八週記念 カリスマとflow
高二の夏休みは
僕に新しい出会いと
新しい習慣をつくった。
毎週、頭をひねりながら
考えて描く小説を
彼女に読ませる。
ついでにクロの散歩。
普通の猫はしないが
クロは何故か行きたがる。
こうした新しい出会いも
ありはしたが、日が
経てば学校が始まる。
始業式は終業式と
変わらず、蒸し暑い
サウナのような体育館で
校長や生徒指導部の
話しを聞いていた。
みんながみんな、
少しでも暑さを
やわらげようと
間隔をできるだけ空けて
風通しをよくしようと
するが、汗と校長の話しが
皮膚から、または
耳から耳へと
景気よく出て行った。
始業式が終わり、
体育館から生徒達が
口々に不満を言いながら
出て行った。
僕も体育館の出口に
向かって歩いていたら、
後ろから呼ぶ声が
聞こえてきた。
「お~い!!」
一人の男子が
手を振りながら
近づいて来た。
「ここにいたのか。
探してしまった」
同じクラスの
タイラだった。
「おお!タイラ!!
終業式以来だな」
「そうだな…
って!どうして
僕のメールを
無視したのだ!?」
「いつしたんだ?」
僕は首を傾げた。
「7月のおわりぐらい。
海行こうってメールした
のに返ってこないから
海行けなかったのだよ」
ひどく残念そうな顔で
僕に言った。
「他の人を誘えば
良かったじゃん」
「愚かなり!僕と君
でなければダメなのだよ」
「どうして?」
「どうしてっ!!!」
タイラは叫んだ。
前を行く女子二人が
驚いてこちらを見た。
「君にはわからないのかい?青い海!照る太陽!さらにさらに…」
タイラは身を縮めてから
大きく両手を広げた。
「水着の美女!!!」
「が、僕と何の関係が?」
胡散臭そうな顔をした
僕がタイラに聞いた。
「僕と君の
気品漂うカリスマ美男子ならナンパでごまんと女の子が寄って来るではないか。
カリスマフラッシュ☆」
タイラはその場で
くるっと体を回転させ、歯を煌めかせた。
確かにタイラは
カッコいい。
が、性格のとおりに
彼女ができない。
というか女子を寄せ付けない。
僕とは性格があまりにも
違い過ぎているためか
お互いに尊敬に近い
感情で一緒にいる。
僕はタイラの
自分に対する自信の
持ちように感服する。
(逆にしないほうが
おかしいと思える)
彼曰わく、彼は彼で
僕の謙虚な姿勢を
尊敬している?らしい。
彼の必殺技、
カリスマフラッシュは
幾多の死線を超えた
武者達でさえ、
その眩しい笑みに
戦意を失うだろう。
他にも必殺技を
考えているらしく
僕に時々披露するが
僕のリアクションにより
必殺技にしたり
しなかったりする。
だいたいがボツである。披露された僕は
どうリアクションするか
対応に困り、気を
遣うのでこっちが
よく疲労する。
そんなタイラだが
人望はあつい。
彼から学べるのは
そのカリスマ性。
彼は支持率95%で
生徒会長になった
強者である。
ここまで色々と
彼について語ったが
彼を一言で表すなら
「残念天然カリスマイケメン」である。
「さあさあ、教室に
戻ろうか。
また暇なときに
誘ってくれよ」
「了解した。
では明日なんて
どうだい?
何か運命を感じる
日ではないか!?」
「さすがにそれはない」
「そうかい?
では明後日…」
「いや、やっぱ
僕から連絡するよ」
「了解した!
連絡を受け取って…
あげなくもないがね!」
「ごめん、どっち?」
教室に着いて
席に座るとちょうど
開始のチャイムが
響いた。
帰りのSHRが終わり、
タイラと一緒に
駅に向かって
歩いていった。
「今日は遊びに
行ってもいいかい?
僕に積もる話しも
あるだろう?」
「はぁ?」
「すべては
わかっている。
この夏休みの出来事を
とくと僕に
聞かせたいんだね!」
「いや…」
「案ずるな。
邪魔はしない。
君の語りを
妨げるようなことは
一切するつもりは…
あるようでないね」
「そう…まあ別に
いいけど」
二人でアパートまで
来ると大家さんが
僕達を待っていた。
「おかえりなさい。
あら、タイラ君!
お久しぶりね」
「お久しぶりです。
お元気でしたか?」
「まあまあね。
じゃあ、なるべく早くに
帰るのよ」
「了解しました」
僕達は部屋に入った。
するとクロが
近寄ってきて
出迎えてくれた。
「おお!!なんだい!?
一体どうしたんだい?
猫なんか飼って」
「まあ、お茶飲みながら
話そうか。あがって」
「お邪魔いたそう」
タイラはテーブルに
着いた。僕がお茶を
出すと美味しそうに
飲んだ。
「君が淹れたお茶は
どうも何かが違うね。
誉めてあげなくも
ないがね」
「うん、ありがとう」
「で、これは何だい?」
描き掛けの小説を
指差して聞いた。
「あぁ、それ。
最近、小説を
描き始めたんだよ。
読んでみる?」
第一作目を渡した。
「ふむふむ」
タイラは読み始めた。
ものの3分で
読んでしまった。
「らしいね」
「らしい?」
「うむ。君らしい
素晴らしい小説だ。
モデルは
このチビちゃんかな?」
僕の膝で丸くなっていた
クロを見て言った。
「よくわかったね。
クロっていうんだ」
「クロ…」
僕がクロを見つけた
経緯を話した。
「なんという親子愛!!
心うたれた!!」
それから二人で
夏休みの話しをした。
「一体君は僕の誘いをけって何をしていたんだね?」
「課題やったり、
本読んだり、
公園行ったり、
サッカーやったり、
小説描いたりかな?」
「なるほど。
クロはわかったが
小説を始めた理由が
わからない。
どうして始めたんだい?」
「それは…」
僕は言葉に詰まって
しまった。
「…」
「どうしたんだい?」
タイラが僕の顔を
見た。そして何故か
満足げな顔をした。
「なるほど。
大した理由ではない
ようだ」
するとタイラは
立ち上がった。
「どうした?」
「いや、もう帰ろうと
思ったのだよ。
大家さんに言われた
からには帰らねば。
では、また明日。
小説、頑張ってくれたまえ」
こうしてタイラは
帰った。彼はいつも嵐のように
僕を巻き込み、
嵐のように去っていく。
次の日の放課後、
学校の図書室の机で
小説を描いていた。
タイラも僕の前で
一人でしゃべっていた。
しかも、しゃべりながら
本を読んでいた。
「なんとっ!!
そういうことか!
騙されたぞっ!!」
図書教諭が後ろから
睨みつけているのにも
気づかずに叫んでいる。
周りのメガネをかけた
女子二人組も
何事かとこちらを見る。
「あのさ、タイラ…
悪いんだけど
声を出さずに
読んでくれない?」
とばっちりを喰うのを
避けるためにタイラを
注意した。
「何をいうっ!
これが叫ばないで
いられるだろうか!
カリスマたるもの
書に親しまなければ、
心が豊かでなくては!!」
タイラは熱弁した。
僕が呆れた顔で
「推理小説でも
読んでるの?」
「見たまえ!!」
読んでいた本を
僕に見せる。
「この蝶になる、
というところは
灯台下暗しと
言わんばかりの
貴族が庶民の生活を
しらないというような
展開ではないか!!」
「はらぺこあ☆むし…」
僕が口に出すと
図書教諭と
女子の一人が
大きく吹いた。
タイラが周りをみて
「さあさあさあ!
皆も僕のように
淡々と書をひもといて
くれたまえ」
「ハイハイ」
僕は自分の仕事に
戻った。
帰りもまたタイラと
帰ったが今日は
遊びには行かないと
言った。
「君の小説の邪魔に
なるだろうしね。
カリスマ性をうちに
秘めた大作を心から
待っているよ」
別れ際、ホームで
僕に言った。
彼の要求には
応えられそうにもないが
彼からの激励もあり、
小説を早めに仕上げた。
始業式から土曜日が
一気に過ぎていった。
「こんにちは」
彼女はベンチにいた。
何故か僕はほっとした。
僕は腰掛けながら、
「先週は来なかったね。
暑かったから?」
すると彼女は
眉間にわずかに
シワを寄せた。
「先週?一緒に
話したじゃない。
また来てねって
別れ際に言ったよ」
「?」
僕も彼女と同じ顔に
なってしまった。
「先週、僕は3時まで
ここにいたけど
君来なかったよ」
「そうだったかなぁ」
彼女は人差し指を
顎にあて上目になった。
「まあいいっか。
今週の小説読ませて」
僕は彼女に渡した。
彼女がよんでいる間は
僕は持ってきた小説を
読み始めた。
あるとき、あるところ、
人間の知らない世界に
時の流れを司る神様が
いました。
神様は毎日人達の
楽しそうな生活を
羨ましそうに
見ていました。
神様がいる世界には
神様がたった独りで
暮らしていました。
だから友達が欲しくて
欲しくて仕方が
ありませんでした。
だけど、神様は
とても臆病で
なかなか行けずに
いました。
ある日、勇気をだして
人間界におりた神様。
草原に独りぼっちで
たたずんでいると、
小さな小さな女の子が
近付いてきました。
「あなたは誰?」
女の子は尋ねました。
「僕は神様だよ」
「かみさま?
ひとではないのは
わかるけど、かみさま?」
「そうだよ。君は?
独りなの?」
「一人だよ。だけど
いまは二人だね」
二人は仲良くなり、
友達になりました。
その草原に家を建て、
二人で仲良く、
毎日毎日笑って
過ごしました。
しかし、女の子は
大きくなり、美しくなり、
そしてしおれ、
小さくなりました。
女の子は歳を
とっていきました。
女の子は神様を
寝ているベッドに
呼びました。
「お別れみたい」
弱々しく女の子は
言いました。
「いかないで!!
僕をまた独りに
しないで!!」
神様は泣きながら
言いました。
「大丈夫。あなたは
独りじゃないわ。
私とずぅ~と一緒。
思い出のなかで
ずっと一緒」
神様の手を握って
言いました。
「だから、泣かないで。
神様なんだから
しっかりしてよ」
神様の涙を拭って
微笑みました。
「幸せだったよ。
独りぼっちだった私を
みつけてくれて
ありがとう。
さよなら…」
女の子の白い
シワだらけの手は
ゆっくりと神様の手から
離れていきました。
神様はいつまでも
泣きました。
「時を戻そう」
神様は考えました。
「こんなに心が
痛むのなら
出会わないようにしよう」
神様は時を戻しました。
そして、神様は自分の
世界に戻りました。
以前のように独りで
人間界を見ていました。
人間界にはおりずに
女の子を見守っていました。
女の子と神様が
出会った時間が
過ぎました。
女の子は独り草原を
さまよっていました。
ついに女の子は
死んでしまいました。
神様はもう一度、
泣きました。
そしてもう一度、
時間を戻し、
女の子に会いに
人間界におりました。
「あなたは誰?」
「僕は神様」
女の子は再び歳を
とりました。
「さよなら…」
二度目のさよなら。
神様は悲しみをこらえて
こたえました。
「さよなら」
神様はその後、
女の子の思い出を胸に人間界で
ひっそりと旅を
はじめました。
女の子のような
独りの子を
つくらないように…
「悲しいね…」
彼女は僕に
原稿を返した。
「私も時々思うんだ。
時を戻したいって。
出来ないとわかって
いても思ってしまう。
出来ることなら
生まれる前までね」
彼女は立ち上がった。
「こんなこと人に
言ったの初めてだ」
僕を振り返り言った。
「生まれるって
すごく不幸なことだと
思わない?」
僕は何をいったら
いいか分からなかった。
「死を最初から
決められていて、
死の恐怖から
逃げられないで
苦しまないといけない、
不幸だよね。
生きるって苦しいよね」
彼女は素顔になった。
哀しげに笑う。
それが素顔だと
思うのは何故だろう。
僕はそれを見て
口を開いた。
「でも」
彼女は素顔のまま
僕を見た。
「僕は不幸だと
思うけど、幸せだとも
思う」
「どうして?」
「よく分からないけど…
だから生きるのを
やめないんじゃない」
「そう…かな」
「だから君もまだ
ここにいるんじゃない?
ここに生きてる」
彼女はまた座った。
「もし、いま私が
消えたらどうする?」
「日曜日が寂しくなる」「なにそれ」
彼女は微笑んだ。
「ありがとう」
その儚い顔は誰かを
想わせたがはっきりとは
分からなかった。
「また来週、来てね」
彼女はそう言って
公園をあとにした。