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おひとり国王サマ ~毎日忙しい国王は、スキル【冒険の書】で冒険者の旅先へ一瞬でワープして日帰りプチ家出する~  作者: 椎名 富比路
第三章 国王、ソロキャンでギターを教わる

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第5話 国王、家族と湖でキャンプ

 今日は、湖でまったりしている。

 いつもと違い、家族水入らずだ。

 

「あはは。おじいさまー」


 竿を立てているオレに、孫娘が水を浴びせてきた。本気とはいえ、七歳の女児が浴びせてくる水なんぞたいしたことはなく。


 ビビったのは、魚だけ。せっかく糸に近づいていた小魚が逃げちまった。


 まあいい。釣りってのは、竿を立てているだけで楽しいもんだ。


「ソロガスおじいさま、あそんでー」


「はいはい」


 釣りはこのくらいにして、孫と遊ぼうかね。


 七歳児と共に水着となって、湖で水を浴びる。


 ソロ活大好きなオレでも、孫がいっしょにいれば遊ぶさ。


「父上、焚き火ができました」


 王子の班が、火熾しを終えた。

 

「おお世話になる、王子。ちょっと肌寒くなってきた。夏が近いとはいえ、まだ風は多少冷たいな」


「カゼをひかれませぬよう」

 

「どうってことねえよ」


「なりませぬ。このキャンプは、庶民たちとの合同登山訓練です。もし魔王軍が攻めてきたときのための、大切な活動であります」


 そうなんだよなあ。この登山だって、ハイキングやピクニックではない。有事の際に迅速な対応ができるよう、常日頃からの鍛錬が大事なのだ。


 つっても、魔王軍ってユルイからなあ。魔界にこもりっきりで、まるで実害がないというし。


 冒険者の来訪だって、魔王を退治する大義名分のためではない。

 彼らの目的は、ダンジョンのお宝トレジャーや、フィールドに点在する大型魔物の討伐だ。

 また、彼らも「日常の喧騒を逃れたい」と話しているのをよく聞く。

 冒険者も、自分たちの世界では社畜なのだろう。


 オレたち王族と、似たようなものだ。


 

「何をいうか、息子よ。我々が優雅にエレガントに遊んでいてこそ、民はここが安全であると判断できるのだろうが」


「ソロガス・キヤネン王が、そうおっしゃるなら」


 うんうん。聞き分けがいい王子は、好かれるぞよ。



 市民たちの方も、キャンプや焚き火の用意ができたようだ。


 庶民たちが輪になって、思い思いのカレーを作っている。


 あっちはチキンで、あそこは豚バラか。干し肉を使うって手もあったな。時間があったら、燻製も行けたな。


「みなさん、これは訓練ですよ。真面目になさってください」


「はいはい。わかってますよー」 


 王子がたしなめているが、庶民たちは話半分で作業をしていた。


 頭が固ってえんだよ、テメエは。

 

 カレー作り、楽しそうだな。


「輪の中に混ざりたい感じが、漂っていますね」


 さといな。王女は。未だ独り身を好み、感性もオレによく似ているし。


「いや、庶民には庶民の世界がある。我々が邪魔しては、ならんのだ」


「とはいいますが、視線はずーっと庶民に向けられているではありませんか」


「見守っていると、いいなさい。監督も、我ら王族の役目であるぞ」


「だといいのですが」


 うーん。さとい。


 オレたち王族のカレーも、できあがった。


 バーベキューも、やってくれている。


「ではいただきましょう」


「うむ、馳走になるぞ」


 いただきまーす。


「うん。うまい」


 極上のスパイスが効いていて、まったくスキがない。

 コメの一粒一粒が、お上品に立っていた。

 玉ねぎもアメ色に炒めてあって、基本も抑えている。

 

 さり気なくコメを一部だけ焦がしてあるところも、職人技と言えよう。


 完璧なまでに、最高のカレーライスである。


 だが違う! カレーってのは、もっと雑でいいんだ! 量も、めちゃ少ない! なに、お皿に一杯って! 


 あああ、騎士団よ! オレにもその山盛りゴハン分けてよ! オレもマンガ盛りしたい! マンガ盛りで、モリモリとカレーを食いたいんだ。


 メシとカレーの割合なんて、ルーは三割くらいでOKである。


 我が王族のカレーとルーのバランスは、均等すぎるくらいだ。


 もう、マンガ山盛りメシで皿を七割占拠してくれ。


 王族ってのは、余計な気を使い過ぎなのだ!

 

「あなた、ニンジンをどうぞ」


 王妃が、カレーに入っているニンジンをよけて、オレの皿に置き始めた。


「おいおい王妃よ、ちゃんと野菜も食べなさい。せっかく孫のために、星型に切ってくれてるんだからよぉ」


 コイツは、昔からニンジンを食わないよなぁ。元々スキキライが激しくて、美容をサプリで補えると思ってんのか?


 孫は星型のニンジン、イヤな顔しないで食ってるじゃん。


「そんなにいうのでしたら、シイタケもどうぞ」


 王女まで、王妃をマネて偏食になってきたんだよなあ。食育に悪いぞ。

 

「ええ、バーベキューのシイタケ食わねえの? どんだけだよ? 信じられん」


 めっちゃうまいんだぞ、シイタケってのは。完全食と言っても、いいくらいなんだぜ?


 見てみろよ、このふっくらシイタケを。箸でつまむと、水がジュワ! ああ、たまりませんっ。


「おお、プリプリだ。いただこう」


 プルンプルンのシイタケに、かぶりつく。


 うんま! 水といっしょに、ウマ味が滲み出てて。


 バーベキューにおけるシイタケってのは、どうしてこうもうまいのか。

 外で食ってる、効果ってのもあるらしいが。


 避難訓練が、こんなにうまくていいのかよ?


「ぷりぷりシイタケ、おいしい」


「うまいよなあ! なあ!」


 オレの味方は、孫娘だけだよ。まったく。


 バーベキューのシイタケの意味を知っているだけで、人生は豊かになるもんだ。

 

「父上、娘の教育に悪いです」


「なんでさ!?」


「あなたはなんでも、おいしそうに食べ過ぎなんです。おかげで娘が、酒のツマミばかり食べるようになってしまってですね」


 そういえば最近、深夜に出歩くことが増えたから、夕飯を抑えて控えめな分量にしてるんだった。おツマミがメインになっていたっけ。


 これはイカン。今回の冒険の書は、後日かな。


 今日は目一杯、家族サービスをしよう。


「よし、孫よ。キャンプのおうたを歌おう」


 オレは、冒険者からもらった特殊なリュートを、アイテムボックスから引っ張り出す。

 普通のリュートより、弦が少ない。

 冒険者たちの元の世界で、「アコギ」というそうな。


「えまーじぇんしー、ごろごろー♪」


 オレのアコギに合わせて、孫が歌う。


「このおうた、聴いたことなーい」


「ここではない世界の、お歌だよ」

 

 オレは冒険者から、彼らの世界で流行っている歌を聞いて、よく孫に聴かせている。


 彼らの世界は、流行病のせいで一度荒廃しかけたという。

 そんな中で生まれたのが、この曲らしい。

 解釈によっては、「家にこもっているからこそ、何かを生み出せる」と聞き取れる。

 

 オレの生き方とは、また違った価値観だな。

 初めてこの曲を聞いたとき、そう思わされた。 


「かっこいー。でも、じいのギターはヘター」


「がびーん」


 そうなんだよなあ。


 教えてくれる人がいないから、ちっともうまくならねえ。


 これをくれた冒険者も、「自分たちが弾けないから」とオレに売り飛ばしたわけで。


 珍しいもの好きなオレも、安易に引き取っちまった。


 よし、決めたぜ。


 練習しよう、アコギを。


 上手に弾けるようになって、孫に笑われないようにしなくっちゃ。


 とはいえ、練習するにも、静かな場所がほしい。


 ウチの王宮は、あんまり防音環境が整っていない。


 唯一防音機能がありそなのが、牢獄なんだよなあ。

 囚人の悲鳴が王宮にまで響かないように、ダンジョン化している。

 だが、場所が場所で集中できん。しかも、カビ臭え。


 

 どっかの山のてっぺんで、弾くか。

 そしたら、誰にも迷惑をかけないだろう。






 帰宅後、【冒険の書】を引っ張り出す。



 いざ、人気の少ない山に出陣、と。


 カレーライスの具材は、アイテムボックスに溜め込んだ。


「さて、到着……ん?」


 山に、先客がいた。


 女性の、吟遊詩人である。装備から見て、冒険者のようだが?


「お前さん、なんで泣いてるんだ?」


 オレは思わず、声をかけてしまった。 

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