第12話 ソロ洞窟探索
到着、といっても、まだ近隣の村である。
さすがに、洞窟にダイレクトアタックはムリか。ファストトラベルも、万能ではない。
村から、移動するか。
さっそく、オレの前を馬車が通り過ぎていった。
なんだあれは? 見覚えのない貴族の馬車である。村から、走ってきたような。
どうも、急いでいる感じだったが。
この辺、盗賊とかいたっけか?
盗賊ならたしか、オレがとうの昔に駆逐しきったはずだ。
オレが騎士団長をしていた頃に、この辺りを担当していたんだが、その時期に盗賊を撲滅させた。「犯罪をするくらいなら、橋を作ってもらうほうがありがたい」と、盗賊団に仕事を斡旋したんだよな。
橋ができた後も、盗賊団には警備を任せている。
また盗賊が現れたら、元盗賊団の警備隊に捕まえてもらって、その盗賊を警備員に任命するというシステムを確立した。
元々騎士団って、その付近にいた元盗賊やら犯罪系冒険者集団やらなんだよね。
となると、仕事が滞ってやがるか?
違った。
オレの考えは、すぐ側を通り過ぎたビッグボアにかき消される。
アイツに追われているのか、あの馬車は。
深夜に畑を荒らそうとしたビッグボアが、馬車に気づいてそっちに狙いを定めたようである。
「待ってろ!」
オレはすぐに、馬車に追いつく。ビッグボアの前に、手を広げて立ちはだかった。
ボアは、オレに突っ込んでくる。
オレはレスリングの容量で、ボアを抱きしめてそのまま地面に寝っ転がった。
「どうどう。どうどう……」
ボアの頭を撫でて、落ち着かせる。
「ハラ、減ってるんだよな? よしよし」
アイテムボックスに手を突っ込んで、オレはリンゴを取り出した。
こういう事態を見越して、オレはオヤツを用意してある。
「よしよし。食え」
「ぶも」
ボアはリンゴを食うと、少し眠たそうになった。
「満腹だな。そのまま、朝まで寝ていろ」
このリンゴ【神の実り】といって、一個食うと三日は何も食わなくて過ごせる。
馬車が、引き返してきたぞ。
「御仁! おけがはありませんか!?」
馬車の荷台から、貴族の男女が降りてきた。
ははーん。そういうことね。
「もう大丈夫だぞ。オレは通りすがりの冒険者、ローガン。怪しいもんではない」
「冒険者殿か。大事なくてよかった。礼を言います」
「結構だ」
とはいえ、何ももらわないのは失礼なんだよなあ。
秘密の逢瀬を黙ってるわけだし、なにも渡さないとなると、かえって怪しまれちまうか。
「オレはすぐ近くのダンジョンに用事があるので、これにて」
「我と姫の関係を、内密にしてもらうわけには……」
「ああ、もちろん。興味がないし」
「ふむ。なにを支払えば……」
貴族の男性が考え込む。
「いや。ローガンという冒険者がここを通り過ぎたことを、口外なさらないでいただきたい。実は別件で、あのダンジョンに用事があるのだ。貴方がたを助けたのは、ほんのついでであってな」
別件なのは、間違いではない。
「左様ですか。承知しました。では行き先は、【赤い月の洞窟】でしょう? 近くまで、馬車に乗せて差し上げますが?」
「それこそ、結構だ。二人のお時間を大切になさっていただきたい。お気をつけて」
「感謝します。では急ぎますので」
「ああ。よき旅を」
馬車と別れて、オレは歩を進めた。
危ねえ危ねえ。顔をまじまじと見られるところだったぜ。そうなれば、大変だ。
なんせオレは、国王だからな。
相手がどんな貴族にせよ、顔を知られるわけにはいかない。
見知った顔ではないということは、商人上がりかな? それとも、身分違いの恋とか?
まあいいや。どっちにしても興味はない。
そんなことより、ナイトプールだよ。
今から、ウキウキだぜ。
「よし、ダンジョンに到着したぞ」
ダンジョンの最奥部に、あっという間にたどり着く。
土着モンスターなんて、楽勝楽勝。昔取った杵柄ってやつよ。
さて、浮き輪の空気を入れようっと。
ゴム製の浮き輪に、踏みポンプで空気を入れていく。
「おっ?」
モンスターが懲りずに近づいてきたか。大方、オレが持っている酒とツマミが狙いか。
オレはその場でポンプを踏みながら、ゴブリン共の相手をする。
「ええい。行動がワンパターンなんだよっ」
撃退されたゴブリン共が、銅貨やアイテムに変化する。
魔物は倒されると、アイテムや金、素材に変わるのだ。どういう原理か、オレにもわからんが。
宝箱になったりする魔物もいるが、中身は素材とたいして変わらず。
レアアイテムがドロップする確率も、低い。
「さて、湖にドボン、と」
オレは浮き輪とともに、湖にダイブした。
浮き輪をシート代わりにして、プカプカと浮く。
洞窟に空いた天井の穴から、赤い月が見えた。
この景色を見ながら、ワインを傾ける。風情があって、いいものだ。
ここでこうやってくつろぐのも、久しぶりである。
「あれがお前さんの目だなんて、まだ解明されていないらしいぜ」
オレは、月に向かってつぶやく。
「ふむ。そうじゃろうのぉ」
月が、まばたきをした。
実は、誰も知らない。
赤い月の正体が、レッドドラゴンの目だなんて。




