第13話 レッドドラゴンと会話
「我の正体に、気が付かぬとは。相も変わらず魔法協会の目は、節穴じゃのう。ソロガスよ」
「仕方ないさ、キサラギ。龍がこの世から姿を見せなくなって、だいぶ経つからな」
かつてこの地に、「月の如く」という意味で【如月】と呼ばれる龍あり。
そのメスのレッドドラゴンは、月と見間違えるほど美しい瞳を持つ。
魔王と勇者がいた頃より、はるか大昔の伝承だ。
オレは昔、キサラギと真剣勝負をしたことがある。
キサラギは人間を模し、自身を倒せる輩がいるかの試練を、知らぬ間に人間界で行った。
結果は、オレの勝ち。
といっても、「人間と同等の力で戦う」というルールの上でだが。
ドラゴンの本領を発揮されていたら、オレはこうして湖でプカプカ浮いていないだろう。
「いまだ魔術協会は、我々ドラゴンを自然現象と区別できんと見える」
龍。
普段は嵐や森林火災といった、自然現象という形として現れる。数千年、誰もそのハッキリとした姿を捉えたものはいない。
オレを除いては。
ドラゴンのデザインも、大昔のエラい魔法使いが連想した形に過ぎない。「ドラゴンってこんな形じゃね?」と、「コウモリの翼が生えたトカゲ」と描写したのである。
位の低いドラゴンが、自己顕示欲のために、魔法使いのイメージを具現化した程度のこと。
人間に退治されまくるようになってから、ドラゴンが地上に顔を出さなくなって久しい。
したがって、本当のドラゴンの姿をまともに見た人間なんて、今はほとんどいないのだ。
本来ドラゴンには、正しい形なんてない。ドラゴンだろうと、人間だろうと、どんな姿にも変えられる。
トカゲだったとしても、勝手に人間がそう見ているだけ。
月のようにデカい目を持つ異形であるかと思えば、石より小さいかも知れないのだ。
「久しいのう。かつてのライバルと、共にこうやって過ごすとは」
「どうだ、キサラギ? 今なら丸腰の無防備だ。もう一度勝負したっていいんだぜ」
「ぬかせ。闘争心がビリビリと伝わっておるわ」
そうか。殺気は消していたはずなんだが。
「お主はなにをしに現れた? よもや【ないとぷーる】とやらにうつつを抜かすようなお主でもあるまい」
「いやあ、実はそうなんだ」
ナイトプール以外に、ここでやることなんてないんだよなあ。
「なんと。随分と俗な遊戯に興じておるのう、騎士ソロガスよ」
「ふん。貴様のような国王がおるか。夜中に湖を貸し切って半裸で泳ぐようなやつを、民は国王と認めんよ」
「ちげえねえ」
「そもそもお主は、特に栄光を手に入れたわけでもないしのう?」
「ああ。悪い魔王を倒したわけでも、ドラゴンを倒したわけでもない」
キサラギとの勝負だって、あくまでも勝負だ。
別にキサラギが街で暴れていたわけでも、オレがなだめたわけでもない。
オレとキサラギ、どっちが強いか。勝ったか負けたか、だけの戦いだった。
そこに名誉以外の、価値はない。
「それより、こっちに来たらどうだ? 酒もあるぞ」
「よいのか? 赤い月を、我の瞳を見に来たのだろう? 我が人の姿を取れば、その月も見られなくなるというに」
「構うもんか。人の姿を取ってもらったほうが、話しやすいかな」
「うむ。ではそうしよう」
赤い月が、フット消えた。
かと思えば、オレの隣に赤いビキニを着た巨乳JKが。長い髪も赤く、炎のブレスを連想させる。
「刺激的であろう? ソロガスよ」
【ビニール】という素材でできた浮き輪に浮かびながら、赤ビキニJKがこちらにウインクをした。
「まあね。オレが独身だったら、声をかけていたかも」
オレはキサラギの側に浮き輪を寄せて、グラスにワインを注ぐ。オレの飲み差しで、申し訳ないが。
「ぬかせ、ボケ。我に勝った時点で、妻帯者であったろうに」
キサラギはオレが口をつけたグラスでも構わず、ぐいっとワインを煽った。
「テメエこそ、ぬかせよ。自分より強いやつが現れたら、ツガイにしようとか考えていただろうが」
「まあのう」
「んだよ、不老不死のくせに」
ドラゴンは自然現象なため、命という概念がない。
ツガイとか、問題ではないのだ。
「馳走になった、ソロガス。では、この辺りで」
「もう一杯、やらねえか? チーズもあるんだぜ」
「そうしたいが、客人のようだ」
さっき助けた貴族の二人組が、湖に近づいてくる。
「赤い月がドラゴンと、知られるわけにはゆかぬ。お主との接点がなくなるからのう」
「おう。気を付けてな」
「自然現象に、気をつけよもクソもなかろうに。では」
ドラゴン・キサラギが、フッと湖から消えた。
オレも上がろうかな。堪能した堪能した。
「お先に」
「お気遣いなく」
「いや。もう帰らねばならぬ。ごゆるりと、逢瀬を楽しんで」
「はい。お気をつけて」
「では」
オレは荷物をまとめて、物陰に隠れてファストトラベルで帰宅する。
いやあ、懐かしかったな。あんな出会いも、あったもんだ。
翌日、商人から貴族になったという男性が、オレの城に現れた。正式な儀式をしてもらいたいと。
その男性商人こそ、オレが助けた相手だった。
貴族はなにかいいたげな素振りだったが、すぐにオレが別人だと判断したらしい。
まあな。あんな変Tを着ているオッサンが、王様なわけがなかろうて。
(第五章 おしまい)




