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異世界生活の日常  作者: テンコ
第1章 彼の気持ち
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1-XX 閑話 彼女の終わり

 私はシズナさんを野営地に残して、一人街方面に向かっています。


 予め放っておいた使い魔からの情報だと、あの女はこちらへ向かって来てますね。

 じっとしていればもう少し生きながらえたものを。実際に起こる事を、その目で見たかったのでしょう……。


 監視させていた使い魔から情報を受け、私は向かってくる集団に相対しない、こちらが有利な位置に移動します。

 こちらは100年以上の森でのキャリアがありますからね。


 念の為シズナさんが私の位置に気付いていないのを、シズナさんの方に付けている使い魔で確認し、その時を待つ事に。





 ガサガサと草葉を分け入って移動する音が響く。

 その音に私はいっそう息を潜めました。


 集団が見えた。

 男4人と、女2人。集めていた情報通り、冒険者でも傭兵でも無いわ。あの男の部下か何かの様ね。


 全員が武器を持っていますけど、使い魔からの情報で魔術師は居ないと確認できてますし……問題ないでしょう。

 男4人を先頭にして無造作に進んでますね……距離があるうちに4人を潰しておきますか。


「貫く風を」


 身体に馴染む風の魔術を4つ発動し、男共の胸にぶち当てる。胸を狙うのは一番当たりやすいからです。


「……え」


 最初に気付いたのは、後ろを歩いていた護衛女。男共が呻きながら倒れたのを見て、唖然としている。

 対魔術の防具も術行使も出来ていないのだから当然でしょう。当然男達は助からない。


「……え?え?」

「いやぁぁぁぁぁぁぁああ!」


 ドクドクと胸から血を噴き出して倒れた男共の後ろで、護衛と思われる女と、目当ての女が突然の出来事に狼狽えてますね。


「っ……!」


 護衛女は何が起こったかやっと理解して、腰に差していた獲物を抜いて構えました。


 横にいた、あの女は悲鳴を上げた後腰を抜かして座り込む。情けない。こんな女にシズナさんが害されなくて良かったわ。


「誰だ!出てこい!」


 声を上げる護衛の女。当然反応などするはずがないでしょう。どうせ大した情報も持っていないだろうし、即排除する。


「切り裂く風を」


 小さく呟いた私の声を起点に、発動した魔術が現象を起こして護衛に向かって行きます。この様な仕事に足を突っ込んでいたのですから。自分の行いを恨みなさいな。





 あの妖狐が受けた依頼。

 依頼受注後にそれらしい店を巡っていたので野営地で1泊すると分かった。ついにこの時が来たかと奮い立つ。


 そしてじじいの部下の男達4人と女の護衛1人と私で、その後を追ったのだ。


 依頼達成後に1度野営地に戻る。

 と、買い物中に言っていたのをじじいの部下が聞いたらしい。その野営地を目指して進んでいた時に突然それは起こった。


(何!?何が起こったの!?)


 突然私の目の前の男達が倒れ込んだ。

 その胸から血を流している。


「ね、ねぇ……ねえってば!何があ『ズッ!』え……やぁああああ!」


 何が起こったのか、じじいに無理言って付けさせた護衛女に話しかけた瞬間、その首が飛んだ。


「い、いやぁぁぁ……」


 何が起こってるのか分からないまま、私の腰が抜けるのだけが分かった。

 噴き出す血が座り込む私に降り掛かる。一体何が起こったのか。私が何かしたのか?何で?思考が追い付かない。





 私が放った風刃は真っ直ぐ進み、護衛の女の首を切り飛ばしました。くるくると回って落ちて行く首を、あの女は座り込んで呆けたまま見つめている。

 念のため他に人が居ないか、再度周囲を確認します。問題無かったので態と音を出しつつ、ゆっくりと女に近付く。


「誰!誰なの!?」


 あの女が金切り声を張り上げました。

 それを無視して、少し距離を置いて立つ。


「あ、あの、あの女の!何で!?家にいる、はずじゃ……」


 当然の様に勘違いをしていますね。それもそのはず。

 姿形が私そっくりの使い魔に、家の庭弄りをさせてましたし。随分と単純な罠に掛かってくれたわね。


 暫く無言で見つめました。


「何!何なの!?私は何もして「3年前に売り払った孤児院の子」……え?」


 私はあの女の声を被せるように、でも声を荒げずに事実を突きつける。


「そうよね、シスター……なんて言ったかしら」


 クラリッサ、ですっけね。この女はシズナさんにも同じ事をしようと……。


「何の、事、か、しら……」

「ああ、全て知っているんです。ゾンダ奴隷商会のおじいさんに通じてる事も、一緒にシズナさんを捕まえる相談をしていた事も、今日と明日で実行しようとしてた事も」

「……」

「ああ、貴方には他に隠している事を聞こうと思っていたのですが……」

「し、知らない!何も知らないわよっ!」

「気にしませんよ?貴方をここで殺せば、大体の目的は達成しますし。余裕があれば聞く程度に考えてましたけれど……ここまで簡単に終わるとは思っていませんでしたから、少し困っています」


 使い魔越しに計画を聞いた時は、思わず笑ってしまいました。この人達は、シスターは別の街に行く途中で、他の人は護衛として付いているという設定でシズナさんと野営地付近で合流。

 夜の寝ずの番でも買って出て就寝中を襲う。そんな計画でしたわね。


「……あ、」

「はい?」

「あの、あの女が悪いのよ!いい気になって、私は、私が、他の子に、頼られるはずだったのに!」

「……そう、ですか。前の男の子というのも、そんな理由で?」

「悪い!?あの時は趣味が悪い神父が街に来てね……高かったわよあの子!あの子もあの女と同じだったか『ズッ』あ……れ?」


 目の前の女が喚いてる途中で、私は我慢が出来ずに魔術を放ってしまいました。

 女性のお腹と腰が離れてずり落ちていく様は、見ていてあまり気分のいいものでもありませんね。


 シスターの上半身が声もなく後ろに倒れます。

 このシスターも色々あったのでしょう。でも……こんな女の事情なんて興味ないですわ。

 気にしてたら切りが無いですもの。知ってどうなる事でもありません。


 このシスターの濁った眼、嗤う口元は、教会にシズナさんを貰い受けに行ったときに気づきました。

 じっと、神父の後ろでシズナさんを凝視していたのです。


 ただの勘だったのですが、の為、本当に念の為使い魔を放ってみました。するとその日の夜、人目を気にするように奴隷商会に入っていったのです。

 シスターが?と思ったのですが、それからは使い魔を通して事情は把握しました。


 ギルドにも新しいシスターを探す依頼を出してますし、問題は無いかしらね。シズナさんにバレずに済みました。

 こんな話はもう少し大きくなってから経験させましょう。


 あの子は大人びていますが、時たま抜けてますから。

 夜な夜な繰り返される召喚獣とやら、との会話。シズナさんの声は部屋外に筒抜けですし。

 不安を感じている中に、さらに不快な事を聞かせたくはありません。


 後はこの場の処理を上手く終わらせて、あの大きな狼さん達にもバレそうなら協力をお願いしましょうか。

 あの子達もご主人様の事を大事に思ってそうですしね。

 まあバレないのが一番良いのですけれど……。


 ギルドの職員さんは……流石に気付くかしら。

 シスターの募集依頼なんて特定される事請け合いだもの。まぁ聞かれたら答える程度ですね。将来有望な魔術師に害を加えそうになったのですから。


 そんな事を思いながら、死体の処理をしてその場を後にします。

 戻ったらシズナさんの訓練予定でも立てなくちゃ……そろそろあの子を、外に、外の世界に出すべきなのよね。

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