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おひとり国王サマ ~毎日忙しい国王は、スキル【冒険の書】で冒険者の旅先へ一瞬でワープして日帰りプチ家出する~  作者: 椎名 富比路
第四章 国王、たった一人の戦い(激辛

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第10話 発酵飲料作戦

 それにしても、辛い。


 毛根から、汗が吹き出している。


「はあ、はあ。でも、うまいんだよなあ」


 大臣は「やめておけ」と言っていたが。


 辛さだけを言えば、やめておいたほうがよかった。


 とても、ギブアップする気にはなれない。

  

 このうまさを体験せずに、死ねないとも思う。


 それだけ、中毒性が高い。


 うどんをズルズルとすする。


「ぐああああ!」


 おおお。吸い込んだコトで、辛味がダイレクトにノドを突き刺した。


 ああ、辛いなあ! けど、うまいからやめられん!


 うどんも、なんか辛い成分を練り込んでやがる。


「おほほお!」


 一人、悶絶するオレ。


 だが、他の客もオレなんか気にしない。


 敵がオレではなく、激辛キムチ鍋だとわかっているのだ。


 あとちょっとなのに、先が進まない。


 うどんはほぼほぼ食べ終わり、あとはわずかな具材とスープを残すくらい。

 だが、ありとあらゆる辛味成分が、スープに溶け込んでいる。


 ここらが、潮時だろう。


 今こそ、秘策を使うとき。

 

「すまぬ。飲むヨーグルトをもらいたい」


「かしこまり~。すぐお持ちしますね~」


 すぐに、ヨーグルトが用意された。


 聞けば、発酵食品は辛さを軽減してくれるとか。


 水では、ダメなのだ。辛さを和らげるために、水を飲んではいけない。水は余計に、辛さを口内に広げてしまう。


 飲むなら発酵食品だと。


 ためしに、オレはヨーグルトを口に含む。


「おお!」


 あれだけ苦戦していた辛さが、少し収まった。


 他の客も、発酵食品を片手に鍋をつついているではないか。


 この作戦は、激辛界隈でも浸透しているようだ。


 激辛に挑みつつ、発酵飲料で中和する。


 なんか、いけそうな気がするぞ。


 そう思っていた時期が、オレにもありました。


「おまたせしました~。チャーハンでーす」


 あとちょっとで完食だった客の前に、激辛チャーハンが追加される。

 

 そうだ。忘れていた! 


 制限時間五分を切ったら、激辛チャーハンが追加されるんだよ。


 せっかく辛さを中和して、順調だったのに。


 オレの前にも、チャーハンが。


 コメが赤い。ネギと卵だけのチャーハンのようだが。唐辛子の香りがツンと鼻を突き刺す。それに、追い唐辛子が一本追加されている。


「んんんぐおおおお! ゲッホゲッホ!」


 辛い辛い! チャーハン単品だと、なんか粉っぽくて、乾燥しててめちゃ辛かった! これは、オジヤ用のチャーハンだ。オコゲになってるみたいだし。


 チャーハンを、鍋に流し込む。


「おおお。これで正解だ」


 余計に辛くなったが、これはこれで。


「うん、うまいうまい」


 コメも甘みが消えていて、それがまたうまい。


 たいてい、辛いものに対してコメってのは、甘みがあって救いのイメージがある。


 このチャーハンは、その甘えを取り除いた地獄だ。


 それでも、うまみが三倍増しになっている。


「もうそろそろ、完食できそうなんだよなあ」


 周りの客も、オレに期待をしているようだ。


 そこで、オレと同じように完食間際の客を見た。


 その人物は、あとスープとわずかなメシと具材のみである。


 なのに、ギブアップしたのだ。


 豆乳を混ぜて、うまそうにマイルド辛味オジヤを食っている。

 完全制覇を成し遂げていないのに、その客は満足げに帰っていった。


「なるほど。そういうことだったのか」


 オレは、確信する。


 なぜこの店が、完全制覇者ゼロなのかを。

 

 だから、オレも宣言する。


「大将、ギブアップだ」


「はい~。豆乳の封印が、ひとりでに解けますね~」


 豆乳のツボが開き、オレの鍋に注がれていった。


 赤い鍋の中に、豆乳のマイルドさが合わさっていく。


 これを、一口。


 あれだけ辛かった鍋が、一気に優しい味になる。


 豆乳オジヤになって生ぬるくなるかなと思っていたが、適度に熱を逃がしたことで味わいも深まっていた。


「正解だ」


 やっぱり、この店はギブアップするのが前提なんだ。


 豆乳といっしょに食べてこそ、このキムチ鍋を最後まで楽しむことができる。


 うまい。最高に。


 さっきまで、この鍋はオレにとって敵だった。


 しかし今は、口の中で友となっている。


 最高の時間だった。


「馳走になった。満足だ」


 最後のヨーグルトまで飲み干して、ごちそうさま。

 

「ありがとうございます~。もうちょっとでしたね~」


「いや。あなたはこれも見越して、我々にチャレンジをさせているのではないですかな?」


「なんのことでしょうね~? では、またのご来店をお待ちしております~」


 おっとりした女主人は、ニコニコしながらオレを見送った。


「いやあ。食った食った」

 


 しかし、激辛はもういいかな?


 帰りに、アイス買って帰ろう。


 



 数日後、オレはまた大臣に、激辛店の前で羽交い締めにされていた。


「止めてくださるな、大臣! この激辛ラーメンなんて、めちゃそそるではないか!」


「あなたも懲りませんな、国王陛下! ダメに決まっているではありませんか! 歳をお考えを! あなたが心臓を病んで亡くなったら、そうなさるおつもりか!」


 そうは言うが、オレはもう激辛なしでは生きられない身体になっている。


 大地の神が、オレに激辛を食えと叫んでいるのだ!

 


(第四章 おしまい)

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