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おひとり国王サマ ~毎日忙しい国王は、スキル【冒険の書】で冒険者の旅先へ一瞬でワープして日帰りプチ家出する~  作者: 椎名 富比路
第四章 国王、たった一人の戦い(激辛

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第9話 たった一人の激辛チャレンジ

 白のロンTと短パンで、変装はバッチリのはず。


 くだんの店に、入店する。

 

「こんばんは。空いているかい?」


 オレの声を聞いて、ぽっちゃりな女性店員が振り返った。男性が好みそうな、おっとり型のぽっちゃりさんだ。スタイルがいいとも言う。


「どうぞ~」


 女性店員の案内で、奥に通される。


 結構な客がいるなあ。みんな、激辛鍋を頼んでいる。汗や涙まみれになって、鍋をつついていた。グループで食べても、よかったんだな。食べる量は増えてしまうようだが。


「お客様、本日はお食事ですか~? チャレンジですか~?」


 女性店員が、オーダーを取る。


 まず、激辛にチャレンジするのか聞くスタイルなのね。


「チャレンジだ。よろしく頼む」


 オレは、これをやりに来た。

 汗をかきに来たんだよ。

 

「はい~。チャレンジ一丁~」


「おーっ」


 複数の店員の声が、厨房からした。熱気がすごい。


「初めてのお客さんですよね~。ルールは、ご存知ですか~?」


「知っている。しかし、初めてでな。合っているかどうか心配だ。改めて、説明願う」

 

「かしこまり~。では、ルールのご説明をします~」


 まず参加料として、銀貨二枚を払う。


 別の店員が、キムチ鍋の準備を始めた。オレの席用だろう。


「お鍋は、一人前のみです~。フードロス防止の為、追加注文などはできませ~ん」


 完食できる圏内として、それくらいが妥当と判断したとか。

 

 なお、高齢者の場合はチャレンジ自体ができない。


「以前挑んだ方が、ボリューム的に一人前も食べられなかったんですよ~」とのこと。


 一人前の量もそれほどでもなく、うどんで腹がふくれる程度らしい。


 五〇歳でよかった。オレでもギリギリ、完食できるかも。


「残り時間が五分になりましたら~、シメに激辛チャーハンが来ま~す。鍋にぶち込みますからね~」


 そういうギミック付きか。オレにやれるだろうかね?


「こっからは、重要な事項です~。辛さに耐えられない場合は~」


「ギブアップ!」


 真ん中の席で、女性客が手を上げた。

 辛すぎて、半分も食べられなかったか。

 

「あ、ちょうどギブをなさった人がいますね~。よく見ておいてください~」


 ギブした席に置いてある、ツボのフタがひとりでに開く。

 ツボが傾き、白い液体がなみなみと鍋に注がれた。 

 あれが、豆乳のツボか。


「豆乳の封印は、『ギブアップ宣言したときに』開きます~」


 なお、完全制覇したときも、豆乳のフタは開く。豆乳の完飲も、チャレンジ料金に含まれる。 


 豆乳が入ってマイルドになったのか、女性客は食欲を取り戻した。もしゃもしゃと、鍋を開けていく。


「このお鍋を辛いまま完食できた場合を、【制覇】とみなします~」

 

 激辛キムチ鍋を制覇できなかったとしても、ペナルティはない。食べ残しさえ、しなければ。

 

 ただ、豆乳なしで制覇したとしても、賞金などは一切ナシ。もらえるのは、制覇記念のサインだけ。名誉だけの戦いになる。


「制限時間は、三〇分で~す。それ以上を過ぎても、勝手に豆乳が投下されますよ~」


 辛さを抑えてくれる豆乳まで店側が用意した以上、絶対に残してはならない。

 お残しは、罰金として金貨一枚。

 残したペナルティのほうが、高くつくなあ。


 石の器に入った鍋が、オレの席に置かれた。


 ブクブクと、茹だっている。湯気の段階で、目が痛い。


 熱さとも、戦わないといけないのか。コイツは、手強い。

 

「用意ができました~。では、がんばってくださいね~」


 女性店員が、大きな砂時計を傾けた。これが落ちきると、三〇分経過したことになる。


「いただきます」


 さて、食おう。


 まずは、スープから。


 レンゲで、スープをすくう。


「おっ……いうほそ辛く……ごっおほ!?」


 目に星が瞬く。一瞬で、魂が奪われそうになった。


 辛い! 辛いという言葉しか、浮かんでこなかった。

 これは強烈だ。

 鍋の熱さもあって、食べづらい。


 フーフーしながら、スープを攻略していく。


「ああ、辛い!」


 一口食っただけで、汗が吹き出てきた。


 なのに、止まらない。


「うまい。めちゃくちゃうまいぞ」


 この鍋、かなりの熱さと辛さだが、全然手を止めさせてくれなかった。


 白菜もニンジンも、エノキダケに至るまで、まったく逃げ道がない。


 鶏肉のツミレなんて、唐辛子がまるまる閉じ込められていた。こんなの、食うやつがいるのか。


 だが、食べられる。


 うますぎて、箸が進む進む。


 唐辛子を閉じ込めたツミレさえ、抜群に旨味が閉じ込められていた。

 おお、最高だ。


「それと、この豆腐がうまいって、ウワサしていたよな」

 

 湯豆腐をパクリッと。


「おおおお、コイツは大物だ」


 思わず、笑みがこぼれる。ボッチ客で、リアクションを見てくれる相手なんて誰もいないのに。

 

 笑ったはずみと、熱さと辛さで、鼻水が吹き出そうになった。


 それくらい、この豆腐には魅力がある。


「うまい。こいつはたまらんぜ」

 

 食べながら、何度もうなずいてしまった。


 何度も言うが、オレは自身をたたえてくれる人も、エールをくれる友人も連れていない。


 一人で激辛と戦う、タダの旅のオッサン「ローガン」である。


「しかし、辛い!」


 


 だが、オレには秘策があった。


 冒険者に教わった秘策が。

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