三月 引っ越し
家賃は二万、一人暮らしにしてはそこそこの広さ、敷金礼金無し。ちょっと豪華なマンションで、大学まで徒歩五分、駅まで八分。
まぁそんな物件にはやっぱり"出る"ワケで。
引っ越しも完了して、ようやく一息ついたら、ついつい疲れてそのままベッドにダイブすると、ソレはやってきた。
霊感が強いっつっても二種類あるらしく、霊が近づけないか、霊が見えて憑かれやすいかのどっちかだそうで、当然俺は後者。ヤバいかヤバくないかは大体分かる。
コイツはめちゃくちゃヤバい。
でも疲れきった体は指一つ動かせない。というか、金縛りで動けない。
死ぬのかな。やだなぁ。
そう思ったら、アイツはゆっくりと俺の方に近付いてきた。ほんの少し、鉄臭い。
『…しい』
何か言ってる。それも近付いてくるとハッキリ聞こえてきた。
『さみしいさみしいさみしいさみしいさみしいさみしいさみしいさみしいさみしいさみしいさみしいさみしいさみしいさみしいさみしいさみしい』
うるさい。
「うっせーんだよ! 疲れてんだから寝かせろ!」
口を衝いて出たのは、そんな言葉だった。
それを聞いた途端、アレは俺からバッと離れた。それでようやく金縛りが解けて、俺も体を起こした。
ソイツは俺と年の似た女だった。女っつってもホラー系の髪の毛長くて、前髪の隙間から見える目がギョロッとしてて、ガリガリの。
『さみしいのぉ……死んでよぉ…』
「やだよ、折角大学決まったのに。大体今俺がここで死んでも、アンタ救われないし」
そう言うと、彼女は大きすぎる目からボロボロと涙を零した。但し血の色だけど。
彼女も分かってるんだ。
「じゃあ俺が死ぬまでは、一緒にいてやるよ。それで寂しくないだろ」
害が無ければ、ここは最高の物件に違いない。
彼女はゆっくり姿を消した。
俺は彼女に、レーコさんと名前を付けた。