第18話 王妃との時間
「モーニングという、料理とな?」
オレは冒険者から、うまそうな料理の情報を得た。
なんでも、宿屋で出てきた朝食が、格別のウマさだったという。
「はい。モーニングとは、トーストとゆで卵、あと、カラッと揚がったハッシュドポテトがつくのです。このハッシュドポテトが、なんとも絶妙な味でして」
「ふむ。コロッケとは違うのか?」
イモを揚げる料理と聞けば、庶民の味方コロッケだろ。
あれ、うまいんだよなあ。
だが、ハッシュドポテトとは、コロッケとはまた違った揚げ物なんだとか。
「いえ。あれとは別の食べ物です。コロッケはコロッケで、うまい店はありますが」
「ふむ。興味深い」
ちなみに、そのモーニングを出す店は、コロッケを挟んだパンも提供しているらしい。
「ハッシュドポテトは、細かく刻んだジャガイモを平たくこねて、油で加熱するのです」
ふむふむ。話を聞いてみるが、まだ脳内ではしっくりこない。やはり、実物を見る必要があるな。
「朝限定のメニューなのです。イモの具合をチェックするために、朝限定で出されるそうでして」
話を聞きながら、オレは前傾姿勢に。
ああもう。話だけでも、うまそうすぎる。
「そこの朝食は、まだ人気のメニューがございまして。それが、アズキという豆を使った、トースト用のペーストなのでございます」
「ただのペーストが、そこまで興奮するくらいのうまさなのか?」
にわかには、信じられないな。
「はい。トースト用の甘いペーストといえば、ジャムを連想なさるかと思われます」
「おう。オレも毎朝、ジャムを用いる。あれがまた、頭が冴えるような味がして最高なのよ」
「おっしゃるとおりでして。そんなソロガス王には、ぜひアズキをお試しいただきたく」
「アズキとは、どのような?」
「潰した黒い豆に、糖類を混ぜたものでございます」
黒い豆と聞いて、王妃はあまりいい顔をしなかった。ただでさえ、庶民の食い物には関心ねえからな、王妃は。
「つぶあんとこしあんという種類がございまして、つぶあんは豆の皮の食感を残しているのです」
うんうんうん。めっちゃうまそう。
「こしあんは、上品な舌触りがして、緑茶に合います」
「緑茶に。ほほーう」
緑茶なら、貢物でいただいたぞー。
「ぜひ食ってみたいな」
「東洋のカメダに訪れた際は、ぜひに」
そっか、東洋のカメダ地方ね。ここの裏側の世界だな。
今日は特に、なにも予定がない。
とはいえ、王妃の姪であるフィオリーナはまだ教育中の身だとか。釣りに行くのは、まだ次の機会になるだろう。
オレ一人で、そのモーニングとやらをいただくかね。
その後も、数名の冒険者の旅路を記録した。
冒険者が去ると、王妃が珍しくオレの袖を引っ張ってくるではないか。何事かな?
「どしたい?」
「ソロガス。今日は、乗馬にお付き合いくださいな」
乗馬か。久しく、ウマには乗っていなかったっけ。常に、馬車移動だったし。
「おお。いいぜ。けど、なんでまた?」
「今度、奥方様を交えて乗馬レッスンをいたします。それで、騎士時代にならしたという、貴方様の腕前を見ておきたくなりまして」
珍しいことも、あらあな。
「構わないぜ。今から行くか」
オレと王妃は外着に着替えて、乗馬のレクチャーをした。
「大丈夫か?」
「問題はございませんわ。それより、ウマが怯えてらっしゃらない?」
「お前がビビってると、ウマも神経質になるぜ。信じるんだ」
「わかっているのですが、なかなか難しいですわね」
見るからに、王妃はへっぴり腰になっている。
「最初から、うまくやれることなんてない。ヘタクソでも、数をこなして慣れていくんだよ」
「感情論だけで、上達しますの?」
「気持ちで負けている段階で、振り落とされちまうぞ」
「心得ましたわ。ひゃああ!」
悲鳴を上げつつも、王妃はなんとか前進できるレベルにまで上達した。顔は、ひきつったままだが。
「それにしても、珍しいよな。お前さんから、乗馬を誘ってくるなんて」
「わたくしだって、たまには夫とちょっとこうした時間がほしいんですのよ」
こちらに顔を見せず、王妃がボソッとつぶやいた。
「さみしい思いをさせて、悪かった」
「いえいえ。誰もそんなことを言っていませんよ。ただ」
「ただ?」
「あなたの気持ちが、わたくしから離れていくのではないかと」
そんなしょーもないことを、考えていたのかよ?
「んだよ。水臭い」
「だって、あなたとわたくしは、ただのお見合いでした。もっと心に決めた方が、いらっしゃったのではなくって?」
はあーあ?
「あのなあ。お見合いだけでお前さんと結婚したんなら、オレはとっとと他に女をこさえて、王宮を側室だらけにしてますー」
「まあ……」
「でも、やってねえじゃないか。つまり、そういうこった」
「あなた」
「ささ、お夕飯の時間ですわよ。奥方様っ」
オレがおどけると、王妃はクスリと笑った。
ようやく、機嫌が戻ったか?
「よし、降りられるか?」
オレは、ウマから降りようとする王妃に手を貸す。
ウマからフワリと降りて、そのまま王妃はオレの腕の中に収まった。




