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異世界生活の日常  作者: テンコ
第2章 彼の変化
23/99

2-01

『マクイルさん、そちらに正面3体追加しました』

「よっしゃ!任せなッ!」

『分かりまし……あ、ミリカさんそっちに右から2体です!』

「りょーかいッ!向かうわ!」


 私が念話で出した指示を受けて、前衛2人が陣形を少し変える。


(そうね……このまま押し切れるかしら。あら……ミリカさんがちょっと厳しいわね『クロ、ミリカさんの方にお願い。シロはこのまま私の傍に』っと、これで良いかな)


 クロは同意し、ミリカさんの方へ駆けていく。


『主様。後方から気配を感じますわ』

『……本当だ。任せていい?私はマクイルさんを支援するから』

『大丈夫です。すぐに片付けますので』


 頼もしいシロの返答に頷き、


「シズナが請う、貫く水刃の力を」


 半年間の間に詠唱を少しだけ短縮出来た水の刃を、マクイルさんと鍔迫り合う土塊人形(ランパス)、その後ろから迫っているもう1体の土塊人形に撃ち出す。

 あれらは水の魔術が浸透し易いので、その魔術に少し細工をするのだ。


「シズナが請う、熱灼く力を」


 浸透した水を媒介に、濡れた部分の温度を急激に上げる。そして、戻す。そう……理科の授業で習ったアレだ。

 難しい事は出来ないが、簡単な事象なら何とか出来る。学が無いからこの程度だが。

 土塊人形は少し間をおいて、濡れた部分から砕けた。後は怪我人が出た時の為の回復魔術の――


「シズ!あんがとよッ……しゃ、これで最後だ、ッ!」


 ――準備をする前に、マクイルさんが残った2体の土塊人形を切り倒し、戦闘は終わった。





「ふぅ……シズちゃん、これで当分一緒に戦えないわね」

「良い事です。ミリカさんは今日だって出るべきじゃ無かったんですからッ」

「はっはっは。ミリカに言ってもダメさ。俺より前に出そうな奴だぜ?」

「もう、マクイルさんまで。笑いごとじゃないですッ!」


 若干膨らみの見られるミリカさんのお腹。いくら土塊人形相手でも万が一の事があったら……。


「そーは言ってもシズちゃん。この商隊の護衛は私たちなんだから。雇って貰っている立場なんだし。それにシズちゃんが言ったんじゃない?お腹にいる時にも教育は出来ますーって」

「それは……意味が違います!」

「まぁまぁ。どっちにしろミリカはこれから当分の間休んでいる事。明日には王都に着くし、約束しただろ?シズちゃんと」

「分かったわぁ。あー、でも……動き足りないッ」


 マイクルさんに仲裁され、本来の話に戻ることにした。


「それで、この商隊は次の王都でどれくらい補給するんだっけ?ミリカ覚えてるか?」

「あなた。昨日聞いたばかりでしょー。確か……あれ?」

「……この商隊はこれで解散です。商会各々が王都からは違う方面に行くそうなので」

「流石シズちゃん。頼りになるわぁ。じゃあいっその事ここにしちゃう?」

「それも良いか。じゃミリカが子を育て終わるまで、この王都に住もう。シズちゃんもどうだい?家、借りようと思うんだけど」


 まさかの新婚夫婦からのお誘い。むりむり入って行けないって私。


「謹んでご遠慮させて頂きます。宿でも取りますよ。あ、でもミリカさんの尻尾を触りに行くかもしれません」

「本当好きねぇ、シズちゃん。貴女も良いモノ持ってるのに」

「それはそれ、これはこれ。です」


 マクイルさんとミリカさん夫婦。

 彼らは……亜人のスクィール種。つまり、リス、なのだ。シマリスの様に垂れている尻尾の愛らしさといったらもう……ヤバイぜ。


「じゃ、今日の不寝の番は俺たちからだな。あ、そういえば。クロさっきは助かったよ。忘れてた」

「そうだったわ。ありがとねークロちゃん」


 そう言ってクロに笑いかけるマクイルさんとミリカさん。さっきミリカさんを援護した件だろう。クロはスクィール夫妻を一瞥した後小さく頷いてそのまま馬車に併走している。

 小規模の商隊護衛として私と夫婦2人は同じ馬車に乗っているが、シロとクロは併走させているのだ。初めは若干後ろめたく思っていたが、


『これ程に走れることは滅多にございませんで。主様はお気になさらず』

『やはり走るのは良いぞ!主よ!』


 その言葉で、考える事をやめた。


 そして流石に半年も一緒に付き合った商隊の人間である。他の馬車の御者も、雇われ護衛もシロとクロを見て何も言わない所か今は頼っている風だ。

 魔物の察知、私よりハヤイシネ。


 大規模な野営地に着いた商隊は、幾つかの火を起こして夕食の準備を始める。私たちも乗っていた馬車の商人、御者さんの護衛をしつつ枯れ枝集めなどを手伝う。

 皆で夕食を囲んだ後は、少しだけ自分の時間を貰えた。

 そこで私は――


「シズちゃん、また造ってるの?今度は……シロちゃん?」

「ええ。クロは造りましたし。それに良い暇潰しですから」


 私は前の世界で諦めかけた造形に手を出している。即ちフィギュア。不寝の番超暇なんだ……これだけの為に、パテを作る魔術を作り上げた。

 成分は違うが、まぁ削りやすいし丈夫だし。個人的にファンドは好きじゃないからなぁ。慣れれば使いやすいって聞いてたけ、っといけない。


「その内ミリカさんをモデルにさせて下さい」

「いいよー?あ、でも子供産んでからにしてね?お腹出てるとこはダーメよ」

「それはもちろん」


 ぽつぽつと言葉を交わしつつ、特別に用意したデザインナイフでパテもどきを削っていく。暫くすると時間が来て、私は先に寝る事に――。





「初めて見ました」

「そうね、私たちもよ。あ、あなたー……水取ってくれるー?」

「はいはい、ほれっ」

「ありがとっ。しっかしデカイわねぇ、この城壁」


 朝早くから野営地を後にした商隊一行は、いつもより少し早いペースで進んだ。それはそうだろう。半日で王都に着くなら、魔物や山賊に会う確率を減らす為に急いだ方が良い。

 馬の体力も持つだろう。その馬の体力を犠牲にして、私たちの前には王都の城壁がそびえ立っていた。


「圧巻ですね……そろそろ並ぶみたいです。私が降りますね」

「あ、いい?宜しくねシズちゃん」


 ミリカさんに見送られ、私は王都に入る列に並んで止まった馬車から飛び降りた。ゴロツキ等に対処出来るように、念の為外での見張りをするのだ。シロクロもいるし、私1人のほうがこの場合楽なのである。


『シロクロ今日もありがとうございます。もう少し付き合ってくださいね……あ、王都には貴方達も普通に入って良いらしいです』

『任せてくれ』

『王都ですか。街中に入るのは久しぶりなので、緊張してしまいますわ』


 仲良く話しつつ、ゆっくり進む馬車に沿って歩む。何事も起こらず門兵の前に出て、商隊の代表が対応に向かった。


「よし、次……は、お前たちか。む、テイマーか?証明書を」

「はい、こちらです」

「うむ……よし、大丈夫だな?」

「ギルドに誓って」

「念のためだが、中で暴れさすなよ?」

「はい、心得ております」


 門兵にギルドカードを渡して確認をしてもらう。カードにシロクロの情報が載っており、その元情報を各地の兵とギルドは共有しているらしい。

 それも、門兵自身は情報を知らず、手元に持っている通信兼確認の為の魔道具(今回は赤いブローチみたいな)でカードを視て貰うのだ。

 問題は起きず、半年間過ごした皆と共に門の中へ。そして、いかにもなファンタジーの街並みに圧倒される。


(やばいな……これはすごい、来てよかった。あ、やっと犬耳が拝めた!今まで居なかったしなぁ)


 今まで通った街や村とどうしても比べてしまうが、流石の王都。デカいし、綺麗だ。大通りとか賑わってるなぁ。結構な人ごみ。


 商隊の代表者と一緒にギルドへ向かい、依頼の達成、別の街からここまでの状況を説明してカードを更新して貰う。今日はここでお別れだ。と思ったのだが、ミリカさんから提案があった。


「シズちゃん、宿取らない?3人で1部屋。私たちが家買うまでは宿泊費あがるわよー」

「いいなぁそれ。どうだいシズちゃん?」

「あー……お邪魔でなければ、是非」

「いいねっ。じゃ、そういうことで。シュティアさんですっけ。この辺の宿で良いのある?」

「そうですねー。何時もはギルド出て左手の宿を勧めるんですけど……女性2人なら、右手に進んだ所にあるアルキンの宿がいいですよ。少しお高いですけどお風呂が付いてますし。テイマーの方用に獣宿が併設してますから。3人でしたらそんな値段でもないかと思いますよ」


 お喋りなギルドのお姉さんに定番の質問をしたら、こちらの会話を聞いてたのであろう。すらすら返ってきた。


「じゃそこで決まりかな」


 ミリカさんが早速私の手を引いて外へ出る。しかし私の目はすぐ傍でふわふわと動く尻尾に釘づけだが。馬鹿なことを考えている間に宿についてしまった。

 シロクロは獣宿に入って貰う。獣肉も注文したし、問題ないだろう。その手続きを終えて宿に入ると何時ものように手早く部屋を取る。

 3人で1部屋。

 ウルティスの街からここまで同じ部屋で過ごす事なんてざらにあったのだ。始めの頃とは違い、遠慮する仲でもない。



「今日は早めに休もう」

「夕食は無理ー……もう寝るぅー……」


 スクィールの2人はもう立ってもいられないとばかりにベッドへ寝ころんだ。ベッドは2つなのだが、もちろん夫婦で1つ、私が1つだ。

 私も夕食は取らないが、お風呂だけは向かう。

 最後にお風呂に入ったのが半月近く前なのだ……前回商隊が寄った所は村だったし、お風呂が無かった。

 いい加減髪と耳、尻尾が荒れる。


 1階のお風呂場に着いて、躊躇なく服を脱ぎ捨ててアイテムボックスに突っ込み、女湯に入る。

 大丈夫今は女なのだ、と決意をしたが他には誰も居なかった。

 貸し切りだと喜びつつ身体を洗い流し、湯船に浸かる。

 お風呂文化が浸透してて良かったぁ。


(ウルティスから出て来て半年……ここまでの旅は順調と言えば順調だ。問題は、ここで何をすれば自分の糧に出来るかだなぁ)


 自分の為に強くなるとあの街で決心してから、少しは成長しているだろうか。そんな事を思いつつ、湯船に浸かってほだされたのか、何時の間にかリーン姉さまとの別れを思い返していた。

明けましておめでとうございます。

今年は宜しくお願い申し上げます。


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