第59話:【悲報】「両成敗」とかいう不公平な正義が現れた件w 痛み分けなんて趣味じゃないので,わたくしが百,貴方がゼロで手を打ちませんこと?
裁定者の降臨
三大怪物との死闘の末,全てが「破産」し,更地となった最前線。泥の中に沈むアリシアと,満身創痍の枢機卿,魔女,獅子。誰もが指一本動かせぬ静寂の中,空から白と黒の二色の雨が降り注いだ。
その雨は,熱も重さも持たず,ただそこに触れるものの「意志」を均等に削り取っていく。
「……喧嘩両成敗。争う両者に非があり,故に両者に等しく死を与える。それがこの世の歪みを正す,唯一の絶対平穏である」
霧の向こうから現れたのは,左右で白と黒に分かれた奇妙な法衣を纏う男――「両成敗」であった。彼は天秤のような巨大な双刃の剣を背負い,感情の欠落した瞳でアリシアたちを見下ろした。
両成敗の乾いた過去
彼が「双方を等しく滅ぼす」という歪んだ正義に至るまでには,救いのない過去があった。
かつて彼は,二つの大国の国境付近にある小さな村の名主の息子であった。二国は長年,領土を巡って争い,彼の村はそのたびに戦火に包まれた。ある時は王国が略奪し,ある時は帝国が焼き払う。 彼は双方に訴えた。「どちらが正しいのか,どちらが我らを守ってくれるのか」と。
しかし,返ってきたのは「あちらが先に手を出したから仕方がなかった」という,責任転嫁の言葉ばかりであった。どちらの国も謝罪せず,どちらの国も賠償せず,ただ彼の村だけが「双方の言い分」の間に挟まれて消滅したのである。
愛する家族も,美しい故郷も,「どっちもどっち」という無責任な言葉の影に隠れて,誰にも裁かれぬまま忘れ去られた。
「正しい者がいないのであれば,全員が等しく悪だ。故に,救いは無い。ただ,等しい罰だけが真実となる」
彼はその日,自らの心を白と黒に染め上げ,世界の「争い」そのものを両側から切り捨てる裁定者となったのである。
執行開始:不公平な「平等」
「アリシアよ。そして三人の怪物たちよ。汝らは世界を壊し,互いを傷つけた。その罪に優劣はない。故に,我はこの場にいる全員に『等しき終焉』を執行する」
両成敗が双刃の剣を抜くと,戦場に不可視の鎖が張り巡らされた。それは対象の力を強制的に50対50に平均化し,最後には双方の存在をゼロへと導く禁断の裁定術式であった。
「……。…….三行で言いなさいな。要するに,わたくしの勝利を半分奪って,負けたあちらさんの損を半分肩代わりさせろということですわね?」
泥の中から這い出したアリシアが,血反吐を吐きながら不敵に笑った。 彼女の銀髪は泥で真っ黒に汚れ,肉体は限界を超えて崩壊しかけている。だが,その瞳に宿る強欲な光だけは,決して折れていなかった。
「ふざけないでくださる? わたくし,損をするのも,他人の負債を背負わされるのも,大嫌いですのよ」
物理的論破:独占の正道
「無駄だ。我の領域では,汝の理不尽な暴力も我の力と平均化される。汝がどれほどの出力を出そうと,それは汝自身を滅ぼす刃へと変わるのだ」
両成敗の剣がアリシアの肩を裂く。同時に,両成敗自身の肩からも同じように血が噴き出した。痛み分け。文字通り,自分を犠牲にして相手を確実に道連れにする最悪の戦法である。
「お姉ちゃん! だめだよ,こいつの魔力特性は『共感強制』だ! 攻撃すればするほど,お姉ちゃんの命が削られていくよ!!」
少女の叫びを無視し,アリシアは右拳を固く握りしめた。 彼女は考えるのをやめていた。 平均化? 痛み分け? そんな「弱者の言い訳」のような商談を,彼女が受け入れるはずがなかった。
「……。…….平等なんて,ただの怠慢ですわ。……見ていらっしゃいな。わたくしが貴方の『天秤』ごと,市場の全利益(勝利)を独占して差し上げますわ!!」
アリシアは,両成敗が強いる「50」の痛み。それを逆に,自分の「100」の意志で無理やり押し潰すという,物理的な市場操作を開始したのである。
決済:理不尽な一人勝ち(ワンサイド・ゲーム)
「何……!? 我の天秤が……一方向にのみ傾いていく!? 我の受けるダメージが,汝の受けるダメージを遥かに上回るというのか……ッ!?」
「……。…….簡単ですわ。わたくし,自分の損は一分たりとも認めませんもの。……貴方の天秤,わたくしが重り(物理)で叩き壊して差し上げますわ!!」
ドォォォォォォォォォォォォンッ!!
アリシアの放った正拳突きは,自分へのダメージを一切無視し,全ての破壊エネルギーを両成敗の一点へと集中させた。 等しく分け合うはずの痛みは,アリシアの「絶対に支払わない」という強欲な防御壁に弾かれ,全てが両成敗へと逆流したのである。
「暴力は善。そして,独り占めはもっと善ですわ!!」
爆煙の中,両成敗の双刃は粉々に砕け散り,彼の「等しき裁定」は極悪令嬢の圧倒的なエゴの前に敗北したのである。




