第14話 そして王と今夜、家出の計画を立てる、一五歳の女王
「妾は退屈なんじゃあ」
オレに対し、ワナワナとグチを垂れるのは、フィオリーナ・ボッティ女王陛下である。
政権争いに一人勝ちして、たった一五歳にして王位を継いだらしい。ボッティ王国の法律からして、元服したばっかりで王位に着任したってわけよ。
オレとの年の差、なんと三五歳。
「けどすげえじゃん、フィオ。一五歳で王様なんて、お前さんの人望があってこそだろうが」
一五歳のころなんて、オレは強くなることか、エロいことしか考えてなかったぜ。
とはいえ、そこは年頃の女の子ってところで。
やはり三ヶ月もしないうちに王としての責務、重圧に耐えかねて音を上げた。
で、オレに相談を持ちかけたってわけよ。
オレの自室で、フィオはグチグチと不満を垂れ流す。
どこの王様も、頭にくることは同じか。
特に、拘束時間の長さは共通しているらしい。一人の時間が、マジでなさすぎる。今のように人払いをせねば、ロクに自由を満喫できない始末。
「退屈すぎるのじゃっ。しんどい」
「それは、お前さんの責任感が強すぎるからだ。ほどほどに働けばいいんだよ」
「ほどほど加減が、ようわからん。じゃから、父上の親友であるソロガス殿に聞いておるんじゃないかっ」
「うーん」
たしかに、オレと先代ボッティ王とは知り合いだった。そこまで親しいかってわけじゃないんだけどな。騎士団時代に、同期の桜だった程度である。
アイツはさして強くもなかったが、人に慕われる男だった。若くして病死したのが悔やまれる。
子だくさんで、全員を可愛がった。死ぬ間際まで自分で次期王を決められないと、オレに相談をしてきた。
「世間様に決めてもらえ」とオレが適当に選挙を提案したら、ガチで採用しやがるとは。
その選挙戦を勝ち抜いたのが、末娘のフィオリーナなのだ。
「父上は貴方様のことを、ボッティ王国の利権や欲に関係なく、対等に話してくれた唯一の男じゃと語っておった」
「オレも王様だって、程度だぜ」
「相談するならソロガス様と、妾も決めておった。ぜひ、国王としての心得を、お聞きしたいっ」
マジかよ。そこまで買いかぶられてもなあ。
「期待するなよ」
「いやいや。貴方様に聞けば、この書物も有効に扱えるじゃろうと」
フィオが、手から分厚い書物を召喚した。
【冒険の書】である。
王様にしか扱うことができない、激レアスキルだ。
冒険者が立ち寄った街や村に、一瞬でワープができる。しかも魔力消費ゼロで。どの冒険者も、転送は魔法を使うのに。
オレは忙しい合間を縫って、【冒険の書】で深夜のプチ家出を楽しむのだ。
「王位を継いだとき、亡き父の声がした。書物の使い方を、教えてくれたのじゃ」
このスキルは、王位を継ぐと同時に代々引き継がれる。
「そもそもどうして、冒険者の足跡を王がたどる必要性があるのじゃ?」
「世間の声を聞かなければ、王様とはいえんだろ?」
「ふむふむ。一理あるのう」
「だろ? 世界情勢を知らない王様がどこにいる?」
オレの話は、ぶっちゃけ事実だ。
【冒険の書】は元々、冒険に不慣れな王様が、冒険ごっこをするために編み出したスキルらしい。安全に帰れるように、魔法を使わなくても元の国に帰れるように設計してあるという。
まあ、オレならそんなお気遣いも無用なのだが。
「もらったはええが、どこの世界に行けばよいのかわからぬ」
「せっかくのプチ家出ツールなのに、使わないと損だぜ」
「未成年に夜遊びをススメるとは、ソロガス様は罪なお人じゃ」
フィオが、本で顔を隠す。
「何が未成年だ? お前さん、もう元服してるじゃんか。そうでもしないと、この先やっていけないぜ」
どんな仕事にも、息抜きは必要だ。
特に、世界を動かす王様みたいな仕事には。
「オススメの家出先などは、あるかのう?」
「そうだな……ちょっと見せてくれ」
オレは、冒険の書を広げてもらう。
フィオと肩を並べて、面白そうな街や村の情報を集めた。
「お前さんも、赤い月の洞窟に行ったギャルどもが来ているんだな?」
「そうじゃ。なんとも蠱惑的な響きぞ。しかし、妾は泳げぬのじゃ。温泉でも足がつかん場所があったりして、怖い」
コイツ、ちっこいもんなあ。
じゃあ、食い物系がいいかもな。
「ここなんてどうだ? 冒険者や貨物馬車乗りが使っている、深夜も開いてる大衆食堂がある。うまいんだぞ」
フィオの書物に書かれた場所には、行ったことがない。しかし、大衆食堂がシャレにならんくらいうまいのは確かである。なんというか、素朴なのだ。
「貴族が、庶民の食事を口にするのかえ?」
「そうだ。市井のメシってのは、バカにならんぞ」
「うむ。参りましょう」
「よし、決まったな。それじゃあ……」
オレがフィオと話していると、ドアをノックする音が。
うわっ、女房だ。夕飯で呼びに来たか。
慌ててオレは、フィオと離れる。娘より年下の小娘をたぶらかしているなんて、変な疑惑を持たれたくない。
「あなた、フィオリーナ、食事ができました」
「お、お世話になります。伯母上」
フィオは、オレの妃の姪なのである。




