァラと申します。では、先のお話しを続けさせて頂きます」
「ええ。何をお見せすれば宜しいでしょうか?」
イヴァラと名乗った職員さんに、何を召喚べば良いか聞く。
「そうですね。今回の依頼は屋敷の外と、部屋の中のかなり限定的な空間での依頼になっております。要は大きさが問題になりますので。そこを考えて選んで頂ければ」
「なるほど……では」
技能を確認すると言うことで、でも依頼に合う選択を見たいのだろう。カードに記載しているテイムモンスターの名と特徴を見ているはずなのに、指定されなかった。
(来て……)
ディアノスと、ソラを選んだ。
『久しぶりだ。ご主人』
『……』
「来てくれてありがとう」
「その、2匹……ですか。これはまた……」
剣と盾を背に、無言のディアノスが私の後ろに佇んでいる。ソラはディアの肩の上だ。
ディアの鎧は部屋に入る日光を浴びて、蒼く煌めいている。その蒼と対照的に灼熱の炎のようなソラが、羽根を広げて少し羽ばたいた。橙の羽が舞う。
「何故、その2種をお選びに?」
「ソラ……鳥の方は屋敷外での活動をさせる為です。そんなに広い場所ではないと依頼書に書いてありましたので、他の獣系だと動きが阻害されるかと」
「なるほど。鎧の方は、人型での屋敷内活動ですか?」
「その通りです」
ふむふむとイヴァラさんは手元の紙に何か書き込んでいる。
ピコピコと小刻みに動く熊、熊耳?もこもこしてて気持ちよさそうだな……なんかもう全然自重できない。尻尾も気になるし。
「すでに1人程ギルド側からは送っております。残り2人募集らしいのですが……今から先方に連絡を取ってみますので。明日の同じ時間に、またこちらへいらっしゃる事は可能ですか?」
「構いません」
「では、さっそく明日面接予定という事で。予定が無くなる場合は明日の朝にお泊りの宿、若しくは家に連絡員を送りますが」
「宿です。場所は……」
その後は最近のギルド内の話等を聞いく。
さっき絡まれた新人さん達は今朝依頼を失敗してしまって気が立っているらしい。他の新人にも絡んでいるので、気を付けるように注意される。他は王都で流行っている物や魔物の特徴を教えて貰う。
丁寧にお礼を伝え、お土産の(賄賂?)櫛を渡した。耳は短くとも、毛のお手入れは獣人の嗜みだ。これは譲れない。その後は王都の店を見て回る事に。
お店を巡る中、チンピラに絡まれる事も無く、奴隷を詰めた檻馬車を見つける事もなく、しかしお上りさんがバレバレだったのか、スリに合ってしまった。
「ってー、離せよ!」
「……その袋には何も入ってないんですが、返して貰えませんか」
ほぼ狐の動体視力で見切り、その手を掴んだ。腰に下げていた袋を狙われたのだが、先のギルド職員さんに注意を受けていたのだ。カモにされやすい、と。情報は命だった。
「うるせええ!手を離せって言ってんだろ!」
ヒューマンの、20歳くらいの男だろうか。
振りほどこうと手を振り回しているが、やはり種族の差はデカイ。どうしても体格のせいで揺らされるが、意外に安定している。
が、別に袋ぐらいならいいだろう、他の人がチラチラ見て来て面倒になってきた。その内1人が近寄って来たので面倒になる前に――
パッと手を離す。
「うおっ!」
男はかなり転げて、そのまま少し唖然とした顔を晒した後、袋を投げ捨てて逃げって行く。捨て台詞は無かった。
そして近づいて来たのは――
「……離して、良かった、のか?」
「ええ、特に問題……は……」
――狼耳のお姉さんだった。これには身体が固まる。狐は狼が苦手なのだろう、ちょっと本能的に恐怖だ。
ご意見、ご感想をお待ちしております。




