表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おひとり国王サマ ~毎日忙しい国王は、スキル【冒険の書】で冒険者の旅先へ一瞬でワープして日帰りプチ家出する~  作者: 椎名 富比路
第一章 国王、プチ家出してラーメンを貪る

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/10

第2話 国王、ラーメンにありつく

 転送スキルを発動し、トーンクォーツの街にたどり着いたぞ。


「なんだぁ、ぐっと来る路地じゃないかぁ」

 

 これが、ウワサの路地だな。


 さてさて、潜入開始だ。


 夜になった街なんて、王都じゃめったに探索できない。


 いいじゃないか。いい感じに、出来上がった酔っ払いがタムロしている。


 とはいえ、客引きがいる酒場なんて場所も少ない。あるとしても、常連客がいる店ばかりだ。馴染の客しか相手にしないため、オレみたいな一見は無視してくれる。


 これだよ、オレが求めている世界観は。


 程よいカオス。程よい雑踏具合。


 いいねいいね。街が生きているって、実感が湧くよ。

 この雰囲気が、いいんじゃないか。

 清潔な王都キヤネンでは感じられない、血が通った路地!

 

 こんなところにあるラーメン屋なんて、うまいに違いない。


 魔王の侵略にも耐え忍んできた、楽しいラーメン屋があるに決まっているさ。


「あったぜ。ポツンと一件の店」


 こちらも、それなりの行列。しかし、客の回転率が実にいい。店と客層が、一体化している。

 

 よくこんな店を、見つけたものだ。

 

 冒険者が「うまい」という店に、間違いはなかろう。


 並んで待つことに。


 このソロガス・キヤネンは、暴君にあらず。ちゃんと、行列に並べる王族なのだ。


 行列が、オレの前で途切れた。ようやく店に入れる。


 店内は、カウンターしかない。その辺のバーより、狭かった。


 大の男たちが、ひしめきあってラーメンをすすっている。みんな、冒険者だな。体格や風体でわかる。みんな宿屋の大衆浴場でさっぱりした後に、この店に入ってきたな。


 ますます、グッと来るね。いいよ、この雰囲気は。


 こんなのを見せられると、余計に腹が減ってくるなあ。


 カウンターが、一つ空いた。


 オレは、着席する。

 

「らっしゃい」


 大将が、水の入ったガラスコップをオレの前に置いた。オレのオーダー順が、回ってきたわけだな。

 

「ウチはラーメンと、ライスしかないよ。瓶ビールは、よそで飲んできてくれ」


 大将が、オレに呼びかける。

 

「それで構わん。ラーメンと、ライスを」


「あいよ。ライスはセルフだ。自分でオヒツからよそってくれ」


 オヒツ……これだな。


 しゃもじを取って、オヒツからゴハンをよそう。


 こんな感覚久しぶりだな。かつて東洋へ赴いたときにもてなされた、【ちらし寿司】なる食いモノの食べ方に似ている。あれも、自分でスキなだけよそっていけ、というスタイルだった。


 こうやって、山盛りにして、と。


 こんなところで、遠慮なんかしない。ガッツリ満腹になるまで、いただく。


 胃袋が、オレに「そうしろ」とささやくのだ。


 オレはカウンターから、ラーメンの湯切りをする大将の腕を見る。


 年齢の割に、ぶっとい腕だ。ラーメンをするだけなら、あんな体格じゃなくていい。彼はおそらく、元冒険者だろう。


 王の目は、ごまかせない。


 オレは会ったことはないが、現役当時はかなりの使い手だったろう。数々の冒険をしてきたと、うかがえる。

 

「ラーメンお待ち」

 

「ありがとう」


 ラーメンが、眼の前に現れた。


 外観だけでも、犯罪的で背徳的なフォルムをしている。


 麺と白いスープ、薄く切ったチャーシューとメンマだけ。薬味のネギとモヤシは、自由に取っていい。


 このムダを極限まで削ぎ落とした、面構え。見ているだけでも、うまそう。

 

「調味料は、お好きなだけ」


「うむ。馳走になる」


 割り箸を持って、いただくとしようか。


 まずは、スープから。


「うんめ」


 優しい味だ。酔っ払いに向けて、作ってあるなあ。


 座ってみてわかったが、どいつもこいつも酒の匂いをさせている。なのに、荒っぽい言動のやつが一人もいない。教育されているわけでもないのに、統率が取れていた。長年培われた、客との信頼関係だろうか?


 この味は、たしかに暴れる酔っ払いなんかに、荒らされたくはないわなあ。


 お次は、麺をすすらせてもらおうか。


「ズズズっ! ズズズ!!」


 やべ、止まらん! 止まらなくなってきたぞ!


「ズズズズっ!」


 うん、っま! たまらねえ。


 豚骨スープを吸っただけの、実にシンプルな味付けだ。


 価格設定を抑えている分、麺とスープの味のバランスにこだわっているようである。


 こういったジャンク食って、王宮じゃまず食えないんだ。


 第一、素朴さが薄れて、洗練された味に変わる。王都にオープンしたという店主のプライドが、店主の命とも言える味まで変えてしまうんだ。なんとも荒唐無稽な。素朴さこそ、客が求めているものだというのに。



「ああ。うまい」


 うまいしか、言葉が出なかった。いやあ、満足度がハンパではない。


 なんだ、このうまさは?


 ラーメンとメンマと、薄いチャーシューのみという、実にシンプルな味わいである。


 なのに、中毒性がすさまじい。


 最近だと、ニンニクをドーンで、チャーシューも分厚いものが主流だと聞く。そんな時代に、これほどのボリュームで満足できるとは。


 張り紙を見ると、この道で三〇年というじゃないか。歴史を感じさせる。なのに、色褪せていない。


「おっと。忘れていた」


 これですよ。ラーメンと言ったら、ライスだろ。


 ラーメンのスープをおかずに、ライスを。


 ああ、生き返る。これだよ。この一杯が、オレを救ってくれる。


 高い酒も、高級な食材も必要ない。ラーメンとライスさえあれば、オレはまた立ち上がれるんだ。


 はたから見れば、オレたちが食っているものなんて、炭水化物爆弾だろう。


 しかし、それを欲している者たちが多いからこそ、この店は繁盛しているんだ。


 その証拠に、ここら一帯は実に治安がいい。


 深夜だというのに、誰も騒いでいないというね。


 王都でさえ、騎士団などの警備兵が夜回りをして、ようやく静けさができるところだ。


 ここは、そんな気配がない。


 ラーメンを食って、メシをかきこむ。

 この動作を、いったいどれだけの冒険者たちが繰り広げたのだろう。


 おそらく、長い年月を経て、様々なマナーやルールが出来上がったんだ。この店を、この街を守るための、暗黙のルールが。


 このライスと、ラーメンの素朴さ。これこそ、街の象徴だろう。


「食い足りないかい? メシは、お代わり自由だから。ただし、セルフだよ」


「かたじけない。遠慮なくいただこう」


 実際に、他の冒険者たちも、オヒツのライスを取り合うかのようによそっていた。


 オレも、そのご相伴に預かろうじゃないか。


「うまいね。このラーメン」


「あんがとよ。領主様が、いいんだよ。この街は。静かでいい街さ」


 店の大将が、この国のことを話す。


 この街は、魔王が管理しているダンジョンからも遠くて、魔物の被害が少ないという。

 仕入れの馬車も、専属の冒険者ギルドが守ってくれるそうだ。

 おかげで安心して、仕事ができるらしい。


「領主様も、この都市の利便性がわかってるんだろうね。土地の税金も、よそと比べて安いのさ。おかげさんで、人の出入りが少ないのに、繁盛させてもらっているんだよ」


 土地を出ていく店主が、少ないのか。


 それで、長いこと決まりごとが途切れずに残っているのだろう。


 とはいえ、ここの領主に嫉妬しちまうなあ。学ぶことが多い。

 

「馳走になった。感謝する」


 代金を払って、オレは店を出ようとした。


「あんがとよ。アンタ様も、お屋敷に帰る時は、お気を付けてな」


 大将が小声で語り、オレにウインクしてくる。


 なんだ、バレていたのか。オレが国王だって。さすが、元冒険者ってわけか。


「どこでわかった?」


「銭がピカピカ過ぎらあ」


 テーブルに置いた銅貨が、キラキラと光っている。

 

「こんな銭をくださる方はよぉ、一人や二人じゃねえんだよ」


 いひひ、と、元冒険者の大将が笑う。


 なるほど、他の国王も常連ってわけか。やたら治安が良いわけだ。

 

「これは、一本取られたな」


 次は路銀を多少は汚してから、転送スキルを使うか。

 


(第一章 おしまい)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ