物語は突然に
「やあ、そこの君!魔法を使えるようになりたくないかい?」
ある日の下校中、私は珍妙な生き物に遭遇した。
だいぶ日が長くなったとは言え時刻はたそがれ時、妖怪か何かに遭遇してもいい時間ではある。
……が、明らかに揚力を無視した小さな翼は蝙蝠風、頭には角を生やし、小さい牙がはみ出た大きな口……所謂ところの悪魔にしか見えない生き物の提案に乗るのはいかがなものだろうか?そもそもこんな生き物がいるわけがない。夢だな。
「夢なら蹴っ飛ばしても問題ないな」
「え……ちょ、待!?」
何か言おうとしていたが私は渾身の力を込めて蹴り飛ばす。
ドムッ!!
ゴムボールを蹴った様な感触が足に伝わる。遠目で見ている人がいたならばボレーシュートを打っているように見えたのではないだろうか?そのまま奇妙な生物は高速で空の彼方へ飛んでいった。
「ふむ……この感触……夢ではないのか?」
しかしやってしまったものは仕方がない、どうせろくでもないものだろう。さっさと忘れて帰宅を続行することにした。
家に帰ると妹の未来と遭遇した。未来はドブ川を見るような目を私に向けるとさっさと自分の部屋へ入っていった。
昔は慕ってくれていたのに中学生になってからはずっとこの調子だ。
私は着替えるために自分の部屋へ行くと、そこでありえない光景を目にしたのだった。
「ううう…、いてえ、マジでいてえよぉぉ!死ぬ!!全身の骨がバキボキになってるぅぅぅ」
なんとさっき蹴り飛ばした珍奇生物が転がっていた。よく見ると窓ガラスが割れている。
「なんてことだ……ガラスを割ってしまったか」
「そうじゃねえだろうがああああああ!!」
のた打ち回る生物が全身から血をピューピュー噴出させながら突っ込みを入れてくる。まだ元気そうだ。
「着替えるから出て行ってくれ」
そう言って私は廊下に血まみれの生物を出すと15分ほどかけて服を選び、着替え終わったあともカーペットの染み抜き(血溜りの掃除)を20分ほどして、そこから窓ガラスの応急処置を10分ほどした後に眠くなったので寝てしまった。
起きると窓の外はもう真っ暗だった。
廊下に出ると変な生き物?がまだ転がっていた。部屋から出た私を見てぼそぼそと喋っているが聞こえない。
かがんで聞いてみることにした。
「…死ぬから、回復……まほ、を……つか……くれ」
「無理」
「俺と契約すれば、無理じゃないから!!」
魔法かー……特に使えなくてもいいけどこの生き物をどこかの研究者に売ればいいお小遣いになりそうだなー。悪魔と契約とかろくでもなさそうだけど、何かあったら蹴り殺せばいいか。
「ひぃ!?」
悪魔(?)は私の心を除いたのか悲鳴を上げるが、私は契約してみることにした。
「契約してもいいけど、デメリットあったら殺すから」
念を押して言っておく。悪魔は首を縦にブンブン振り回すと空間に魔方陣を作り出す。
「これに……触れて、じゅも…唱えゴホッゴホ!てぇ……」
呪文とか知らないけど。
そう思いつつも魔法陣に手を触れると頭の中に呪文らしき言葉が流れ込んでくる。
……どうやら私を魔法使いに変身させる呪文とその説明が頭に入ってくるらしいが、長ったらしくてめんどいので省略することにした。ちなみにネットの有料サイトのように利用規約がだらだらあったっぽい。当然無視した。
「変身!!」
全身を光が包むと同時に服がはじけとび、30歳の裸身が露になり硬質のスーツが胸、腰、肩、手足を覆っていく!髪が伸び、身長も20センチほど縮んだことがわかった時、私は嵌められたとこに気がついた。
部屋に戻って姿見を見ると、そこには鎧つきの学生服のようなものを着た高校生くらいの美少女が写りこんでいた。
私の名前は佐渡秀一。
『ひでえサド』と言う不名誉な愛称を持つ高校の日本史担当教諭だ。
まさか30を前にして魔法少女に変身することになるとは思わなかったが……それがここまでの大事件になるとはこのときは思いもしなかった。
去年怪談書いてたら私の身が大惨事に…
ちょっと馬鹿な話書いて癒されたいと思いました。
読者の方にエンターテイメントをご提供できれば幸いです。