第15話 女王と王妃
先代ボッティ王との交流が深まったのは、オレの妻の妹がボッティ王の妃になってからだ。
フィオリーナ女王が生まれてから、先代王はよくオレに見せびらかしてきた。「待望の女の子」と。
普通、王は跡取りとなる男児を重宝する。
しかし民主制を重んじる先代王は、跡継ぎをあまり気にしている様子はなかった。
民衆に政治を任せている関係で、他の王子たちも世継ぎに消極的だったし。
どちらかというと、利権がほしい周辺の政治家たちのほうがうるさい。
結果的に、政治家共がもっともチヤホヤしなかった末の娘フィオが、王位を継いだ。民衆が政治になにを求めているか、よくわかってもらえるだろう。
「フィオリーナ、あまり主人と親しくなさいませんよう。この方はドラゴンさえ魅了する、タラシでございます」
夕飯のサーモンソテーを切り分けつつ、王妃がフィオに語りかける。
「それだけソロガス様は、魅力のある殿方ということでしょう。我が義兄として誇らしく思いますわ。ですが、ソロガス様はお妃様を選ばれました。ほまれなことではありませんか」
「……お上手ですね。ソロガスとは、お見合いなのですが」
王妃は、クスリと笑う。
オレ、もう引っ込んでいてもいいですよね?
なんでまたコイツらは、会う度にバチバチなのか。
「ソロガス国王、わたくしに王が務まりますでしょうか?」
「わかんね」
オレは、正論を述べる。だって、わかんねえんだもん。
「今までで衰退してきたのは、官僚が横行する独裁国家でも、民主国家でもない。官僚国家と民主主義が共存していた国だ。官僚と民衆が手を取り合っても、ロクなことにならん。考え方が、根本から違うからな」
だから、ボッティはちょいと危ういと判断できる。
「民衆に全権を委ねちまっても、いいかもな。先代もそんな考えだったしよぉ」
「かもしれませんね」
オレが言うと、フィオの表情が明るくなった。
「自分が政治を行わなくていい民主主義バンザイ」って、顔に書いてあるぞ。
「民主主義を援護して、国王は国のシンボリック・アイコンとして、活動していりゃあいいんだ。仕事が減るわけじゃないけどな」
フィオが、露骨に「ぐええ」という顔に。
「あまり将来のあるフィオに、悪いことを吹き込まないでくださいな」
「なにをいう? 親戚の兄ちゃんってのは、姪に悪い遊びを吹き込むもんだ。それは貴族も、平民も同じさ。王族だってな」
「遊びを吹き込んではダメでしょうに」
まったくだ。
だが、教えちゃうもんね。オレは悪い親戚のお兄ちゃんだからな。
さて、夕飯も済んで、フィオの入浴も終わった。
あとは寝るだけ……と思っていたのか?
いよいよ、フィオを連れ出すときだ。
なにもオレは、全面的に悪いことをしているつもりはない。
あくまでも、民衆の風習や習慣を学ぶ、大事な時間なのです。
冒険の書は本来、そういった意図をもって作られたのだから。
「フィオ、起きてるか?」
オレは、ドア越しにフィオへ声を掛ける。
見回りの衛兵が見たら、オレは明らかに外国の姫に夜這いをかける不審者だよな。
「準備できてるよな?」
「うむ。ソロガス様」
「じゃあ、行くぞ」
オレは手から、【冒険の書】を用意した。
フィオに合図を送って、転送する。
「うわああ。これが夜の街ぞ!」
夜中の街なかにワープしたフィオが、その絶景に興奮していた。
「すごいぞすごいぞ、ソロ……」
オレが「シーッ」と言って、口元に指を立てる。
フィオも自分の失態を理解したのか、自分の口を両手で塞ぐ。
「国王ソロガスが辺境の街に突然現れたら、民衆がビビり散らかすでしょうが」
口を塞ぎながら、コクコクとフィオがうなずいた。
「行くぞ。その前に着替えて」
「うむ」
町娘は、街のど真ん中でベビードールなんて着ません。あっという間に、盗賊団のオモチャにされちまうぜ。
コイツは、結構基礎的なことから教えなければならんようだ。
「自分で着替えられるか?」
フィオを物陰に連れていき、一応尋ねる。
とはいえ、こんなところで着替えさせられんし。
「魔法で一発じゃ」
フィオがステッキを用意した。小さい五芒星型の星が先端についた、デザインである。きらりん、と効果音が鳴りそう。
「一五歳なのに、えらいファンシーな趣味だな?」
「民衆の間で流行しておる、マンガという書物から拝借した技術ぞ」
そんなのが、流行っているんだな。
オレもまだまだ、勉強の身である。
「街だとどんな服装がええか、悩んでおったんじゃ。そこへ、ソロガス様が声をかけてきたからの」
オレのせいなの?
「悪かったよ。できるだけ、地味目で行くぞ。なるったけ、労働者風の感じで。ロングでもスカートとかはやめておいたほうがいいな」
「うむ。デートではないので、かわいらしい服装ではないほうがええのう?」
「そのほうが、ええよ。オレも冒険者風だから、冒険者のフリなら怪しまれないんじゃねえか?」
「なるほどのう。一理ある」
フィオが、ステッキを振る。
しゃららんと効果音を鳴らしながら、ステッキが光った。
一瞬で、フィオの衣装が変わる。
「おお、魔法使いか」
フィオが、ショートパンツの魔法使い姿に。ハロウィンに出てきそうな、いでたちだ。




