四月 入学
レーコさんとの同棲生活が始まって半月経った。
レーコさんはあれ以来大人しい。やっぱり夜には出てくるけど。
夜に外出から帰ってくると玄関に立ってたりするからかなりビビるけど、「ただいま」と言ってやれば姿を消す。
一人酒を飲みながらテレビを見てると、ベッドの上に三角座りして一緒に見たり。やっぱり声をかければ消えてしまう。
たまに「さみしい」と言っては寝てる時に金縛りをかけてくるので、そういう時はやっぱり一緒にテレビを見る。
そんな感じで半月過ごして、大学の入学式の日になった。
家を出る時レーコさんは珍しく朝に出てきた。朝だからか、半透明な状態で。
「行ってきます」
そう言うとレーコさんはいつも通りいなくなった。
こういう時位行ってらっしゃいと言って欲しい。
入学式は退屈だったけど、友達はそれなりに出来た。
ただ、ちょっと可愛い感じの女子(中村というらしい)からは露骨に避けられたから、それだけはショックだった。
昼飯は仲良くなった真田と食べて、商店街なんかをブラブラしてから帰宅した。真田は俺が一人暮らしというのを聞くと酷く来たがった。ウチにはレーコさんがいるから無理なので、丁重に断った。勿論本当の理由は言ってない。
帰ると六時を回ってて、レーコさんは玄関に立っていた。
「ただいま」
何故か消えなくて、レーコさんはそのギョロ目でジッと俺を見つめている。
一瞬、息が止まった。金縛りだ。
レーコさんは病的に白くて長い指を俺の顔に伸ばしてきた。
ギチ、とボロボロの爪を俺の額に突き立てるように触れると、そのままレーコさんは消えた。
小さな声で、「おかえり」と聞こえた。