決着、暴走の果てに…
果たして現れたのは身長180センチ前後、手足はひょろ長く、武器らしい武器も持ってはいない、しかし怒りの形相の骸骨のような仮面から伺える眼球は血走り、歯の意匠の口元からはだらだらと汚らしい涎をたらしている。全身は黒い外骨格で覆われ、各中心線には背骨のようなでデザインの突起が小刻みに移動している。
「ジャアッ!」
吼えると同時にそのままの姿勢で瞬間移動。タイソンに肉薄し、瞬時に防御したタイソンを裏拳で数m弾き飛ばす。
バルは愚か、ファングですら全く目で追えない速度での圧倒的な攻撃。
再び瞬間移動をして今度はサッカーボールキック。
「がはあ!?」
吹き飛ばされるタイソン。しかも今の攻撃には肋骨粉砕キックのスキルが反映されており、2撃で戦闘不能に追い込まれてしまう。
「く、化け物め!」
ファングがエンチャントした牙で噛み付くがそのまま振り解かれて地面にたたき付けられてしまう。
まるで大人が子供と子犬をいたぶるほどの戦力差がそこにはあった。
黒い骸骨は秀一の見てきた死のイメージ、この力は圧倒的な暴力、秀一の心と魔力が一体化した結果、悪夢の怪物が生まれたのだ。
バルは心を読んだことで理解してしまった。今の秀一は、自分の今までを肯定するためだけに自らが呪ったものと同一の存在になろうとしていると。
「ファング、力を貸して!」
自己再生でダメージを修復しているファングにバルは交渉を試みる。
「見てのとおりだ、全力でもこの様だ。俺の試算ではあと5分しないうちに全滅するぞ」
悔しそうに諦めの言葉を言うファングだが、一矢報いるために力を溜めているようだ。
「俺の力とタイソンが巨大化に使っている力をタイソンに上乗せすればあるいは今のサディーちゃんを止められるかも!」
バルの提案はタイソンの魔力回路の増幅だった。二人の魔力はまだ3割程度は残っている。存在に必要な程度遺してタイソンを強化しようというのだ。
「いいのか?奴を倒せる可能性が出てくるがお前は候補から転落確定だろう?」
サディーを倒し、魔力がなくなれば自ずとリタイアだ。
「いいよ、あんなのは地獄にもいないんだ。人間の心の中の怪物なんて放置しちゃだめだ!」
果たして願いが通じたのか、ファングは一瞬瞑目すると
「わかった。協力してもらうぞ!」
タイソンも瀕死状態から回復魔法で復帰する。
「おい、あの子狙われてるぞ!!」
タイソンの視点の先には、倒れた未来とビャッコがいた。秀一は
ガシャンガシャン
と、金属音をたててゆっくり歩いていく。
「グ、ガガァ?」
声にならない声で何かを発した秀一はビャッコを拾い、食った。
ボリボリグシャボキグチュクチャクチャ。
一瞬呆気に取られていた3人は、次に未来を持ち上げ、頭から噛み砕こうとしているサディーに驚愕した。
あごが割れて、巨大な牙を展開するサディー。
「やばい、タイソンお前の魔力を増幅する、あいつを止めてくれ!!」
バルが魔力をタイソンに注入し、ファングもプル男になりつつも残りの魔力を注ぎ込む。
横で起きた変化に伴い、サディーは未来を食べることを止めてタイソンへと向き直っていた。
タイソンの装甲が変わっていく。ファングのすべての魔力により、ガントレットや胸の装甲に狼の意匠がふえ、バルの魔力の影響で羽と角が増える。
「うおおおおおお!くらえ化け物、クロウバイト!!」
爪を巨大化させてアイアンクローの要領で頭を締め付けるタイソン。
ミシミシ、ギシ……
「グガアアアアアアアアア!!」
そのまま翼の出力で地面にめり込ませるタイソン。
翼でさらにうまくなったボディコントロールで縦横無尽のラッシュをかけていく。
サディーの攻撃も全身の突起から放たれるチェーンエッジ、瞬間移動しながらの攻撃、強引な力攻めと、きわめて危険な技が放たれるが、タイソンは全てを凌ぎ、技を叩き込んでいく。
「終わりだああああ!インフィニットロール!!」
デンプシーロールの軌道を翼の急制動で使いこなすタイソン。相手が倒れるまでひたすらバーストとアイシクルエンチャントの温度差攻撃と衝撃をたたき続ける乱舞技が発動する。
その一撃一撃さっきまでのタイソンの倍に匹敵する破壊力でサディーを殴る殴る殴る!
果たしてその瞬間は突然訪れた。一発が黒い装甲を砕いたのだった。
かまわず殴り続け、遂に全面が砕け散ったのだった。
肉を、骨を貫いていた装甲から伸びるトゲにズタズタに引き裂きながら地面へと放りだされるサディー。
急いでバルが駆け寄る。
こうしてサディーは暴走した挙句、敵であるファングの力を借りて救出されるという最低な様をさらす事になったのだった。
「とどめ、刺さないんだな」
サディーがファングとタイソンに言えたのはそこまでだった。
「ふん、俺の力だけではなく、そこの小僧の力も上乗せしての勝利に意味などない。次会った時は叩き潰してやる」
プルプルしながら子犬のファングが言う。
「魔王バトルは俺が終わらせてやるから、アンタはゆっくりしててくれ」
ぶっきらぼうにタイソンが言うと二人は去っていった。
暴走で魔力を使い果たしたサディーは泥のように眠りについた。