防げ!獣王ファングのワンワン王国計画
つい面倒になって飛び出してしまった私は悪魔から情報収集をすることにした。
あの狼男、なんとか撃退できたが普通なら勝ち目はなかっただろう。あんなものが何匹もいたとしたら平穏無事な私の生活が危険にさらされてしまう。
生徒の進路相談ついでに夢とか希望をへし折ったり、新人教師の熱血君をいい感じに耗れた人間にしたり……。この日常は守らねばならないだろう。
「起きたか?」
「はうあ!?三途の川の向こうにご先祖が!!ぶぼっ、ほぶ、ぶべら!?」
寝ぼけている悪魔の頬を数発張り飛ばして目を覚ましてやる。
「起きたか?」
もう一度たずねると悪魔は首を縦に振ったのだった。
「気は進まないがお前の頼みを聞いてやろうと思う。だから詳細を教えろ」
さっき鏡を見てわかっていることだが、今の私の外見はせいぜい女子高生くらいの年齢だ。すごんでも大して怖くないだろう。……外見は。だが幸いにして魔力とでもいおうか?内臓破裂パンチとかを出そうとすると手や足の周りがぼんやりと歪んで見える。これを顔に近づけながら聞いてやると悪魔は顔を引きつらせた。
「それ、怖いからやめ……ぐげああああああああああ!!!」
……おっといけない、脅すつもりがついつい当ててしまった。
「すまんな、詳しく聞くから話をしてくれないか?」
「いだだだだだ!?話す、話しますからこれやめてえええええええ」
傍から見れば、美少女がぬいぐるみを抱いているように見えるこの光景。
だが実体は高度なヘッドロックの応用と破滅的な破壊エネルギーによる圧迫といった才能の無駄使い的な拷問だった。
辺りはすっかり夜。うっかりポリ公に遭遇すれば、この格好では補導くらいされそうだ。
適当な公園のベンチに座って落ち着くことにした。
「改めて自己紹介するよ、俺の名はバルだ。こう見えて爵位持ちの悪魔だ。やっと名乗らせてもらえて一安心だよ」
「あ、やっぱ悪魔なんだ」
「そこはもうちょっと驚こうよサディーちゃん……まあ、いいや。さっき来た奴は獣王ファング。俺と同じ次期魔王候補の筆頭で、他にまだ3人候補がいるんだ。全部敵で、特にファングは魔王になったら人間を全部犬にするつもりらしい」
一瞬、全世界の人間が裸で首輪に鎖をつけて四つんばいで犬を演じている光景が脳裏をよぎる。……楽しそうだ。
「いやいや、そうじゃなくて。本当に犬にする魔法をかけるつもりらしい」
「なん……だと!?」
私の頭の中の奴隷パークがワンワン王国に塗り替えられていく。……うわ、つまんねー。
「どうでもいいけどあまり人の思考読まないでもらおうか」
悪魔にアイアンクローをかけながら釘を刺しておく。
「はい!」
力が本格的に入る前に良い返事をする悪魔。
「ところでお前が勝ち残ったらやはり世界征服でもするつもりなのか?」
協力するにせよこの悪魔の企みは知っておかないといけないだろう。今はこんな調子だが、一応はこいつも候補。油断はできない。
「あー、最初考えたけど面倒だし?……俺は元の姿に戻れればこの際どうでもいいかも」
イマイチ要領を得ない回答だったが、どうやら事情があるらしい。
「で、他の候補について何か情報は?」
「え、知らない」
……知っとけよ。
「ファングのワンワン王国構想は有名だし、一部では実行されてることだから、俺も知ってたけど。魔法の国…あー、めんどくさいからもう魔界って言っちゃうね。魔界って広いくせにテレビとかラジオないから情報あんまりないんだよ」
なんだかいくつもぶっちゃけトークをされてしまったが、やっぱり魔法の国じゃなくて魔界からか。
「まあ、4人全部倒せばいいか。どうせろくでもない奴しかいまい」
しかし……何ともいえない状況になったものだ。
家には帰れない。というか直るまであの部屋に戻りたくない。
そもそも何で魔法少女に変身しないといけないんだろうか?魔法使えないし。
「なあ、何で変身するのが魔法少女なんだ?もっと他にあったんじゃないのか?」
バルは目をぱちくりとさせて言った。
「え、魔王の趣味」
よし、全部終わったら魔王は殴ろう。
私はそう決めたのだった。