第43話 国王、地球の文化に触れる
吟遊詩人・マティナ。
かつてオレがアコギの練習をしようと、【冒険の書】で辺境の山へ行ったときに出会った少女だ。カレーを食わせたお礼に、オレはマティナからギターを教わったのである。
冒険をしていない状態だと、こんなに大人の女性だったとは。
しかもマティナは、オレがソロガス・キヤネン国王であると知っている、唯一の冒険者だ。
「あなた、もういいわよ」
「えっ。でも」
「この人は、ローガンといってね。あたしのお得意先なの」
日鳥山 ティナ氏はさっきの女性店員を下がらせる。
「お得意さんとお話してくるから、あなたは接客をお願い」
「でしたら」と、女性店員はこちらをチラ見しつつも、他の客の応対を始めた。
「すまん。会計に手間取った」
「結構です。こちらで済まさせていただきます」
おまけに、採寸までしてもらえた。それもタダでいいという。
「いや、悪いよ」と断ったが、問答無用で話を通される。
「とんでもない。あなたとお話できる機会だけで、十分お代金分の経験をさせていただけるので」
そこまでしてもらえるなんて。
「ただ、両替はしておいたほうがいいわね。金貨を見せてください」
「うむ」
オレは、金貨数枚を、見せた。あと、宝石も。
「そうね。換金可能なアイテムは、ざっとこんなものでしょう」
現地のお金に変えられそうなものを、店主が適当に見繕ってくれた。
「確認いたしますが、『こちらの世界に、あちらのアイテムを持ち込んではいけない』とかのルールは、ございます?」
「問題ない。金貨などは、こちらの世界の物質に変わる。価値も変わらない」
「ならば結構。では、これだけご用意させていただきましょ」
結構な金額を、もらう。
「遠慮なさらず。両替しても、これ以上の額になることでしょう。その差額も、後にお渡しいたします」
日鳥山店長は、店を閉めた。
続いて、この世界の質屋に。そこでも、大金をいただいた。
「あっちの世界の金貨で、億万長者になっちまった」
あやうく、無一文扱いになるところだったが。
「いいんじゃない? どうせこっちのお金なんて、元の世界に帰ったら価値なんてなくなるわよ」
それもそうか。では、遠慮なくいただいておこう。
「すまんが、日鳥山氏。ここがどういう世界か、教えていただきたい」
オレが尋ねると、店主は「ティナでいいわ」と返答してきた。
「詳しい話は、お昼してからにしましょ」
「そうだな。今の時刻が昼間なのも気になっているし」
【冒険の書】を起動させたときは、深夜だったのに。
「何がほしいかしら?」
「オレたちといったら」
「わかるわ。カレーよね」
ティナの誘いで、この世界にあるカレー屋に案内してもらう。
こっちのカレーは、食券を買って食べるスタイルか。
「辛さも選べるわよ」
「いや。この世界の普通を味わいたい。味変は、それからだな」
「いい心がけね」
ティナは、「二〇倍は辛い」というメニューを頼んでいた。
おごると言ってくれたが、せっかくなので断る。
この際、自分で会計をしてみようではないか。
差込口に紙切れみたいなお札を差し込むと、ひとりでに吸い込まれていった。
「なんという、文明の力だ。こんな紙切れが、金の代わりなのか」
釣りの銅貨が、取り出し口から吐き出される。
「おお。これまた文化的だ」
ちなみにティナは、冒険者証のような薄い板を、コンソール板に当てていた。あれが、「電子マネー」というやつか。我々の国には、まだ早い文化だろうな。
さて、カレーが来たぞ。
「うまい!」
思わず、大声を出してしまう。
「今まで食ったこともない、なんの雑味もないカレーだ。こんなに洗練されているのか」
あまりに大きすぎる表現を出してしまい、オレはかしこまる。
「いいのよ。外国人観光客だって、似たようなリアクションを取るわ」
「しかし、最高にうまいな。何杯でも食えそうだ」
「何杯でもおかわりしてね」
「そうさせてもらう。おかわりだ」
オレはお代わりの際に、少しずつ辛さを上げてみた。
一〇倍を食って、己の限界を感じる。
「うむ。馳走になった」
これだけ食っても、そんなに金を取られないとは。
腹も心も満たしてくれる上に、財布にも優しい。
「普段、ギターは持ち歩いていないんだな」
「さすがに、本業では使わないわ。あれは、夜のバーで演奏するのよ」
昼は洋服売り場で働き、夜はバーにいるのか。それは楽しみだ。
「せっかくこっちに来たんですもの。時間の許す限り遊んでってちょうだい」
「驚かないんだな? いわゆる異世界からの訪問者だぜ?」
「見ず知らずの人物が訪ねてきたら、あたしだって警戒するわ。あなたは、信頼できるもの。ローガンって呼んだほうがいいかしら?」
「いや。ソロガスでいい」
ここに、オレのことを知る人物はいない。冒険者に発見されても、「そういうものなんだろうな」と片付けられるはずだ。第一、ティナがこんな反応だから。
「ティナよ、ここはどういう国なのだ? やけに高度な文化が発達しているようだが」
「ここですか。ここは地球ですよ。あなたたちの住む世界とは、まったく違う世界でしょうね」
ちきゅうとな?




