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おひとり国王サマ ~毎日忙しい国王は、スキル【冒険の書】で冒険者の旅先へ一瞬でワープして日帰りプチ家出する~  作者: 椎名 富比路
第二章 国王、湯けむりに隠れる

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第3話 温泉国王

「はあ、ゆっくり風呂に入りたい」


 公務の帰り、オレは帰りの馬車でひとりごつ。


 ここ、温泉地だぞ。世界屈指の源泉がある温泉地、アルマーだ。


 名だたる冒険者たちも、ここで日頃の疲れを癒やすのだと、王都のガイドブックにも載っていた。


 なのに、オレは楽しめないという。


「ソロガス王様、次の機会がございます」


「次っていつだよ? 何年後だ? オレに気が休まる日が、訪れるとでも?」


 今日は温泉地、アルマーに「数時間だけ」滞在だ。ちょっとあっちの王様としゃべって、すぐご帰宅である。アルマーの名物「コーヒーギュニュウ」とやらも、飲めなかった。温泉に入った後に飲むと、最高だという。

 アルマーを旅した冒険者の、【冒険の書】にも書いてあったな。


 秘湯と、コーヒーギュウニュウか。なんたる耽美な響き。


 なのに、冒険の書は未だに王国にしまってある。今日はお預けかなぁ。


「母国にだって、転送魔法で楽に帰れるだろうが」

 

「手を振っている村人を、見過ごすわけには参りません。ソロガス王」


 オレはアルマー国の村々を回って、手を振り返さなければならない。


 肩がコリそうになってきた。


「どうせ村人たちだってよお、オレが義理で手を振ってるなんてお見通しだっての」


「社交辞令、というものでございます。こちらに視線を向けてくださったということこそ、大事なのですよ」

 

「とはいえ、名物の温泉に浸かっていない時点で、いささかおもてなし拒否の姿勢が強すぎな気がしないか? 相手のご厚意を無下にして、それが我々のいう公務なのか、と、オレは思うがね」


「……ふむ。それはそうですね」


 よし。こいつチョロいわ。


「仕方がありません。日帰りとなりますが、温泉を手配いたしましょう」


「おう。よろしく頼む」


 言ってみるもんだ。オレだって、やろうと思えばワガママを押し通せる。


「宿を手配しました。では国王、内湯にどうぞ」


「内湯……」


 オレが案内されたのは、豪華なスイートだった。しかし、露天風呂ではない。完全な屋内風呂である。


「温泉の成分はそのままでございますゆえ、ご安心を」


「あの、この地の名物って、露天風呂」


「なりません」


 国王は、どこで命を狙われているかわからない。


 ましてや素っ裸で狙われたら、たまったもんじゃありんせん。防げるもんも防げない。


 へい、へい。その理屈はわかりますよ、大臣よ!


 それにしても、警戒が過ぎやしませんかねえ!


 オレを暗殺されるのが嫌だったら、障壁術師で取り囲んでおけばいいだろうが。


「ガマンなさってください。これが精一杯なのです。キヤネン王国と言えば、世界の中枢を担う国家。その国王ともなれば、魔族でなくてもあなたを標的にしましょう。もはやあなたの敵は、国内外を問わないのです」


「ふーん」


 服を脱がせてもらいつつ、オレは大臣の言い訳を聞く。


 ようは、保身だな。オレが暗殺されたとき、自分が責任を取りたくないだけなんだ。


「ここにスパイがいて、オレが屋内で殺されることは想定しなかったのか?」とも思った。


 しかし、言わないでおく。相手もわかっているだろう。その上で、オレが揚げ足を取ろうものなら、この妥協案さえも撤回される。彼なりの配慮なのだ。


 それを、オレが余計なことを言って、不意にするわけにはいかん。


「感謝する。では、浸からせてもらうぞ」


 オレは、湯に入る。


 ああ、絶妙なコレジャナイ感。


 気持ちいいのは、たしかである。だが、これじゃない。露天風呂で、月明かりに照らされながら湯に浸かるのがいいんだよ。うーん。


 これでは、普通に入浴しているのと、あまり変わらない。


 なんだろう。お背中を流してもらっても、なんだか申し訳ない気持ちに包まれる。至れり尽くせりなのだが、オレ自身はどうも至れた感がない。


「サウナはないか? せっかく内湯なんだ。あるといいんだが」


 ついでに「熱波師」なんてのもいると、より高みへ到達できると聞くが……。

 

「ございます。では、こちらへ」


 サウナルームへ、入る。

 

「普通……」


 誰もいなくて、ぼっちサウナだ。


 いやあ、うん。快適なのは快適だ。


「あの、熱波師ってのは?」


「はい。最近のサウナに欠かせないという、熱波を促してくださる方たちですよね? 一応、この方たちにお願いしました。どうぞ、こちらへ」


 フロントの受付嬢さんが、バカでかい孔雀の羽で、オレを仰いでくれる。


 そよそよ~。


「いかがでしょうか、ソロガス王様?」


「ああ、よいぞ。うん。よいよい」

 

 なんか、南国の王様になった気分だ。


 わかるよ! わかるんだけどさあ、オレが求めているのと違う。

 

「風呂上がりの、コーヒーギュウニュウとやらを」



「ご用意いたしております。こちらへ」


 受付嬢さんが、「グラスに注いでくれた」コーヒーギュニュウを用意する。


「……」


 瓶でくれるんじゃ、ないんかいっ。


「ささ、召し上がってくだされ」


「うむ。馳走になる」


 ストローでチュー。うん。ミルクとコーヒーのバランス最高ってちゃうねん!


「えっと、アルマー地方は、アルマー豚を使ったカツ丼が売りだとか」


「はい。もちろん、お風呂上がりのカツ丼も、ご用意いたしました」


 やったぜ。堪能させてもら……。


「カツ、丼?」


 眼の前にあるのは、銀の皿に盛られたカツライス。いわゆる、カツ皿だった。


「ソロガス国王様、存分に、召し上がってください」


「ち、馳走になろう」


 お箸はなく、カトラリーを使うのかー。こんな温泉地でさえ、オレは礼節をわきまえた行動をせよと、要求されるんだなぁ。


「お味は、いかがでしょう」


「実に結構な、お手前だ」

 

 ああもう、うまいのがまた、文句言えない。


 文句を言うなら、付け合せのキャベツが邪魔かなー? シャキシャキなのはいいのだが、カツと一緒に食べる前提の配膳なのだ。下敷きにしてやがる。こんな副菜は、マヨでガッツリ食いたいんだ。


 カツの下なんて、白メシでいいんだよ。カツには、白メシがあれば十分である。


「きれいに、召し上がられましたな。国王陛下」


「うむ。馳走であった」


……って、ちゃうねん! なにもかもが、ちゃう!


 一応平静を装っているが、オレの中のプチソロガスは、暴れまくっていた。


 なにもかもが、思っていたのと違うじゃないか!


 カツ丼だって、もっと丼を持ってかっ食らうイメージだった! 

 お上品に、オシャンな皿に持ってどうするねんと!

 ナイフとフォークで、ちまちま食えというんかいっ!


 コーヒーギュウニュウも瓶で持ってこいや! 腰に手を当ててググッと飲むんとちゃうんかい!


 熱波師も、遠慮せんとガンガンにオレを仰いでくれや! 熱波師ってのは、熱波出してこそやろがいっ!


 なによりも、露天風呂で夜の肌寒い空気を浴びてこそ、温泉やないのん?

 そこに愛はあるんか?


 たしかに、どのおもてなしも最高だった。オレのことを配慮してくれているのは、恐縮の至りだ。


 しかし、オレが求めているサービスは、もっと雑なものである。


 こんなんでは、ちょっと消化不良と言わざるを得ない!


……イカンイカン。これでは、お里が知られてしまうな。


「ご満足いただけましたか、ソロガス国王?」


「うむ。満足した」


 一応、温泉には入れたしな。これらのことは、不問といたそう。


 あんまりワガママが過ぎても、迷惑なだけ。


 オレは王族。クレーマーではないのだ。カツ丼が皿に盛られてでてきただけで、ブチギレてしまうようなオトコではない。


 だが翌日、オレは【冒険の書】を引っ張り出してきた。


 今日は公務もない。フロも「今日は出歩いていないから」と、軽くシャワーだけで済ませた。


 すべては、ガッツリ風呂に入るため!


「待ってろよ、アルマー温泉! ソロガス・キヤネン、いざ参る!」

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