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異世界生活の日常  作者: テンコ
第1章 彼の気持ち
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1-12

 試験に受かった。





 劇的なイベントも無く、試験管が『何だあの女』とか『すげぇ』とか『これで、Gランク……』とか言う事も無く。

 普通に試験開始をして、当然の様に受かった。

何のドラマも無かった。

試験官無言だし。

何だこれ、ちょうはずかしい。


(試験管何か話して!)


 魔術の行使中何度思ったか。


 試験自体はギルドの中にある修練場の、さらに奥にある部屋で行われた。どう見てもシューティングレンジです。


 冊子に試験の内容は書いてなかったのだが、魔術師の場合は着の身着のままでも可能と書いていた意味が理解できる。

 確かに撃つだけ、砲台だ。

 この試験で見るのはレンジの奥に置かれた目標の木人に、いかに正確に当てるか、いうお題。

 パーティー単位で行動する時に、味方に誤射する魔術師などお呼びでないと言う事だろう。

 そんな試験官の顔。どんな顔か忘れたが。


 何か緊張が解けて、思考まで適当になっている気がしないでもない。


 その木人にはさらに場所が指定されており、そこに魔術を撃ち込めと指示が来た。もちろん、ぶち当ててやった。

 試験官は特に感想を言うでもなく、『じゃ、次は使える魔術の種類いくつあるの?』と、どう考えてもお役所の事務員さんのように、平坦な口調で聞いてきたのを思い出す。

 

いくつか使える物を答えて、それもまた試験官に見せて終わった。


 使える魔術の確認の意味は、ギルドに登録する際にそれを一緒に記録して、パーティー募集やギルド側からの依頼時の資料にする為らしい。


 ちなみにこの世界のギルドの証明書はカードタイプ。俗にいうICカードのような性能だ。

 本人の情報を魔術でカード内部に記録し、各ギルドや門兵、本人証明が必要な場所で提示するらしい。

 この技術の利権を廻って何百年か前は、争いにもなったとか。


 そう考えると、ギルドって結構歴史ある由緒正しい職場なのかもしれない。


 そしてさらに革新的な魔術がカードに加わる事になる。

 

 各魔物が死んだときの魔力波形を調べ、解析し、カードに書き込む事が出来る様になったそうなのだ。

 それによって、ギルドが著しく発展することになる。

 そりゃそうだ。

 それまでは倒しても証拠の部位証明やら何やらの確認作業が、冒険者本人もギルド職員もかなり面倒臭かったらしいからね。

 どこの世界でも、手間を短縮する技術が発展に繋がると言った良い例だな。


 そのギルドカードに載せる情報を、試験に受かった今はカウンターで報告している。

 さっきの試験官が書いていた紙を頂き、それをカウンターの職員さんに提出してカードを作って貰うのだ。

 まさに役所。


 その際に、御約束の水晶に手を乗せると言った作業は無く、何故か職員さんが取り出したナイフで指先を切られた。

 ええ何それ。もちろん治療はして下さったが。


(何でこのギルドの人基本的に無言なの。これが普通?説明してよ!)


 疑問で一杯だ。


 職員さんは採取した血を新しく取り出した用紙で拭い、その用紙にこれまた見たことのない魔術を発動。と、その用紙にDNAの螺旋図みたいな模様が浮かび上がり、その下に長い数字が羅列された。

 自分から尋ねると答えてくれた。

 その螺旋がその人物特有の魔力波形らしい。やっぱり変な所で魔術がある技術体系に関心する。


 その数字を打ち込んだカードが程なく出来上がり、晴れて私はG-ランク。冒険者ギルドの一員と相成った訳だ。

 とても感動が薄い。





 今日は説明回にして、ギルドの簡単な説明をしておこう。


 今回私が登録したのは冒険者ギルドの、魔術師としてのG-ランクだ。

 まず魔術師とそれ以外に分かれている理由は、先日疑問に思った事をリーン姉さまに聞いて理解した。

 と言うか簡単な事だったのだ。


 魔術師とそれ以外のギルドカードは色が違う。

 前者は銀色で、後者は赤銅色。これをドッグタグのように、ギルド所属としての活動時は首から下げなければならない規則がある。

 文字通り札を周囲に見せている訳だ。

 そうする事によって臨時にパーティを組み易くしたり、能力虚偽の言を調べやすくする為らしい。

 戦士は戦士、魔術師は魔術師と分かるしね。


 簡単に言うと、パーティーを組み易くする、の1点だ。


 オンラインゲームで臨時にパーティーメンバーを募集するとき、周囲に向かって看板なり発言なりで『当方魔術師LV○○:□□魔法使えます』の様に自分アピールをする時がある。

 それが現実になると途端難しい。


 いきなり知らない人を誘って危険な依頼に行くことは少ないかもしれないが、必要な場合もあるだろう。

 その為にギルドカードを互いに見せる事で繋がるきっかけにはなる、と説明された。


 もちろん問題が無い訳でもない。

 自分の情報を周囲に見せているのだから、規約違反者はそれを利用する事もある。

 魔術師を奇襲して接近技で殺す輩もいるし、遠くから前衛を撃ち抜く魔術師もいたらしい。

 しかし、デメリットを補って余りあるメリット……つまりパーティーが組み易くなり、それによって冒険者・ハンターの行動範囲が増えてギルドの利益が上がったそうだ。

 それが狙いなのだろう。


 まぁ規約違反者は結構厳しめの罰も受けるそうなので、そんな荒事を専門にする人種は、この世界では"比較的"少ないと姉さまは説明して下さった。


 最初はギルドでも何だかんだで、パーティー作りやすいからいいのでは?と鼻歌交じりに決まった事であるそうだが。

 今ではそれが無くてはならないものになったそうだ。


『姉さま。柄の悪い人に絡まれたら、どうすればいいんですか?』

『んなもん、ヤっちまって良い。詰まる所、ギルドに利益を与える・与えるかもしれないヤツの方が優先されるけえのぅ』

『そんなものですか』


……でも結構アバウトな組織なのかもしれない。





 後は私の場合、カードに特殊技能としてテイマーと記載をしている。

 これは先程の試験で一芸の有無を聞かれた際に、実際に行使して見せたからだ。

 

 この世界のテイマーは、姉さまの知識とケットシーのタマの情報を合わせた限り、特殊な才能を持った人が魔物と意思疎通をし、対価や契約で主従の関係になる事を指すと思われる。


 実際テイマーに会った事がないので確定は出来ないが。

 私の場合はゲームのスキルで行う召喚であり、これが少し厄介だった。

 何もない空間から生き物を呼び出す術式は、姉さまの知る限り存在してないと言われたのだ。


 なので、新しい術式を師弟で編み出した事にして特殊な魔術としてギルドに登録をしたのだ。


 この特殊な魔術。

 一見権力者に狙われそうだが、この世界のギルドではそんなことはないらしい。

 ギルド間で出回る情報は基本的にギルド外部・敵対者・関係者以外へ漏らすと、漏洩した人物とその関係者は調べ上げられて、一族郎党皆殺しにされるそうなのだから。

 怖い。


 国や世界を相手取ってる一介の組織は、情報が命なのだろう。

 過去情報を漏らしてしまった事件などもあるらしいが、結構な事件になったと姉さまは語った。

 何それ怖い。

 

 後は、代々受け継がれる技術や、特殊な技、革新的な新技術を持った人もギルドに入ったら一応保障されるそうだ。

 偉い人や、それこそ国と敵対してもギルドに利益があるので守られると言う訳だだろう。

 そして、裏切者には死を……やっぱり結構怖い組織ですよねギルドって。


 そんな訳で自分から風潮したり、自慢げに見せびらかしたりしなければ、こんな事が出来るよ程度の技能にしかならないそうなのだ。

 後は個別にそんな技能を持つ人は多いらしいしね。


 私のスキルも原理が解明出来たら広めると報告はしている。年配のギルド職員の前で誓約書にサインをした。


 ギルドや大きな街の主要な宿には、魔物用の宿泊施設が存在したり、一応テイマーにも人権があると聞いているので、村八分状態にはならないだろう。





 次にギルドランク。

 これは一応の目安として存在するらしい。最高のS+ランクから、入ったばかりのG-ランクまでがあり、対応する案件や魔物の討伐、護衛等を行う際の指針にするそうだ。

 案件のランクは職員が情報を集め、過去の案件等も見直して決定、そのランクに見合う実力の者しか受理しないらしい。

 その為、ギルドの職員はエリート扱いなのだそうだ。


 それもそのはず。依頼を受けて失敗しました~では済まされない。仕事だしね。命がチップなのがアレだが、信用問題なのだ。

 初心者は地道に下位ランクの仕事をこなし、社会的な信用を得て上のランクになる。しかも、-から+への変動には職員の推薦、ランクアップには試験が必要となっており、一気に上がったりは出来ないみたいだ。


 登録したての若造が強い魔物をラッキーで倒して一気に上がる。

 夢はあるだろうが、それを続けなければ信用は得られないということらしい。実力があって、その人の周囲が認めていても、社会的な信用が無い時点でお察しということか。


 結構世知辛い制度もあるが、ギルドは基本的に自由を重んじ、その範囲内でなら保障などもある組織。

 それが、この世界の冒険者ギルドの大まかな決まりだ。自由を保障する為に縛る事でもあるな。


(経験と信用か……なんかサラリーマンっぽい。いや、仕事はどこの世界も皆同じか)





 あとはこの世界で戦争は久しく起こってないが、もし開戦してしまった場合一定の水準以上のランクは他国の戦争に自ら参加出来なくなると言う。


 当然だろう、有益な人材を国の事情で失うわけにはいかない。

 その代わりに自国の戦争の場合は、ギルドに報告をすれば可能、あとは民衆の避難誘導や付随した作戦も参加可能範囲に入るらしいが。


 最後に、規約違反を起こした場合の処罰。

 これはかなり重い。

 先に述べた通りに国家や大陸を跨いで活動する組織なので、規律は厳しくしないと面子も何もないのだ。


 依頼を受けて失敗。

 その場合審査が入り、仕様が無い失敗なのかどうかの確認がなされる。

 もし悪辣な場合はギルドの信用を傷つけたとして罰則があり、最高は滅多にないそうなのだが、死刑。

 重い方だと、一定期間報酬や依頼で得た金額の没収で、これは10%~90%の間を職員が決定。

 他にはギルド追放等の制度がある。


 依頼書の情報が間違っていた場合。

 その時は成功すれば報酬が倍以上になるらしい。

 

 あとは、努力をして、それでも失敗することはある。

 災害等に巻き込まれた場合。

 これは災害級の魔物や、天候。地震や津波などの災害。妨害者の有無も含めてギルドの職員や上層部で判断されるそうだ。失敗しても仕方ない場合は、話し合いで解決。基本だな。


 もちろん、実力が足りない場合などは問題外。よく居る実力を過信した若者などは、よく失敗をしていきなり10%以上の報酬減額になる事が多いらしい。

 これは恥ずかし事だし、そもそもその場合依頼の許可を出した職員もギルド内で何か罰則があるらしいので、その点でも職員と冒険者の間に信用が必要だ。

 その為のランクアップ試験であったり、ギルドの罰則なのだろう。依頼を受けるところからが勝負だ。


 いきなり災害級の魔物を倒して、ギルド長に呼ばれ一気にランクアップ。などと言った事は、先に述べたように滅多に無い。

 そして想像にあるような荒くれ者的な人は、存在はするが数は少ないと言う。

 何か本当に夢が無いな。

 流石お役所だ。


 長々とギルドについて再確認したが、これで私もG-ランクの冒険者。

 先程召喚獣の登録も終え(魔物を見せて、魔力波形の測定・記録)、リーン姉さまと共に依頼を受けた。





 そして私は今、森の中に1人、置き去りにされている。

 何だこれ。

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