2-04
ウルティスの街から出るのを明日に控えた今日。
私は今商隊護衛で同じ班になるスクィールの2人に挨拶する為に、昨日聞いた宿の1室に朝早く向かった。
「こんにちは、マクイルさん」
「よう。良く来たなシズナちゃん。昨日会ってるかな、こっちはミリカって言うんだ」
「初めまして、私は妖狐のシズナと申します」
「スクィール族のミリカだよ。旦那から昨日聞いたわー。その年で冒険者なんですって?」
「ええ、まぁ。明日から宜しくお願い致します」
「こちらこそ宜しくねー。同じ班になるん、だし仲良くしましょ?まずはー……」
お2人は夫婦だったようだ。まぁ見てれば分かるか。
ちなみに冒険者や魔術師のギルドに年齢制限は無い。"自分で考え行動する事"が出来る人が入れるのだと言われているが、特に規定は無い。試験もあるし、そこで弾かれるからだろう。
「じゃ、さっそく依頼に向かいましょ?」
「……え?」
「準備とか無しで、そのままでいいから。簡単な依頼だしちょっとだけだから、依頼の先っぽだけだからね」
「……」
何だろうこの人。何でわざわざ言い回しを変えるんだ?私今子供だぜ?
「おい、ミリカ。シズナちゃん11歳なんだってよ」
ハァっと思いっきり溜め息をつくマクイルさん。
「あははーごめんね?でも11歳かぁ。結構大人びてるわね。あ、依頼は嘘じゃないから」
「ええっと、マクイルさん?」
「すまんな。今まで2人だったし、これから一応班を組むんだから連携を試そうって、こいつがな」
「そうなんですか……で、どのような依頼なんですか?流石に明日出発なのできついのは……」
そうなのだ。明日の出発予定なのに、今日出てもいいのであろうか?
「だいじょーぶ。昨日ギルドの様子見に行ったのよ。あ、こーいった商隊付き護衛で各地を回るとね?ギルドの情報網って便利だなーって実感すると思うわ」
「はぁ……」
「ああごめんごめん話し逸れちゃってるわねぇ。でね、街のすぐ近くで野犬が出たんですって。何でも、結構な数の魔物が森中でヤリ合ったらしくてね……」
続きはこうだ。
森の中で魔物同士の縄張り争いがあったらしい。その争い場所自体は森中の奥らしくかなり距離が離れていたが、そのせいでヒエラルキーが下位の魔物や動物、今回の場合は野犬が街の近くまで逃げて来たそうだ。
ちなみに森中で覇者になった魔物自体は、B~Cランク付近の強豪が偶々通りがかって仕留めたらしい。なんという主人公。
「たまたまギルドで見つけた依頼でね?丁度いいから連携とか雑魚で色々試そうって訳よー」
「理由は分かりましたが、いいのですか?私は仲間同士の連携はほぼ初体験の、初心者と言っていいぐらいなのですが」
「いいのよ?初めてだからこそ、確認しようって事。商隊で街から出るといきなりだからねー」
「まぁ、そうだな。シズナちゃんが良いなら、この件は是非行くべきだとは俺も思うぜ」
マクイルさんにも同意され、私は了承する。
その後は速かった。
野犬程度なら手持ちの薬品等だけで賄えるとミリカさんが言って、そのまま街外へ出る。周りの地形等もギルド職員さんに確認していたらしい。すごいな冒険者。目的地に歩いて向かう。
「へー。じゃあシズナちゃんは魔物を手懐けて、しかも呼べるテイマーなんだ?」
「ええ、まぁ。でもそれはまだ披露するのは早いのでは無いかと思いまして」
「ん、どーして?」
「え、まだ私が信用出来ると決まった訳ではないのでは……」
そうなのだ。
パーティー等ではいくらテイマー技能があると言っても、扱っている元は魔物なのだ。指示を聞くと言っても潜在的には敵だろう、テイマーとその仲間との相互理解が無いといきなりは厳しい。
「私は気にしないわよ、旦那が昨日実力確認してるんでしょ?信用できるもの」
「そうだなぁ、シズナちゃんの人柄が分かるのは時間が解決するにしても、俺は君が信用出来ると思ったんだ」
信頼するのまたは別だけどねと2人のスクィールは笑って言った。何か良いな、こういうのって。
そのままミリカさんに促されて、私はタマを呼ぶ。
「御用ですかニャ、王女様」
とん、と地面に降り立ち可憐にポーズを決める白猫。今回は動物の相手だし、彼女に頼ろうと思うのだ。
「へぇ可愛いわね。喋れるんだ?」
「あ、はい。この子だけですけど」
私はタマに右手を差し出す。彼女はその腕を何故か気品のある仕草で上り、私の頭に上り詰めた。主人は私なんですけどね?まぁ可愛いから良し。
「この子は動物と話せるので、この付近にいる子に情報を聞ければと思いまして」
「便利なものねぇ」
「そうだな。これはいい拾いモノかも……ってすまんすまん。ただ良い技能だなって思ってな」
マクイルさんに失礼な事を言われたが、隣に並んでいたミリカさんの肘で脇を突かれていた。
「ごめんなさいタマ。さっそくお願い出来るかしら?」
「お任せ下さいませニャー。遣り甲斐のある仕事ですニャー」
『ニャー』と大きく響く声を出したタマ。相変わらずあざとい語尾含めて可愛い……森から数匹のウサギが出てきた。
って、ウサギの亜人がいるのにウサギ自体はいるのか……いやいて当然なのか?進化の系統から言って……わからん。
「ふむふむ。ご苦労様ニャ」
タマは私の頭の上に居るまま、まるで王女様に謁見するようにウサギ達が頭を垂れ(ウサギの頭を垂れる仕草って……)て数分。タマは何かしら情報を貰ったそうだ。ご苦労と労っている。
「どうだったの?」
「ニャ。この2、3日で野犬に襲われる同族が増えましたって言ってましたニャー。あっちに向かったとも言ってましたニャ」
あざと可愛いタマが指し示す方向。そちらに野犬がいるのだろう。私はマクイルさんに伝え、判断を仰ぐ。
「よし。じゃ、シズナちゃんとタマちゃんを信じてみるか」
「そーね。闇雲に探さなくていいのは楽だったわ」
確かに私たち3人の感知範囲に野犬らしい反応はない。でも信じて頼って貰えるのは、素直に嬉しいな。タマへの感謝の代わりとして、喉を撫でる。
「ニャー」
そのまま指示された方向に向かう事30分。探知範囲に野犬らしき気配を感じる。亜人の能力は種族差として私が上だが、そこは経験なのだろう、スクィールの2人も私と同時に気づいたようだ。ちなみに揃ってランクはD-らしい。結構高いな。
結論から言うと、野犬17匹の群れは体感15分弱で討滅し終わった。
私はリーン姉さまから受けていた教え通りに、前衛として攻め入ったマクイルさんとミリカさんを後ろから支援。
事前に考えていた通りに陣形を組み、速やかに殲滅を終えたのだ。
「ひゅ~、術師が後ろに居るって楽でいいぜ」
「そうねー。これで慣れたら指示するのが普通なんだっけ?センパイが言ってたけど」
「そうですね。後ろから見ている魔術師や弓師が全体を把握する……それが今の冒険者と師匠に聞きましたけれど」
「みたいだな。やっぱこれはいい拾……っと、すまん。これから暫く一緒なんだ。宜しく頼むぜ」
「シズナちゃん宜しくねー」
マクイルさんに肘を入れながらミリカさんが言う。何となく気付いたけど、これは彼らの実力しかりを私に見せる為だったのかもしれない。
そう思うとなんとなくこの人達は大人って気がした。私も実年齢はそこそこのはずなのだが、この世界では総じて早熟だしなぁ。
結局依頼は17時頃にギルドへの報告含めて終わり、明日の集合を確認して2人とは分かれた。
その後魔道具屋のお爺さんの店に向かったが、昨日に続き、今日も体調が悪く寝ているらしい。リンディちゃんがしっかり店番していたから大丈夫だったけど。高齢の風邪はきついらしいし心配だ。
リンディちゃんにお爺さん宛のお手紙を渡す。手紙には、リーン姉さまを紹介して下さったお礼から、今までの事も含めての報告、そして戻ってきたらまた挨拶に伺う事を書いた。
ほぼほぼ挨拶周りが終わったので、リーン邸に戻る。
今日でリーン邸の最後の夜なのだが、姉さまが居ない。ちょっと気落ちしながら家に入ると、机の上に手紙が置いてあった。
『ちと用事が出来た。明日の夜まで戻れん。達者で』
そんな簡単な手紙が、リーン姉さまとこの街での1年を締めくくったのだ。
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