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異世界生活の日常  作者: テンコ
第1章 彼の気持ち
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1-13

 冒険者登録をした後、まずはリーン姉さまと話し合って、ある依頼を受けた。





 街から徒歩1日半の場所に、大鼠(レストラット)の小規模な群れが発見されたらしい。

 依頼を終えて街の戻る途中の他冒険者が遭遇し、群れの存在を数名で確認してギルドに報告を済ませたそうだ。


 その群れの駆除依頼を、姉さまの名前で受ける。

 現在姉さまはCランク。

 長く生きるらしい種族にしては数字の上で低いかもしれないが、150歳以上の魔術師でもそう簡単に上がる物ではないと言う。

 事実、今現在の上位ランクは殆どがエルフや一部の亜人、即ち長寿種と聞いた。


 寿命が短い種やヒューマンはさぞ不満を持っているかと思いきや、それは違うらしい。


 長寿種は基本的に長生き過ぎて、一生の歩みが遅いらしい。面白い事や新しい体験には情熱を燃やすが、それ以外ではゆっくりと過ごすそうなのだ。

 逆に短命種などは長命種から見ると、その生き様は短い命の炎を燃やす様に見える、と言うぐらい苛烈な一生を送るらしい。これが寿命の差がある世界の常識なのだろうか。


 そんな事もあり、姉さまは、まだCランクで十分とくつくつ笑って仰った。死ななければいつか上がる、とも。





 リーン姉さまから冒険者に最低限必要なものを、店を巡りながら教わり揃えていく。それを私のアイテムボックスに収納する。姉さまの分は自分の拡張袋に入っているそうだ。


『この袋はね、特別な素材で作った袋に、拡張魔術を仕込んだもんじゃ。魔術師でねえと使えんのぅ』


 そう説明された魔道具である。

 昔に冒険者ギルドと魔術師ギルドが共同で開発・販売をしたモノで、この商品も技術革新を起こしたらしい。別の次元に繋げると言う訳ではなく、単純に袋の収納量を上げる魔術らしく、細かい術式は秘匿されている。

 理由と利点は推して知るべし。


 数が出回っており高額な物でもないそうなので、いつか私にも買える訳だ。が、私の場合ゲーム由来のモノがあるので、実際フェイク用かな。勿体ない。


 なんやかんやで準備が終わり、街の外へ。相変わらず暇そうな門兵に挨拶を交わし、報告にあった場所へ向かう。その道中に姉さまから基礎的以外の魔物の情報を教え込まれる。

 今回の標的の大鼠は縄張り意識が強く、最低2匹以上で行動範囲も広いため単独行動は危険。等である。


(野犬みたいだな)


 私は森に入る前にシロクロを召喚しておく。リーン姉さまも使い魔を1匹呼び出した。

 姉さまの使い魔は自身の魔力で作り出される為、姿は自由のはず。今回は動かしやすい小鳥を選んだらしい。エルフと小鳥とかやべぇ可愛い……っとまた口調が。


「んじゃ、こっからは死ぬ可能性も十分ある。気ぃ引き締めな」

「はい、宜しくお願い致します」

「うむ。行くぞえ」


 街から東北に伸びる街道へ足を向けて歩き始める。日々の訓練と種族の身体能力、高ステータスのお蔭で体力はかなりある。でも11歳だよな私……サラリーマン時代は駅階段の上り下りで息切れしていたし、これはこれでアリだ。ちょっと楽しい。


 シロとクロは私の両隣を同じ速さで歩いてくれる。こちらに楽しそうな視線を向ける事から、外に出れて嬉しいのだろう。

 時折通り過ぎる馬車の御者が驚いた目で見てくるが、素知らぬ顔で済ます。テイマーの魔物は契約や魔力で見た目が大幅に変わる事があるそうなので、2メートル近い美しい狼2匹でも大丈夫……と言う事なのだが、そりゃこんな猛獣連れてると驚くよね、普通。


 山賊が馬車を襲ってる訳でもなく、魔物に襲われている貴人に遭遇する訳でもなく、街に一番近い野営地点に1日掛かりで到着した。今夜は私たちのみらしい。夕方少し早い時間と、絶好の準備開始時間なのに誰も居ない。





 ――それは朝に起こった。

 野営地に私とシロクロしか居ないのだ。あれ姉さまは?


 焦る私にシロが手紙を咥えて持ってきた。何々。


 おんしの魔物2匹には説明し終えた。この手紙はおんし宛である。基本的な事はもう教えちょるんで、後はそいつらと協力して済ますんじゃな。テストと言った所かの。まぁ心配はしちょらんが、念の為ワシの使い魔を付けとくけぇ何かあったら教ええや。じゃワシは戻る


 マジか。マジでか。


 確かに依頼は姉さま名義で受けた最低ランクで制限期間もなるべく早くつまりなる早だったけど姉さまの小鳥は何処だ私の頭の上かよ。あ私少し混乱してる。落ち着け。


『主、主の師から成長の為と言付かったのだ。許せ』

『すみません主様。こんな良い機会滅多にございませんので』


 ああ、うん。大丈夫。不甲斐ないご主人様でごめんよ……情けなし。


『ふむ。我らが居る。万が一もないはず。が、念の為彼奴を呼んでは如何か』


 そっか、確かに頼れる彼女ならこの不安も少しは減るだろう。


「そうね。そうしましょう……来て、ディアノス」


 一瞬の後。目の前に蒼を基調とした荘厳な、兜やレッグまで覆ったフルプレートが出現した。この子はソラと同じパッチで導入された、当時かなり話題になったシステムの召喚獣である。

 生産職に特定の鎧を作って貰って、指定されたマップで用意した鎧と『戦場の涙』というアイテムを使う。すると鎧がモンスター扱いになり、それを倒すと経験値とレアアイテムが貰えるイベントだった。

 しかし、テイム職にとってのこのイベントはちょっと違う。


 私は生産スキルを持っていた為、自分でヴァルキリーアーマーを作成し、それを持って知り合いのテイム職皆でマップに向かった。

 そして各々が順番に鎧を呼び出して、皆でHPを減らし……テイムしたのだ。そう、鎧を召喚獣にすることが出来たのだ。

 

 鎧の種類はあまり無かったが、これまでの召喚獣とは趣の異なる配慮に、皆で喜んだのである。

 ちなみに名前はイベント進行時に出会う、戦場で幽霊となっていた女性NPCから貰った。周りのテイマーにも安直すぎるだろと言われたが、名付けのセンスが無い人にしか分からない悩みなんだよ!


 今目の前にいるのは女性らしい柔らかなラインを持った、蒼く美しい鎧の戦士だ。

 "中の人"はいない鎧の戦士。返事を返す事は無いし、そのせいで当初は感情そのものがないと思っていたのだが……。


『彼女は裁縫が趣味で、毎日作品を仕上げておりますわ』


 シロがそう補足してくれた。何でも、召喚してない時の彼女たちは良く分からない空間で楽しく過ごしているらしい。

 その事実にびっくりだよ……。


 寡黙な彼女は細見の両手剣と、大きなタワーシールドを持つ生粋の前衛だ。この見た目と、心に伝わってくる強い守護の感情が、私の心を落ちつけてくれる。彼女に見張りをお願いし野営の片付けをして早速出発する。

 依頼書通りなら、半日ほど歩けば着くはずである。





 暫く周囲を警戒しながら、それでも会話を弾ませリラックスしつつ進んでいると、昼前にシロクロがケモノの気配をいくつか感じた。向こうはまだ気付いていないだろう、ケモノ度はシロクロの方が上だし。

 今は街道を歩いているが、気配を感じる方向は森の中か……。


 距離はまだあるけど念の為警戒しつつ、前方にシロクロ、中衛に私、殿にディアを置いて森へ分け入る。

 私の気配感知の範囲ではまだ確認できないが、シロクロが場所を特定してくれるので躊躇なく進める。他力本願に見えるが、私個人の力などこんな物だしね。

 皆の力を借りるのだ。

 今は未熟だけど、これから皆に追い付いて行けばいい。そう思いを新たにしていると、シロクロが止まる。そして2匹は森の1点を見つめた。


『主、いるぞ。数は……』

『13という所でしょうね。小さい反応は子供かしら。そろそろ主様も確認できる距離に入りますわ』


 ……追い付けるだろうか。主人だよね?私。若干凹みつつ、言われた通りの気配を感じ、私の狐部分がちょっと沸き立つのを感じる。


 狩りの時間だ、と。


 恨みは無いけれど、このまま鼠のコロニーが増えると街に来る商人や、街から出る人々の害になるはずだ。

 なので必要な事と割り切り、皆に指示を出す。シロクロは群れの逃げ道と思われる進路に進ませ、退路を断っておく。私とディアで接触するのだ。


 そう説明し、動き出す。私はアイテムボックスから"銃"を取り出した。ガンナーをしていた時にプレイヤーの露店から購入したレアドロップの銃である。

 私は銃に詳しくなかったが、有名すぎる見た目からデザートイーグルだとは分かる。それを取り出し、右手に持っておく。何ともご都合主義だが、弾が勝手に装填・補充される不思議武器。確かにゲーム時代アイテムに銃弾は無かったしね。


 私は近接武器が使えないから、これを使う事を決めたのだ。人に見せなければ良し。左手に短杖を持って装備を整えディアと一緒に進む。


 さあ、初めての依頼だ。





「今日シズナねえさんは森にいくそうです」

「そうじゃな。早かったのぅ」


 魔道具屋の手伝いに来ていたリンディは、店のお爺さんとそんな会話をする。シズナがリーンに師事しだしての付き合いなので、2人はかなり打ち解けているらしい。お爺さんなどは、


(このまま引き取って後継者にするかのぉ)


 と思っているとかいないとか。


「ねえさん無事に……無事にもどってくると、いいですね」

「3日間くらいの依頼らしいの。リーンが付いとるんじゃ。大丈夫じゃ……いや、リーンなら1人で依頼を受けさせるかもしれん」

「え」

「まぁ大丈夫じゃろう」


 お爺さんはふぉふぉと笑いながらそう答える。


「おじいさんがそう言うなら」


 そう言ってリンディは、小さく笑った。

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