第58話:【悲報】黄金のインフレが止まらないので,「破産宣告」で世界を強制終了してみた件
価値なき者の逆襲
黄金の獅子が放った「存在を金銭に置換する」魔弾を,アリシアはあえてその身で受け止めた.本来であれば,彼女の肉体は金貨の山へと変わり,この世から消滅するはずであった.
しかし,アリシアの肉体は黄金に変わるどころか,周囲の光を吸い込むような「虚無の黒」を帯び始めた.彼女が握りしめ,粉砕した「壊れた懐中時計」.それは彼女が全てを奪われ,「価値ゼロ」と判定された絶望の結晶である.
「……。…….三行で言いなさいな.要するに,わたくしを買うには,貴方の全財産でも『お釣り』が来すぎるということですわね?」
アリシアは吐血しながらも,泥の中から這い上がった. 黄金の獅子の「等価交換」の理屈に対し,彼女は「価値がマイナスである」という破綻した論理(物理)をぶつけたのである.計算式はエラーを起こし,黄金の魔力はアリシアという「底なしの負債」に飲み込まれて消えた.
三大怪物の共鳴:地獄のセット販売
「……認めよう,アリシア.貴公は資本主義の天敵だ」
黄金の獅子が苦々しく吐き捨て,再び銃を構える.その横には,装甲を真っ赤に熱した鉄血の枢機卿と,自らの命を薪に業火を燃やす紅蓮の魔女が並び立った.
彼らの背負う暗い過去が,戦場に色濃く投影される. 鉄に固執する少年.炎に焼かれた少女.金に絶望した男. 三人の「同格」の怪物が,互いの怨嗟を重ね合わせ,一つの巨大な魔導陣を形成した.
「我らの人生は,誰にも奪わせぬ!」 「この炎で,貴方の傲慢ごと焼き尽くすわ!」 「全財産をもって,貴公の存在を市場から永久追放してやろう!!」
鉄の質量,炎の熱量,金の概念.三つの理不尽が一つに溶け合い,アリシアへと放たれた.それは世界の寿命を数万年単位で削り取る,次元崩壊規模の合体攻撃であった.
施工開始:極悪流「強制破産宣告」
アリシアは,迫り来る終末の光景を前に,深く息を吸い込んだ. 彼女の体はすでに限界を超えている.ドレスはボロボロに裂け,全身の至る所から血が噴き出している.かつての公爵令嬢としての誇りなど,どこにも残っていない.
だが,彼女はこの泥濘の感触を愛していた. 何も持たず,誰にも期待されず,ただ自分の拳だけが真実だったあの最前線の記憶.
「……。…….素晴らしいですわ.三つの絶望をまとめて一つの『パッケージ』にするなんて…….お買い得すぎて,わたくしの手が震えてしまいますわね」
アリシアは右拳を,自らの胸へと一度叩きつけた. 彼女は考えるのを完全にやめた. 自分の命を,この戦場の土壌である「泥」へと同期させる. 価値のない泥,価値のない敗残兵,価値のない令嬢. それら全ての「無」を練り上げ,アリシアは究極の正拳突きを構えた.
「暴力は善.そして,全てを失った者の拳は……世界で最も『重い』のですわ!!」
ドォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!
物理的論破:次元の強制清算
アリシアの放った一撃は,三大怪物の合体攻撃を正面から「粉砕」したのではない. その一撃は,戦場に存在する全ての「価値」と「因果」を,物理的な圧力によって無理やり『ゼロ(破産)』へと書き換えたのである.
黄金の獅子の金貨はただの石ころになり,魔女の炎は温い微風に変わり,枢機卿の鉄は脆い粘土へと退行した. 次元の壁がひび割れ,そこから溢れ出した衝撃波が,空を覆っていた連合艦隊をまとめて「ゴミ捨て場」へと叩き落とした.
「な,ぜだ…….我らの全てを懸けた一撃が……!!」
「……。…….簡単ですわ.貴方たちは『価値』を守ろうとしましたが,わたくしは『無価値』を愛しましたもの.……この勝負,わたくしの『負債(勝ち)』ですわね」
アリシアの拳が三大怪物の中心を貫き,戦場には静寂が訪れた.
決済:更地からの再出発
爆煙が晴れた時,そこには泥まみれで横たわる三人の怪物と,その中心で辛うじて立っているアリシアがいた. 世界を震撼させた大戦争は,アリシアという理不尽によって強引に「清算」されたのである.
「……ひっ,ひどいよ,お姉ちゃん.世界の経済システムも物理法則も,全部『破産』しちゃったよ.設計図のデータが,全部白紙になっちゃった……」
少女が泣きそうな声で,真っ白になった設計図を抱える. アリシアは血に濡れた顔で不敵に笑うと,そのままゆっくりと,懐かしい泥濘の中へと倒れ込んだ.
「……ふふ.いいのですわ,お姉ちゃん(仮).更地になれば……また最初から『買い叩き』放題ではありませんこと……」
極悪令嬢の戦いは,一つの世界を終わらせ,新たな「無」の地平を切り拓いた. 彼女の強欲は,絶望のどん底から再び,全てを買い取るための第一歩を踏み出そうとしていたのである.




