九週記念 高校生
彼女は何かに…
縛られている、
そんな気がした。
でも、それに触れるには
僕はまだまだ、
彼女にとっては
他人でしかないのだ。
だから、僕は
何も出来ることはなく、
ただただ日曜日の午後の
数時間だけ隣にいるしか
出来ないのだ。
黒い影につかれた人を
本当に理解出来るのは
黒い影につかれていた
人しかいないのだ。
彼女を理解するには
僕は役不足なのだ。
それって…
これは何ていう
気持ちなんだろうか?
「おいっ!!」
我に返ると
教室全部の視線が
僕に集中していた。
「何故上の空だったのかね?今は出し物の審議中だよ!!」
「ごめん、タイラ」
僕は教卓に立つタイラに
謝った。
「ふむ、悩みに暮れる
青春の一ページ!!
なんという輝き。
それもよいだろう。
しかしながら今は
文化祭という
高校生の一大イベントに
熱意を向ける
一ページが僕は
みたいなぁ。
なぁ、みな、そうだろう」
「「「そうだ!!!」」」
クラスが叫んだ。
「我がクラスで
最優秀賞をとろう!!」
最優秀賞とは
学校の中で一番人気が
あったクラスに
贈られる賞のことで
どのクラスも
賞をとるために
団結して出し物を
考え、創るのだった。
こういう場でも
タイラは活躍する。
「では、みな!!
何かよい出し物を
提案してくれたまえ!
書記の峰くん、
頼んだよ」
「はいは~い。
みんな、どんどん
言っててね」
峰さんが白いチョークを
持って言うとみんなが
次々に言っていった。
中でも多いのが
お化け屋敷が
ダントツに多かった。
タイラは教卓から
僕の前の席に座った。
「何を考えて
いたんだい?
悩み事を聞くのも
カリスマの役目。
どんどん話して
くれたまえ!!」
キラキラとした
長い黒髪を流して
僕に言った。
「う~ん。
タイラに話してもな~」
「なに!?僕が
信用ならないのかい?
僕はいつでも真剣に
裸でぶつかっていくよ」
「信用はしてるけど…」
「なら、迷わずに
僕に心の内を
さらけだすんだ」
「そこまで
言うんなら…」
素直にタイラに
「人の気持ちを
理解するにはさ、
やっぱり相手と
同じ立場にならないと
本当の意味で理解は
出来ないじゃん?」
「ふむ、全くその通り」
「だから相手に
何かしてあげたいと
思うなら相手と
同じ立場になってから
じゃないとダメだよな、
って思ってさ」
「全く、君は
高校生らしくないね」
タイラは溜め息を
ついた。「なんだよ、それ」
ちょっとムッとした。
「いいかい?僕達は…」
「タイラく~ん!!
タイラくんは
何がいい?」
峰さんが顔だけを
こちらに向けて
聞いてきた。
「そうだな…
たこ焼きが今、
むしょーに食べたい」
タイラが答えると
「「「たこ焼き…
それだっ!!
いいぞっ!!タイラ!!」」」
何故かクラスは
大騒ぎになり
タイラを胴上げしだした。
タイラはタイラで
ハハハハハハと
優雅に舞っている。
このように僕達の
クラスはタイラの
一声でたこ焼きを
やることに決定した。
タイラの魅力が
時々怖くなる。
夏休みから一週間は
文化祭に向けての
準備期間となる。
授業は一切なし。
教師も教師で
生徒達の監督で
そんな暇はなかった。
生徒達は近くの
スーパーにいき、
ダンボールや
その他の材料を
あさっていた。
スーパーの人達も
快くダンボールをくれた。
クラスは三グループに
分かれて仕事をした。
店の内装のグループ。
衛生、広告グループ。
メニューを考えて、
試食するグループ。
だいたいが内装に
回ったがタイラが
僕の料理が美味いと
言ったのでメニューを
考えるグループになった
タイラはただ単に
食べたいから僕と
同じグループに。
他には峰さんと
あと中島さんという
大人しい印象の子で
クラスにいても
あまりしゃべらない。
「花はとても料理が
上手なんだよ~」
峰さんが中島さんの
両肩に手を置いて
僕達に言った。
「そんなことないよ」
小さな声で否定した。
「何をいう僕の相方の
料理の腕にかなうわけが
なかろう」
「いやいや花の方が
すごいよ~」
「いやいや…」
「タイラ、早くメニューを
考えようよ」
「そうだね
ちゃちゃと考えて
早急に食べようじゃ~
ないか!!」
4人でメニューを
話し合った。
峰さんが頬杖をついて
「やっぱり文化祭だから
普通のたこ焼きじゃ
つまんないよね」
「そうとも!
何か気品溢れる
たこ焼きが食べたいね!
例えば…caviarなんて
どうだい?」
「「無理デス」」
峰さんとハモった。
「却下かい。
では中島くんは
何かあるかね?」
中島さんは数秒間
うつむいたあとに
小さな声で
「チーズとか
明太子」
「いいね、それ!」
僕が同意した。
「ありがとう」
さらにうつむいた。
「チーズと明太子か。
あと普通のたこと…
ねぇ、チョコとか
どうかな?デザート
感覚で」
「いい考えだね峰くん。
ではチーズと明太子と
チョコの三品でいいか
みなに聞いてみよう」
タイラが黒板に
メニューを書いて
「皆の衆、メニューは
これでよろしいか!?」
すると教室から
賛成の拍手が
沸き起こった。
クラスがタイラを
崇めているみたいだった。峰さんが僕に
「タイラ君て
すごいよね。
どうしてあんな風に
出来るんだろう?」
「さあ」
「タイラ君、
人生で不幸な時
なんてもの
なさそうだよね~」
「確かに」
「何だい、僕の話しかい?」
いつの間にか後ろに
タイラがいた。
「明日、材料を持ってきて
試食会をするから
準備を頼むよ。
僕は調理室の許可を
とってくるよ。
では、明日。頼んだよ」
タイラは教室から
出て行った。
「じゃ、私帰る」
峰さんは荷物をまとめ
すぐに帰った。
残ったのは僕と
中島さんだった。
「中島さん、
クッキング同好会だっけ?
料理が好きなんだね」
「うん、でも下手だよ」
「そんなことないでしょ?」
中島さんは激しく首を
横に振った。
でもすぐにやめて
僕を見て、
「タイラ君が
言ってたけど
料理上手なの?」
「あ~あ」
僕は頭をかきながら
「上手いかは
分からないけど
一人暮らしで
料理してるから
多少はね」
「一人暮らしなの?」
「まあね」
「珍しいね。
高校生で一人暮らし」
「いろいろとね」
話題がつきてしまった。
二人の間に何か
気まずい雰囲気が
流れた。
逃げるように
僕は立ち上がり
「じゃあまた明日。
たこ焼き頑張ろう」
「うん。じゃあまた」
家に帰るといつもの
ように大家さんが
待っていて
「おかえり」
「ただいま」
「お兄ちゃん!!」
ようがタタタタと
駆け足できた。
「あれ?学校は?」
「今日は開校記念日で
お休みなんだ」
「そっか」
「次の土曜日と
日曜日、ぶんかさい
なんでしょ?
ばあちゃんと
一緒に行くから」
日曜日…
「あっ!!」
ようが首をかしげて
僕をみる。
「どうしたの?」
「お姉ちゃんに
日曜日は行けないって
いうの忘れてた」
何も言わないで
彼女を待たすのは
あまりにも
失礼というか、
なんというか…
「そうだ。お姉ちゃんも
一緒に連れて行くよ。
ね、ばあちゃん?」
大家さんを
振り返ってようが
聞いた。
「そうだねぇ。
別に大丈夫だろうね。
一緒に行こうか」
「やった!!」
ようは跳ねて
喜んだ。
「ところで
出し物は何を
やるんだい?」
「たこ焼きを売ります」
「たこ焼き!!
僕大好きだよ!!
いっぱい買うね」
「ありがとう」
夕方のアルバイトでも
大将が
「土日が文化祭
なんだって?」
「はい」
「俺達も行くよ。
何やるんだい?」
お客さんが
聞いてきた。
「たこ焼きを売ります」
ナカオカさんが
奥から
「そりゃあいいな!!
酒とあいそうだ」
「ナカオカさん、
高校生の文化祭じゃ
酒は出ませんよ」
女将さんがそう
ツッコむとナカオカさんは
「そうか、残念だ」
と本当に残念そうに
言ったから
店内にいた人達全員が
明るく笑った。
ナカオカさんも
照れたように笑った。
勿論、その夜も僕は
ナカオカさんを
おぶって帰った。
「では試食を
始めようか」
「タイラ君、
試食の前に
つくらないと」
峰さんは呆れ顔をした。
「失敬!気持ちの
焦りだよ。さあ、
淡々と作っていこうか」
安売りしていた電気の
たこ焼きプレートに
といた小麦粉をいれた。
そこに一口サイズに
切ったタコとねぎ、
紅しょうがをいれた。
峰さんはチーズを
タイラは明太子、
中島さんはチョコを
それぞれ入れた。
数十秒後、まわりが
焼けて固まってきた。
「それではくるりと
いこうか」
タイラの合図で
一斉にたこ焼きを
裏返し始めた。
僕はスムーズではないが
上手く裏返せた。
が、峰さんとタイラは
グチャグチャに
なっている。
「案外難しいね」
「そうだとも。
が、中島くんは
素晴らしいね」
中島さんをみると
丁寧に一定のリズムで
綺麗にたこ焼きを
裏返している。
全部が綺麗なキツネ色を
していて綺麗な丸。
「中島さん、
上手いね」
「え、そう…かな」
プレートが熱いからか
頬を赤くしている。
「花、ホント上手だね」
「はっ!!!」
タイラが何か
ひらめいたように
ビクッとした。
「どうしたの?タイラ君」
タイラは天を仰いで
「神の啓示だ…」
「「は?」」
僕と峰さんが
ポカーンとした。
「中島くん!!
僕の全権を使って君を世界のたこ焼き大臣に任命するっ!!!」
「「あほか~~~!!!」」
そんなこんなで
タイラクラスは
決戦の日を迎えた。
文化祭開始と同時に
客が入り始めた。
お昼にはなんと
長蛇の列が出来るほどで
すぐに材料がなくなり
閉店する騒ぎとなった。
2日目もその人気は
衰えることはなかった。
大将と女将さんは
午前中の早いときに
きた。
「打ち上げはうちにきな。
美味しいもん出すよ」
と耳打ちした。
ナカオカさんも
そのあとに来てくれた。
「ホントに酒は
ないんだなぁ~」
と関心していた。
三人共、おいしいと
喜んでいた。
お昼過ぎてから
ようが大家さんに
連れてこられた。
「繁盛してるね」
「お兄ちゃん、
たこ焼き!!」
「ハイハイ」
僕はまわりを見た。
「あ、お姉ちゃん、
来ないって。
遠慮してたよ。
楽しんでねって
お兄ちゃんに伝言」
「そう…」
「じゃあお兄ちゃん、
大きいたこ入れてね」
「分かったよ。
うーんと大きなの
入れとくよ」
彼女はどうして
来なかったのだろう?
「皆、二日間よく
働いてくれた!!
誉めて遣わそう!!
こんなにも盛況
だったのは皆の働きと…
僕のカリスマのためだね」
実際にタイラの
影響もある。
タイラを見ようと
一年生女子が
何個も買っていった。
「我々は目標通り…
最優秀賞を
手中に収めた!!
今日は宴だ~~!!
乾杯!!!」
「「「乾杯!!!」」」
バイト先で飲み食い
するのは何か不思議な
感じがした。
いつもは
働いているから
注文するのも
食べるのも
新鮮だった。
二時間ばかり
みんなで騒いだ。
僕達のテーブルは
試食グループの
4人で色々と
話した。
打ち上げが終わると
店の前で流れ解散。
僕は片付けを手伝おうと
最後まで店にいると
大将が
「片付けはいいから
今日は帰りな」
「え、でも」
「いいんだよ。
今日は高校生らしく
してこいや」
半ば無理やり店を
出された。
外ではタイラと、
何故か中島さんがいた。
「帰るかい?」
「ああ」
「ちょっと、いい」
振り向くと中島さんが
僕の腕を掴んでいた。
「じゃあ、僕は
少し先で待っているよ」
タイラはあくびをしながら闇に消えていった。
「輝いているね」
とぼそりと残して。
闇夜にかすかに
秋の虫の声が
聞こえてきた。