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異世界生活の日常  作者: テンコ
プロローグ
1/99

0-01

(あの頃には、まるで想像もつかなかったなぁ……)

 目の前で揺らめく炎を見ながら、ここへ来てから何度目になるかわからない思いを感じつつ、溜め息をつく。

 今の生活に慣れるまでどれくらい経っただろうか。

 と、とりとめのない事を考えながら鍋の様子を確認し、自分の傍に横たわって頻りに鼻を鳴らす相棒たちの方を見る。


「そうだ、一昨日倒した赤猛熊の肉がまだ余ってたよね……今日は頑張ってくれたから」


 そう声に出して相棒たちを労おうと、私は何もない空間から肉塊を取り出す。

 掴み取った肉塊を見ながら焼こうか焼くまいか悩んでいると、シロとクロの瞳が揃って手元を凝視していた。


「あー……わかった、わかったよ。今切り分けるから、ちょっと待ってて」


 再び同じ動作をして新たに手頃なナイフを取り出すと、肉塊を切り分ける。

 彼らには必要ないのだろうなと思いながら、それでも手近な葉を皿にして二匹の前に差し出すと、彼らはこちらを一瞥したあとゆっくりとだが肉塊にかぶりついた。

 その律儀な動作に苦笑し、丁度いいタイミングで鍋の中のスープが完成したのでさっそくの食事を始める……のだが、こんな仕事をしていると覚えてしまった早飯を無駄に発揮してしまった。

 特に何事もなく食事を終える。

 

「ご馳走様。今日は早めに休むとしましょう。シロクロは先に休んで。今日は私から」


 すでに肉塊を食べ終えて、周囲を警戒しながら毛繕いをしていた二匹はこちらに瞳を向けてくる。

 本来必要のない休息を取らないと私が心配するから仕方ない、と思っているのだろう。

 これにも少しばかり苦笑し、火を絶やさないように木を放る。

 先程も確認しているし、2匹もいるのだが念のためにもう一度周囲の気配と魔力を探知する。

 そのうちシロを撫でつつ、買っておいた本を取り出した。

 今日も長い夜になりそうだ。




 ――翌朝、クロに起こされる。

 今日の昼頃にはこの森を抜けてレスタの街にたどり着くだろう。

 地図を仕舞って、鍛錬の前の柔軟をしつつ朝食の献立を考える。そしていつも通りにゆっくりと身体を動かしながら、"魔力線"の確認も始めた。

 暫く後に軽めの鍛錬を終え、簡単な朝食を食べ終えると二匹を連れて歩き出す。


 シロクロが定位置の左右前方を歩き始めると、そういえばこの数日ほど呼んでいなかったソラを召喚する事にした。

 こちらも定位置なのだろうか、私の肩にとまる彼女。


「よろしくね」


 喉を優しく撫でると、「クルゥ」と見た通りの可愛い声を上げて、上空に飛び立って旋回してくれる。


 暫くシロクロソラと会話しながら歩いているとソラがそろそろ道に出ると伝えてくれた。

 流石にしばらく森中だったからだろうか、足早になろうとする心根に苦笑して、そういえばこういう場合街道テンプレでは馬車追い盗賊殲滅。そしてお礼コースかなと考えが浮かんできた。

 現実に起こると厄介だろうな……。


 しかしもう少しで森を抜けると思った次の瞬間、突然シロクロが向かって右手を向いて臨戦態勢に入る。

 一応私も周囲を警戒はしていたのだが、今回は発見はシロクロが先だったようだ。

 さて、人か、魔物か……。


 私の探知範囲に入った気配の数と魔力量から考えるに人間だろうと当たりをつけ、戦闘の準備をする。

 すでに、相手はこちらを囲むように動き出そうとしていた。





 すぐさまシロクロをその囲いのさらに外へ向かって左右に駆けさせる。

 相手が森中で立てる足音などを感じて力量を測る。この程度の相手に追いつかれるシロクロじゃないので、特に心配はしない。

 逆に自分の方が心配されているだろうと、少し嬉しくもちょっと悲しくなっているとき、相手側から矢を射られる。


 慌てずに準備段階で掛けていた物理障壁によって、飛んできた矢が目の前の空間で甲高い音を出しつつ弾かれる。

 今の動体視力なら、それを捉える事も可能だ。


 弾かれた矢を合図に何人かの、これぞ由緒正しき山賊、の様な格好の男たちが襲いかかってくる。

 全部で3人。

 探知の結果と合わせると2人ほど足りないので弓の後衛と後詰だろうと予測を立て、シロクロにその二人をお願いする。

 まぁ大丈夫だろう。


 向かってきた3人のうち、一人が手斧、残りが槍を持っているのが見える。下卑た笑みを浮かべているところを見ると、やはり私の性別背格好は侮られるらしい。

 一番近い相手に"砲身"を向けた。

 一瞬怪訝な表情を浮かべた手斧男の腹に鉛玉を撃ち込んでやる。


 訳も分からない顔のまま腹を撃ち抜かれた衝撃で転倒した男を一瞥だけして、後ろに下がって槍持ち二人に身体を向ける。

 一人はすでにこちらへ走ってきており、一人は何が起こったかも分からず警戒している。

 走ってきている方は何が起こったかまだ分かってはいないのだろう。そいつの片脚にも撃ち込んでやった。


 バランスを崩して転倒する向かって来た男。

 私は昔よりは比較的冷静に考えつつ、残った男を警戒しながら大地の上で呻いている男二人の頭に撃ち込んで止めを刺した。

 こちらを見ていた男の顔が警戒から驚愕、恐怖に移っていくのが少し面白いが、こちらも逃がすつもりはない。


 最後に銃口を向けようとした瞬間、シロクロを向かわせた方向から終わったと念話が届いたので、こちらも負けてられないと残った槍男に発砲する。

 この世界では躊躇などすると死ぬのは自分だ。ソラに周囲の警戒を任せて、シロクロに獲物二人を引き摺ってこさせる。


「はぁ……良くあるイベント、ね」


 そんな事をひとりごちた。


 その後は結構稼いでいたらしく銀貨32枚と金貨2枚を貰い受け、散らばっている武具や荷物などめぼしい物をバッグに詰め込んでゆく。

 思えばこの一連の流れにも慣れたものだなぁ……。





 1時間ほど時間が潰れたが、その後は何事もなく昼過ぎ頃には街に着いた。

 シロクロソラの喉を撫でて労いお礼を言って送還してから、こっそり自分の影に護衛を召喚。街に入る列に並ぶ。

 比較的大きな街だと感じながら、自分の番が来たので門番の兵士にギルドカードを見せて確認をして貰った。


「狐の女の一人旅か。珍しいな」

「あー、よく言われます」

「ははすまんな。で、さっきそこで消してた魔物は?」

「良く気が付かれましたね……相棒たちです」

「まぁここらじゃテイマーは珍しいからな。魔物かと思ってなぁ。俺も初めて見た……暴れる心配は無いんだな?」

「ギルドに誓って」

「分かった、カードも問題ないようだしな。ようこそ、レスタの街へ」


 ギルドの場所など質問しつつ、規約通りの身分証明が終わり街へ入ると眼前に石造りの街並みが広がっていた。


(やっと着いた……観て回るのはギルドで用事を済ませて宿を確保してからだな)


 はやる気持ちを抑えてギルドへ向かう。

 大通りを真っ直ぐ20分くらい歩くと、二階建てでかなりでかい建物が見えてきた。間違いないギルドだ。

 ゆっくりと扉を開けると、この時間はまだ他のハンターは依頼中なのであろう、人影はまばらだった。

 昔に初めて入ったときは存外清潔にしていることに面食らったが、今では慣れたもので暇そうな受付の座るカウンターへ向かう。


「ようこそ、レスタの冒険者ギルドへ。本日はどうなされましたか?」

「キリアムから移動してきたので、報告と、討伐の確認をお願いしたいです」

「キリアムですね……はい、お願い致します」

「魔物の出現頻度は特に多くなく、徒歩5日で3度ほどでした。魔物の種類も短角狼に赤猛熊、あとは風羽蜂が何度か。あと山賊らしき人間に襲われたので、5人ほど殺してます」

「はい……では、カードの確認をさせて頂きますね……F+ランクで妖狐族のシズナ様……あ、テイマーの方でしたか。道中で新たに調教なさいましたか?」

「いいえ、特には」

「そうですか……はい、討伐の方も問題無いようですね。情報料として銀貨2枚をお渡し致します、ご確認ください。素材等をお持ちであれば8~10番カウンターまで」

「わかりました。それと……暫く滞在する予定なのでお姉さんのお勧めの宿をお聞きしたいのですが」

「そうですね……女性の方ですと、湯浴みをなされるならギルドを出て右手に見える銀月亭がお勧めです。隣の宿は男性が多いので注意してくださいね」

「ありがとうございます。湯浴み希望なので、売るものを売って覗いてみます」

「はい、あ……暫く滞在なされるのでしたっけ……私はリミエと申します。宜しくお願いしますね」

「宜しくお願いします。では」


 滞りなく報告を済ませ、買い取りカウンターに討伐用紙と該当する素材を出す。私のなめしの技量は並み程度のはずだから、そんなに高くはならないだろう。

 無愛想な男の職員に報酬を貰い、カードの更新を済ませる。E-ランクまではまだ遠いが、別段急ぐほどでもない。


 さっきからチラチラと視線が痛いが、この容姿なら確かに男の目を引いてしまうだろうと諦め足早にギルドを出る。




 紹介された宿はギルドから数十歩で着く距離にあった。受付には恰幅の良いおばさんが居たので、まっすぐ向かった。


「おや、べっぴんさんだね。湯浴みかい?それとも泊まりかい?」

「泊まりです」

「1泊4銀、食事付きならそれに1銀だね」

「とりあえず5日分ほど食事付きでお願いします」


 すぐに銀貨25枚を払う。


「まいど。隣の食堂で朝食は朝6時~9時、昼食は11時~13時、夕食は5時から11時の間だ。出かけるときは前日に言ってくれれば昼食も作るよ。湯浴みは1階で清掃中以外ならいつでも入りな。同じことは各部屋にも紙に書いて置いてあるから大丈夫だろう。字が読めないときは聞きに来な……ほら、鍵だよ」

「ありがとうございます、では」

「ちょいとお待ち、ちょうど昼が終わったばかりだが、賄いならあるよ。食べてくかい?」

「あ、是非」

「いい返事だね。食堂の旦那にユナから聞いたって言えばわかるから。行ってきな。色目使うんじゃないよ!」

「はい……あ、私はシズナと申します、それと明日の昼食も宜しく」


 手振りで返され、指で場所を挿された食堂へ向かう。

 がたいのいいおっさんが片付けをしていたが、ユナさんの名前を出すと無言でソースがかかったパンを持ってきてくれた。

 それにお礼を言いつつ部屋へ行く。


(とりあえず今日は部屋で作業をして……明日は武器屋へ行こうかな。あ!ギルドで手紙渡すの忘れてた……明日でいいか。しっかし、この身体にも慣れたなぁ。さて、"メニュー"のチェックして、尻尾の手入れをすれば夕食なんてすぐかな)


 今後の事を考ながらパンをかじる。


(メルカちゃん元気にしてるかなぁ。あ、そう言えばリーン姉さまはどうなさってるのかしら……)


 こうして羽を伸ばしながら久しぶりの宿で気が緩んだのか、とりとめのない事を考えていた。

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