第5話 国王、家族と湖でキャンプ
今日は、湖でまったりしている。
いつもと違い、家族水入らずだ。
「あはは。おじいさまー」
竿を立てているオレに、孫娘が水を浴びせてきた。本気とはいえ、七歳の女児が浴びせてくる水なんぞたいしたことはなく。
ビビったのは、魚だけ。せっかく糸に近づいていた小魚が逃げちまった。
まあいい。釣りってのは、竿を立てているだけで楽しいもんだ。
「ソロガスおじいさま、あそんでー」
「はいはい」
釣りはこのくらいにして、孫と遊ぼうかね。
七歳児と共に水着となって、湖で水を浴びる。
ソロ活大好きなオレでも、孫がいっしょにいれば遊ぶさ。
「父上、焚き火ができました」
王子の班が、火熾しを終えた。
「おお世話になる、王子。ちょっと肌寒くなってきた。夏が近いとはいえ、まだ風は多少冷たいな」
「カゼをひかれませぬよう」
「どうってことねえよ」
「なりませぬ。このキャンプは、庶民たちとの合同登山訓練です。もし魔王軍が攻めてきたときのための、大切な活動であります」
そうなんだよなあ。この登山だって、ハイキングやピクニックではない。有事の際に迅速な対応ができるよう、常日頃からの鍛錬が大事なのだ。
つっても、魔王軍ってユルイからなあ。魔界にこもりっきりで、まるで実害がないというし。
冒険者の来訪だって、魔王を退治する大義名分のためではない。
彼らの目的は、ダンジョンのお宝トレジャーや、フィールドに点在する大型魔物の討伐だ。
また、彼らも「日常の喧騒を逃れたい」と話しているのをよく聞く。
冒険者も、自分たちの世界では社畜なのだろう。
オレたち王族と、似たようなものだ。
「何をいうか、息子よ。我々が優雅にエレガントに遊んでいてこそ、民はここが安全であると判断できるのだろうが」
「ソロガス・キヤネン王が、そうおっしゃるなら」
うんうん。聞き分けがいい王子は、好かれるぞよ。
市民たちの方も、キャンプや焚き火の用意ができたようだ。
庶民たちが輪になって、思い思いのカレーを作っている。
あっちはチキンで、あそこは豚バラか。干し肉を使うって手もあったな。時間があったら、燻製も行けたな。
「みなさん、これは訓練ですよ。真面目になさってください」
「はいはい。わかってますよー」
王子がたしなめているが、庶民たちは話半分で作業をしていた。
頭が固ってえんだよ、テメエは。
カレー作り、楽しそうだな。
「輪の中に混ざりたい感じが、漂っていますね」
さといな。王女は。未だ独り身を好み、感性もオレによく似ているし。
「いや、庶民には庶民の世界がある。我々が邪魔しては、ならんのだ」
「とはいいますが、視線はずーっと庶民に向けられているではありませんか」
「見守っていると、いいなさい。監督も、我ら王族の役目であるぞ」
「だといいのですが」
うーん。さとい。
オレたち王族のカレーも、できあがった。
バーベキューも、やってくれている。
「ではいただきましょう」
「うむ、馳走になるぞ」
いただきまーす。
「うん。うまい」
極上のスパイスが効いていて、まったくスキがない。
コメの一粒一粒が、お上品に立っていた。
玉ねぎもアメ色に炒めてあって、基本も抑えている。
さり気なくコメを一部だけ焦がしてあるところも、職人技と言えよう。
完璧なまでに、最高のカレーライスである。
だが違う! カレーってのは、もっと雑でいいんだ! 量も、めちゃ少ない! なに、お皿に一杯って!
あああ、騎士団よ! オレにもその山盛りゴハン分けてよ! オレもマンガ盛りしたい! マンガ盛りで、モリモリとカレーを食いたいんだ。
メシとカレーの割合なんて、ルーは三割くらいでOKである。
我が王族のカレーとルーのバランスは、均等すぎるくらいだ。
もう、マンガ山盛りメシで皿を七割占拠してくれ。
王族ってのは、余計な気を使い過ぎなのだ!
「あなた、ニンジンをどうぞ」
王妃が、カレーに入っているニンジンをよけて、オレの皿に置き始めた。
「おいおい王妃よ、ちゃんと野菜も食べなさい。せっかく孫のために、星型に切ってくれてるんだからよぉ」
コイツは、昔からニンジンを食わないよなぁ。元々スキキライが激しくて、美容をサプリで補えると思ってんのか?
孫は星型のニンジン、イヤな顔しないで食ってるじゃん。
「そんなにいうのでしたら、シイタケもどうぞ」
王女まで、王妃をマネて偏食になってきたんだよなあ。食育に悪いぞ。
「ええ、バーベキューのシイタケ食わねえの? どんだけだよ? 信じられん」
めっちゃうまいんだぞ、シイタケってのは。完全食と言っても、いいくらいなんだぜ?
見てみろよ、このふっくらシイタケを。箸でつまむと、水がジュワ! ああ、たまりませんっ。
「おお、プリプリだ。いただこう」
プルンプルンのシイタケに、かぶりつく。
うんま! 水といっしょに、ウマ味が滲み出てて。
バーベキューにおけるシイタケってのは、どうしてこうもうまいのか。
外で食ってる、効果ってのもあるらしいが。
避難訓練が、こんなにうまくていいのかよ?
「ぷりぷりシイタケ、おいしい」
「うまいよなあ! なあ!」
オレの味方は、孫娘だけだよ。まったく。
バーベキューのシイタケの意味を知っているだけで、人生は豊かになるもんだ。
「父上、娘の教育に悪いです」
「なんでさ!?」
「あなたはなんでも、おいしそうに食べ過ぎなんです。おかげで娘が、酒のツマミばかり食べるようになってしまってですね」
そういえば最近、深夜に出歩くことが増えたから、夕飯を抑えて控えめな分量にしてるんだった。おツマミがメインになっていたっけ。
これはイカン。今回の冒険の書は、後日かな。
今日は目一杯、家族サービスをしよう。
「よし、孫よ。キャンプのおうたを歌おう」
オレは、冒険者からもらった特殊なリュートを、アイテムボックスから引っ張り出す。
普通のリュートより、弦が少ない。
冒険者たちの元の世界で、「アコギ」というそうな。
「えまーじぇんしー、ごろごろー♪」
オレのアコギに合わせて、孫が歌う。
「このおうた、聴いたことなーい」
「ここではない世界の、お歌だよ」
オレは冒険者から、彼らの世界で流行っている歌を聞いて、よく孫に聴かせている。
彼らの世界は、流行病のせいで一度荒廃しかけたという。
そんな中で生まれたのが、この曲らしい。
解釈によっては、「家にこもっているからこそ、何かを生み出せる」と聞き取れる。
オレの生き方とは、また違った価値観だな。
初めてこの曲を聞いたとき、そう思わされた。
「かっこいー。でも、じいのギターはヘター」
「がびーん」
そうなんだよなあ。
教えてくれる人がいないから、ちっともうまくならねえ。
これをくれた冒険者も、「自分たちが弾けないから」とオレに売り飛ばしたわけで。
珍しいもの好きなオレも、安易に引き取っちまった。
よし、決めたぜ。
練習しよう、アコギを。
上手に弾けるようになって、孫に笑われないようにしなくっちゃ。
とはいえ、練習するにも、静かな場所がほしい。
ウチの王宮は、あんまり防音環境が整っていない。
唯一防音機能がありそなのが、牢獄なんだよなあ。
囚人の悲鳴が王宮にまで響かないように、ダンジョン化している。
だが、場所が場所で集中できん。しかも、カビ臭え。
どっかの山のてっぺんで、弾くか。
そしたら、誰にも迷惑をかけないだろう。
帰宅後、【冒険の書】を引っ張り出す。
いざ、人気の少ない山に出陣、と。
カレーライスの具材は、アイテムボックスに溜め込んだ。
「さて、到着……ん?」
山に、先客がいた。
女性の、吟遊詩人である。装備から見て、冒険者のようだが?
「お前さん、なんで泣いてるんだ?」
オレは思わず、声をかけてしまった。




